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『二十世紀電氣目録』第10話の副題は「求婚騒動」。公式サイトの表記では「第拾話」だ。喜八と稲子は、どちらも夢を諦めていないと確かめ合って仲直りする。一方の健吾と規子のために用意されたのは、電氣ネズミという発明品だった。ところがこの回、電氣は一度も人の仲を取り持てない。そして「清六」という名前が、三人それぞれの口から進めない理由として出てくる。




公式の担当表が、この回を第5話とつないでいる
公式サイトのストーリーページは、各話のあらすじの下に脚本・絵コンテ・演出・作画監督を載せている。第10話の欄を第5話の欄と並べると、同じ顔ぶれが二度目に集まっていることが分かる。
作画監督の二人は、第5話と第10話にしか出てこない
第10話の作画監督は池田和美と門脇未来。この二人が並ぶのは第5話「愛の証明」と第10話「求婚騒動」の二回だけだ。同じ組み合わせが、二度とも恋の決着がつく回に置かれている。第5話は電氣の力で両思いが分かるかを試した回で、今回は電氣の力で仲を取り持とうとする回になっている。
原作小説の挿絵を描いた人が、作画監督に入っている
池田和美は、原作である結城弘の小説『二十世紀電氣目録』(KAエスマ文庫)のイラストを担当した人だ。アニメのキャラクターデザインと総作画監督は岡村公平で、池田和美は各話の作画監督としてだけ名前が出る。原作の絵を作った人が、この回と第5話にだけ降りてきている。
第5話で演出だった人が、今度は絵コンテから持っている
第10話の絵コンテと演出はどちらも北之原孝將。第5話では絵コンテが山村卓也で、北之原孝將は演出だけを担当していた。同じ座組の二度目で、絵コンテまで引き受ける側に回っている。脚本のイシノアツオも第6話「革新の音」に続いて二本目だ。
副題「求婚騒動」は、二つの言葉が別々の場面を指している
副題は「求婚騒動」。公式サイトの表記は漢数字で「第拾話」だ。
「騒動」のほうは、発明品が起こしている
公式あらすじは「すれ違う2人が向き合えるよう、電氣目録の発明で協力する喜八たちだったが、手違いで誤解はさらに深まってしまう」と書く。つまりあらすじの段階で、発明が失敗することは決まっている。騒ぎを起こすのは電氣のほうだ。
「求婚」のほうには、機械が一つも出てこない
一方で、二人が向き合う場面に発明品は関わらない。持ち出されるのは馬と、自分の口から出る言葉だけになる。この回の題は、失敗する側と成功する側を二語に分けて並べている。
第9話の副題と裏返しになっている
前回の副題は「別れの時」で、婚約を解消する側の話だった。今回は同じ二人が、もう一度結び直す側にいる。二話続けて、同じ婚約の解けるところと結び直すところを描いている。
喜八と稲子は、謝る前に「覚えていたこと」を見せる
前半は、目録を手放した喜八と、そのせいで自分を責める稲子のやりとりから始まる。
稲子が怒っているのは、譲られたこと
稲子の言い分は「うちのために目録を手放すなんておかしいです」で、「電氣の時代は喜八さんじゃなきゃ作れないのに」と続く。稲子からは「あんなに懸命に電氣を作ろうとしていたくせに」とも言われる。二人とも、相手が夢を降りたことに怒っている。前回そろって自分の側を捨てにいった続きが、そのまま口喧嘩になっている。
「俺は諦めてなんかいない」を先に置く
喜八の答えは「電氣目録がなくても俺は俺の力で電氣の時代を作る」「俺は諦めてなんかいない」だ。そのうえで図面を広げる。「これは空を飛ぶ機械だ」「電氣の力で動くものは世界中で誰も作ったことがない」「だから俺が作る」「電氣飛行機だ」。謝罪よりも先に、まだ諦めていない証拠のほうを出している。
決め手は、稲子の言葉を覚えていたことだった
続く一言が「こいつに乗ったら見えるのかもな」で、稲子は「うちが言ってたこと覚えてたんですか」と返す。喜八の「俺もごめん」が出るのはそのあとだ。先に謝るのではなく、相手の言ったことを覚えていた事実のほうが先に届いている。
電氣ネズミは、二度とも電氣が足りずに止まる
仲直りの次に持ち上がるのが、健吾と規子をどうするかという話だ。段取りを考えるのは稲子で、作るのは喜八になる。
作戦は、姉の弱点から組み立てられている
