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第19話「ルビー争奪レース」は、宝石ゼロのスピカが五十ポイントのルビーを取る回である。ただしこの回でいちばん効いているのは、クロードが最後に何を褒めたかのほうだ。第17話で魔道具がスピカに出した評価は「発想力が高く他は平均的」「技術が低くヴァルゴマジックをまだまだ使いこなせていない」だった。ところが第19話のクロードが挙げたのは「親鳥が見間違うほど精巧な木の人形を作る操作性」「森一帯を使った広範囲魔法」で、褒められたのは発想力ではなく、使いこなせていないと言われたほうである。




結論:褒められたのは発想力ではなく、使いこなせていないと言われたほうである
この回の締めは、ルビーを取ったスピカに対するクロードの評価である。挙げられたのは二つで、「親鳥が見間違うほど精巧な木の人形を作る操作性」と「森一帯を使った広範囲魔法」。そのうえで「努力を積み重ね、危機的状況を何度も乗り越え、今、才能が開花し始めている」と続く。ここで思い出したいのが、二話前にスピカが受けた採点のほうだ。
第17話で低いと名指しされた項目が、そのまま褒め言葉になっている
第17話でスピカが魔道具から受けた評価は「発想力が高く他は平均的」「技術が低くヴァルゴマジックをまだまだ使いこなせていない」「知識を増やして発想力をさらに伸ばすといい」だった。高いのは発想力だけで、低いのは魔法の使いこなし、という診断である。ところが第19話でクロードが名指しで褒めたのは操作性と広範囲魔法、つまり「使いこなし」のほうだった。低いと言われた項目が、二話後に評価の対象へ回っている。「才能が開花し始めている」という言い方の中身は、たぶんここにある。
発想は前から高かったので、そこは開花のしようがない
もちろん発想も要っている。偽物の巣と偽物の雛を用意して親鳥をそちらへ誘導するという手は、思いつきの部分がなければ成立しない。ただし発想力は最初から高いと診断されていた項目なので、そこが働いたことは驚きにならない。驚きになるのは、親鳥が本物と見間違えるところまで人形を作り込めたことのほうだ。精度が要る仕事で、しかも相手の目をごまかせるかどうかが結果を決める。二話前なら、この手は思いついても実行できなかったはずである。
そもそも新しい魔法は、一つも出てきていない
念のため確かめておくと、この回のスピカは新技を覚えていない。使うのは植物を操る乙女座魔法(ヴァルゴマジック)だけで(※2)、第15話で覚えたのは、本に採取した花を挟んでおくと、その場にない植物も使えるようになる「ハーバリウム」だった。木の人形も、森一帯を使った広範囲魔法も、すべてこの一つの特性の内側にある。できる範囲がどこまで広がったか、という一点だけで勝負がついているので、「才能が開花し始めている」という言い方がそのまま当てはまる。
第19話で確定したこと(要点だけ)
人と場所が入れ替わり続ける回なので、先に事実だけ並べておく。
- 第18話の引きのテロップ(午後五時/スピカ宝石ゼロ/残り十四時間)から一秒も進めずに続いている。
- 午後五時の順位=三位カペラ二十五ポイント/二位レオ三十ポイント/一位アリア四十ポイント/スピカは宝石ゼロ。クロードのアリア評は「すでにグランマジックの域に達している」。
- クロードが全体連絡を流した理由が「少し焚きつける必要があるな」。スピカの第一声は「やばっ! ドベ争いしてる!」。
- ルビーは五十ポイント。「ルビーって五十ポイントのやつ、それ取れば一気に一位じゃん」=ゼロの人間が一つで抜ける計算になっている。
- ルビーはもともとレオ・カペラ・ユゥの三人が見つけたもので、鎧ハゲワシに横取りされた。「突然襲いかかってきやがった」。
- 四人の取り決め=「では、先にあの鳥からルビーを奪ったものが所有者、というのはどうかしら」「上等だ」「誰が取っても恨みっこなしな」。
- ユゥが変わった理由=「あの日、合宿で私は知った。全力を出して勝った時、何者にも代え難い高揚感を得られると」。
- 青い炎の前提=「ヒートウェーブの魔法は全く効いていなかった」「あの硬質化した羽を何とかしないと攻撃は通らない」→授業の回想「これが、ブルーフレイム!」→「寝ないで授業を聞いた」「面倒だったけど、何度も、何度も練習した!」。
- スピカの入り方=「まともに走っても追いつけない」「私にできることを」。仕掛けは偽物の巣と偽物の雛で、狙いは「全ては森へ引き込むため」。
- 撃ち切ったユゥに残ったのは「もう青い炎を出す力もないし」「お腹すいた…」。力を使い切った側が負け、余力を残した側が取っている。
原作は金田陽介の漫画で、二〇二二年三月から連載が続き、既刊十五巻(二〇二六年七月現在)(※2)。公式サイトは各話を「19限目」と数え、原作の一話目も「【1限目】黒猫とスピカ」である(※1・※2)。話数の単位が最初から授業の時限になっている作品だ。
奪い合ってよい試験なのに、四人はわざわざ競走にしている
