この記事の作品:
『株式会社マジルミエ 第2期』第10話の副題は「プリハト……好きなんですか?」。カナとアストの土刃が、同じ魔法少女ものを見ていたとわかって話し込む場面がある。そこで出るのが「プリハトなら後半10分で仕事を終わらせますけど」という一言。ところがこの回の後半、発生前から待ち構えた怪異はどの分類にも当てはまらず、片づかないまま終わる。アニメなら10分で済む仕事が、現実では終わらない回である。




副題の「好きなんですか?」は、仕事の言葉が続いたあとに来た
第10話の副題は「プリハト……好きなんですか?」。第2期の副題を公式サイトで並べると、第1話「誰もが憧れる立派なひとつの職業」、第4話「よっぽどいい魔法少女と働いてるんですよ」、第5話「いつまでも新人気分じゃいられない」、第6話「あなた、この仕事向いてないわよ」、第8話「一人前になる場所は選べるんや」と、働くことにまつわる言葉が九本のうち五本に入っている。
十本目で初めて、「好き」を尋ねる
そこへ来た十本目が、仕事ではなく好きかどうかを聞く問いである。職業、新人、一人前と続いてきた副題の列に、初めて「好き」が入った。
形の上でも目立つ。「?」が付くのは第9話「きれい事が聞きたくて来たんですか?」に続いて二本目で、二話続けて「んですか?」で終わっている。「……」が入ったのは十本の中でこれが初めてだ。十四文字は、第3話「こういうイチャモンは久々だな」、第8話「一人前になる場所は選べるんや」と並んで、いちばん短い。
あらすじには、プリハトも土刃も出てこない
公式サイトのあらすじは、マジルミエが「発生前の怪異を待ち構える前例のない作戦に挑む」ところから始まり、出現したのは「巨大な未知の怪異」、それも「従来の分類を超えた異常な存在だった」と続く。現場では「越谷・赤坂・槇野が応戦し、指揮系統では二子山と闇森が高速連携で状況分析と支援を行う」。最後は「圧倒的な力を持つ怪異を前に戦いは激戦へと突入していく」で結ばれる。
あらすじは最初から最後まで戦いの話で、「プリハト」の名前が行き交うカナと土刃の会話には、ひと言も触れていない。副題が指す場面と、あらすじが語る場面が、まるで別々に置かれている。この回は、その二つが同じ「仕事」の話でつながっていく。
発注のない仕事を、全社で引き受ける
本編はまず全体会議から動き出す。告げられるのは「今回は特殊な仕事となる」「発注を受けたわけではない」「完全自社案件だ」。どこかの会社や役所から頼まれた退治ではなく、マジルミエが自分で決めて、自分で引き受ける仕事である。
相手は、業界の中枢にいる人物
示された相手は鎌倉で、「今回の一連の事件の裏にいるのが」「彼だ」。これには「では 一企業や投資家ではなく」「業界の中枢に携わる方々が」「仕掛けていらっしゃるの?」と驚きの声が上がる。狙いの読みは「大規模な新しい魔法の開発は」「エネルギー協会に莫大な予算を呼び込む」「おそらくそれが彼の目的だろう」。「実績作りのために怪異を出してる?」と聞き返す声には、「んだそりゃ ほとんど病気だぜ」が続く。
そのうえで、仕事の目的が言葉にされる。「これから行う仕事の目的は」「鎌倉の目論みを阻止することだ」「彼らが仕込んだ怪異は」「我々が先んじて退治する」。客のいない案件にも、「仕事の目的」をきちんと置いているのが、いかにもこの会社らしい。
本題の前に、社長の胸元のリボンの話がある
もっとも、会議の頭は本題ではない。「社長さんの胸元のリボン」の元ネタを闇森が言い当てて、「よくわかったな」「さすが闇森くん」と返されるやり取りが先に来る。公式サイトのキャラクター紹介によれば、重本は「常に魔法少女のコスプレ姿で、初見の相手の度肝を抜く」社長だ。
第9話では、二子山が闇森について「DVDボックス貸したら2日で観てくれるし」と話していた。好きなものの話が、会社の本題より先に置かれている。副題の「好きなんですか?」は、この会社ではとっくに日常の一部になっている。
