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『クレバテスII』第10幕の副題は「第二の試練」。この回は、お前は何者かという問いを全員が言い合っている。ラスウェルは「そもそも魔獣王ってなんだ」と正面から聞き、返ってきたのは「踏み込んではならぬ領域がある」という拒絶だった。一方でアリシアは、学長の正体を待たずに「裏の姫」と呼び名を決めてしまう。答えを持って帰るのは、自分から名乗った者だけだ。




人形の中身は、こちらから聞く前に説明される
冒頭、アリシアの前に立っているのは巨大な人形だ。中に何を入れて立てているのか、という当然の疑問に対して、相手のほうから先に答えが出てくる。この回はここから、聞かれる前に喋る側と、聞かずに斬る側の話になっていく。
「有効活用されて幸せだろう」
中に入っているのは魂を抜かれた赤子の残りかすだと説明される。身寄りのない赤子だぞ、むしろ有効活用されて幸せだろう、と続く。キメラクイーンの養分となり、新たなる人形の糧となるのだから、というのが向こう側の理屈だ。骨格や神経、筋繊維は魔獣の子からも取り出しているという。
目的は、神殿に眠る勇者に魂を戻すこと
魂の器である人形を作り、そこに合成した魂を戻す。赤子が使われているのは、その技術を開発するためだと言う。行き着く先は、神殿に眠る真の勇者に、散らばった魂の欠片を集めて戻し、目覚めさせることだ。全ては勇者伝承の復活のため、と言い切られる。
「大いなる目標の贄」で片づけられる
赤子も魔獣の子の命も大いなる目標の贄であって、ここで利用されることをむしろ誇りに思え、というところまで言われる。それを聞いたアリシアの返事は「お前たちの言い分はよく分かった」だけだ。反論はしない。言い分を分かったうえで斬りにいく。
敵はアリシアをフルネームで呼ぶ
続けて出てくるのは値踏みだ。南方の魔獣王クレバテスに挑んだ十三人の偽勇者、その生き残りか、なぜか今はそのクレバテスに仕えているようだが、と。そのうえで「アリシア・グレンフォール、お前は私が直に排除せねばなるまい」と、フルネームで名指しされる。この回で彼女をフルネームで呼ぶのは、敵だけになる。
ラスウェルの問いは「そもそも魔獣王ってなんだ」だった
場面が変わり、ラスウェルがヴォーデインに会いに来る。世界がひっくり返るかもしれないという時に自分だけ仲間外れはないだろう、というのが名目だが、持ってきたのは質問一本だ。
あの時代を終わらせた当人に聞きに来ている
本物の勇者を蘇らせようとしているのだろう、勇者伝承を完全な状態で再開しようとしている、なぜだ。その問いを、あの時代を終わらせた当人にぶつけに来た、とラスウェルは言う。あの時代に戻したいのか、勇者たちと本気で戦っていたあの時代に、と重ねる。
見てきたものが、そのまま根拠になっている
お前は見ていないはずだろう、と返されて、ラスウェルは見ていると答える。先代がクレバテスより先に倒された分だけ、こちらは早く戻ってきているからだ。その目に映ったのは、文明がずっと繁栄していた時代の人族が、みんな無感情に滅びを受け入れていく姿だった。世界はもう少し広かった、とも言う。
まばらになった人族のほうが生き生きしていた
土地が真っさらになり、動いている人族もまばらになったあとの世界も、ラスウェルは見ている。そのまばらな人族のほうが、世界を受け入れて必死に生きようとして、生き生きしているように見えたという。だから、なんで昔は戦っていたんだろう、という疑問がそこから出てくる。
疑問は自分たちの側へ向かう
