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『戦車椅子-TANK CHAIR-』第2話は、凪の新たなリハビリ相手として凄腕の狙撃手・髙無猟が登場する回。いい的にしか興味がない狂気の男に、静はなんと自らゴリラのものまねまでして兄の狙撃を依頼する。静の迷演技、0.35秒前の殺意で弾を避けた凪、そして砲台車椅子の一撃まで、ハッタリの効いた狙撃戦と、ほろりとする兄妹の短い会話を振り返る。




第2話の標的は凄腕の狙撃手・髙無猟
『戦車椅子-TANK CHAIR-』第2話は、凪の新たな「リハビリ」相手として、凄腕の狙撃手・髙無猟が登場する回だった。より強い殺意を持つ相手を探す静は、いい的にしか興味を示さない狂気の男に目をつけ、なんと自分から凪の狙撃を依頼する。狙撃手と戦車椅子という、距離もスタイルもまるで違う二人の対決を、物理と脳科学まで持ち出してハッタリたっぷりに描き切った、爽快な一話である。
殺意で目覚める兄と、リハビリを信じる妹
冒頭は、これまでの経緯の振り返りから。静の兄・凪は、宇宙一治安の悪い街で最強の殺し屋だった。だが静が人質に取られたとき、凪は相手を皆殺しにしたものの、自らも頭に銃弾を受け、立って歩くことはおろか意識すら戻らない体になってしまう。それでも殺し屋としての本能なのか、凪は殺意を向けられたわずかな時間だけ意識が戻る。静は、とびきりの殺意さえあれば凪が完全に元通りになる日が来ると信じて、強敵との戦いを「リハビリ」と称して重ねているのだ。
第1話を見ていなくても、この振り返りだけで物語の骨格がつかめるのは親切な作りだと思う。そしてここで静がふと抱く疑問が、今回の裏テーマになる。殺意は、いったいどこまで届くのか。相手が遠くにいても、凪は目を覚ますのか。この問いが、そのまま狙撃手との対決へとつながっていく。
鉄バーでの依頼
静が訪れたのは、荒くれ者が集まるバー。店主に「ここはガキの来るとこじゃないよ」と追い返されそうになっても、静は「牛乳嫌いなんだよね」と返して「コーラちょうだい」と平然としている。出てきたコーラは「ごく甘だけどスパイシー」で、店オリジナルのブレンドは鉄分が豊富だという。こうした小さなやり取りに、この街の空気と静の肝の据わり方がよく出ていた。
髙無の居場所を教えたあとで、店主は静を呼び止め、あいつは「筋金入りのクズ」だから悪いことは言わないと忠告する。見ず知らずの少女を気にかける、荒れた街の大人なりの老婆心だ。けれど静は「それは良かった」とあっさり受け流す。クズであればあるほど、凪に向けられる殺意は強くなる。静にとっては、むしろ願ってもない話なのだ。
まだ幼い少女がひとりで荒くれ者のバーに乗り込み、物おじせずにコーラを頼んで、殺し屋の居場所を聞き出す。第1話でも感じたことだが、静はこの街で生き抜くための図太さを、兄の介護と「リハビリ」の日々の中で身につけてきたのだろう。店主の忠告を笑顔で受け流す姿は頼もしくもあり、同時に、普通の子どもらしい暮らしからどれほど遠いところにいるのかを思わせて、少し切なくもあった。
狂気の狙撃手と、ゴリラのものまね
いい的にしか興味がない男
髙無猟は、元軍の狙撃手。たった一人で敵を3日間釘付けにして友軍の撤退を助けるなど、戦時中は英雄として名をはせた。しかし彼にとって軍は単に「人を撃っても怒られない場所」でしかなく、興味はすべて、点数の高い的に弾を当てることだけに注がれていた。除隊後は闇社会で暗躍するものの、いい的を見ると見境なく撃ちたくなってしまうため、殺し屋としてよりも「第一級の殺人犯」として有名だという。
静が見せたのは、最近一晩で潰された強盗団・嵐山組の件にからむ、監視カメラの映像。そこに映る凪の動きを見た髙無は、久しぶりの高得点の的だと色めき立ち、自分にやらせろと乗り出してくる。凪の噂を聞いたことがないのも当然で、タンクチェアを見た奴は「みんな殺されてる」のだ。狂気の男が、相手の危険さを知らないまま嬉々として引き金に指をかける。この時点で、結末はもう見えているようなものだった。
嵐山の娘を名乗る静
傑作だったのは、なぜ映像を持っているのかと聞かれた静の言い訳である。とっさにゴリラのような声を出しながら、嵐山の娘だと名乗り「父の仇を討ってください」と頼み込む。前話で凪に倒された嵐山ゴローのゴリラのような巨体を思い出すと、あまりに雑なものまねで吹き出してしまった。「全然似てないけど」と言われても、「耳の形とかそっくりでしょ」と押し切る静のたくましさ。そして髙無も「あのゴリラに娘がね」とあっさり納得してしまう。
兄を目覚めさせるためなら、どんな迷演技でもやってのける。静のこの行動力は笑えると同時に、少し危うさもはらんでいる。依頼の最後に、まさか打ち損じたりしないでよねと念を押す静。殺し屋に兄の殺害を依頼する妹という構図のとんでもなさを、静本人はまるで気にしていない。そのアンバランスさが、この作品の味になっている。
0.35秒前の殺意
「まるで死人」
