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第7話「亜人の希望」は、戦闘が一度も起きない回である。それでもこの回に置かれているのは、亜人は元の姿に戻れるらしいという希望と、その方法にまだ届いていない人が、娘が育つあいだずっと迷宮に潜り続けているという事実の、二つだった。公式のあらすじが触れていないところで、アリヒトの「必ず人に戻す」は期限のない約束として置き直される。担当スタッフを調べると、この回の位置づけもはっきりする。




結論:「元に戻れる」と「まだ戻れていない」が、同じ回に並んでいる
公式のあらすじは、「亜人であるテレジアを人間に戻したいと、亜人の娘を持つ『解体屋』のライカートンに語る」という一行で、この回の中心をまとめている(※1)。ここは読み違えやすいところで、亜人なのは娘のメリッサではなく、その母のほうである。メリッサは言葉を話すし、パーティーに入って自己紹介もする。本編でライカートンがまず語り出すのも、娘のことではなく妻のことだった。そしてその妻は、まだ人に戻っていない。希望を口にした本人が、その希望の届かなさを同時に説明しているというのが、この回の形である。
副題の出どころは、解体屋の一言だった
「亜人の希望」という副題が、そのまま台詞として出てくる。ライカートンは「迷宮国では、探索者が死亡したり亜人になったりということは日常として起こっています」と前置きしたうえで、「しかし亜人の方は、元の姿に戻る方法があるとも聞きます」「迷宮が探索者に残した希望のようなものだと、私は思っていますよ」と続ける。受けるアリヒトが「俺もそう思います」「彼女を仲間にした時に、必ず元に戻すと決めましたから」。ここまでなら、副題は前向きな言葉として閉じる。
希望を語った本人の妻が、まだ戻れていない
直後にライカートンが足すのが「今は他人事のような言い方をしましたが、私の妻、メリッサの母は亜人なのです」である。つまりこの人は、戻る方法があるらしいと聞いている側であって、戻った人を見た側ではない。希望という言葉を選んだのは、それがまだ叶っていないからだった。副題は、達成の報告ではなくまだ手が届いていないことの言い換えとして置かれている。
戦闘が一度もない回に、シリーズ構成と監督がそろって戻ってきている
担当を並べると、この回の扱いが見えてくる。監督を除いて数えたとき、この回で目を引くのは脚本の赤尾でこである。シリーズ構成を務めている人で、第1話から第3話までを書いた書き手でもある(※2・※3)。第4話から第6話は脚本が三話とも別の書き手に渡っていたので、シリーズ構成が脚本に戻ってくるのは、三話ぶん空けたこの第7話が最初になる。同じ回で絵コンテを引いているのが監督の柳瀬雄之で、作画監督にも名前がある。脚本が赤尾でこ、絵コンテが柳瀬雄之という組み合わせは、第1話と第7話しかない(※2)。戦いが一つも起きず、街の中だけで終わる回に、第1話と同じ布陣が組み直されているわけである。
第7話で確定したこと(要点だけ)
場面が細かく切り替わる回なので、先に事実だけ並べておく。
- 冒頭はギルドの報告。受付のルイーザが「アトベ様の功績があまりにすごかったので、少々の間意識が遠くなってしまって」と言い、評価されたのは未踏領域の発見と侵入だと説明される。「一度もギルドに到達者が帰還していないことを意味しています」「ですが皆様、無事戻られています」。これで八番区序列一位。
- アリヒトの反応は喜びではなく「揉め事はなるべく避けたいし、他の探索者にはあまり知られたくないが」。
- 街で、ファルマの子どもたちと護衛犬のシオンが「このクソ犬がわざとぶつかってきやがって、大事な革靴が汚れちまった」「金貨十枚だ」と絡まれる。ファルマの子どもはプラムとエイク(※3)。
- シオンは正式に同行へ。ファルマの言い分が「この子には探索を経験させてあげたいと思っていたのです」「シオンもアトベ様を慕っているようですので」。
- 解体屋のライカートンから、妻が亜人であることと、「アリヒトさん、青春というものについてどう思います?」という相談が出る。娘のメリッサがパーティーに正式加入。自己紹介は「私はメリッサ。解体と分解ができる。よろしく」。
- 素材から出た迷彩石を装備に取り付けるとアクティブステルスが使える。ただし「魔力の消費が激しい。乱発はできないから要注意」。
- 宿で、元の序列一位パーティー北極星のリーダーゲオルグと顔を合わせる。ここでエリーティアのフルネームがエリーティア・セントレイルだと分かる。
- 夕食は湿地のカニ。翌日の相談でミサキが「戦闘には参加しないで、別働隊って感じで」と提案し、スズナは霊媒を選ぶ。理由は「霊媒は前世では望んでも絶対にできなかったことなので」。
- 引きは街に魔物の大群。
「亜人は元に戻れる」という話は、戻った人ではなく待っている人の話
ライカートンの説明は、二段で効いてくる。一段目が希望の話で、二段目がその希望が、まだ誰にも叶っていないという話である。順番が逆でないところに、この回の作りが出ている。
