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『名探偵プリキュア!』第33話の副題は「名探偵の道も一歩から」。キュアット探偵事務所の一員になったるるかのもとへ道場破りのように現れたゴウエモンは、最後に卒業証書と一緒にアルカナ・シャドウのロッドを返して去っていく。「これは名探偵にふさわしくないかもしれない」とつぶやくるるかに、あんなたちは「一歩一歩、歩いてきた証でしょ」と返す。名探偵の一歩目は、怪盗として歩いた道の続きに置かれていた。




副題「名探偵の道も一歩から」の一歩は、どこから数えるのか
公式の副題は「名探偵の道も一歩から」(出典: 東映アニメーション公式サイト 第33話ページ)。千里の道も一歩から、をもじった題で、キュアット探偵事務所の一員になったるるかが、名探偵として最初の一歩を踏み出す回に見える。脚本は成田良美、演出は志水淳児。
数えられていたのは、歩いてきた道
ところが、回の終わりで口にされる「一歩」は、これから踏み出す一歩のことではない。ゴウエモンが卒業証書と一緒に返していったアルカナ・シャドウのロッドを見て、るるかは「これは名探偵にふさわしくないかもしれない」とつぶやく。そこへ返ってくるのが「一歩一歩、歩いてきた証でしょ」だ。数えられているのは、怪盗として歩いてきた道のほうだった。
相部屋と名刺、それから笑顔の練習
事務所の一員になった朝
冒頭は、事務所の部屋割りの話から始まる。「二人が使ってた部屋を私たちが使っちゃってるから」と気にする声に、「るるかと一緒の部屋で嬉しいねって話してたの」と返事があり、「依頼者が来たらすぐに行けるのもいい」と続く。るるかとくれあの名刺もできていて、「もっとたくさんの困っている人を助けられるわね」と話がまとまる。第32話で戻ってきたるるかは、部屋と名刺を持つ事務所の人間として、この回を始めている。
「特に小さい子は明るく笑顔で迎えないと」
続いてあんなたちがプリティホリックを案内する。探偵と並行して営んでいる店で、るるかは以前、客に変装してここで買い物をしたことがあるという。店に立つ練習では、笑顔が課題になる。「笑顔は接客の基本だぞ」「お客さんが怖がっちゃうからな」「特に小さい子は明るく笑顔で迎えないと」。昔は笑顔が引きつっていたジェット先輩でもできるようになったのだから大丈夫、と励まされる。この回のるるかは、練習してもうまく笑えないところから始まっている。
店に並ぶジェット先輩の手作りの品を見ているうちに、話は伝説のブローチに移る。そのリングを抜けた名探偵はまだいないという品で、ジェット先輩も詳しくは知らないらしい。この回ではそれ以上の話にはならず、話題に上るだけで終わる。
道場破りのように来た師匠
「弟子のくせに師匠の俺に一言の挨拶もなく出ていくとは」
ゴウエモンはオープニングの前から怒っている。「弟子のくせに師匠の俺に一言の挨拶もなく出ていくとは」「今一度このゴウエモンの教えを」「叩き込んでやる」。店に乗り込んでくる様子を、公式あらすじは「道場破りのように」と書いている(出典: 同)。ジュエルが近くにあるのかと騒ぐ声に、本人は「今回はマコトジュエルを取りに来たわけじゃない」と言う。
用件は、るるかがファントムを黙って抜けたことだ。「先輩であり師匠でもあるこの俺に」「ファントムをやめるとはどういうことだ」。るるかが「アルカナ・シャドウじゃない」と返しても、ゴウエモンは「お前は俺の弟子、アルカナ・シャドウだ」と譲らない(出典: 同)。責めている中身は、辞めたことそのものより、師匠に一言もなく出ていったことのほうにある。
「勝手に独り立ちさせるわけにはいかねえ」
そう言ってゴウエモンはからくり迷路を発動させる。出された条件は「出口はたったひとつ。見事見つけられたら認めてやるぜ」(出典: 同)で、その後に「ファントムではなく名探偵プリキュアとしてな」と続く。
連れ戻しに来た男の条件にしては、中身が逆を向いている。迷路を抜けたら認めるのは、名探偵プリキュアとしての独り立ちのほうだ。止めているのは「勝手に」独り立ちすることで、独り立ちそのものではない。送り出し方にこだわっているだけで、送り出すこと自体は最初から決まっていたように聞こえる。
