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『ホテル・インヒューマンズ 第2期』第15話は、ピアノ同好会で連弾を重ねてきた天才ピアニストの奏史と、彼の父を狙う殺し屋・昴の物語に決着がつく回。4分半の連弾に重ねられる暗殺の準備、リサイタル当日に受け取れなかった花束、そして殺さずに済んで安堵した昴の本音まで、台詞よりも音で多くを語ってみせた、忘れがたい第15話を丁寧に振り返っていく。




第15話は連弾と暗殺の準備が重なる回
『ホテル・インヒューマンズ 第2期』第15話は、天才ピアニストの奏史と、彼にピアノを習う転校生・昴の物語に決着がつく回だった。昴の正体は、奏史の父・洋史の命を狙う殺し屋。殺し屋専用のホテルに滞在しながら、生朗と沙羅の手を借りて暗殺の準備を進める一方で、昴は奏史との連弾にのめり込んでいく。洋史に近づくための道具でしかなかったピアノが、昴にとってかけがえのないものへと変わっていく。その過程を、言葉より音で語ってみせた一話である。
4分半の連弾
前話の振り返りのあと、物語はほとんど台詞のないまま進んでいく。流れ続けるのは、二人の連弾の音だけ。その映像の中で、学校で鍵盤に向かう二人の距離が少しずつ縮まっていく様子と、ホテルで銃を手に暗殺の段取りを確かめる昴の姿が、交互に重ねられていく。舞台袖からの見学が許され、狙撃ポイントも決まった。友情が深まるほど、殺しの準備も整っていく。この残酷な並行描写が、4分半にわたって続くのだ。
冒頭の口げんかから、すでに二人の関係はいつもの調子だった。口と性格が悪いと言う昴に、奏史はイキリ転校生と言い返し、だから友達がいないんだよとやり返される。けれど、その軽口の応酬が、音楽が重なるにつれて少しずつ変わっていく。台詞で説明せず、音楽と映像だけで関係の変化を見せる演出は、ピアノを題材にした回ならではの贅沢な見せ方だった。夜食を運んでくるコンシェルジュの気づかいも含めて、ホテルでの昴の日常が、かえって不穏さを際立たせていた。
正直な音
連弾がついに成功し、「マジで俺にできるなんて」と喜ぶ昴。そこで昴は、今さらながら奏史に、自分の練習は足りているのかと尋ねる。ほんと今さらだなと返した奏史は、むしろ楽しかったと笑う。つかめないやつだけど、ピアノはすごく正直な音だよな、と。ここを弾いていて楽しいんだなというのが、全部伝わってくる。「俺好きだよ」という奏史の言葉は、昴のピアノへの、そして昴という人間への、まっすぐな好意だった。
そして奏史は決意する。明日は、父を振り向かせるためのピアノではなく、今の自分のピアノを奏でてみると。できるか分からないけれど、と言う奏史に、昴は「できるよ」と言い切る。殺し屋が、殺す相手の息子の背中を押す。この矛盾を、昴自身はまだ自覚していないように見えた。けれど視聴者には、昴の言葉に嘘がないことがはっきりと伝わってくる。
第14話で奏史は、父は発表会の日だけ休みを取って見に来てくれた、自分はずっと父を振り向かせるために弾いてきたのだと打ち明けていた。そんな奏史が、父のためではなく自分のために弾こうと思えたのは、昴と一緒に音を重ねた時間があったからだろう。昴が奏史に教わっていたはずの連弾は、いつの間にか奏史のほうをも変えていた。教える側と教わる側が、互いに相手を変えていく。その関係の美しさが、この場面にはぎゅっと詰まっていた。
リサイタル当日、舞台袖の特等席
シミュレーションどおり
前夜、コンシェルジュから最終確認の説明を受ける昴。銃のメンテナンスは完了し、狙撃後の逃走ルートにも変更はない。車の手配も含め、すべて昴の事前のシミュレーションどおりだという。ところが昴は、その説明を聞いていなかった。ごめん、聞いてなかったと我に返る昴の様子に、心がすでに別の場所にあることがにじむ。それでも「明日だ」と気持ちを切り替えるあたりに、殺し屋としてのプロ意識が残っていた。
真面目系の殺し屋を自称し、努力は結構得意だと語っていた昴にとって、準備は完璧なはずだった。ピアノの練習も、狙撃の段取りも、同じだけの熱量で積み上げてきた。けれど、その二つが同じ一点に向かっていくことの意味に、昴の心だけが追いついていない。説明を聞き逃したほんの一瞬の空白に、その揺らぎがはっきりと映し出されていた。
リサイタル当日。舞台袖という特等席から、昴は奏史の演奏を見守る。スポットライトに焼かれる舞台の上で、汗を流しながら鍵盤に向かう奏史。昴は銃を構え、「この角度ならステージに上がるのを待たずに行ける」と狙いを定める。花束を手にステージへ向かう洋史。「悪いな」と心の中でつぶやき、花束は受け取れないと告げる昴。カウントダウンが始まった。
受け取れなかった花束
ところが、引き金が引かれる前に、洋史はその場に崩れ落ちる。昴の銃弾ではなかった。体調が良くなっていたというのは、すべて嘘だったのだ。さっきまで俺のピアノを聴いていたのに、花束を渡すために歩いていたのに、と取り乱す奏史。最後に奏史のピアノを聴くんだって、という言葉を残していた父に、奏史は「なんで本当に死ぬんだよ」と叫ぶ。
