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『世界最強の後衛』第10話の副題は「狂える森の美女」。「狂」の字が入る副題は第8話に続いて二本目だ。前回は街に魔物があふれる話で、今回は人の中身が入れ替えられる話になっている。八番区の元序列一位だった北極星が昇格試験から戻らず、アリヒトたちは呼び声の森へ入る。公式あらすじの「状態異常を駆使する魔物たち」は、第8話でアリヒトが口にした反省の裏返しだ。そしてこの回、彼の手札はほとんど封じられる。




副題に「狂」が入るのは二度目で、前は街、今度は人だ
公式サイトのSTORYで副題を第1話から並べると、第1話「迷宮国の新人探索者」、第2話「最初の難関」、第3話「暴君の少女」、第4話「危急存亡の混浴」、第5話「黒箱と若奥様の秘密」、第6話「機械仕掛けのアリアドネ」、第7話「亜人の希望」、第8話「狂奔騒然の街」、第9話「秘められた傷と戦士の告白」、そして第10話「狂える森の美女」となる。
同じ字が、外から来る災いと中身を入れ替える災いに使われている
十本のうち「狂」の字を持つのは第8話「狂奔騒然の街」と第10話「狂える森の美女」の二本だけだ。第8話は迷宮から魔物があふれて街が走り回る話で、狂っていたのは状況のほうだった。今回は人が操られる話で、狂わされるのは中身のほうになる。
同じ一字が、外から来る災いと、中身を入れ替えられる災いの二通りに使われている。副題が指す「美女」も、その場にいる本人ではあるが、本人ではない。
公式あらすじの一行が、第8話の反省をそのまま看板にしている
公式のあらすじは今回の敵をこう説明する。「状態異常を駆使する魔物たちに苦戦しつつも、先へ進むアリヒトたち」。第8話でアリヒトは戦いのあとに「状態異常を想定できていなかった」「俺の甘さのせいでみんなを危険に」と自分を責めていた。
あのとき想定できていなかったものが、二話あとの回の看板になっている。公式が引いた台詞も「あれは……ゲオルグ!?」で、状況が分かる前の驚きのところで切られている。
冒頭で「行くのはやめよう」と決める人たちが先に出てくる
話は街の噂から始まる。「呼び声の森に名前付きが出たそうだぞ」「そいつのせいでなかなか昇格者が出ないらしいな」「今ポーラスターが昇格試験を受けてる最中だよな」。公式サイトの表記は「北極星」で、読みが「ポーラスター」だ。結論は早い。「俺たちは行くのはやめようぜ」「だな、命が大事だ」。
危険を知って引き返す判断が、いちばん先に置かれている。八番区の元序列一位だったパーティが戻らないという情報は、探索者たちの間ではもう回っている。それでもアリヒトは「もし名前付きに襲われて危険な状況にあるなら、見過ごすことはできない」と言う。
戦えないと言った人が渡した二つが、両方ともこの回で使われる
森へ向かう前にマドカが言う。「私も戦えたらよかった」。商人の彼女は戦闘に加われない。アリヒトの返事は「気にするな」「マドカには商人の技能を生かしてサポートしてもらえると助かるよ」だった。
渡されたのは巻物とポーションだ
マドカが差し出すのは二つ。「鑑定用の巻物とポーションです、使ってください」。ポーションについては説明が付く。「お店には出していないんですが、緊急用として一本だけ確保していて」。
高価な品だと驚かれているとおり、この地区で簡単に出るものではない。店を持たない商人が、売り物にせずに取っておいた最後の一本を、自分が行けない場所へ持たせている。
巻物は森の中で、ポーションは倒れていた人に使われる
巻物のほうは早い。魔物から採れたアイテムを前に、「さっき巻物で鑑定してみたんだけどレアアイテムっぽいんだよね」という会話が出る。効果そのものは台詞で説明されないが、そのあと「さっき使ってたフォースシュートも魔力の消費が激しいみたいだったし」と続くので、魔力に関わるものだと分かる。
ポーションのほうは終盤だ。血まみれで倒れていたゲオルグに、「ポーションだ、飲めるか」と差し出される。戦えないと言った人が渡した二つが、どちらもこの回のうちに使い切られている。