ボスには「落とし前」と言っておく
そのころファントムの側では、ゴウエモンの姿が見えないことが騒ぎになっている。ウソノワールに向けたゴウエモンの言葉は「アルカナ・シャドウの落とし前はこのゴウエモンにお任せください」だ。ボスへの説明は「落とし前」で、るるかのために用意していたのは、後で分かるとおり卒業証書だった。同じ一件を、上に向けてと下に向けてで、まるで違う言葉で包んでいる。
扉の向こうから来た、別の世界の来客
からくり迷路は、無数の扉が並ぶ空間だ。出口は一つで、ほかの扉はさまざまな場所につながっている。間違えれば知らない世界に迷い込む仕掛けで、その扉の側から来客がある。
呼び鈴を鳴らす妖精と、しゃべる犬
公式あらすじによると、ある扉から呼び鈴が鳴り、別の世界の妖精・プリルンが現れてタコさんウインナーを勧めてくる。追い返すと、今度は別の扉から犬が飛び出して「こんにちワン!」と人の言葉で話す。公式はこの犬を、こむぎと名前で書いている(出典: 同)。
「なんで犬が」「犬が喋った」と騒ぎになり、ゴウエモンは「扉が多いといろんなもんが出てきちまう」と、扉を「3つで勘弁してやろう」と絞り込む。別の世界からの来客は、迷路の広さを見せる仕掛けとして、一瞬で通り過ぎていく。
この回はオープニングも映画仕様の映像に変わっていて、放送中から気づいた声がいくつも上がっていた。
答えは、ヒントが何を言ったかではなく、いくつあったか
残った扉は「3」「6」「9」。出題は「正解の扉は、ヒントの『数』に隠されている!」(出典: 同)。ヒントは三つ出る。「3」の扉には「この扉は偽物だ」、「6」には「この扉は偽物かもしれねえ」、「9」には「本物でもおかしくねえ」。
「偽物だ」と言われた扉が正解だった
素直に聞けば、はっきり偽物と言われた「3」は真っ先に外れる。ところが、るるかとくれあが選んだのはその「3」の扉だった。公式あらすじの説明では、「ヒントの数」が数字そのものではなくヒントの個数だと見抜いたから(出典: 同)。ヒントが何を言ったかではなく、ヒントがいくつ出たかが答えだった。
解く途中で「言葉に惑わされちゃダメなのかも」という気づきがあり、「解けないアイスと謎はない」の一言も入る。脱出したあとには「今回は単純な謎解きだったわね」「難しく考えすぎると」「かえってわからなくなることもある」と振り返っている。
本物か偽物かより、いくつかを見る
この解き方は、そのまま回の本題に重なる。るるかは「アルカナ・シャドウじゃない」と言い、ゴウエモンは「お前は俺の弟子、アルカナ・シャドウだ」と言う。どちらも、るるかが何者なのかを一つの言葉で決めようとしている。扉の謎が教えているのは、札に書かれた本物か偽物かではなく、数えられるものを数えろということだ。回の終わりで数えられるのは、るるかが歩いてきた一歩一歩になる。
いらないと言われ続けた卒業証書
読み上げの最後に来る「共にアイスを頬張った」
迷路を抜けたるるかに、ゴウエモンは「あっぱれだ」と言い、自作の卒業証書を読み上げ始める(出典: 同)。「弟子を取らぬと決めていたこのゴウエモン」「しかしアルカナ・シャドウの心意気を買い」「初めて弟子を取ることにした」。続けて「共にマコトジュエルを追った日々」「新人だったお前はいつも俺の背中を見て学び」「めきめきと成長していった」。
思い出の最後は「そして時に師匠と弟子という関係を超え」「共にアイスを頬張った」。長い口上の思い出の締めくくりに来るのが、アイスだ。るるかの好物で、第32話で事務所に戻る決め手になったのも、アイスパーティ用のお揃いのスプーンだった。証書の締めは「よって師匠である俺からの卒業を認め」「一人前となった」。
敵の手作りの証書に、マコトジュエルが宿る
受け取る側の反応は冷たい。るるかは「だから弟子じゃないってば」と言い、シュシュタンは「思い込みが激しいでしゅ」。ところがその卒業証書にマコトジュエルが宿る(出典: 同)。ゴウエモンは「弟子を思うこの俺の熱い思いが」「マコトジュエルを呼び寄せた」と胸を張り、「でもるるかを思う気持ちは本物みたいね」という声も出る。