話は魔獣王そのものへ移る。自分たちはそれぞれの領域を持ち、人族の領域を囲っている。もう本物の勇者もいないのに、なぜその必要があるのか。なぜ俺たちは領域から解放されないんだ、というのがラスウェルの本題だ。原因が伝承にあるなら書を全部壊せばよかった、少なくとも魔力を開く節と武器の節を奪えば戦う力はなくなる、とも言う。
「領域」という一語で押し返される
答えろ、と迫ったラスウェルに返ってきたのは、まず攻撃、それから「踏み込んではならぬ領域がある」という一言だ。ラスウェルはすかさず、それはこの場所のことか、それともお前の心の話か、と聞き返す。返事は「熱くなるなよ」で、どちらなのかは言われない。質問に使った語が、そのまま拒絶の語になって戻ってきている。
アリシアは答えを待たずに、自分で呼び名を決める
アリシアは鏡の牢獄に落とされ、これまでに直面した最も困難な場所へ同時に置かれる。心当たりがあるはずだぞ、という念押しつきだ。ところが次に出てくるとき、彼女は剣を一本持っている。
腹の中に落ちていた
どこでそんなものを、と驚かれて、返事は「落ちてた」「腹の中に」だ。飲み込まれた剣のほとんどは朽ちていたが、一本だけ至宝だったので溶け残っていた、というのが本人の見立てになる。柄のほうはさすがに微妙だが、一戦持てばそれで十分、と付け加える。
「学長。いや、裏の姫と呼ぼうか」
そして相手に向かって、とどめを刺す場所を間違えたな、学長、と言いかけ、いや、裏の姫と呼ぼうか、と言い直す。第9幕で正体を尋ねて答えをもらえなかった当人が、今度は答えを待たずに自分で呼び名を決めている。聞くのをやめて、こちらから名づける側に回った形だ。
「気安く呼び名を決めるな」
返ってきたのは、気安く呼び名を決めるな、という拒絶だった。正体は明かさないが、こちらが付けた名前も認めない、という二重の否定になっている。そのうえに、至宝があったところで凡人であることに変わりはない、という値踏みが乗る。呼び名の話が、そのまま格付けの話にすり替えられている。
「私は勇者だ、誰が何と言おうと」
アリシアの返しは短い。どういう理屈か知らないが私は勇者だ、誰が何と言おうと。偽勇者だ、勇者伝承とはまるで関わりのないただの異物だ、と定義してきた相手に対して、定義そのものを自分で引き受けている。そのうえで、あいつはすぐそこまで来ている、と告げる。
クレバテスだけが、自分を役割で名乗る
王都の側では、地面から何かがせり上がっている。昨晩まで何もなかった場所が、地鳴りとともに立ち上がって別の姿になった、と報告される。そこへ久しぶりにクレバテスが現れる。
十ヶ月に満たないのに、知性は十歳ほど
少し見ぬうちに強くなったな、と声をかけられたルナは、空を飛び、流暢に喋る。歴代の王に、物や自分を自在に浮かせる力を持つ者はおらず、歴史書にも初期のおとぎ話にも記述がないという。十ヶ月に満たない赤子で、知性のほうは十歳ほどだと説明される。
「歯車が噛み合った」
説明を聞いたクレバテスの受け取り方は、驚きではなく納得だった。つまり歯車が噛み合ったということなのだろう、と言う。そのままネルルのほうを向いて、今日までよく守った、引き続きルナを頼むぞ、とねぎらう。それも必要な歯車の一つだ、と続ける。
起きているのは五箇所
書の一つが奪われたあと、同じ領域の力がこの地に戻るのを感じた、とクレバテスは言う。各地の聖地が同じようによみがえっていて、その数は五箇所だという。第9幕でアリシアが五つの門と数えた数と、ここで一致する。うぬらのよく知る勇者伝承が本来の姿で動き出そうとしているのだ、とも言う。
「我はルナの成長を見届ける者」
あなたは本当に何者なのです、と正面から問われたときの答えが、この回でいちばん短い。我はルナの成長を見届ける者、とだけ返す。名前でも種族でも位でもなく、いま引き受けている役割で名乗っている。この回で自分から名乗ったのは、この一人とアリシアだけだ。
