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『アオのハコ Season2』第27話の副題は「憧れ」。千夏と夢佳の再会に立ち会った大喜は、後日、アルバイト先の歯医者で偶然出会った夢佳から、彼女がバスケをやめた理由は千夏だと告げられる。7歳から続く千夏と夢佳の関係、冬の散歩で千夏が語った憧れ、そして大喜の正論と夢佳のビンタまで、千夏の過去に初めて深く迫った一話を場面ごとに振り返る。




第27話の副題は「憧れ」
『アオのハコ Season2』第27話の副題は「憧れ」。千夏と夢佳の再会に立ち会った大喜は、ふたりのただならぬ空気を感じ取る。歯医者で偶然再会した夢佳から、バスケをやめた理由は千夏だと告げられ、冬の散歩では千夏自身の口から夢佳との出会いと憧れが語られる。千夏の過去が初めて大きく掘り下げられた、Season2の方向を決める一話だった。
「猿か私は」
前話の終わりに現れた夢佳は、千夏に向かって「夏にも彼氏できたんだ」と言い放ち、さらに「諦めたんだ全国制覇」と続ける。千夏が「諦めてないよ」と返しても、夢佳は「最初はドリルもまともにできなかったのに」「今じゃエースプレイヤーだもん」「その上プライベートも充実させて」「ほんとご立派ですよね」と、皮肉めいた言葉を重ねていく。
隣にいた連れの男子が「もっと言い方あるだろ」とたしなめ、その場を収めようと謝って引き揚げようとすると、夢佳は「猿か私は」と突っ込む。張り詰めた空気の中に一瞬だけ差し込む笑いが、かえって夢佳という人物の読めなさを際立たせていた。去り際ににらまれた大喜の居心地の悪さも、見ている側にそのまま伝わってくる。
プレイだけで言うと
夢佳が去ったあと、千夏は「昔のチームメイト」だと説明する。中学までは同じ栄明にいたが、高校から他校へ行ったという。大喜も夢佳のことは見たことがあり、「プレイだけで言うと」「千夏先輩より目を引くような人だった」と振り返る。噂でバスケをやめたと聞いていた人物が、あんなに刺々しい態度を見せる。そのギャップが、大喜の中に小さな疑問を残した。
千夏が「ごめんね」と謝る姿からも、夢佳との関係がただの元チームメイトでは片づけられないことが伝わってくる。帰りの電車で席を譲り合うふたりの何気ないやり取りが、直前の重い空気との落差を生んでいて、この作品らしい呼吸の置き方だと感じた。
針生が語った夢佳と千夏
クリスマスは練習
バドミントン部では、ウィンターカップの日程がクリスマスと重なる話題で盛り上がる。「聖夜だからって練習しない理由はないだろ」と言い切られ、夜までみっちりの練習メニューを「プレゼントしてやるよ」とまで言われる部員たち。大喜は大喜で、千夏とクリスマスを過ごすわけではないのだと、ひそかに肩を落とす。
部活に打ち込む日々と、千夏への淡い期待。そのどちらも本気だからこそ、大喜の心はいつも少し忙しい。練習と恋のあいだで揺れる等身大の高校生らしさが、こうした小さな場面にこそよく表れている。
7歳からの知り合い
大喜は思い切って針生に夢佳のことを尋ねる。針生は嫌な顔をしつつも、夢佳について知っていることを話してくれた。「プライド高くて人に相談するようなやつでもないし」「あいつがバスケ嫌いになるわけもないから」。そして「けど一番ショックを受けたのは間違いなくチーだよ」と続ける。
千夏と夢佳は「同じジュニアチームで7歳からの知り合い」だという。さらに針生は、千夏がとても早くから朝練をしている理由にも触れる。夢佳に追いつくためには、このくらい当然だと千夏は言っていたらしい。千夏の朝練の原点に夢佳がいたという事実は、これまで見てきた千夏の努力の意味を大きく変えるものだった。
友達で、仲間で、憧れだった人から、バスケを諦めたのかと言われる。その言葉を受けた千夏はどんな気持ちだったのか。大喜の胸に浮かんだ問いは、そのまま見ている側の問いでもあった。
歯医者で再会した夢佳
受付のアルバイト
考え事をしながら歯磨きをしていたせいか、大喜は虫歯になってしまう。駅前の歯医者を訪れると、受付にいたのはなんと夢佳だった。「勝手に触らないでください」と冷たくあしらわれ、スリッパを逆に履いていると指摘されるなど、大喜にとっては気まずさの連続だ。千夏の彼氏だと勘違いされているから嫌われているのではないか、と大喜は考え込む。
治療のあとでお茶を飲む大喜に、夢佳は「それ、お茶でも砂糖入ってますよ」と声をかける。夢佳はあくまで「ただの受付バイト」だと言い、「自分で使うお金くらい自分で稼ぎたいでしょ」と続けた。コミカルな歯医者の場面から、一気に核心へ踏み込む流れが見事だった。
「千夏のことが嫌いになったから辞めたの」
「そのために部活辞めたんですか」と尋ねた大喜に、夢佳は「違うよ」と答え、続けて「千夏のことが嫌いになったから辞めたの」と言い放つ。中学の時はあんなに仲が良かったのに、と戸惑う大喜。その言葉を千夏には言っていないのかと聞くと、夢佳は「言ったよ」とだけ返した。
