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『名探偵プリキュア!』第35話の副題は「恋の名探偵」。理事長の勧めでまことみらい学園の高等部に通い始めたるるかとくれあは、教室で宛先のないラブレターを見つける。指の跡と封の閉じ方から送り主を言い当てたるるかは、自分から美緒に声をかけて告白の場をつくった。雑談の輪に入れなかったるるかだからこそ、言えない気持ちに気づけた。最後にはロンドンの探偵事務所が陥落したという知らせも届く。




副題「恋の名探偵」と、高等部への編入
第35話の副題は「恋の名探偵」(出典: 東映アニメーション公式サイト 第35話ページ)。公式あらすじは「理事長の勧めで、くれあとるるかはまことみらい学園の高等部に通うことになりました」から始まる。脚本は佐多賢人、演出は近藤こころ。探偵事務所の二人が、初めて教室という場所に入っていく回である。
「探偵には学業も大事だと」
最初、るるかの返事は「必要ない」「ここでアイス食べてる方がいい」だった。そこへ理事長が「ロンドンにいるまふるさんも言っていましたよ」「探偵には学業も大事だと」と続け、まふるとは「昔からの友人なんです」と明かす。さらに「学校に行くことが何か探偵活動のプラスになるかもしれない」「それに私 るるかと一緒に学校に通ってみたいな」と誘われて、るるかは「わかった」と答える。アイスより学校を選んだ決め手は、理事長の理屈よりも、一緒に通ってみたいという誘いのほうだった。理事長とまふるが旧友だという話も、さらりと出てきて見逃せない。
「つまりアイスなら何でも好き」
教室での自己紹介は、二人の差がはっきり出る場面になった。くれあは「パティシエをしていて」「お店のエクレアが大好きです」「よろしくお願いします」と、きちんと自分を説明する。続くるるかは「森亜るるか」「よろしく」で終わりかけ、「るるか ほかに何か言わないと」と促される。そこで出てきたのが「アイスクリーム ソフトクリーム」「アイスケーキ」と好物を並べたうえでの「つまりアイスなら何でも好き」だった。名前と好きなアイスしか伝わらない自己紹介だが、るるかなりに精いっぱい自分を差し出している。アイスのことしかわからなかった、というツッコミも入るものの、ここで黙らなかったこと自体が、この回の小さな一歩目になっている。
「るるかはアイス探偵みたいな」
休み時間になると、キュアット探偵事務所の探偵だと知ったクラスメイトたちが集まってくる。「るるかはアイス探偵みたいな」「確かにクール系って感じだよね」とにぎやかに盛り上がり、「もう 詩織」「るるか困ってるじゃん」とたしなめる声も入る。話題は美緒の留学にも移り、美緒が留学から戻ってきたばかりだとわかる。くれあとるるかも日本に来る前はロンドンにいたと話すと、「じゃあくれあとるるかって帰国子女」「かっこいい」と輪が広がっていく。
公式あらすじが書くとおり、るるかは「話しかけてくれたクラスメイトの会話になかなか加われない」(出典: 同)。推理なら誰より先に答えを出するるかが、雑談の輪ではひと言目が出てこない。この言いたいのに言えない感覚が、後半のラブレター騒動にそのままつながっていくのがうまい構成だ。
宛先のないラブレター
るるかがふと足元に目を落とすと、そこには一通の手紙が落ちていた。
「おそらくこの手紙はもともと準備していたもの」
昼休み、くれあとるるかはあんなとみくるに手紙のことを話す。ラブレターだと聞いて沸くまわりをよそに、二人は「ありえない」「おそらくこの手紙はもともと準備していたもの」と冷静だ。今日転校してきたばかりの自分たちに宛てたものではない、というわけである。「それに誰かと仲良くなるほど話せてないし」という一言も、なんとも正直だ。
調べてみると、「手紙についていたのは二人分の指の跡」で、それは手紙を拾ったるるかと、送り主のものだった。ほかに誰も触っていないなら、本人に渡す前に落としたか、机に入っていたものが落ちたかのどちらかになる。「手紙の送り主か送ろうとした相手」のどちらかがわかればいい、と方針が決まり、「一刻も早く届けてあげなくちゃ」と調査が始まる。指の跡が二人分しかないことから、まだ相手に届いていないと読むのが、探偵らしい入り方だった。
コピーに授業をまかせて
問題は、昼休みが終わってしまうことだ。そこでプリキットのきらめきコピーを使い、「私たちのコピーだ」と自分たちの身代わりを作り出す。公式あらすじでは「午後の授業をプリキットで作り出したコピー人形にまかせ」とある(出典: 同)。「コピーに授業を受けてもらえば」「その間に調査できる」という発想は大胆で、学校に通い始めた初日から授業を抜け出してしまうあたりに、探偵の性分が出ている。
手紙が落ちていた場所から考えると、宛先は「近くの席の美緒ちゃんか」、詩織の「どちらかに宛てたものよね」と絞られる。それでも決め手がないため、「だったら次は送り主の方を探してみよう」と指の跡を頼りに探し回るが、「全然見つからないよ」のまま放課後を迎えてしまう。
