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『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる 第3期』第27話の副題は「ザットとブラッハム」。7万に及ぶサイツ軍の第2波に押され、一時退却を余儀なくされたリーツ軍。その殿を自ら引き受けたのは、ブラッハム率いる精鋭部隊だった。「必ず生きて帰ってこい」という命令、家族の槍に込めた思い、そしてザットの選択まで、胸が熱くなる第27話を丁寧に振り返っていく。




第27話の副題は「ザットとブラッハム」
『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる 第3期』第27話の副題は「ザットとブラッハム」。大規模魔法作戦でサイツ軍を退けたカナレ軍だったが、敵はすぐさま第2波の攻撃を仕掛けてくる。一時退却を余儀なくされたリーツ軍の殿を引き受けたのは、ブラッハム率いる精鋭部隊。副題のとおり、熱血漢のブラッハムと、冷めた目をした副隊長ザット、二人の過去と選択に焦点を当てた、熱く胸を打つ一話だった。
勝利の余韻と肉体労働
冒頭は、前話の勝利のあとの穏やかな場面から。ムーシャの魔法はどんどん上手くなっていると褒められ、もっとお役に立てるように頑張りますと答えるムーシャがかわいらしい。一方で「勝ったそばから肉体労働かよ」とぼやきながら資材を運ぶ面々の姿もあり、師匠の人使いが荒いという愚痴まで含めて、戦の合間のひとときが和やかに描かれる。
4万に及ぶサイツ軍は、リーツの作戦によって敗走した。「ローベントの死神」、そして二人の魔法兵の名はミーシアン州を越えて、サイツ軍にまで知れ渡ることになる。前話の大勝利がどれほど大きな意味を持っていたのかが、このナレーションからよく分かる。ただ、このまま終わってくれればいいのだが、という不安げな声が、すぐに現実になってしまう。
7万の第2波と、殿を引き受けた男
鹿を放つボロッツ
サイツ側では、敗走した将が総督の右腕ボロッツに謝罪していた。ところがボロッツは、これで敵の力が分かったと動じない。リーツという将に、ますます興味をひかれると言うあたりに、この男の底知れなさが表れている。そして彼が打った次の手が見事だった。鹿を集めて放ち、羊犬と騎兵で川に向かって追い立てる。周囲が戸惑う中、鹿が渡っていった場所こそが、軍勢を渡せる新たな地点だったのだ。
自然の動物を使って渡河できる場所を探るという発想は、いかにも戦上手らしい。堅実な指揮が取れると見込んで将に選んだラントルクに後を任せる采配も含め、サイツ軍の本気度がうかがえた。前話で大勝利を収めたカナレ軍にとって、これほど早く、しかも倍の兵力で攻め込まれるのは想定外だったはずだ。勝って兜の緒を締めよ、という言葉がそのまま当てはまる展開である。カナレ側は前回の勝利で敵の出鼻をくじいたつもりでいたが、敵は想像以上の速さで次の手を打ってきたのである。
「必ず生きて帰ってこい」
敵の数は7万を下らない。「前回のほぼ倍じゃないか」と動揺が広がる中、頼みのシャーロットも、急いで来たため大型の触媒機を持ってきておらず、前回のような魔法に頼った作戦は使えない。むっちゃピンチじゃないっすかという声が、そのまま状況を物語っていた。2万の兵力で7万の大軍を迎え撃ったリーツ軍は、士気の高いサイツ軍の波に押され、瓦解は時間の問題となる。
退却を決めたリーツは、自ら殿を務めて追撃を防ぐつもりだった。被害を最小限に抑えるのが将軍の使命だと語るリーツに、ブラッハムが「それ俺がやります」と名乗り出る。経験の少ないお前には無理だと止められても、ブラッハムは引かない。自分たちの部隊はカナレで一番強いという自信があり、難しい任務ならなおさら、師匠の次に腕が立つ自分たちがやるべきだと訴える。「師匠に鍛えてもらった力 今が発揮する瞬間っすよ」。
ついに折れたリーツは、お前に2万の兵の命を託すと告げ、ひとつだけ命令を与える。「必ず生きて帰ってこい」。ブラッハムは「それなら簡単だ」と笑って応じる。弟子を信じて送り出す師匠と、その期待に応えようとする弟子。この短いやり取りに、二人の信頼関係が凝縮されていた。ブラッハムが言いかけてやめた「それに」の続きが何だったのかも気になるところだ。師匠に認められたいという思いなのか、それとも別の理由なのか。その答えの一端は、このあと明かされる彼の過去の中にあったように思う。
武者震いの精鋭部隊
戦場でのブラッハムは、まさに熱血漢そのものだった。おびえる若い兵に向かって「その震えは武者ぶるいだ」と言い切り、自分たちはカナレで一番の命知らずだと部隊を鼓舞する。明日には自分たちの名がミーシアン中に知れ渡っているはずだと豪語する姿は、無鉄砲だが不思議と人をその気にさせる力があった。そんなブラッハムを見て、ザットはアルスがあいつに期待する理由がようやく分かってきたとつぶやく。
十分に時間を稼ぎ、本隊も撤退できたと判断した部隊は、全力で引き上げにかかる。ところがその途中、ブラッハムが敵に囲まれて取り残されてしまう。お前らは先に行けと叫ぶブラッハムを前に、部下たちは隊長を助けないとと声を上げるが、敵は多すぎる。ここでザットの胸に、冷たい考えがよぎる。ここであいつを見捨てれば、次の隊長は自分だ。あんなガキの下で働くのはごめんだった、と。
