この記事の作品:
ついに幕を開けた西東京大会決勝、青道対稲城実業。先攻の青道は倉持の先頭打から成宮を攻め立て、ツーアウト三塁で4番の御幸を迎える。対する降谷も、初球からいきなり155キロを記録して稲実打線に立ち向かう。両エースがこの1年で磨いてきたものが、初回から真正面でぶつかり合う。倉持と春市のコンビ、成宮と御幸の対決、そして東条の強肩まで、第15話を振り返る。




第15話「フルスロットル」は青道と稲実の決勝が幕を開ける回
『ダイヤのA actII -Second Season-』第15話「フルスロットル」は、ついに始まった西東京大会決勝、青道対稲城実業の初回から二回表までを描いた回だった。1年ぶりの再戦、同じ神宮の舞台。成宮と降谷という両エースの立ち上がり、そして互いの研究の成果がぶつかり合う攻防は、わずか一回の表裏だけで両チームの特徴がくっきりと浮かび上がるものだった。副題どおり、両チームとも初回から全開でぶつかる熱い一話だった。
円陣と王者の掛け声
試合前、キャプテンのもう一つの大きな役割として、御幸が円陣を組む。決戦前に言うことじゃないかもしれないけど、と前置きして語ったのは、「キャプテンとして自分がチームに何をできたか」、今でも自信がないという本音だった。それでもこの夏ここまで来られたのは、「みんながそれぞれ自立した心で」野球と向き合ってきたからだと思う。「お前らと戦ってこれてよかった」、「このチームはまだまだ強くなれる」。前話から続く円陣の言葉は、何度聞いても胸が熱くなる。自信がないと素直に認めたうえで、仲間一人ひとりの自立を信じる。それは、天才的なリードで試合を支配してきた御幸が、キャプテンとして1年かけてたどり着いた答えなのだろう。チームを引っ張るのではなく、隣に並んで同じ方向を見る。その姿勢こそが、今の青道の強さの源になっているように感じた。
そして響き渡る王者の掛け声。俺たちが王者だ、誰より汗を流したのは、誰より涙を流したのは。戦う準備はできているか。我が校の誇りを胸に、狙うは全国制覇。オープニングテーマのGLAYが流れる中で、両チームの因縁の対決がついに始まる。気温32度、曇り空の神宮には、試合を待ちきれない観客がスタンドを埋め尽くしていた。試合前には、ちゃんと眠れたかと問われて実はあまり、と答える後輩に、俺も同じだ、3年になっても気持ちは高ぶる、と返すやりとりもあった。最後の夏の決勝を前にした緊張と高揚が、選手たちの何気ない会話からも伝わってくる。
1回表、青道の攻撃
倉持の先頭打
1回表、マウンドには3年生となった稲実の絶対的エース成宮。去年の夏に甲子園準優勝を果たした主力たちが、今年もチームを引っ張る。成宮を攻略しなければ青道の甲子園はない。青道はこの1年、何度もシミュレーションを重ねてきたはずだ。先頭は倉持。「初球 変化球 ストライク」。カーブから入った稲実バッテリーに、ここ2試合とはまた違う入り方だという声が上がる。守る稲実は、正捕手に2年生の多田野、一塁に大砲の山岡、ショートに白河、センターに鉄壁の守備を誇るカルロス。去年の夏に甲子園準優勝を果たした主力たちが並ぶ布陣は、それだけで圧倒的な迫力があった。
二球目、倉持はわずかに浮いたストレートを逃さず、レフト前へ運ぶ。スタンドで観戦していた他校の選手からも、わずかに浮いた真っすぐを逃さなかったと評される集中力。この夏の倉持は本当に調子がいい。先頭バッターが出塁し、青道にとって理想的な立ち上がりとなった。敗れたライバル校の選手たちが、スタンドで試合を見守っている描写も、この決勝の重みを感じさせる。スタンドの応援団が掲げるルパン三世のテーマのボードや、マウンドの成宮が口ずさむ「たとえるなら 空をかける ひとすじの流れ星」という歌など、決勝ならではのにぎやかな演出も楽しかった。
春市と倉持のコンビ
2番は春市。ここまでほぼバントなしの2番バッターで、このコンビで何度チャンスを作ってきたか分からない。一塁の倉持は大きくリードを取り、成宮の意識を引きつける。むきになる成宮の性格が唯一の付け入る隙、という狙いもはっきりしていた。けれど、去年より牽制がうまくなっている成宮もまた、この1年で確実に成長していた。走者を背負ったときの成宮は、去年のように感情を表に出しすぎることもない。倉持のリードに視線を送りながらも、打者との勝負に集中し続ける姿に、エースとしての成熟を見た気がした。
倉持の足を警戒していれば、ゆるい変化球は投げづらいはず。ストレート系に狙いを絞った春市の打球は三塁へ。スタートを切っていた倉持は二塁へ進む。ランエンドヒットだった。倉持がスタートを切っていなかったらゲッツーだった、という言葉どおり、ぎりぎりの攻防だった。そして春市を打ち取ったのは、成宮のカットボール。市大三高戦で打ちあぐねていた天久の決め球を、成宮もマスターしていたという事実に、青道ベンチにも緊張が走る。
御幸と成宮の対決