稲子の案はこうだ。「実はお姉ちゃんもネズミが苦手で」「ネズミに驚いたお姉ちゃんを偶然そこにいた健吾さんが助けるんです」「そしたら二人の気まずい空気がなくなって、仲直り万事解決です」。ところが「でもネズミを酒蔵に持っていってもいいのかよ」と止められる。酒蔵ではネズミは厳禁で、本物を持ち込むことができない。
だから電氣ネズミが作られる
そこで出てくるのが「任せろ稲子、それなら電氣のネズミを作ってやる」だ。仕上がりは「本物そっくりで完璧ですね」と評され、「よし、作戦開始だ」で送り出される。目録の発明が、初めて人の仲を動かすために使われる。ここまでは順調に見える。
一台目は線を押さえられて止まる
ところが電氣ネズミは途中で動かなくなる。原因は電源から伸びた線で、あとで喜八自身が「さっきみたいに線を押さえられる心配もなしだ」と振り返る。電氣を届ける線が、そのまま作戦を止める紐になっている。
二台目は電氣そのものが足りない
次に出てくるのがレモンネズミだ。「レモンの果汁は電解液になる」「それが本体にある電極と反応して電氣を発生させる」「つまりこいつ単体で動く」と、理屈はきちんと通っている。しかし動き出したネズミを見て稲子が言うのは「レモンから出る電氣が少なすぎて」「これじゃあいつお姉ちゃんのところに着くか」だった。線を切り離した代わりに、今度は届く力が足りなくなる。
作戦が「卑怯」と呼ばれた理由
二台目が這っているところへ、当の規子が現れる。
見えているのは、脅している場面だけだ
規子の口から出るのは「まさか私をネズミで脅してどうかしようと」で、続けて「喜八さんや稲子にこんなことをさせて、あなたはやっぱり卑怯者です」。作戦の中身がそのまま、他人を使って相手を怖がらせる図に見えている。仲直りのためだったという説明は、この場では一言も入らない。
健吾はこの場でも自分では話していない
健吾がこぼすのは「清六には敵わない」で、規子は「私は出かけますからそのうちにお引き取りください」と席を立つ。呼ばれてもいないのに来た人が、来た理由だけを言えないまま帰される。ここで喜八が「なんで兄ちゃんが出てくるんだよ」と口を挟む。
発明が失敗したのではなく、伝言が失敗している
動かないネズミも、途中で止まった線も、要するに「健吾の代わりに何かを言わせる」ための道具だった。この回の発明が届かなかったのは電氣が弱かったからで、届けようとしていた中身は最初から本人の口にしかない。公式あらすじの「手違い」は、そういう形をしている。
「清六」の名前が、進めない理由として三人の口から出る
この回でいちばん多く呼ばれる名前は、すでに死んでいる人の名前だ。
健吾にとっては、自分を下げるための名前
健吾は「清六には敵わない」と言い、あとの場面でも「清六ならあなたにふさわしい」「清六こそあなたを幸せにできる」「ずっとそう思っていました」と重ねる。婚約についても「素直になれなかった」「親から婚約を告げられたときは嬉しかった」「でも俺みたいなものは規子さんにはふさわしくない」と語る。嬉しかったと言ったすぐあとに、自分にはふさわしくないと打ち消している。
規子にとっては、相手を責めるための名前
一方の規子は、稲子に連れ出されたあとでこう漏らす。「清六さんのことを忘れられないのは私も同じだったのに、健吾さんばかり責めてしまって」。同じ引っかかりを、片方は自分を下げるために使い、もう片方は相手を責めるために使っていた。二人がずれていたのは気持ちではなく、その使い道のほうだ。
洋輔にとっては、取り戻すための名前
冒頭、目録の後半の写しを受け取った洋輔はこう言う。「清六が僕に教えてくれた秘密」「それが見つからなければ、清六をもう一度僕の元に呼び戻すことなどできない」。三人のうち一人だけ、名前を過去にしていない。
健吾と規子は、はじめから同じことを思っていた
二人を動かしたのは発明ではなく、周りの二人が言い続けた短い言葉だった。
「騙されないぞ」と「うちはまだ信じてます」
健吾が「すまない、こんな話、君たちにしても困らせてしまうだけだ」と引こうとすると、喜八は「騙されないぞ」と食い下がる。稲子は「でもお姉ちゃんは健吾さんとちゃんと話したいって思ってるはずです」「うちはまだ信じてます」と続ける。疑い深い人と信じやすい人が、この回では同じ方向を向いている。
喜八の理屈は、いつもの喜八らしくない