アストの社長は、全体会議を抜けて下請けを回っている
場面が変わると、アストの側でも納期の話が始まる。
「3ヶ月前に納期は決めたでしょ?」
取引先に向けられるのは、「そちらの事情は知りませんがね」「3ヶ月前に納期は決めたでしょ?」「いいえ 申し開きは結構」「言い訳している暇があるなら」「作業をしてください」。そのあとには「間に合いそうですか?」「無駄な質問はやめてくれ」「間に合わせるんだよ」というやり取りも続く。
アストの社内では、社員たちが社長の不在を話している。「社長は?」「急ぎの出張?」「全体会議にいないなんて」「現場の仕事ですよ」「下請け回りなんて」。マジルミエの社長が全体会議を開いた回に、アストの社長は全体会議にいない。同じ「全体会議」という言葉が、二つの会社で逆の向きに使われている。
「こちらも利用させてもらうさ」
社長の狙いははっきりしている。「鎌倉に僕らの魔道具を認めさせれば」「うちの規格こそがスタンダードになる」。「鎌倉会長の動きは」「性急すぎませんか?」「何か裏がありそうな」と聞かれても、「せいぜい利権絡みだろ」「魔道具を早く完成させろだの」「いつでも動かせるようにしろだの」「根回しの材料なんだよ」「うちの新魔道具は」と取り合わない。そして「好きにすればいい」「こちらも利用させてもらうさ」「僕らの規格さえ認めさせればいい」「そうすれば」「二度と15年前のような災害は起きない」。
公式サイトのキャラクター紹介は、アスト株式会社の社長を「徹底した効率追求と実利主義で知られるアストの社風を象徴するような経営者」と書き、「金にならない美学や理想主義を毛嫌い」するとまで紹介している。けれどここで最後に口にするのは、利益ではなく、災害を二度と起こさないという話だ。一方、この回の冒頭、第9話の終わりと同じ場面では、「で コガ君は?」「知るわけがないでしょう」「彼にとっては次の怪異もあくまで偶然の事故です」「理想主義者のご機嫌取りも大変だね」と話されていた。「利用させてもらう」という言葉と、「ご機嫌取り」という言葉が、同じ回の中で向き合っている。
「一台で魔法少女20人分」と、眠る時間までの規約
アストの新魔道具については、社員たちの言葉がそのまま値札になっている。
魔法少女を「人分」で数える
「社長がそんなに急がなくても」「うちには優秀な魔法少女がたくさんいるのに」という声に返ってくるのが、「新魔道具は」「一台で魔法少女20人分の働きが見込めるんですよ」「コスパが違う」。続けて「それに新魔道具の未来は」「うちのエースにかかってるんですから」。
第9話で真尾は、「負担の検証テストで魔法少女5体使ったとして」「1体あたり年俸が600万と仮定して3000万」と勘定していた。第9話では「体」、この回では「人分」と、魔法少女が勘定の単位として数えられる。数え方を口にするのが、今回は悪役ではなく普通の社員だというところが重い。
「今日はもう上がりに」と言われて、「開放許可を」と返す
出力テストの場面では、「出力115%」の数字に「出力テストで100超え?」「ちょっとやりすぎなんじゃないの?」と声が上がり、「今日はもう上がりにしましょう」と止めが入る。ところが返ってくるのは「ウイングはまだ開放できます」。「ダメよそんなに無理しちゃ」「これ以上は負荷もかかるし」「この数値でも上層部は納得するよ」と重ねて止められても、「いいえ」「可能性があるのであれば進むべきです」「開放許可を」。
公式サイトのキャラクター紹介は、土刃メイを「業界最大手の魔法少女企業・アスト株式会社の魔法少女で、同社内の納品数トップを誇るエース」と書いている。その土刃は、カナには「現在 参加中のプロジェクトが 佳境ですので」と言い、別の場面では「土刃さん 納品前の最終テスト お願いします」と頼まれている。止める側が「上がりに」と言い、止められる側が「開放許可を」と言う。無理をさせているのが会社なのか本人なのか、この場面だけでは線が引けない。