交換条件はモフモフだった
門を開けるかと問われたルナは、やってみる、と答えて母を下がらせる。開くときの光が普通の人にどう働くか分からないから、という理由まで自分で説明する。そのうえで、今度またモフモフに包まれて寝たい、と条件を出す。よかろう、ただし誰も見ておらぬところでな、という返事で、この回の空気が一度だけゆるむ。
この幕を作った組は、第4幕とほとんど同じだった
公式サイトは話数ごとに、脚本から色指定検査、話数制作担当まで載せている。作画の分担まで毎話公開しているサイトは珍しい。第10幕の欄を前の幕と並べると、この回の作り方が見えてくる。
脚本は十幕続けて一人だけ
脚本は小柳啓伍。第1幕からこの第10幕まで、一度も分担していない。連続で十幕、脚本が一人のまま来ている作品はそう多くない。話の筋が枝分かれせずに積み上がっているのは、たぶんここが効いている。
総作画監督は偶数と奇数で分かれている
総作画監督は近藤奈都子。この作品は偶数幕が近藤奈都子、奇数幕が佐古宗一郎という分かれ方をしていて、第10幕でもその形が保たれている。例外は、欄そのものが空だった第8幕だけだ。第8幕は絵コンテも演出も話数制作担当も別の人が固めていて、欄の形からして別のラインの回だった。
絵コンテと演出の兼任は第2幕以来
絵コンテと演出は、どちらも則座誠。一人で両方を担当するのは第2幕以来の二度目で、その第2幕の副題は「もう一つの世界」だった。鏡の向こうにもう一つの場所を作られる幕を、同じ人がもう一度担当していることになる。第6幕では演出だけを担当している。
作画監督が一人だけの幕
そして作画監督は日向正樹の一人だけだ。大人数で分担した幕が多いなかで、作画監督が一人なのは第1幕と第4幕、そしてこの第10幕しかない。しかも第4幕の作画監督も同じ日向正樹で、総作画監督と色指定検査まで同じ組み合わせになっている。少人数で締めた幕だという見立ては、欄の並びからも立つ。
第二の試練は、尊敬する相手を差し向けてくる
終盤、鏡がもう一度出てくる。そんな鏡は全部叩き割るだけだ、と言うアリシアに、割れるかな、という返事が来る。ここで副題が本編の言葉になる。
映るのは「心から尊敬する存在」
鏡が映すのは、心から尊敬する存在の姿だと説明される。アリシアが漏らすのは「父さん」の一言だけだ。絶対に戦いたくないと考える存在と戦う、というのがこの仕掛けの中身になる。第9幕が鏡の中で自分と向き合わせる幕だったのに対し、今度は好きな相手を差し出してくる。
副題は、ここで初めて言葉になる
これが鏡の迷宮、第二の試練だ、と相手が名乗る。回のあいだで副題がそのまま台詞になるのは、この一箇所だけだ。第9幕の副題が「鏡の迷宮」で、この回はその迷宮の中の二つ目の試練にあたる。二幕続けて、同じ迷宮の内側で話が進んでいることになる。
同じ時刻に、向こう側も始めている
同じころ、ヴォーデインは集めた勇者の欠片を肉体に戻そうとしている。この術も人族に開発させたという。戻すとどうなるのか、という問いへの答えは「蘇る」ではなく「蘇ってもらう」で、半端は許さない、と続く。相手にも意思があることを、はなから勘定に入れていない言い方だ。
幕引きも、フルネームで呼ばれる
締めの台詞は、お前は愛する者の手にかかりここで散るがいい、そして「アリシア・グレンフォール」だ。この回で彼女をフルネームで呼ぶのは、冒頭のヴォーデインとこの相手の二人しかいない。自分で名乗った者と、他人から名前を決められる者。この幕は、その二つのあいだで動いている。




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