ブラッハムの過去と、家族の槍
9年前の約束
ザットに部隊を託し、師匠に「命令守れなくてすまん」と伝えてくれと頼むブラッハム。やっぱり俺はバカだ、とつぶやいたところで、物語は9年前へとさかのぼる。当時8歳のブラッハムは、代々騎兵を生業とする戦士の一家に生まれ、兄と父の活躍を誇りに思っていた。早く二人と一緒に戦場に出たいと目を輝かせる少年に、兄たちは家に伝わる槍を見せ、これを振れるようでなければ一人前とは呼べないと笑う。
ある戦で、ブラッハムは兄からその槍を預かる。大事なものだから持っていかないと、と言う弟に、兄はこいつを使ってやる相手でもないと言い残して戦場へ向かった。しかし、兄と父は帰ってこなかった。戦争が終わってしばらく経っても、二人の生死は分からないまま。帰りを待ち続けるブラッハムに、周囲の大人は戦で死んだに決まっていると言い放つ。
最強になる男
生きていて戻らないなら、お前を捨てたということになる。ひどい家族だな。そんな心ない言葉に、幼いブラッハムは怒りをぶつけ、「誰が何と言おうと 俺は信じる」と叫ぶ。そして思いついたのが、この槍を使って名を上げることだった。サマフォース中にとどろくくらいでかい男になれば、兄と父に気づいてもらえる。強くなって有名になれば、きっといつか二人が帰ってくる。
ブラッハムがいつも大声で名乗りを上げ、最強になる男だと言い続けてきたのは、単なる自己顕示欲ではなかった。どこかで生きているはずの家族に、自分はここにいると届けるための叫びだったのだ。脳筋に見えた男の行動原理が、一気に切ない意味を帯びる。この回想の入れ方が本当にうまかった。
現在に戻ると、包囲されたブラッハムの前に現れたのはザットだった。何を諦めてやがる、今すぐ立てと一喝し、最強になる男じゃないのか、お前の人生をこんな簡単に終わらせたらダメだろうと叱咤する。息を吹き返したブラッハムは、この槍に誓ったのだと立ち上がり、成すべきことを成すまでは死なないと再び名乗りを上げた。さらに部下たちまで引き返してきて、「自分だけ伝説になろうなんてずるいっすよ」と隊長を馬に乗せる。お前ら俺と同じくらいバカ野郎だな、という言葉には、照れくささと嬉しさがにじんでいた。
追撃を振り切った部隊が帰還すると、陣には歓声が上がる。「あいつらやりやがった」と仲間が沸き立つ中、リーツはブラッハムに「よくやった」と声をかける。命令を守れなかったと詫びるつもりだった男は、結局、師匠の命令どおり生きて帰ってきたのである。
ザットの選択と、反撃の狼煙
守れなかった息子の未来
ブラッハムが助かった一方で、物語はザットの過去にも光を当てる。かつてザットには、病を抱えた幼い息子がいた。帝都の医者に診せるには金が必要で、割のいい仕事のために家を空ける父。元気になったらうんと遊ぼうなと約束して出かけたが、戦って戦って稼ぎ続け、ようやく家に帰ったとき、息子はすでに亡くなっていた。
戦う理由を失っても、金さえあればという後悔が頭を離れず、生き方を変えることはできなかった。選択を間違えたと認めてしまえば、きっと自分を保てない。なぜもっとそばにいてやらなかったのかと。だからこそザットは、損得で人を見捨てる生き方を選び続けてきたのだろう。けれど、そんな生き方のせいで、今度はこの若者まで犠牲になるのか。「子供の未来が潰れるのを見過ごせるか」。ザットが引き返した理由は、ブラッハムへの義理ではなく、息子への悔いだった。
部下たちから、副隊長が先陣を切ってくれたから後に続けたと感謝されても、ザットは「俺は別に」と照れ隠しをする。そして心の中で、今度は選択を間違えなかったかもしれないとつぶやく。過去の傷を抱えた男が、若い隊長を救うことで少しだけ自分を許せたように見えて、胸が熱くなった。見捨てたほうが得だと分かっていながら、それでも引き返してしまう。損得だけで生きてきたはずのザットが、ここで初めて損得の外にある選択をしたのだ。
アルスの反撃宣言
報告を受けたアルスは、2万の兵を守ってくれてありがとうございますとリーツをねぎらう。リーツは敗北したのは事実だと受け止め、戦況は敵側が有利で何か手を打たなければと告げる。アルスは、リーツやシャーロットだけでなく、ムーシャ、ブラッハム、そしてザットと、新たな家臣たちが尽力して耐えてくれたことに思いを巡らせる。「今度は僕が頑張る番だ」。そう決意したアルスは、反撃の開始を宣言した。
第27話は、戦の勝敗以上に、人がなぜ戦うのかという問いを、ブラッハムとザットという対照的な二人を通して描いた回だった。家族に名前を届けるために最強を目指す若者と、家族を失った後悔から損得で生きてきた男。その二人が背中を預け合うことで、カナレ軍は大敗の危機を最小限の被害でしのいだ。鑑定スキルで集めた人材が、ただの能力値ではなく、それぞれの人生を背負った仲間であることを改めて感じさせてくれた。アルスの反撃がどんな形になるのか、続きが楽しみだ。




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