プロジェクトに入ると、体重と体脂肪と睡眠時間が決められる
プロジェクトへの参加を告げる場面は、もっと具体的だ。「新魔道具開発プロジェクトに参加してもらいます」「これからは安定したデータを取るために」「体組成管理を行ってください」「体重と体脂肪」「睡眠時間は規約範囲内にお願いします」。返事は「了解しました」。さらに「この新魔道具は進化しつつある怪異に対しての唯一の策だ」「いつ実戦に駆り出されてもおかしくない」「常に緊張感を持って過ごすようにお願いします」と続き、ここでも返事は「了解しました」である。
仕事の取り決めが、体の数字と眠る時間まで決めている。「データを取るため」という理由は筋が通っているぶん、断る余地がない。
「プリハトなら後半10分で仕事を終わらせますけど」
副題の場面は、カナと土刃が二人で話すところにある。土刃から「桜木さんもご覧だったんですか?」と聞かれて、二人が同じ作品を見ていたことがわかる。
本物のステッキの代わりに、段ボールで作った人
「プリハトステッキが欲しくて でも 高かったんですよね」という話から、「土刃さん 持ってました?」と聞かれると、答えは「段ボールで作りました」。さらに「プリハトスプーンと プリハトスライサーも作りましたよ」。「もはやプロ!?」「もはやプロっていうか 今はプロですけど」と、話は弾む。
公式サイトのキャラクター紹介は、土刃を「計算機のような精密さ」の魔法少女として紹介している。その人が、本物のステッキの代わりに段ボールで作り、スプーンやスライサーまでそろえていた。精密さの出どころが、少しだけ見えた気がする。
アニメの後半10分と、現実の「めども立たない」
話が仕事に移ると、「でも 実際やると大変ですよね 魔法少女って」。続くのが「プリハトなら 後半10分で仕事を終わらせますけど」「現実は全然違うし」「場合によっては 終わるめども立たないし」「魔法の使い過ぎは 経費かかるし」で、「仕事ですからね」「そうなんですよね」と受け止め合う。
それでもカナは「でも 日々 新しいことがあって」「自分の裁量でできることが どんどん増えて 楽しいんです」と言い、「土刃さんも そう思ったことありますか?」と聞き返す。カナの「裁量」が増えていく同じ回に、アストでは眠る時間まで規約で決められている。プリハトを好きでいることと、その仕事を楽しいと言えることのあいだに、二人の働き方の違いが挟まっている。
お昼の誘いにも、「了解しました」と答える
話し込んだあと、別れ際にもう一つやり取りがある。
仕事の指示と同じ言葉で、約束が決まる
「あの 土刃さん」「よければ この後 お昼一緒に…」と誘われて、返ってくるのは「いいえ」「現在 参加中のプロジェクトが 佳境ですので」。「そうですか」と一度引いてから、「あ あの じゃあ 来週末はいかがですか?」「お昼しましょうよ」と重ねると、「あ 了解しました」。
この回の「了解しました」は、プロジェクトへの参加を告げる場面で二度、「土刃さん 納品前の最終テスト お願いします」への返事で一度、そしてこのお昼の誘いへの返事で一度出てくる。会社の指示に返すのと同じ言葉で、カナとのお昼の約束が結ばれている。硬い返事のままでも、断らなかったことのほうが大きい。
「来週末に 楽しい予定ができたんです」
マジルミエの現場では、「で 10分で片付けんぞ」「はい!」と仕事が始まり、「おっ 張り切ってんな」と声をかけられたカナが、「来週末に 楽しい予定ができたんです」と答える。「そりゃあ 結構」「んじゃ その勢いで この仕事も さっさと終わらせようぜ」「了解です」。
プリハトの話で「後半10分」が出たすぐあとに、現実の現場でも「10分で片付けんぞ」が来る。アニメの中の10分が、そのまま現場の目標時間として口にされている。こちらの現場は、軽口のまま進んでいく。