この試験は、そもそも奪い合いが認められている。公式サイトの第17話「ファイナル・トライアル」のあらすじは「島に隠された宝石を集め、奪い合うトレジャーハント」「生徒同士のサバイバルバトルが幕を開ける!」と説明している(※1)。横から掠め取っても、ルール上は何の問題もない。
ルール上は不要な約束を、四人が自分たちで足している
それなのに四人は条件を決め直す。「では、先にあの鳥からルビーを奪ったものが所有者、というのはどうかしら」に、「上等だ」「誰が取っても恨みっこなしな」と返る。奪い合ってよい場で、あえて「先に取ったもの勝ち」に絞っているわけだ。サブタイトルが「争奪戦」ではなく「レース」になっているのは、この一言があるからだと思う。競走にすると決めた瞬間に、横取りという一番安上がりな手が四人とも使えなくなる。
数に入れられていなかった一人が、その約束に守られる
面白いのは、この取り決めでいちばん得をするのがスピカだという点だ。三人が牽制し合っている横で「あら、いたのかスピカ」と気づかれるくらい、スピカは最初この勝負の頭数に入っていない。ところが「誰が取っても恨みっこなし」と全員が言ってしまったので、仮にスピカが持っていっても、三人は取り返しにいけない。強い側が余裕で足した一言が、そのまま最下位の保険になっている。
取り決めがなければ、この回は最後まで成立しない
実際、終盤のスピカはルビーを手に入れた直後がいちばん無防備である。カペラはカプリコーンマジックで空を飛べ、レオはその横から鳥の翼に取り付く(「自分だけカプリコーンで飛ぶのずるいですわ」「浮いてんだから乗ったっていいだろ」)。二人には鳥の上まで登れる実力があり、ユゥは鎧を溶かす一撃を持っていた。三人が「取ったやつから奪えばいい」と考えていたら、森へ引き込んだあとの一手は用意できていない。この回のスピカは、魔法だけでなく四人の約束にも勝ちを預けている。競走にしたのは強い三人の側なのに、その決定で救われたのが一番弱い一人だった。
ユゥの「あの日」は、落ちた側として行った合宿を指している
やる気のなかったユゥが本気になっている理由は、見ている側の会話で先に振られる。「意外だな、あのユゥちゃんがあんなに真剣なんて」→「いろいろと考えてるんだろう。あの日からな」→「あの日?」→「みんなそれぞれ負けられない理由があるんだよ」。そして本人の独白で答えが出る。「あの日、合宿で私は知った。全力を出して勝った時、何者にも代え難い高揚感を得られると」。
その合宿は、中間試験に落ちた者が集められた場だった
公式サイトの第8話「冬期合宿スタート!!」のあらすじはこうである。「中間試験の不合格者であるスピカ、キロン、タルフ、ユゥ、ハナの5名に加え、カヴンのリーダー・カペラは冬期魔法合宿へ参加することに」(※1)。ユゥは落ちた側としてあの合宿に行っている。何者にも代え難い高揚感を知った場所が、成功者として招かれた場ではなく、不合格者として集められた場だった。その順番が分かると、「負けられない理由」という言い方の重さが変わってくる。
「あの日」に衝突した相手が、今回も同じ鳥を追っている
合宿を描いたのは第8話と第9話の二本で、勝ち負けのつく場面は第9話にしかない。その第9話「炎の絆」の公式あらすじが、また効く。「冬期合宿2日目はヘラクレスカヴンとのチーム対抗戦。カペラの戦略で優位に立つクロードカヴンだが、一人やる気のないユゥ。試験中にも関わらず正反対の2人は衝突してしまい…」(※1)。合宿でユゥとぶつかった相手はカペラで、そのカペラが今回、同じ鳥を追っている四人のうちの一人である。やる気のない側とやる気の塊のような側が正面から言い争った回のあとに、両方が本気で並走する回が来ている。
性格は変わっていないことが、一語で示されている
それでもこの回は、ユゥを別人にはしていない。青い炎を撃つ直前の独白が「寝ないで授業を聞いた」「面倒だったけど、何度も、何度も練習した!」である。「面倒だったけど」がそのまま残っているのがうまい。面倒くさがりのまま反復した、という言い方なので、変わったのは性格ではなく、一度きりの成功体験の有無だけだと分かる。やる気のなかった生徒の変化の書き方として、いちばん納得のいく形だった。
青い炎は授業で全員に配られていて、持ち帰ったのが一人だけである
ユゥの切り札の出どころは、師匠でも血筋でもない。回想で挿し込まれるのは授業である。「貴様らが今使える炎の色は赤からオレンジだが、アリーズマジックを極めれば超高温の炎を出せる」、そして「これが、ブルーフレイム!」。
必殺技の披露ではなく、教室の場面が置かれている
ここで回想に選ばれたのが特訓でも師匠との約束でもなく、教室で全員が聞いていたはずの説明だという点が効いている。授業は配られたもので、受け取ったかどうかは各自の問題だ。だから直前の独白が「寝ないで授業を聞いた」になる。わざわざ「寝ないで」と言うのは、普段は寝ていた人の台詞だからで、この一言だけで、同じ教室にいた他の生徒との差がどこで付いたのかが分かる。作品名に「教室」が入っていることを思うと、ずいぶん行儀のいい必殺技の出し方である。