本当に嫌いになったのか、それとも別の理由を隠しているのか。夢佳の表情からは、本心がまったく読めない。千夏の側から見れば憧れの相手で、夢佳の側から見れば嫌いになった相手。同じ時間を過ごしたふたりの記憶が、まったく違う色をしていることが、この回の切なさの出発点になっている。
冬の散歩と千夏の憧れ
冬を感じに行く
帰宅した大喜を迎えた千夏は、これから散歩に行くという。寒いのにと言う大喜に、千夏は「だからこそ冬を感じに行くんだよ」と笑う。目的地のない散歩の途中、ルーを入れる前の野菜を煮込んでいる時のカレーの匂いや、シャンプーの匂いに気づいていく千夏の感性が、とても千夏らしい。
千夏は、この前展望台から見た時は一つ一つ小さな明かりだった街を、こうして降りてきて歩くと「密度の高さが」「私はすごく安心する」と話す。夢佳に会ったことは言わない方がいいと考えていた大喜に、千夏の方から「この間はごめんね」「私の知り合いが嫌な思いさせちゃったよね」と切り出した。
嵐のような子
千夏が語る夢佳は、「昔から嵐のような子」だった。ボール遊びといえば投げるだけだった幼い千夏にとって、同い年でボールを自由に操りコートを駆け抜ける夢佳の姿は衝撃だった。その姿への強い憧れが、千夏がバスケを始めたきっかけになっている。
ミニバス時代の回想では、なかなか上達しない千夏に周りの子たちが冷たい言葉を向けるなか、千夏は夢佳に教えてほしいとせがむ。「ボードゲームのピンみたいな子だね」という一言には思わず笑ってしまうが、何度も「もう一回」と食い下がる千夏の姿には、今の千夏につながるひたむきさがはっきり見える。
そして、千夏がスタメンのユニフォームを手にした時、それをねたむ仲間に夢佳はこう言っていた。「私は才能あるから」「才能に憧れる気持ちはわからないけど」「努力できる力には」「憧れるけどね」。千夏が夢佳に憧れていたように、夢佳もまた千夏の努力に憧れていた。この一言が、副題の「憧れ」に二重の意味を持たせている。
千夏にとって夢佳は「この子についていけば大丈夫って思わせる」存在であり、「憧れだった」。今でもたまに、このチームに夢佳がいてくれたらと思うのだという。その話を聞いた大喜が、個人競技もチーム競技も関係なく、みんな自分との戦いをしているのだと気づく場面は、大喜自身の成長を感じさせた。
大喜の正論と夢佳のビンタ
「何の言い訳をしてるんですか」
後日、大喜は普通にバスケをしている夢佳と出くわす。遊びだからと言う夢佳に、大喜は遊びにしてはもったいないと伝える。夢佳は、人より物覚えはよかったと認めつつ、「世の中には私よりすごい人なんてごまんといるんだよ」と言う。さらに、部活だけを続けて何になるのか、プロになれるわけでもなく、「トーナメントトップの人しか笑って終われない」と続けた。
それに対して大喜は「何の言い訳をしてるんですか」と返す。「だってそんなの最初から分かってたことじゃないですか」「一球を得るのが楽しいからやってたんじゃないんですか」。そして「高校でいくらでも挽回できたでしょ」「自分より上がいるなんて当たり前なんですよ」と畳みかけた瞬間、夢佳の平手が大喜の頬を打った。
大喜の言葉は、きっと間違ってはいない。毎朝の練習で自分との戦いを続けてきた大喜だからこそ言える言葉だ。けれど、正しい言葉が、いつも相手に届くわけではない。夢佳の痛いところを真正面から突いてしまった大喜の不器用さが、このビンタに凝縮されていた。
正論が届かない理由
夢佳は「客観的に見ればいくらでも正論言えるよね」と返す。外から見ている人にとっては簡単な答えでも、当事者にとってはそう簡単に割り切れない。才能を持ちながらバスケを離れた夢佳の中には、大喜にはまだ見えていない事情があるのかもしれない。
暴力をふるった側が悪いのか、そこまで追い詰めた側が悪いのか。このシーンの受け止め方は、見る人によって大きく変わりそうだ。それでも大喜は、夢佳を責めたかったわけではないはずだ。もったいないと本気で思ったからこそ、言葉が止まらなかった。そのまっすぐさは大喜の長所であり、同時に危うさでもある。
憧れが映し出すもの
ふたりの憧れのすれ違い
千夏は夢佳の才能に憧れ、夢佳は千夏の努力に憧れていた。それなのに夢佳は、千夏のことが嫌いになったからバスケを辞めたと言う。互いに憧れ合っていたはずのふたりが、なぜすれ違ってしまったのか。この問いこそが、Season2序盤の大きな軸になっていきそうだ。
千夏の努力の原点には夢佳がいて、その夢佳は今、バスケから距離を置いている。大喜にとっても、千夏の過去を知ることは、千夏という人をより深く理解することにつながっていく。千夏が語った憧れと、夢佳が見せた痛み。その両方に触れた大喜が、これからふたりとどう向き合っていくのかを見届けたい。ビンタという形で途切れてしまった夢佳との会話が、このまま終わるとは思えない。大喜のまっすぐさが、いつか夢佳の心のどこかに届く日が来るのかどうか、そこにも注目していきたい。
歯医者でのコミカルなやり取り、冬の散歩の穏やかな時間、そして最後の鋭いビンタ。緩急のはっきりした構成の中で、千夏と夢佳、それぞれの「憧れ」がていねいに描かれた一話だった。




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