待ち構えた怪異は、どの分類にも当てはまらない
第9話の終わりに「おそらく彼らが次に考えているのは、東京湾です」と読んだとおり、この回の現場は海の近くだ。見張りについた越谷は、「ちょいちょい 海見てっけどよ」「うんとも すんとも 言わねえな」。
「本日の業務は それが全てだ」
「社長」と呼びかけられて返ってくるのは、「しかし 怪異は 本日中に 必ず その付近で発生する」「確認次第 発生地に集合し 速やかに怪異を退治する」「本日の業務は それが全てだ」。急ぐ理由も言葉になっている。「怪異が発生すれば」「直ちに緩和派と組む 魔法少女企業が 退治に来るはずだ」「向こうが 結果を出す前に」。
気負いすぎる者には、「今から 意気込んでも 肩が凝るぞ」「みんなもいる 背負いすぎるな」と声がかかる。アストのテストでは本人が「開放許可を」と前へ出て、マジルミエの待機では「背負いすぎるな」と肩の力を抜かせる。どちらも会社の現場で、向きが正反対だ。
「予定どおりです」と「計算のうちです」
怪異を仕掛ける側も、見込みを口にしている。電話口では「怪異の発生は 予定どおりです」「ちゃんと 計ってますって」「変なのはいませんよ」「いても 無駄ですけど」と請け合い、話し終えると「さて いただきます」。鎌倉のもとでも「近隣の企業は 計算のうちです」「大きな問題ではありませんよ」「力不足で 早々に退散するでしょう」と見立てていたところに、「いえ」「来てるのは マジルミエです」と報告が入る。
「予定」と「計算」を口にした側の見込みが、来た会社の名前ひとつで外れる。発注のない自社案件で動いたからこそ、相手の計算に入っていなかったとも読める。
「正真正銘 未知の怪異ですわ」
現れた怪異は「全体像は不明 展開予測不可」。分類を当ててみても、「この怪異は どれにも該当いたしません」「正真正銘 未知の怪異ですわ」。海上保安庁からも、「こちらは海上保安庁です」「その怪異は 発生規模並びに分類が不明です」「一時退避をお願いします」と呼びかけが入る。
指揮系統では、「闇森君 その声はいけない」「現場を不安にさせないで」とたしなめる声のあと、「違和感あったら 即 報告を」「細かいフレームを 秒で返すんで」「対策魔法を構築します」「出力次第 即転送を」「受信完了」と短い言葉が行き交う。あらすじの言う「高速連携」は、この短さのことだろう。
そして「目 口」「手」「それから腕」と数え上げる声が続き、「今回はどこまで 完全になるかな」のひと言で回が終わる。プリハトなら片づいているはずの後半で、仕事は片づかないまま終わる。
まとめと考察
仕事の形がいくつも並ぶ回に、「好きなんですか?」
第10話は、仕事の形をいくつも並べた回だった。マジルミエは発注のない自社案件を全社で引き受け、アストの社長は全体会議を抜けて納期を詰めに行く。アストの社員は魔法少女を「20人分」で数え、プロジェクトの規約は体重と体脂肪と睡眠時間まで決める。その横でカナは「自分の裁量でできることが どんどん増えて 楽しいんです」と言う。これだけ仕事の話が並ぶ回の副題が、「好きなんですか?」だった。
後半10分で終わるのは、プリハトだけ
「プリハトなら 後半10分で仕事を終わらせますけど」「現実は全然違うし」「場合によっては 終わるめども立たないし」。この回の後半はまさにその言葉どおりに進み、どの分類にも当てはまらない怪異を前に、仕事は終わらないまま持ち越される。アニメの約束事を口にした回で、アニメそのものがその約束事を守らない。
一方で、終わらないまま残ったものがもう一つある。「了解しました」で決まった来週末のお昼である。仕事の言葉で結ばれた約束が、仕事の外でどう果たされるのか。プリハトを好きだった二人の話は、まだ途中にある。




関連作品:

























コメント