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『どうも、好きな人に惚れ薬を依頼された魔女です。』第2話の副題は「湖の善き魔女」。ティエンが持ち込んだ生地の山から始まったロゼの日常は、約束の一月より早いハリージュの来訪で思わぬ形で大きく揺れる。魔法以外の嘘をつけない魔女の秘密、死を選ぶほどの恋心、そしてリンゴのバターを塗ったパンまで、嘘をつけない恋が一歩動いた第2話を振り返っていく。




第2話の副題は「湖の善き魔女」
『どうも、好きな人に惚れ薬を依頼された魔女です。』第2話の副題は「湖の善き魔女」。第1話で、ずっと想いを寄せてきたハリージュから惚れ薬を依頼されたロゼは、素材集めを口実に彼と会う時間を少しずつ引き延ばしている。今回は、なじみの商人ティエンが持ち込んだローブ選びから始まり、散らかった庵での再会、そして魔女の秘密が知られてしまう事件へと進んでいく。嘘をつけない魔女の恋が、思わぬ形で一歩動いた回だった。
ローブ選びと、森の色
商品の受け渡しに来たティエンに、ロゼは新しいローブはないかと尋ねる。深い意味はない、古くなってきたから欲しいだけ。そう言い訳したのが昨日のことで、翌日にはティエンが山のような生地を抱えてやってくる。オアシスの花を刺繍した布、白夜の怪物の毛皮、雪国の清水で染めた生地。張り切るティエンに、ロゼは思わずたじろいでしまう。
冒頭のやりとりからして、この二人の関係はよくわかる。売り上げは自分がしっかり管理していると胸を張り、名付けて「おじさん銀行」だと言うティエンに、ロゼは心の中で絶対着服していると毒づく。勧められたローズピンクを即座に断られても、そうだろうと思ったよと笑って受け流すあたり、ティエンはロゼの扱いを心得ている。長年の付き合いだからこその遠慮のなさが、二人の会話を軽やかにしていた。
ティエンが張り切るのには理由があった。母のお下がりで十分だと、身を飾るものに一切興味を持たなかったロゼが、湖の魔女を継いだときでさえ仕立てなかったロゼが、自分から言い出したのだ。お祝いとして自分が贈ろうと言うティエンに、ロゼは何も言えなくなる。祖母が亡くなったときも、ティエン親子がいなければ埋葬することすらできなかったかもしれない。口では悪態をつきながら、ロゼにとってティエンは家族に近い存在なのだと伝わってくる。
一方で、ロゼが本当に気になっていたのは青い布だった。けれどその色は選べない。「彼のマントに包まれているような気持ちになるだろうから」。そんな勘違いを、そんな夢を見てしまいそうになるから。結局ティエンが勧めたのは、湖に映る森の色の生地だった。いきなりローブを新調するなんてあからさますぎると自分で落ち込むところまで含めて、ロゼの恋心は隠しているつもりで全然隠せていないのがかわいらしい。
散らかった庵と、一月という距離
両の手は片付けができない
素材を持って庵を訪れたハリージュは、部屋の散らかりように「少しは片付けられないのか」と呆れる。ロゼは、自動的に室内が片付く魔法はないと答え、「両の手を使えばいいだろう」と返されると、この両手は魔法をかけることはできても片付けはできないと言い張る。「だって魔女だから」。同じ言葉をハリージュが真顔で繰り返すのがおかしくて、思わず笑ってしまった。
さらに、テーブルの上にあったのは「数日前のレタスですね」。いつもレタスばかり食べているがこだわりでもあるのかと聞かれ、庭の畑にレタスしか植わっていないから、調理しなくても食べられるからと答えるロゼ。ハリージュの「鳥の足の方がまだ肉が付いているぞ」という一言は、心配と呆れが半分ずつ混ざっていて、ここから終盤のパンの場面につながっていく。
近づいたハリージュの顔に、ロゼは心の中で大騒ぎする。まつげが長い、顔がいい。「こんな顔面兵器至近距離で浴びるなんて」と内心で悲鳴を上げながら、表情はほとんど変わらない。表情は薄いのに、心の声だけがやたらとにぎやか。このギャップが本作の大きな魅力で、2話目にしてすっかり定着した感がある。
魔法以外の嘘はつけない
受け取った材料で調薬を進めるため、ロゼは一月後に来てほしいと告げる。一月という時間は実際に素材を加工するのに必要な時間で、それまでハリージュがここに来ることはない。感情を隠すのは得意なはずだったのに、と独白するロゼ。ここで語られるのが、魔女の秘密だった。人では作れないほどの効力を持つ薬を、魔女だけが作れるのには理由がある。「魔法以外の嘘を使えない」のだ。
愛想がないのも、不気味なのも、嘘がつけないことを人に見破られないため。「すべては人と距離を取るための手段だ」。嘘をつけない代わりに、真実を隠したり話をそらしたりして、ロゼはたった一人で生き延びてきた。そしてこれからも、たった一人で生きていくつもりでいる。第1話の冒頭で示された魔女は嘘をつけないという設定が、ここで孤独の理由としてはっきり形になった。明るいラブコメの顔をしながら、その根っこにある寂しさを丁寧に描いているのが印象的だ。