狙撃の舞台は、ビル風の吹く高所。ここから狙撃できるのは自分くらいなものだとうそぶく髙無は、風向きも高度差も把握し、条件はこの上ない。ところがスコープの先の凪は、寝ているにしても動きがなさすぎる。「まるで死人」だと髙無がいぶかしみ、ただのコスプレ野郎じゃないよなと疑うのも無理はない。実際、殺意を向けられるまでの凪は、意識のない体のままなのだ。狙撃手にとって、動かない標的ほど撃ちやすいものはない。それなのに髙無が違和感を覚えるのは、腕利きの狙撃手として数え切れないほどの的を見てきたからこそだろう。生きている人間なら必ずあるはずの気配が、凪にはまったくない。その不気味さが、のちの逆転への伏線としてうまく効いていた。
それでも撃てば分かると、髙無は引き金を引く。だが弾は凪に当たらない。「外した」のではなく「いや避けた」。弾速はマッハ級、到達までは0.16秒。よく訓練された人間でも、光を認識するだけで0.15秒はかかる。どう考えても動作が間に合うはずがない。
脳が先に発する殺意
ここで明かされる理屈が面白い。人間の脳は、行動の意思決定を下す0.35秒前には、すでにその行動を促す電気信号を発しているという。つまり髙無が凪を殺すと決意するわずか前に、脳からはもう殺意が発せられている。凪はその殺意を感じ取って目覚め、弾を避けたのだ。実在の脳科学の話を下敷きにしつつ、それを殺意で覚醒する凪の体質と結びつける。ハッタリとしての説得力が抜群で、思わず唸らされた。
偶然に決まっていると認めない髙無は、ライフルが壊れる寸前まで加減して、次は300%の弾速で頭を撃ち抜くと決める。弾速はマッハ27、到達時間は0.05秒。人間の無意識の反射でも追いつけない速さだ。2発目を撃たせた相手は久しぶりだと言い放ち、3発目はないと宣言する髙無の狂気が、ここで頂点に達する。
砲台車椅子の一撃
しかし、戦車椅子のほうが一枚上手だった。凪が呼び出したのは、戦車椅子の第五號機、砲台車椅子。狙撃手が相手なら距離を詰めて倒すのかと思いきや、凪はその場から鉄球を投げ返す。こっちは300%のパワーだと言わんばかりの一撃は、遠く離れた狙撃手のもとまで正確に届いてしまう。どっちが狙撃しているのか分からなくなるような決着に、痛快さとおかしさが同時にこみ上げてきた。
髙無は凪の殺意の届く範囲から一方的に撃っているつもりだったが、実際には凪にとっても射程内だった。第1話のゴロー戦が腕の力で押し返す肉弾戦だったのに対し、今回は遠距離戦。戦車椅子の機体ごとに戦い方がまるで変わるのが、このシリーズの見どころだと改めて感じた。いい的にしか興味がないと豪語していた男が、最後は自分こそが的になってしまうという皮肉な結末も、狂気の狙撃手にふさわしい幕切れだった。
兄妹の短い会話と、次のリハビリへ
殺意が届く範囲の実験
戦いのあと、静は今回の成果を報告する。「半径500メートルぐらいなら向けられた殺意で覚醒できると実証されました」。つまり今回の依頼は、殺意の届く範囲を確かめる実験でもあったのだ。凪がもっともな疑問をぶつける。もし射撃位置がもう少し遠くて殺意が届かなかったら、どうなっていたのか。静の答えは、「医学の進歩に犠牲はつきものなのだよ」。思わず「おい」とツッコむ凪との掛け合いが、まるで普通の兄妹のようでほほえましい。
冷静に考えると、静の実験はかなり危ない橋だった。殺意が届かなければ、凪は無抵抗のまま撃ち抜かれていたかもしれない。兄を元に戻したい一心で突き進む静には、どこか子どもらしい無鉄砲さがある。その未熟さを、凪は叱ろうとしながらも、強く責めきれない。
「野菜もちゃんと食え」
説教を始めようとした凪だったが、眠気がそれを許さない。だいたいお前は、と言いかけたところで意識が遠のき、最後に絞り出したのは「野菜もちゃんと食え」という一言だった。静の「何それ」という返しも含めて、思わず笑ってしまう場面だ。けれど、殺し屋としての凪ではなく、妹を気にかける兄としての凪が顔を出すのは、ほんのわずかな時間しかない。
凪が眠りに戻ったあと、静はあいつもダメだったと肩を落とす。一体誰の殺意なら、兄は元に戻るのか。そうつぶやいて、静は「次は誰にしよう」と前を向く。兄と普通に話せる時間は、殺意を浴びたあとの数分だけ。そのはかなさが、コミカルなやり取りのあとにじんわりと沁みてくる。
狂気と兄妹愛のバランス
第2話は、狙撃手とのハッタリの効いた頭脳戦と、静の迷演技、そして兄妹の短い会話という三つの見どころが、テンポよく詰め込まれた回だった。狂気の殺し屋たちを相手にした血なまぐさい戦いの中心にあるのは、兄と話したいという妹の切実な願い。その対比が、この作品をただのバイオレンスアクションにとどめていない。
半径500メートルという手がかりを得た静は、これからもっと強い殺意を求めて、さらに危険な相手を探していくのだろう。戦車椅子にはまだ見ぬ機体がいくつもあるはずで、次はどんな相手に、どの機体で挑むのか。静の願いがかなう日が来るのかも含めて、続きが楽しみになった。兄妹の会話がもう少しだけ長く続く日が来ることを、願わずにはいられない。




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