レアアイテムが落ちた理由も、誰かの持ち味に紐づいている
会話はもう一段さかのぼる。「この手のアイテムは滅多に落ちないはずなんだけど」「ミサキはレアドロップ率を上昇させる技能を持ってたから、その影響かもしれない」。運がいいという性格づけが、道具の入手経路として効いている。
その前にはミサキが「なんかマドカちゃん、すでに私より仕事してない?」とこぼす場面がある。返ってきたのが「ミサキちゃんはミサキちゃんで重要だから」で、働きの見え方と、実際の効きどころが違うことを先に言ってしまっている。
装備の話から始まった時間が、友達の話に変わる
森へ向かう一行と並行して、マドカはメリッサのところへ行く。入るなり見せられるのが新しい装備だ。「新しい装備、ステルススーツを実験してた」。
未完成の理由が、そのまま二人の距離をつくる
マドカは商人の目で品を見る。「透明化はそのスーツの効果ですよね、すごい品です」「生地の仕上げも丁寧に行われてますね」。ところがメリッサは「これはまだ未完成」と言う。理由は「透明化を解いた後、一瞬裸に見えてしまう」だった。
だから渡すのはもう少し先になる、と続く。断りの理由まで具体的に話す相手として、メリッサはマドカを扱っている。誘った理由も本人の口から出る。「お仕事を頑張ってるから、こうしたくなった」。
「お友達は?」「いない」
会話は仕事の話から離れていく。「マドカの話を聞くのは楽しい」「来てよかった」「あんまり同い年くらいの子と話すことなかったから」「新鮮」。そこで出るのが「お友達は?」という問いで、答えは「いない」だ。
理由も自分から言う。「私は猫獣人のお母さんと人間のお父さんの子供だから」「よく怖がられる」。そして確かめにくる。「マドカは怖くない?」「私が亜人の血を引いてるってこと」。誘っておいて、途中で自分から条件を出し直している。
マドカの答えは、比較でも励ましでもない
返事はこうだ。「特には」「テレジアさんは亜人ですし」「メリッサさんのことは可愛いと思いますけど」。差別はよくないという話も、気にするなという慰めも出てこない。すでに知っている人が一人いて、目の前の相手はかわいい。それだけを並べている。
そのあとメリッサから出るのが「マドカがよかったら、また誘ってほしい」だ。誘われた側が、次を頼む側に回っている。帰り際に父親のライカートンが「まさかメリッサから、外で食べるからご飯はいらないなんて言葉を聞くことになるとはね」と漏らすので、これが初めてのことだと外からも分かる。
同じ「操られる」が、小さい版と大きい版で二度来る
迷宮に入ってすぐ、テレジアが魔物の反撃を受ける。倒れた仲間を見て出るのが「混乱の状態異常よ」「今のテレジアには私たちが敵に見えてるはず」という説明だ。
前半の混乱は、その場で解ける
対処は速い。スズナが治療に入り、終わったあとに「新しく取った技能、お役に立ってよかったです」と言う。第8話でアリヒトが状態異常を想定できていなかったと悔やんだ、その穴が埋まっていることになる。
味方に刃を向けてしまったテレジアは落ち込む。アリヒトの見立ては「テレジアは責任感が強いから、下手に慰めても逆効果になりそうだ」だった。慰めないと決めた人が、代わりに順番を譲っている。自分が食べる流れになっていたレアアイテムを、興味を示したテレジアに回すのだ。かけた言葉は「食べたかったのか」だけで、落ち込みには一言も触れていない。
後半の操りは、同じ技能が届かない
終盤、操られているのは魔物ではなく人間の探索者たちだ。スズナに同じ手が使えるか聞くと、答えは「分かりません」「かなり接近しないと治療はできないので」「すぐには」になる。
前半で一度きれいに解決した問題が、規模と距離を変えただけで手に負えなくなる。しかも守り手のほうにも制限がかかる。「支援防御で守りきれない以上、スズナを前に出すのは危険すぎる」。同じ道具が、置かれ方ひとつで使えなくなる。
混乱と洗脳では、戻り方が違う