マコトジュエルは、人が大事にしている物に宿る。怪盗団の一員が手作りした卒業証書が、探偵たちの守るべき宝物になった。「マコトジュエルを呼び寄せたってことは大切なものなんだろうけど」「怪盗団ファントムに渡すわけにはいかないわ」。守る相手は、証書を作ったゴウエモンの属する怪盗団そのものだ。
「いらない」から「しょうがないからもらってあげるわ」へ
ゴウエモンは「試練はまだ終わってねえってことだな」とハンニンダーを生み出し、「これはいわば卒業試験」と戦いを挑む(出典: 同)。倒せたら卒業証書をくれてやる、と言われても、返事は「いらないって」。あんなたちも変身して立ち向かい、力を合わせてハンニンダーを浄化する。
戦いのあと、ゴウエモンは「いいだろう」と卒業証書を渡し、返る言葉は「しょうがないからもらってあげるわ」。断られ続けた証書が、最後はるるかの手に渡る。受け取らなかった理由は、弟子ではない、の一点だった。それでも最後に受け取るのは、読み上げられた思い出まで突き返すつもりはなかったからだろう。
返されたロッドと「過去を背負って、新たな道をゆけ!」
「忘れもんだ」と差し出されたもの
卒業証書を渡したあと、ゴウエモンは「それともう一つ」「忘れもんだ」と、アルカナ・シャドウのロッドを手渡す(出典: 同)。忘れ物と呼ぶ以上、ファントムに残されていた、怪盗としての道具だ。
添えられる言葉は「過去はなかったことにはできねえぞ」「どうあがいたって消えねえ」「アルカナ・シャドウとして歩んできた道を忘れるな」、そして「過去を背負って、新たな道をゆけ!」(出典: 同)。怪盗をやめた弟子に、怪盗だった過去を捨てるなと言うのが、師匠の最後の教えになっている。
卒業は、敵同士になるための手続き
ゴウエモンはそのまま「これからは敵同士だ」「俺は全力でお前をぶっ潰す」「覚悟しやがれ」と言い渡す。返事は「絶対に負けない」。ゴウエモンは「迷いのねえいい目だ」「倒しがいがあるぜ」と言って去っていく。
冒頭の「勝手に独り立ちさせるわけにはいかねえ」は、ここで回収される。勝手にではなく、師匠が認めた独り立ちになったから、ゴウエモンは正面から敵に回れる。卒業証書は、そのための手続きだった。
「これは名探偵にふさわしくないかもしれない」
残されたロッドを見つめて、るるかは「これは名探偵にふさわしくないかもしれない」とつぶやく(出典: 同)。戦いの最中にも「アルカナ・シャドウじゃない」と言い返していた本人にとって、怪盗の道具は置いていきたい過去のはずだった。
そこへ「でも」「るるかさんの大事な一歩だよね」「一歩一歩、歩いてきた証でしょ」と言葉が重なり、「実は私キュアアルカナの衣装も可愛いけど」「アルカナ・シャドウの衣装も素敵」と続く。ロッドは捨てるべき過去ではなく、ここまで歩いてきた証として受け取り直される。
まとめと考察:名探偵の一歩目は、ゼロからではなかった
練習では出なかった笑顔
前半のプリティホリックで、るるかは笑顔の練習をしていた。「特に小さい子は明るく笑顔で迎えないと」と言われ、ジェット先輩でさえできるようになったと励まされる側だった。
回の最後、ロッドを受け取り直したるるかに「お前笑えるじゃんか」と声がかかる。公式あらすじも、過去も含めて受け入れられたことを理解し、笑顔を浮かべる、と締めている(出典: 同)。接客の練習では作れなかった笑顔が、過去ごと受け入れられたところで自然に出た。
一歩目に数えられたもの
副題の「一歩から」は、ゼロからの出発を言っているようで、実際の回はその逆を描いている。ゴウエモンは「過去はなかったことにはできねえぞ」と言い、あんなたちは「一歩一歩、歩いてきた証でしょ」と言う。敵と味方が、別々の立場から同じことを言っている。名探偵の道の一歩目は、怪盗として歩いた道の続きに置かれた。
扉の謎も同じ形をしていた。「偽物」と言われた扉が正解で、決め手は言葉の中身ではなく数だった。アルカナ・シャドウという名前が名探偵にふさわしいかどうかではなく、そこで何歩歩いてきたか。「これから」「みんなと一緒にどんな道を歩いていけるのか」「楽しみね」という言葉で、回は前を向いて終わる。




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