妻は亜人になった後に、メリッサを産んでいる
事実関係は短い台詞で片づけられる。「妻は迷宮で命を落とし、亜人となって捜索隊に発見されました」、そして「その時すでに、彼女のお腹にはメリッサがいたのです」。つまり亜人になった後に出産している。言葉を失っても生活は続くという事実が、説明ではなく家族構成の形で置かれている。テレジアが亜人になってからも探索者として働けているのと、地続きの設定である。
母がいないのは、自分を人に戻すために潜っているから
続きがこの回でいちばん重い。「メリッサを産んだ後、妻は知人のパーティーに同行し探索を続けています」、理由が「亜人化を解く方法にたどり着くには、序列を上げることが必要になりますから」。母は、自分を人に戻すために、娘と離れて今も迷宮に潜り続けている。メリッサが子どもらしいことに興味を示さず、唯一関心を持ったのが魔物の解体だったという父の話も、ここに繋がる。店で父と二人、素材を相手に育ったからである。
父が頼むより先に、アリヒトは本人の希望を確かめている
父の相談は「滅多に訪れない希少素材を楽しみに、今しかない若い時間、日々を浪費し続けていいのでしょうか」「メリッサにはもっと外の世界を見てきてほしい」と続き、最後に「父のおせっかいと言われるかもしれませんがね」で引かれる。アリヒトの応じ方が丁寧で、頼まれた直後に「ところで、メリッサ本人は? 俺たちと一緒に探索に出たいという希望は」と本人の意思を確かめてから誘っている。親の同意より先に、本人の希望を聞くという手順が、母が本人の意思で潜り続けているという話の直後に置かれている。
戦闘が一度も起きないのに、後衛という職業の設定が三回使われる
戦いが無い回は、設定の説明も止まるのが普通である。ところがこの回は後衛の性質を三度も持ち出して、そのたびに別の使い方をしている。戦闘を描かずに職業の輪郭を描く、という組み方になっている。
かつあげを、パーティー編成で解決する
子どもたちが「シオンはぶつかってないよ」「お兄ちゃんに、あの人がぶつかろうとしたから守っただけで」と訴える場面で、アリヒトが最初にやるのが交渉でも威嚇でもない。「少しシオンの力を俺に貸してくれるか」と子どもに断って、「よし、シオンがこっちのパーティーに加わった」である。後衛の支援は同じパーティーでないと届かないという第3話の設定があるので、助けるためにはまず編成をいじる必要がある。その手続きを踏んでから支援防御と支援攻撃をかける。締めが「守ったのはシオンです。俺はシオンの勇気に引っ張られただけで」で、手柄まで犬に渡している。
ミサキの別働隊は、支援が届く距離の確認になっている
翌日の相談では、レベルが低く体力が足りないミサキが留守番になりかけて、「メリッサちゃんと後ろの方からついて行きますね。戦闘には参加しないで、別働隊って感じで」と自分から言い出す。これにアリヒトが「俺の支援は仲間の後ろに立てば通じる」と返すので、隊列から離れた位置でも支援が成立するという条件がここで確定する。かつあげの場面が「同じパーティーであること」の話だったのに対して、こちらは「離れていてもいいこと」の話で、二つで一組になっている。
迷彩石を誰に付けるかで、前回の被弾が回収される
迷彩石はアクティブステルスが使える代わりに魔力の消費が激しい。アリヒトが「じゃあ前衛の誰かに」と言いかけたところへ、五十嵐の「何言ってるの、つけるのはアトベ君でしょ」「またあんな風に怪我してほしくないし」が入る。前回アリヒトが倒れた一件が、装備の割り振りという形で持ち越されている。アリヒト自身の読み替えも後衛らしく、「逆に言えば、魔力の消耗を抑えられれば透明人間になれる」「敵に気づかれない間に攻撃も可能になるな」と、欠点のほうを条件として扱っている。
テレジアは話せないのではなく、伝えることを封じられている
亜人化についての説明が、この回で一段細かくなる。ここまでは「言葉を発することができない」で通してきたが、第7話はその内側がどうなっているかまで踏み込む。
筆談もできない、という一段深い説明
夕食の席で「テレジアと筆談はできないの?」と聞かれ、アリヒトが返すのが「文章を書いたりとかできないみたいだ」、そして「見たり聞いたりして理解はしていても、自分から言葉として意思を伝えることが封じられてるんだろうな」である。声が出ないのではなく、伝える経路そのものが閉じている。スズナが「私の技能でも彼女の声を聞き取ることはできませんから」と足すので、霊的な手段でも抜け道が無いことまで潰されている。
それでもテレジアは、行動のほうで返し続けている
言葉が封じられている側が黙っているかというと、そうではない。前回のテレジアは、戦闘中は与えたダメージぶんの回復という形で、戦闘後はねぎらいという形で、二度とも言葉なしでアリヒトを支えていた。第7話でも、夕食で次々に皿を引き受けて「いい食べっぷりだな」と言われ、風呂の順番の相談では誰と入りたいかで場を止めてしまう。伝えられないことと、伝わっていないことは別だという描き方が続いている。