この設定は、惚れ薬の依頼そのものにも影を落としている。作れるかと聞かれれば作れないとは言えず、品切れだとかわすのが精いっぱいだった第1話。素材を小出しにして時間を稼ぐのも、嘘をつかずに本当のことを隠すための工夫だった。嘘をつけない魔女にできる抵抗は、黙ることと先延ばしにすることだけ。そう考えると、一月後という約束にも、ロゼなりの切なさがにじんで見えてくる。
知られてしまった秘密
一月より早い来訪
夏になり、ロゼは面倒だった水浴びを頻繁にするようになった。暑くなったからに違いない、と自分に言い聞かせながら。ところがそこへ、まだ一月も経っていない昼間に、ハリージュがやってくる。無防備な姿を見られたロゼは大混乱。慌ててローブだけを羽織って彼を迎えるが、動揺のあまり、彼の名前を口にしてしまう。ハリージュは一度も名乗っていなかったのに。
「俺が誰か知っているのか」と問われたロゼは、うまくかわす言葉が出てこない。いつからだと詰められ、答えてしまうのは4年前。嘘がつけないロゼにとって、質問され続けることはそのまま本音を引き出されることを意味する。追い詰められたロゼは、ついに魔女は魔法を使う代償に「嘘をつけないんです」と打ち明けてしまった。隠し通すはずだった魔女の秘密を、よりにもよって一番知られたくない相手に明かしてしまう。嘘をつけない設定がここまで切実に効いてくるとは思わなかった。
死を選ぶほどの秘密
騎士として聞いておかねばならないことがあると続けるハリージュに、ロゼは恐怖する。魔女の弱点を知られたのはこの際仕方がない。けれど恋心まで知られてしまったら。「美しく強く気高い彼に恋をしている惨めさを知られてしまったら」、それなら死んだ方がマシだ。追い詰められたロゼが手を伸ばしたのは、魔女の専門分野である薬だった。
その手を止めたのは、ハリージュだった。何の薬かはわからなかったが、ロゼの目には見覚えがあった。「追い詰められた人間っていうのは大抵ああいう顔をしてるんだ」。だから「間に合ってよかった」。そして、死を選ぶほどの秘密を暴いてしまったことを詫び、先ほどのことは「俺の心の内に秘める」と約束する。騎士として誓う、信じてほしい、と。
秘密を暴いた側が、暴いたことを謝る。立場を考えれば、魔女の弱点を握ったハリージュの方が圧倒的に優位に立てたはずだ。それでも彼は追及をやめ、ロゼの命を優先した。騎士としての誇りと、目の前の人を放っておけない性分がそのまま行動に出ていて、ロゼが4年間想い続けてきた理由がよくわかる場面だった。
ロゼは思い出す。ハリージュはこういう人だった。たかが魔女一人の命さえ気にしてくれる「優しい人だ」と。4年前、王都で魔女の死を喜ぶ人々に異を唱えた彼の姿が、ここで重なる。ロゼにとっては最悪の事態だったはずなのに、結果的に彼の誠実さを改めて確かめる時間になったのが面白い。秘密を知られた側と、秘密を守ると誓った側。二人の距離は、秘密を共有したことで確かに縮まった。
第2話のまとめ考察
リンゴのバターとパン
落ち着いたロゼの前に、ハリージュはパンを差し出す。危うく自分一人で食べなければならないところだった、と。ろくなものを食べていなかっただろう、レタスばかり。あんたは若い女なんだから「もう少し肉をつける必要がある」。心配された、一瞬でも自分のことを考えてくれた、とロゼは心の中で喜びをかみしめる。
ところがそのままパンに手を伸ばそうとすると、まずはこのテーブルの上を片付けろと言われてしまう。「これだからお貴族様は」とつぶやくロゼに「聞こえているぞ」、すかさず「聞かせているんです」。秘密が知られたあとの方が、二人の会話がずっと気安くなっているのが微笑ましい。差し出されたのはリンゴのバター。リンゴは好きなので嬉しいと答えるロゼの、甘いリンゴの香りという独白で物語は締めくくられる。
嘘をつけない恋の行方
第2話は、嘘をつけないという魔女の設定が、ロゼの孤独と恋心の両方に直結していることを鮮やかに示した回だった。魔女の秘密は知られてしまったけれど、恋心だけはまだ守られている。そして秘密を共有したことで、ハリージュはこれからもロゼの暮らしを気にかけてくれそうだ。孤独に生きると決めていたロゼにとって、それは喜びであると同時に、隠し事を続ける難しさが増したことも意味している。
登場人物はほぼロゼとハリージュとティエンの三人だけで、会話もほとんどが一対一。それでも退屈に感じないのは、ロゼの心の声が常に場面を動かしているからだろう。ティエンの前では遠慮なく毒づき、ハリージュの前では表情を固めたまま内心で大騒ぎする。相手によって変わる心の声の温度が、そのままロゼという人物の奥行きになっている。散らかった部屋もレタスだけの食卓も、一人で生きてきた時間の長さを物語っていて、だからこそパンを分け合う場面がいっそう温かく映った。
惚れ薬を依頼したハリージュの本当の目的は、まだわからない。それでも、追い詰められた人の顔を見抜き、魔女の命を気にかける彼の人柄は、ロゼが4年前に恋をした理由そのものだった。嘘はつけないけれど、好きだとは言わない。その危うい均衡の上で、ロゼの恋がどんな形で揺れていくのか、パンとリンゴのバターの温かさとともに見守っていきたい。




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