「学園に伝わる伝説があるの」
手がかりを求めて、封を開けずにプリキットで中身を確かめると、「中で手紙が折られてるからよく見えないけど」、浮かび上がったのは「放課後」「桜の木」という文字だった。これを見たみくるは「やだっ どうしよ」と舞い上がり、「学園に伝わる伝説があるの」と語り出す。「在校生が守ってきた桜の木」、そして「その下で結ばれた恋はずっとずっと続くっていう」。
恋の話になった途端、みくるのテンションが一気に振り切れるのがこの回いちばんの見どころだった。はしゃぐみくるの横で、学園の伝説という舞台装置が手紙の中身とぴたりと重なる。宛先のない手紙が、一気に学園ドラマの色を帯びていく。
放送後も、みくるの浮かれぶりや、恋の一文字が画面いっぱいに出る演出に反応する声が多かった。
桜の木の下にいた「4人」
そのころファントムの側では、恋心を込めた手紙にマコトジュエルが宿るという話が持ち上がっていた。「ミラージュの書にそう出ている」。恋の話ならアゲセーヌの出番で、さらに「念のためお前たちも行くのだ」とニジーとゴウエモンも送り出される。怪盗団が三人そろって現れる、にぎやかな布陣である。
「いや 4人だ」
桜の木に向かうと、男子二人と女子一人がすでに待っていた。「この3人の誰かが手紙の送り主ね」と見立てたところに、「いや 4人だ」の声がかかる。公式あらすじによると、詰襟を着たゴウエモンが現れ、「誰が本物か当ててみろ」とせまってくる(出典: 同)。
ゴウエモンは「どうしてわかった」と驚くが、返ってくるのは「バレバレでしょ」。学生服を着ても隠しきれない貫禄が、そのまま変装の弱点になっている。「となるとニジーとアゲセーヌも」と、残る三人の中に怪盗が紛れていることもすぐに見抜かれる。
「つまり彼の机に入れたと言ったあなたは嘘をついている」
三人はそれぞれ自分が送り主だと名乗る。男子の一人は「確かに彼女の机の中に入れたはずだ」、女子は「私も彼の机の中に入れた」。そこへ「手紙が落ちていたのは女子の席の近くだよ」と指摘が入り、「つまり彼の机に入れたと言ったあなたは嘘をついている」と女子のウソが突き崩される。落ちていた場所という最初の手がかりが、ここで一人を消す根拠に変わるのが気持ちいい。
残るのは男子二人。一人は「手紙で彼女に告白したんだ」「もしOKだったら桜の木の下に来てほしいって」と語り、机に入れたのは「移動教室中の休み時間だよ」、そして「本当は彼女が戻ってきたら告白しようと思ってたけど」と打ち明ける。もう一人は「僕は朝一番だ」と言い張り、「いい加減返してくれないか」とせかす。
「解けないアイスと謎はない」
「封を開けてみましょう」という流れに、「待って」「そうじゃなくて」と止めが入り、「わかった」の声が上がる。るるかの決めぜりふ「解けないアイスと謎はない」に続いて示されたのは、「さっき封を開けようとした時」「私を止めようとした」人物だった。「封筒をよく見て」「手紙を送った本人なら」「私が違う開け方をすれば止めるはず」「だからこの人が本物」。
公式あらすじによると、封はハート形のシールで閉じられていた(出典: 同)。自分で丁寧に封をした人だけが、違う開け方をされそうになった瞬間に思わず手を出してしまう。気持ちを込めて用意した手紙だからこそ出た反応で、恋の謎を解く鍵が想いの込め方そのものだったのが、副題によく合っている。
「自分の思いは手紙じゃなくて直接言いな」
もう一人の男子に化けていたのはアゲセーヌだった。正体を現したアゲセーヌは、送り主の男子を思わぬ方向からけしかける。
「直接伝えてもらった方が相手は絶対に嬉しいはず」
アゲセーヌの言葉は「自分の思いは手紙じゃなくて直接言いな」。尻込みする男子に、「直接伝えてもらった方が相手は絶対に嬉しいはず」と背中を押す声が重なる。そこで出てくるのが「その人の気持ちもわかる」「私もそうだから」「言いたくても言えない気持ちもよくわかる」という言葉だ。
自己紹介でも休み時間でも、言いたいことがなかなか出てこなかったのが、この日のるるかだった。だからこそ、手紙に頼った男子の気持ちは他人事ではない。男子は「決めたよ」「この思いを直接彼女に届けるんだ」と走り出し、アゲセーヌには「お姉さん」と礼まで言っていく。怪盗が恋の後押し役になってしまう、なんとも不思議な場面である。
キューピッド型のハンニンダー
もっとも、アゲセーヌの本来の狙いはマコトジュエルだ。「ラブレターはアゲのものってことで」と残された手紙を手に取り、キューピッド型のハンニンダーに変えてしまう(出典: 同)。放たれるハートの矢で、女子に変装していたニジーとゴウエモンまでがメロメロになり、「ハンニンダーさま」と目をハートにする始末だった。