だから締めが「必ず戻す」ではなく「その時に教えてほしい」になる
夜、テレジアが湯当たりで眠れずにいる。アリヒトの見立てが「温度の変化はリザードマンには致命的だ」で、変温動物という第4話の設定がそのまま看病の根拠になる。回復させながら出るのが「こっちに来てからテレジアには助けてもらってばかりだったのに、お礼の一つも言えてなかった気がする」「俺のパーティーに入ってくれてありがとうな、テレジア」、そして「でも、もし俺に言いたいことがあるなら、覚えていてくれ。いつか必ず人間に戻すから。だから、その時に教えてほしい。テレジアの声で、言葉で」。今は聞けないと認めたうえで、聞くのを先に予約している。ライカートンの妻の話を挟んだ後だから、この言い方になる。
ゲオルグが示したのは強さの差ではなく、習慣を知らないという新人性
序列一位になった直後に前の一位が訪ねてくる、と書くと対決の前振りに見える。実際に起きるのは逆で、この人はアリヒトたちがどれだけ新人かを、ぶつかり合いなしで測って帰る。
抜かれた側から、名乗るより先に事情を明かしてくる
宿の手続き中に声をかけてきて、いきなり「俺たちは八番区でトップのパーティーだったんだが、ついさっき二番手になった」「それで、どんな新星が現れたのかと思ってね」。アリヒトが「貢献度が思ったより多かったので暫定一位になったようですが、でも運が良かったのが大きいですよ」と答えると、「序列を駆け上がる人間にしては謙虚なんだな」が返る。抜かれた側なのに嫌みが一つも出ない。
パーティーに名前をつける習慣を、知らなかった
名乗りが「俺はゲオルグ。北極星のリーダーだ」で、公式サイトはこの名にポーラスターという読みを振っている(※1)。聞き返されたゲオルグが「パーティーの名前だよ。あんたのパーティーに名前はないのか?」と足し、アリヒトが返すのが「名前をつける習慣があると知らなかったから、後でパーティーのみんなに相談してみるよ」。新人であることを、レベルでも装備でもなく「習慣を知らない」で示している。序列の数字では一位なのに、この国の探索者として当たり前のことをまだ知らない、というずれが一往復で出る。
「アトベさん」を「アリヒト」に直させて別れる
続きも人物が出る。「お前がリーダーだろ? 勝手に決めちまえばいいじゃないか」に対して、「一応リーダーってだけで、うちのパーティーが成り立っているのは他のメンバーのおかげなんだ」。ゲオルグの評価が「なるほどな。お前、面白い男だな」で、別れ際が「次は飲みにでも行こうぜ、アトベさん」「いや、アリヒト」。姓を名で呼び直させて終わるので、次にこの人が出てくる時には、もう他人ではない位置から始まる。
まとめ:全12話の7本目に置かれた「希望」と、次回の予想
公式が告知している映像ソフトの収録内容は「本編1〜12話」なので、この作品は全12話で、第7話は折り返しの直後にあたる(※3)。残りは五話しかない。そこへ娘が育ちきるまで潜り続けて、まだ人に戻れていない先例を置いたのが、この回だった。
「必ず戻す」が、期限のない約束として置き直された
第3話でアリヒトが全員に宣言した「テレジアを人に戻す」は、これまで到達すべき目標として置かれてきた。第7話でライカートンが語ったのは、同じ目標を先に持った人が、娘がパーティーに入れる年齢になるまで、まだ届いていないという話である。だから締めの台詞が「必ず戻す」で終わらず、「その時に教えてほしい」という、叶った後の話に変わる。希望という言葉を、達成の予告ではなく待ち続ける覚悟のほうへ寄せた回だと読める。戦闘が一つも無いのに、シリーズ構成と監督が組み直された理由もここにあると考えるのが自然だろう(※2)。
次回の予想
引きは街に魔物の大群である。この回で仕込まれたものを数えると、シオンの同行によるカバーリング、迷彩石のアクティブステルス、メリッサの解体と分解、ミサキの別働隊、スズナの霊媒と、戦い方の選択肢が五つ増えている。街が舞台なら守る対象は住人になるので、かつあげの場面でやったのと同じ編成でどうにかする手が、もっと大きな規模で出てくるのではないか、と予想する。ライカートンの店では鑑定ができず「鑑定の技能を持っている方は、パーティーメンバーに一人いたら便利ですよ」と課題が置かれたままなのも気になるところである。原作はとーわ、キャラクター原案は風花風花(※3)。もっとも、ここから先はあくまで予想である。
出典
※1 テレビアニメ公式サイト STORY 第7話「亜人の希望」(あらすじ/『北極星』の読み)/strongestrearguard-anime.com
※2 ウィキペディア「世界最強の後衛」各話リスト(第1話〜第7話の脚本・絵コンテ)/ja.wikipedia.org
※3 テレビアニメ公式サイト (スタッフ・キャスト、キャラクター紹介、映像ソフトの収録話数)/strongestrearguard-anime.com




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