押し切る言葉が「対話しないと何にもはっきり分からないだろ」で、その前には「お互いにちゃんと話して決めるなんて当たり前のことだってのに」も出る。疑うことを身上にしてきた人が、まず話せと言っている。相手の顔色から結論を出そうとする健吾に対して、材料が足りないと指摘している形でもある。
稲子は姉を「迎えに」行く
稲子が言うのは「お姉ちゃんの顔すごく辛そうでした」「お姉ちゃんをお迎えに行ってきます」だ。説得ではなく迎えに行くという言い方になっている。この回で人を動かした手段は、全部が電氣を使わないものだった。
二度目の「卑怯者」は、終わらせる言葉にならない
規子が戻る途中で、健吾のところへ知らせが入る。規子が馬に乗っている、という報せだ。
稲子の見立てが当たっている
姉を連れ出すとき、稲子はこう言っていた。「卑怯者だなんて言われてあの人、落ち込んで地球の裏側まで行っちゃったりして」。実際に健吾は落ち込んだままで、規子のほうも「帰らなくちゃ」「急ぎましょう」と足を速めている。二人とも、相手に会う理由を先に見つけていた。
同じ言葉が二度出てくる
馬の場面で規子が口にするのも「あなたはやっぱり卑怯者」だ。一度目は他人を使って怖がらせた人に向けた拒絶で、そのときは「お引き取りください」で終わった。二度目の同じ言葉は、そこで話を終わらせずに続きへ渡される。今度は健吾が自分の口で答えたからだ。
発明が一つも関わらない
電氣ネズミは止まったままで、目録も出てこない。使われたのは、暴れる馬と、そこへ飛び込む体と、伝えるべき言葉だけだった。「求婚騒動」の「求婚」の側には、この作品の看板である電氣が一つも登場しない。
見ていた側からも、健吾のやり方への評価は割れている。
洋輔だけが、目録を「会うため」に読む
前半と後半の間に挟まるのが、目録の後半を手に入れた洋輔の場面だ。
読み解いた先にあるもの
洋輔が図面から読み取るのは「いずれ人さえも凌駕する」で、そこから出てくるのが「君に会える」という一言だ。締めでは「清六が見ていた未来はここにあった」「清六は間違いなく電氣の時代を切り開く天才だ」と続ける。目録の二十番目は、洋輔にとって死んだ人ともう一度会うための設計図になっている。
足りないものがある、と本人が言っている
同時に洋輔はこうも言う。「人体をどこまで作ってもそれは人にならない」「足りないものがあるんだ」「それを清六はこの目録を通じて伝えてくれた」「一緒に僕たちの未来を作るために」。足りないと分かっていながら、その足りないものを図面のなかに探している。そして「そしてただ一人だけこれを読み解ける奴がいる」と付け加える。
喜八は読む気がない
一方の喜八は、目録の二十番目の話を聞いても「俺はいいや」と言う。理由は「言っただろ」「目録がなくても電氣の時代を作ってみせるって」「それにキザ野郎に渡しちまったしな」だ。同じ紙が、片方には手放していいものになり、もう片方には人を呼び戻す手段になっている。
引きは、目録ではなく人が持ってくる
最後に現れるのは「ちょうどよかった」「私もあの男を引っ叩く用があるの」という一言だ。京都に戻ってきた喜八たちのところへ、洋輔に用のある人物が合流する。次に洋輔のところへ行くのは、目録でも発明でもなく人だということになる。
進み出した二組と、引き返そうとする一人
この回に出てくる三つの向きを並べると、きれいに分かれている。
喜八と稲子は、夢の側から戻ってきた
二人はどちらも「相手の夢のために自分の夢を降りる」ところまで行っていた。今回そこから戻る手順が、まず「諦めてなんかいない」を見せ、それから謝る、という順番だった。相手のために降りたものを、相手のために拾い直している。
健吾と規子は、過去を抱えたまま前に出た
二人は清六を忘れることで進んだのではない。忘れられないと認めたうえで、それでも自分の口で話すほうを選んでいる。過去を片づけてから進むのではなく、抱えたまま進むという形になっている。
洋輔だけが、逆を向いている
洋輔がしているのは、失った相手にもう一度会うために目録を読むことだ。前へ進むための道具として使っている人が誰もいないわけではないのに、彼の使い道だけが後ろを向いている。同じ目録が、置いていく紙と呼び戻す図面に分かれている。この差が、次にどこで衝突するのかが見どころになる。




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