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『岩元先輩ノ推薦』第10話の副題は「同時多発流星事件ト電波物件ト念写男」。「ト」が二つ入って三つ並んだ題は、十本目にしてこれが初めてだ。全国に開いた大穴の正体はスイカの種で、飛ばしていた本人には自覚がなかったと公式が書いている。見たら目がつぶれるという家のほうも、中身はただのうまい飯屋だった。悪い噂を流していたのは、その店の常連客のほうだった。




全国に開いた大穴の正体は、スイカの種だった
銀座の時計塔に大穴が開く。同じ日のほぼ同じ時刻に、新世界のルナパークにも、東北本線にも、道後温泉にも穴。副題の一つ目「同時多発流星事件」はこれを指している。ところが原因は隕石でも兵器でもなかった。
何も落ちていない場所が、発信源だった
岩元の手順は地味だ。まず「事件の起こった場所をすべて地図に記してみよう」と言う。並べても「これじゃ次にどこに落ちるかも分からない」で終わる。そこから向きを変えて、「どこに飛ぶかは分からないが、どこから飛んできたかは予想できるな」と言い直す。
答えは、被害が一つもない空白地帯だった。落ちた場所ではなく、落ちていない場所のほうを読んでいる。そこに軍事施設も工場もないと分かったときの見立てが「多分田んぼや畑だらけ」で、そのまま長野県のスイカ畑へ向かうことになる。
犯人には自覚がなかった、と公式が書いている
畑にいたのは、口に含んだ種を飛ばして遊ぶ悪ガキたちだった。公式サイトのキャラクター紹介は、渡小次郎について「口に含んだ種を高速回転させ、弾丸以上の速度と力で飛ばす能力を持つ。自称『真・種子島』」と書いたうえで、こう続けている。「無自覚に能力を使い『同時多発流星事件』で日本中を騒がせた」。
つまり事件名のほうが先に立派になっていて、当人はそれを知らない。全国を騒がせた事件の犯人が、自分が犯人だと思っていない。畑で交わされているのも「おめえ下手くそだな」「全然飛んでねえ」という程度の話でしかない。
距離の感覚が、そもそも噛み合っていない
説教の場面がこの回でいちばん可笑しい。盗みを詫びて「二度とやらねえから許してくれよ」「代金は働いて返すから」と言う相手に、岩元は「いや、だから盗みのことじゃないんだ」と返し、「むやみに種を飛ばさないでくれよ」と続ける。
返事が「そりゃあ無理だろ」「おりゃこれしか能がねえんだ」で、遠くに飛ばしすぎだと言われても「山の向こうに飛ばして何が悪い」で押し返す。決め手が「銀座を破壊してんだよ」だった。山の向こうと銀座が、本人の中では同じ距離になっている。
英国側は、先に名前を付けに来ていた
一方で英国の魔女軍団は、落ちた場所へ先回りしている。現場で言うのが「この隕石は英国のものとする」「いいね? 日本のみなさん」で、次の狙いも「次は大阪だ」「頼んだよピンクゴールドくん」と決まっている。
実体を確かめる前に所有権を宣言してしまうやり方だ。岩元が発信源を探しているあいだに、向こうは名前と持ち主のほうを押さえにいっている。「ミスター岩元の先を今回は行ったようだ」という言い方も、追いかけっこの構図をそのまま口にしている。
同じ能力を、片方は土産と呼び、片方は指導と呼ぶ
英国側の評価はこうだ。「マジェスティックなスペックだ」「そして実に実戦向きだねー」、そして「復帰第一弾としてはこれ以上ない女王へのお土産だ」。汚いと言われれば「蒸留すればよくなる、ウイスキーのような」と返す。
公式のキャラクター紹介でスペックマニアと書かれ、ウィスキーを好むと書かれている人物は英国側に一人しかいない。人を酒に例えて熟成させたがるのは、第5話で岩元を口説いたときと同じ言い回しだ。相手が変わっても、値踏みの語彙は一つも変わっていない。
敵だった男が、盗人の指導係に推薦される
対して岩元の処理は人の配置だった。第4話から出ている飛沫原建蔵が、この回では岩元の側に付くと言い出す。理由が「あんたの言う能力を正しく使うっつうこと、あのガキ見てるとよーくわかるぜ」で、自分から「あんたについてってやるぜ」と言う。