順番が、弱点の提示から回想、そして一撃に固定されている
組み立ても丁寧だ。先に置かれるのはユゥの分析で、「ヒートウェーブの魔法は全く効いていなかった」「あの硬質化した羽を何とかしないと攻撃は通らない」。通らない理由をユゥ自身に言わせてから、回想で答えを出し、最後に「やるなユゥ! あの鎧を溶かしやがった!」で解決する。次に何が来るかは分かってしまうのに、溜めが効くのは、回想の中身が新技の披露ではなく授業風景だからだと思う。
撃ち切った側が負け、余力を残した側が取る
そのうえでこの回は、全力を出す側にきちんと代償を払わせている。青い炎を撃ったあとのユゥに残っているのは「もう青い炎を出す力もないし」「お腹すいた…」だけである。対するスピカは走る前から「まともに走っても追いつけない」「私にできることを」と自己申告し、最後まで直接の撃ち合いに参加していない。全力を出して勝つと決めた側が力を使い切り、追いつけないと認めた側が余力を残していたという並びで、勝敗の理由が台詞なしでも分かるようになっている。
脚本に冨樫夕歩が入る回は、うまくいっていない生徒が前に出る回になる
第19話の担当は、脚本が冨樫夕歩、絵コンテが頂真司、演出が有冨興二である(※2)。この作品のシリーズ構成は後藤みどりで、脚本もほとんどの回を後藤みどりが書いている。冨樫夕歩の名前が脚本に出るのは、第8話・第11話・第16話・第19話の四本だけだ(※2)。
四本を公式あらすじで並べると、始まり方がそろっている
公式サイトの各話あらすじで、その四本の書き出しを見てみる(※1)。第8話「冬期合宿スタート!!」は「中間試験の不合格者であるスピカ、キロン、タルフ、ユゥ、ハナの5名」から。第11話「タルフの覚悟 キロンの決意」は「魔力を消耗したクロードは黒猫の姿に戻ってしまい、スピカたちは絶体絶命のピンチを迎える」。第16話「イオ・トーラス がんばります」は「自分の力を制御できず悩んでいたイオのもとに依頼がくる」。そして第19話は「未だに宝石をゲットできていないスピカのもとへ」。四本とも、劣勢の側から始まっている。
ユゥが「あの日」と呼ぶ回と、今回は同じ二人が作っている
重なりはもう一段ある。第8話は脚本が冨樫夕歩、絵コンテが頂真司で、第19話とまったく同じ組み合わせだ(※2)。つまりユゥが「あの日、合宿で私は知った」と言うその合宿の初日を作った二人が、その台詞が出てくる回も作っている。どこまで意図されたものかは分からないが、不合格者を集めるところから書き始めた書き手が、その中の一人が全力を出す回に戻ってきているという並びにはなっている。
まとめ:五十ポイントを取っても、まだ届いていない
ここまで書いてきて、最後にひとつ補足がいる。劇中の見立て、つまり「ルビーって五十ポイントのやつ、それ取れば一気に一位じゃん」は外れている。
公式が出している次回のあらすじが、その計算を否定している
公式サイトに載っている第20話「ダイヤの在処」のあらすじはこうだ。「激戦の末、ルビーを手に入れたスピカだったが、中間発表で1位のアリアと大きな差がーー」(※1)。五十ポイントを取ったのに、一位との差は大きいままである。午後五時の時点でアリアは四十ポイントだったので、この十四時間のあいだにアリアのほうも動いていたことになる。クロードは「だが魔力の消費もかなりのものだろう」「アリアといえど、この先どう転ぶかはわからない」と保留を付けていたが、少なくとも順位のほうは転んでいない。
一位に届くという計算は、生徒たちが自分で立てている
そう考えると、この回の入り口も少し違って見えてくる。クロードは「少し焚きつける必要があるな」と言って順位を全体に流した。流されたのは順位だけで、「ルビー一つで一位」という計算は生徒たちが自分で立てたものである。そして走り出した結果、スピカは五十ポイントを得たがトップには届かず、ユゥは魔力を使い切り、レオとカペラはルビーを取れていない。焚きつけとしては、これ以上ないくらい効いている。
次回の予想
公式のあらすじによれば、次はカヴン全員が最高ポイントのダイヤを探すことになる(※1)。ここで思い出したいのが、この回のスピカが勝ったのは、走らなかったからだという点だ。全員が同じ一個を目指すなら、最短距離を走る役と、待ち構える役に分かれた側が有利になるはずである。スピカはすでに「まともに走っても追いつけない」と自己申告している人なので、今度も先回りして仕掛ける側に回ると予想する。もっとも、これはあくまで予想である。
出典
※1 TVアニメ公式サイト STORY(1限目〜20限目のサブタイトルとあらすじ)/witch-classroom.com
※2 ウィキペディア「黒猫と魔女の教室」(原作情報・スタッフ・各話リストの脚本/絵コンテ/演出)/ja.wikipedia.org




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