アゲセーヌの「アゲは恋のキューピッドって感じ」という一言どおり、この回の敵役は、恋の騒ぎを邪魔するより、むしろかき回して楽しんでいる。ニジーとゴウエモンのそろったリアクションも、三人そろい踏みの回ならではのにぎやかさだった。
戦いでは、あんなたち4人がそろって変身する。公式あらすじによると、アルカナが放たれた矢を打ち返し、ハンニンダーを浄化した(出典: 同)。戦いの最中に「仲良くなるには」自分から踏み出すことだ、という言葉が出るのも、この回らしい。ニジーとゴウエモンが声をそろえて「チョベリバ」とこぼす横で、アゲセーヌは「でもまぁ せいぜいがんばるっしょ」と言い残していく。
夕方の校門前で
戦いが終わるころには、もう下校時間を過ぎていた。「さすがにもう帰ったよね」とあきらめかけたところで、話は意外な形で動く。
「自分から話しかけたのよ」
校門の前でうつむく男子の前に現れたのは美緒だった。美緒は「ここであなたを待つように言われて」と戸惑っている。「もしかして 美緒ちゃんを呼び止めておいてくれたの」と聞かれ、返ってきた答えは「自分から話しかけたのよ」だった。教室では会話に入れなかったるるかが、ここでは自分からクラスメイトに声をかけている。
相手が美緒だとわかった理由も、送り主の言葉の中にあった。「本当は彼女が戻ってきたら告白しようと思ってたけど」の「戻ってきたら」は、「それは多分留学のこと」。休み時間に聞いた、美緒の留学の話がここで生きてくる。雑談の輪に加われなかった時間も、るるかはちゃんと話を聞いていた。
「好きです 付き合ってください」
男子の「好きです 付き合ってください」に、美緒は「はい よろしくお願いします」と応える。手紙ではなく、自分の口で伝えた告白だった。宛先のないラブレターは最後まで宛先に届かず、代わりに本人の言葉が届いたことになる。手紙の謎を解いた結果が、手紙をいらなくすることだったという結末が、この回の一番きれいなところだと思う。
「いや 恋の名探偵だ」
教室では、るるかが「二人の恋」を実らせたと話題の中心になっていた。本人は「私は別に何も」と言うが、「全部るるかのおかげだよ」「ほんと ありがとね」と感謝される。「恋のキューピッド」と言われかけたところで「いや 恋の名探偵だ」と言い直され、「なになに 恋の名探偵」「私の恋の悩みも解決して」と、あっという間に頼られる存在になった。
公式あらすじは、るるかが「恋の名探偵」と呼ぶクラスメイトたちに囲まれて「笑みをこぼします」と締めくくる(出典: 同)。アイスの話しかできなかった自己紹介から始まって、最後はクラスの輪の真ん中で笑っている。友達がたくさんできたことを喜ぶ声も上がり、学園生活の始まりとしてこれ以上ない着地になった。
ロンドンから届いた知らせ
ただし、回の最後にはもう一通の手紙が待っていた。
「デッチからだ」
ファントムのもとに一通の手紙が届き、ニジー、アゲセーヌ、ゴウエモンの三人がそろって「ラブレター」と色めき立つ。それを「まったく」と一蹴したあとに告げられるのが、「デッチからだ」という差出人、そして「ロンドンの探偵事務所が陥落したようだな」という知らせだった。
ロンドンといえば、冒頭で理事長が名前を出したまふるがいる場所であり、くれあとるるかが日本に来る前にいた場所でもある。学園の恋の話で笑わせたあと、最後の一言で物語の地図をぐっと広げてくるのが心憎い。
楽しい学園回の締めくくりに差し込まれた不穏な一言に、放送直後から驚きの声が上がっていた。
まとめと考察
第35話は、るるかとくれあの学園デビューと、宛先のないラブレターの謎を重ねた回だった。
言えない気持ちがわかる「恋の名探偵」
手紙の送り主は、戻ってきたら直接告白するつもりだったのに、勇気が出ずに手紙に頼った人だった。るるかもまた、この日は自己紹介でも雑談でも言葉がなかなか出てこなかった。言いたくても言えない側の気持ちを知っているから、るるかは送り主の言葉の小さなひっかかりに気づけたのだと思う。恋の名探偵という呼び名は、恋に詳しい探偵という意味より、言えない気持ちを見落とさない探偵という意味で、るるかによく似合っている。
学校という新しい現場
理事長が口にした「探偵には学業も大事だと」という言葉は、授業の話だけではなかったのかもしれない。教室は、推理の腕より人と話す力が試される、るるかにとってまったく新しい現場だった。美緒を呼び止めるという自分から踏み出した一歩で、その現場の最初の事件をきちんと解決している。
楽しい回の最後に届いたもの
一方で、ロンドンの探偵事務所の陥落という知らせは、まふるの身を案じさせるものでもある。学園での新しい日々が始まったばかりのるるかたちに、物語がこれからどんな事件を運んでくるのか。恋の騒動で温まった余韻と、最後の一言の冷たさの落差が、この先への期待を大きくしている。




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