岩元の返しが「思ったより素直なやつだ」で、続けて「言っておくが、お前が思っているより過酷な環境にいたやつは多いんだ。俺も含めてな」と言い添える。そのうえで振られる役目が「あのスイカ泥棒くんの指導係をやってもらおうか」だった。断られても「いや似合うと思うぞ」で押し切っている。公式の紹介文が渡小次郎を「栖鳳中学の新入生」と書いているので、この配置はすでに決まったこととして扱われている。
見たら目がつぶれるという家は、うまい飯屋だった
副題の二つ目「電波物件」は、本編には一度も出てこない言い方だ。作中で使われるのは「忌ミ屋」のほうで、噂は「見たら不幸になるとか」「目がつぶれるとか」と説明される。それを見てしまうのが天羽総一郎になる。
踏み込む理由が、掏った財布だった
天羽は道で酔っ払いとぶつかり、その拍子に財布を掏っている。第4話から続く手癖の悪さだが、本人の中では線が引かれていて、「岩元さんに買われている以上、悪さは最小限にだ」「こっそり返しとくか」となる。
その酔っ払いが忌ミ屋へ連れ込まれるのを見て、天羽は追いかける。理屈が「助けなきゃいけねえじゃねえか」と「財布を返さなきゃいけねえしよ」の二つだ。悪癖のほうが、踏み込む口実になっている。
中に入ると、匂いで動けなくなる
中で起きることは怪異らしく描かれる。手足がしびれ、周りが見ている中で「食わなきゃいけない」という空気ができあがる。天羽の内心も「なんの呪いだよ」と続く。
ところが並ぶのは冷たいかぼちゃの汁物と、よくわからない果物と一緒に煮込まれた肉だった。「肉に染み込んだ煮汁が俺の粘膜をすり抜けていく」という言い方まで出てくる。呪いの症状として説明されていたものが、全部そのまま食欲の描写になっている。
「ヌシ」も「呪い」も、読み違いだった
種明かしは一行ずつ置かれる。壁の張り紙は「これは料理のお品書きだ」。ヌシと呼ばれていたのは「このお店のご主人」。実際、品書きを指して「サバの味噌煮って、読めませんか」と聞かれる場面まである。
怪異として語られていた要素が、順番に飲食店の設備へ戻っていく。読めなかったのは字のほうで、目がつぶれていたわけではない。第9話が怪談を家族の事情に還元した回だったので、二話続けて同じ手つきになっている。
悪い噂を流していたのは、客だった
いちばん効くのは客同士の会話だ。甘酒を出そうとする店主に「なかなかありつけないのに」「あれは貴重品なんだ」と抗議が入り、そのまま「客減らすためにもっと悪い噂流さなきゃ」と続く。店主の返事は「やめておくれよ」だけだ。
天羽の結論も同じところに着く。「見たら呪われるという噂、あれはここの客が流した嘘」。この家を怖いものにしていたのは、この家をいちばん気に入っている人たちだった。
暴いた側が、同じ動機を持ってしまう
そのうえで天羽が漏らすのが「いやしかし、確かにこの店は人に教えたくねえ」だ。噂の正体を見破ったばかりの人物が、その噂を作った動機に同意している。
怪談の作られ方を説明する場面と、次の怪談が生まれる場面が、同じ一言に重なっている。副題が「電波物件」という不動産めいた言い方をわざわざ選んでいるのも、ここに合わせているのだと思う。事件でも呪いでもなく、評判の話だからだ。
手紙で入学した男が、手紙で降りる
副題の三つ目「念写男」は筆岸蛉を指す。冒頭は本編の現在ではなく、彼が橘城学園長に食い下がっている場面から始まる。「どうしても私を栖鳳中学にご推薦いただけないというのですか」という一言で、この回の題が学校のタイトルに接続される。
売り込みの手段が、そのまま入学の条件になった
筆岸の言い分は「私はどんなものでも直接見ずに描くことができるのです」で、要求は「私のことを能力者と認め、栖鳳中学に入れていただけないでしょうか」だった。公式のキャラクター紹介も「橘城先生に直接手紙を送り続け、その力を認められ入学した」と書いている。
つまり念写は、最初は入るための道具だった。採用試験の答案を送り続けたら、それが仕事そのものになってしまった形だ。紹介文の続きが「以来橘城先生を敬愛している」で、動機の変わり目までは書かれていない。
認められたあとも、送るのをやめていない