テレジアの混乱は、本人はそのままで見え方だけが入れ替わっていた。だから解ければ元に戻る。ゲオルグの仲間たちは違う。第9話でエリーティアが説明していた「捕らわれた人間は心を奪われ、従属させられる」という状態に近い。
味方が敵に見えるのと、敵として動かされるのとでは、戻すのに必要なものが変わる。今回の敵は、前半に見せた仕掛けを一段ずらして出してきている。
嘘を見抜いたのは、言葉ではなく壊れた武器だった
ゲオルグを見つけたあと、森の先で一行は女性に会う。名乗りは「私はソフィー、よろしくね」。誘い文句は「私の仲間は元気にしているわ」「この先で休んでいるから、あなたたちも来ない?」だった。
会話だけなら、辻褄は合っている
危険なモンスターに襲われたと聞いたのだが、と確かめると「何も危ないことはなかったわ」と返る。ゲオルグは脱出したのであなたたちもそうするといい、と勧めても「脱出?」「そんなに慌てて出る必要もない」と流す。
続けて頼みごとが出る。「倒したモンスターのドロップ品が多くて、私と仲間たちじゃ持ちきれないの」「お礼もするから運ぶのを手伝ってくれない?」。言葉の上では、無事に稼いだパーティの話として通っている。
決め手は装備の状態だった
先に動いたのはエリーティアだ。名を呼ばれるほど唐突に斬りかかり、「反応がなければ寸止めするつもりだったわ」「でも、正解みたい」と言う。アリヒトが「みんな気をつけろ」「彼女は何者かに操られている」と全員に告げる。
ソフィーの「どうして分かったのかしら」に返ってきたのが、装備を指す言葉だった。「壊れた武器は片付けておくべきだったわね」「獲物がそんな状態なのに宝の話をする探索者はいないわ」。嘘を破ったのは話の内容ではなく、手に持っているものと話題の食い違いだ。
探索者にしか使えない見抜き方だ
武器が壊れているということは、まともに戦ったということだ。まず直す。運搬を人に頼むのはそのあとになる。ソフィーの話は、その順番が入れ替わっている。
この見抜き方は、同じ商売をしている人間にしか使えない。第9話の鍛冶工房では、店の側が客の態度を見て相手を測っていた。今回は、探索者なら誰でも知っている当たり前が、嘘をついた側を裏切っている。
「あなたたちに人間が殺せる?」で手札が封じられる
正体が割れたあと、ソフィーは「正解のご褒美に」と言って襲いかかる。そして操られた仲間たちが出てくる。ここからの展開は、アリヒトの持ち物が一つずつ使えなくなっていく形で進む。
倒せば済む相手ではない
アリヒトの指示は「何とか無力化してくれ!」だ。ソフィー側の挑発も同じ点を突いてくる。「あなたたちに人間が殺せる?」。助けに来た相手が、そのまま盾になっている。
倒す前提の戦い方が、この一言で全部使えなくなる。しかも相手のほうには遠慮がない。「操られているから一切容赦がない」と評されるとおり、力の出し方に上限がなくなっている。
支援も、治療も、本体探しも止められる
元序列一位のパーティの攻撃は重い。防いでもなお、アリヒトの支援を上回ったのかと驚く声が出る。治療は先に見たとおり、接近しなければ届かない。
残る手は操っている本体を叩くことだが、これも塞がれている。さきほど戦った魔物のように本体が地面の中に隠れていたら見つけるのは難しいし、この状況でじっくり探す余裕もない、と自分たちで数え上げてしまう。打てる手を並べるほど、消えていく手が増える。
助けに来た側が、いちばん動けない
相手の職業はおそらく魔法使い系で、魔力切れならこちらのほうが早い、という読みも出る。だが時間を稼ぐには前で耐えるしかなく、前で耐えれば治療に回れない。
この回のアリヒトは、支援の職業であることがそのまま足かせになっている。前に立つ味方が攻撃してはじめて支援が乗るという仕組みは、殺してはいけない相手の前では動き出しにくい。ゲオルグを助けるために踏み込んだ場所で、助けたい相手がそのまま壁になっている。




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