3番の白州はセーフティーバントを試みるが、成宮の好フィールディングでアウト。それでも倉持は三塁へ進み、ツーアウト三塁で迎えるのは4番でキャプテンの御幸。エースと4番の対決に、早くも神宮球場が沸き上がる。かつて東京代表でバッテリーを組んでいた二人の勝負は、それだけで特別なものだった。白州が一塁に残って一・三塁になっていたら面白かった、という声もあるが、三塁ランナーが倉持ではパスボールもできず、稲実バッテリーにはそれだけでプレッシャーがかかる。白州の揺さぶりは、確かに成宮たちを追い詰めていた。
実は前日、稲実バッテリーはこの勝負について話し合っていた。成宮のチェンジアップは無敵だが、向こうも相当警戒しているはず。だからこそ前半は使わない。今の成宮なら、使わなくても打ち取れる。うまくなったじゃん、俺を乗せるのが、と成宮が笑う場面は、バッテリーの成長と信頼を感じさせた。そして御幸の打球はピッチャーライナー。成宮ががっちりとつかみ、3アウト。初回のピンチを0点で切り抜けた。初見で反応してきた御幸に、稲実側も驚きを隠せない。山を張っていたのかもしれない、とにかくすごい集中力だった、という言葉は、御幸の打撃がどれほど脅威として受け止められているかを物語っていた。
1回裏、降谷の立ち上がり
いきなり155キロ
1回裏、マウンドに上がったのは、決勝の先発を任された降谷。稲実の先頭は、俊足で長打も打てる危険なバッター、カルロスだった。去年の始まりと同じだ、という声に、去年より嫌なバッターになっている、と返す声。その初球、いきなり155キロ。鳥肌が立った、しっかり指にかかっている、とベンチがざわつく。降谷の球は、この大舞台でも少しも揺らいでいなかった。守る青道は、捕手に御幸、一塁に前園、二塁に春市、ショートに倉持、サードに金丸、レフトにはこの日スタメンの麻生、センターに東条、ライトに3年生の白州。この1年で鍛え上げてきた守備陣が、降谷の背中を支える。
けれどカルロスは、外れたボールを見極めてセンターへ打ち返す。表の攻撃と同じ状況になった、とつぶやく青道ベンチ。広角に打ち分ける器用なバッターに対し、スクイズも視野に入れる。初球の変化球で空振りを奪った縦のスライダーは、去年は投げていなかったボール。ランナーが三塁にいても信頼できる球だ。降谷もまた、この1年で大きく進化していた。力で押すだけだった投手が、変化球を信頼し、ランナーを背負っても落ち着いてカウントを整えていく。ホームに返さなければ問題ないという割り切りが、降谷の投球に余裕を生んでいた。
東条の強肩
ワンアウト三塁。前進守備を敷く青道に対し、カルロスの足なら転がせば帰れる。ベンチの動きを探りながらカウントを整えていく稲実の打者は、まっすぐを打ち上げる。センターへの浅いフライ。タッチアップには微妙な位置だが、三塁ランナーのカルロスはスタートを切る。「この浅さで返したら」、青道のレギュラーは名乗れない。センター東条のバックホームはストライク返球。カルロスはホームに帰れず、ランナーはストップした。
帰れない、帰らせない。東条の強肩が光った場面は、この回でいちばん胸が躍る瞬間だった。最後はショート倉持が落ち着いてさばいて3アウト。強打者の山岡に対しても堂々のピッチングを見せた降谷は、初回を0点で切り抜けた。春の大会で見せた強引さが顔を出さなくなった、エース交代の効果を狙った采配が実を結んでいる、という見立てにも納得させられた。
第15話のまとめ考察
1年間の答え合わせ
2回表には、降谷と成宮のピッチャー対決もあった。成宮は149キロの真っすぐで空振り三振を奪い、打席で見たときもキレがすごかった、という声も上がる。成宮の凄みが出てくるのはここからだ、という言葉に、この試合がまだ序章にすぎないことを思い知らされる。さらに薬師高校のグラウンドには真田が戻り、待ってたぜと迎えられる場面も描かれた。敗れたチームにもそれぞれの夏の続きがあることを感じさせる、温かい一幕だった。別の場所では、スマートフォンで決勝の中継を見ながら、結局野球かよと笑い合う選手たちの姿もある。夏を終えた者たちにとっても、この決勝はやはり特別な試合なのだろう。
第15話は、両チームの1年間の答え合わせのような回だった。成宮はカットボールを身につけ、牽制もうまくなり、チェンジアップを温存する駆け引きまで見せた。降谷は縦のスライダーを覚え、強引さを抑えたピッチングで初回を切り抜けた。互いにこの1年で積み重ねてきたものが、初回からすべてぶつかり合っている。両校とも三塁にランナーを置きながら0点という立ち上がりは、まさにフルスロットルの投手戦の幕開けだった。
そして、どちらのチームにも、この決勝のためにすべてを懸けてきた選手たちがいる。先制のホームを踏むのはどちらのチームか。1年ぶりの再戦がどんな結末を迎えるのか、一球一球から目が離せない。成宮のチェンジアップが解禁されるのはいつなのか。降谷はどこまでこのピッチングを続けられるのか。そして、エースを目指す沢村が、この決勝のマウンドにどう関わっていくのか。フルスロットルで始まった決勝の行方を、最後まで見届けたい。





















コメント