皮肉にも、昴が手を下すまでもなく、ターゲットは自らの病でこの世を去った。父を振り向かせるためではなく、今の自分のピアノを弾こうと決めたその日に、父は息子の演奏を聴きながら倒れたのだ。その花束が、奏史の手に渡ることはなかった。殺し屋の物語でありながら、もっとも重い死が誰の手によるものでもないという展開に、言葉を失った。
洋史は、病を押してまで息子のリサイタルに足を運んだ。汚職の疑いをかけられ、息子とすれ違い続けてきた父が、最後に選んだのは花束を手に息子の演奏を聴くことだった。その父の姿を、奏史は最期まで見ていたのだ。奏史が叫んだ言葉には、怒りと悲しみと、ようやく届きかけた思いを奪われた悔しさが入り混じっていた。舞台袖から銃を構えていた昴が、その一部始終を目の前で見ることになったのも、あまりに残酷な巡り合わせである。
消えた依頼と、残った音
影の薄い転校生
各種対応に5日ほどかかったが、転校届が受理され、学校からは昴の痕跡がすべて消される。大方の職員と生徒にしてみれば、影の薄い転校生が一人消えるだけ。昴はターゲットの不慮の死で依頼が自然消滅し、一か月の準備がパーだとぼやいてみせる。けれど、その軽い口調の裏で、昴の心が少しも軽くなっていないことは明らかだった。
葬儀を終え、奏史は今日から登校するらしい。唯一のピアノ同好会員がいなくなってしまう、と昴はつぶやく。そして語られるのは、奏史の思いだった。この間の演奏はよかった、弾いていて楽しかったのは初めてかもしれない。今までは父に褒めてほしいだけで弾いていたのに。それは、夏休み明けに急に転校してきて、弾いたこともないのにピアノを教えろと言ってきた「変な奴」のおかげなのだと。父にも聞かせたかった、昴との連弾を。
ほっとした理由
昴が打ち明けたのは、自分でも戸惑うほどの本音だった。奏史の父が倒れたとき、殺さなくて済んだと、ほっとした。目の前で奏史が泣いているのを見ながら、ほっとしていた。今までこんなことはなかったのに。殺し屋として生きてきた昴が、初めて殺さずに済んだことに安堵した瞬間である。
そんな昴に、コンシェルジュは告げる。諦めましょう、と。「人には時にそういう出会いがあるんです」。本当はもう昴も気づいているのではないか、それがすべてだ、と。殺し屋専用のホテルで働く者の言葉だからこそ、その一言には重みがある。人を殺す道具として近づいた相手が、いつの間にか自分を変えてしまう出会いになっていた。昴はそれを、もう否定できない。
殺し屋として生きることと、誰かと心を通わせること。その二つは、これまでの昴の中では決して交わらないものだったはずだ。友達のパパを殺す、それが俺のお仕事、と言い切っていた第14話の昴を思い出すと、この変化の大きさがよく分かる。ホテルのコンシェルジュたちは、そんな昴の変化に誰よりも早く気づいていたのだろう。
届かないから弾く
一方の奏史は、明日学校に行ったら、放課後またあいつと弾くんだと心に決め、父のところまで届くかなとピアノに向かう。昴がもういないことを、奏史はまだ知らない。そしてホテルでは、昴がひとりピアノを弾いていた。もう今までのようには戻れないかもしれない、この音は奏史には届かない、というコンシェルジュたちの会話。それでも、届かないから弾いているのだ、きっと。
奏史は父に届くようにと弾き、昴は奏史に届かないと知りながら弾く。同じピアノでつながった二人が、それぞれに届かない相手を思って鍵盤に向かう。この対比があまりにも美しく、そして切ない。昴が姿を消したことで、二人の連弾は二度と鳴らない。けれど、ひとりで弾く昴の音には、奏史と重ねた時間がしっかりと刻まれているはずだ。届かないと分かっていても弾かずにいられない。その気持ちこそが、昴が殺し屋である前にひとりの少年であることの証なのだろう。第1期から続く殺し屋たちの人間模様の中でも、ひときわ心に残るエピソードになった。
毎年届く花束
ラストは、時が流れたあとの場面。演奏を終えた奏史のもとに、今年も花束が届く。送り主は分からない。分かっているのは、それがあの日、自分が受け取れなかったのと同じ花束だということだけ。あれから毎年、花束が届くようになった。その送り主が誰なのかを、作品ははっきりとは語らない。けれど、語らないからこそ、その答えは視聴者の胸の中にしっかりと届く。あの日受け取れなかった花束を、昴は今もどこかから届け続けているのかもしれない。そう思うだけで胸が熱くなる。
第15話は、復讐や任務の道具だったはずのピアノが、殺し屋の心を変えてしまう物語だった。殺さずに済んで安堵した昴と、父を失いながらも自分のピアノを見つけた奏史。二人が再び連弾する日はおそらく来ないけれど、毎年届く花束が、あの4分半の連弾が確かにあったことを証明し続けている。言葉を尽くさずに心を描き切った、忘れがたい一話だった。殺し屋たちが集うホテルを舞台にしながら、これほど人の温かさを感じさせる物語を描いてみせたことに、第2期の確かな手応えを感じた。




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