橘城の返しが「もっともっと念写したものを送ってくれたまえ」「というか君の能力、神かね」で、筆岸は「お望みのままにもっともっとお送りします」と応じる。公式のあらすじも、この回の筆岸を「橘城先生の役に立つべく日夜念写を描き続けていた」と説明する。
学園長は褒めながら、もっと送れとしか言っていない。止める言葉が一度も出てこないので、送る側はやめる理由を持てない。公式のキャラクター紹介が橘城について「岩元を寵愛しており」と書いているので、寵愛の相手がもう一人いたことになる。
数を覚えているのは、描いた本人だけだ
岩元が呼ばれた用件は雑務だった。「あまりに数が多くてね」と言われて「つまり整理しろと」と確認し、「雑務まで俺に任せる気ですか」と抵抗する。岩元の側の把握も「千枚にも及ぶ忌ミ屋の念写ですが」までで止まっている。
ところが筆岸の返事は「ええもちろん」「ちなみに、2656枚です」だった。受け取った側は数えていなくて、送った側は一枚単位で覚えている。橘城の筆岸評が「反応欲しがりさんだからね」なので、この一言も学園長の見立てのほうが正しかったことになる。
三年生が、四年生の部屋を訪ねている
岩元の名乗りは「三年の岩元です」で、迎えるほうは「四年の筆岸です」。この作品のタイトルは『岩元先輩ノ推薦』だが、この場面での先輩は筆岸のほうになる。
しかも筆岸は、岩元より先に橘城の推薦を受けて入ってきた人物だ。推薦する側の物語のなかに、先に推薦された側が置かれている。呼び方も「岩元君」で通される。
送っていない絵が、一枚だけあった
岩元の追及は短い。「あれで全部ですか」と聞き、意味を問い返されて「私には、送っていない念写があるように思えてならないのです」と踏み込む。当てられた筆岸は隠さず、忌ミ屋の内側を描いた絵を出してくる。
岩元の見立ては「やはり、人の絵がないと思った」だった。千枚以上あって外観ばかりで、中にいる人間の絵が一枚もない。抜けているものの形から、隠されているもののほうを当てている。地図の空白地帯から発信源を割り出した手つきと、まったく同じだ。
関わるなと言った本人が、客として通っていた
筆岸の忠告は「岩元君、この家には関わらない方がいい」だった。ところが店の側では別の話が出ている。「あなた方のお仲間がよく来てまして」「念写した飯があまりにうまそうで、食べに来たって」、そして「今度俺の絵も描いてくれるって言ってまして」。
絵で見た料理を食べに行き、店主に肖像画まで約束していたことになる。いちばん近づくなと言った人物が、いちばん通っていた。天羽が「ご主人、能力者?」と疑うのも、この店の引力を説明する言葉が他に見つからないからだ。
「ト」で二回つないだ題は、これが初めてだ
副題を第1話から並べると、黒イ雪、縁切リノ鎌、蟲愛ヅル君、屍人伝説ト瓦斯工場、神殺シノ炎、魔女ノ侵攻、残響ノ廃音、通称・怪奇箱男、隙間男ト箱男、そして第10話になる。「ト」が入るのは第4話と第9話と今回の三本だけで、二つ入って三つ並ぶのは今回しかない。公式サイトでも三行に分けて置かれている。
スタッフ欄のほうも入れ替わっている。脚本の深谷匠は初登板で、九本を大知慶一郎、ハラダサヤカ、山田由香の三人で回してきたところに四人目の名前が入った。演出の村田尚樹も初、総作画監督の菊地洋子も初で、松井晟花と吉田和香子のどちらも総作画監督に入らない回は、十本目にしてこれが最初になる。絵コンテのまついひとゆきだけが第3話と第4話以来の三度目だ。
恐ろしくて、これ以上は描けない
締めに置かれるのは筆岸の言葉だ。「この男は念写に気づいているのかもしれないのです」「これ以上調べれば、私はなにをされるのやら」、そして「私はもう恐ろしくて、これ以上念写をすることができません」。
手紙を送り続けて入った学校で、手紙を書くのをやめると申し出ている。入る理由になった能力が、そのまま降りる理由になった。副題に並んだ三つを見直すと、事件も物件も男も、名前のほうが先に大きくなって、名前を付けられた側があとから振り回されている。




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