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第19話「グラデーション」は、六人の春休みとクラス替えを並べた回である。三組の並べ方が階段になっていて、西は言いたいことを引っ込め、谷は口に出した言葉を直後の独白で裏返し、東は自分の感情に名前をつけられない。公式のあらすじは谷について「揺れる想いを抱えていたのは、実は谷も同様だった」と書くが、本編の谷は「離れ難いのも不安なのも、本当は自分の方だ」と言う。同様ではなく、いちばん不安なのは安心させた側だった。




結論:西は言えず、谷は裏返し、東は名前を見つけられない
この回は三組の春休みを順に映していくが、三組は同じことを別の段階でやっている。共通しているのは言葉で、西は言えない、谷は言ったそばから裏返す、東はそもそも当てはまる言葉が見つからない。三つを並べると、言葉の届かなさが少しずつ濃くなっていく。副題はそこにつけられた名前だと読める。
西は、言いたいことを引っ込める
西は行き先を自分で選んだのに、館内では「なるべくサクサク回ろう」と自分を急かし、持ってきたカメラも「今急に大きなカメラ取り出したら、私だけ本気すぎる感じになるかな」で引っ込めてしまう。イルカショーの席まで譲り合う。それでも終演後に「序盤の水槽、もうちょっと見てもいい?」と口に出せていて、三組のなかでは、言えなかったことが言えるようになる側である。
谷は、口に出した言葉を直後に裏返す
谷は鈴木の不安に「気にしないようにって飲み込むんじゃなくて、伝えてほしい」「変わらないよ、僕は」と答える。公式のあらすじはそれを「まっすぐな言葉」と書き、そのうえで「揺れる想いを抱えていたのは、実は谷も同様だった」と自分で付け足している(※1)。ところが本編の独白は、その「同様」より一段強い。「離れ難いのも不安なのも、本当は自分の方だ」である。並んでいるのではなく、片方に傾いている。
東は、当てはまる言葉が見つからない
東は帰り道で自分の感情に名前をつけようとして、「寂しい、悲しい、なんか違うの」「悔しい」と三つ試し、最後に「なんだこの感情」で止まる。公式のあらすじも東については「平とは友達なのだと自身に言い聞かせる東」と書いていて(※1)、言い聞かせるという言い方そのものが、まだ名前がついていないことを示している。
第19話で起きたこと(要点だけ)
六人の春休みが並列に置かれる回なので、先に事実だけ並べておく。
- 冒頭のナレーションは「二年生も終わり、各々が思い思いの春休みを過ごしていた」。以後、三組の春休みが順番に映される。
- 山田と西は水族館へ。行き先を選んだのは西で、終盤に山田が西を下の名前で呼ぶ。
- 鈴木の誕生日は春休み中。谷と花見をして、贈り物は蓋つきの保温タンブラー。
- 東は山田の電話でファミレスに合流。バイト先がラーメン屋だと分かるのはこの回が初めて。
- 新学期のクラス替えは、鈴木と渡辺、谷と平、東と佐藤、西と本田。鈴木と谷は別、東と平も別になる。
- 公式サイトの一覧では、次が第20話「この先」(※2)。
この並びで気づくのは、三組とも同じ場面をやっていないことである。山田と西は出かけ、谷と鈴木は祝い、東と平は集まって解散する。それでも三組の内側で起きていることは同じで、言いたいことを一度は飲み込むという形をしている。
水族館。西の緊張は解けたのではなく、言葉になって出てくる
行き先を選んだのは西である。「小さい頃、近くの水族館の年パスを持ってたから、家族でよく行ってて」「ここは来るの初めてなんだけど、前から気になってはいて」と説明したあと、内心で「急に早口で喋り倒してしまった」と反省している。
連れて行く側にだけある、後ろめたさ
西の内心の芯はここにある。「すごく今更だけど、自分が行きたい場所に人を連れて行くのって緊張する」「山田君的に退屈だったりしないといいな」。館内でも「夢中で見入ってしまった」「というか序盤なのに時間かけすぎ」「なるべくサクサク回ろう」と自分を急かし続ける。好きなものを見に来ているのに、半分は相手の顔色をうかがっている。連れて行く側のほうが緊張している、という置き方が丁寧だった。
出せなかったカメラと、譲り合われる席
いちばん切ないのが、持ってきたのに出せないカメラである。「今急に大きなカメラ取り出したら、私だけ本気すぎる感じになるかな」と考えて、そのまま鞄の中に置いてしまう。イルカショーでも、空いている席が「こちらのエリアは大変水がかかるお席となっております」で、二人とも相手のほうが嫌がるだろうと思って譲り合う。どちらも「自分の楽しみを出すと相手に迷惑がかかる」という同じ形をしている。
呼び方が変わるのは、白状した直後の一言のなか
終演後、西が「序盤の水槽、もうちょっと見てもいい?」と言えるようになる。ここがこの日の小さな前進で、目当ての生き物が出てきて「出てくれてありがとう、満足です」まで行く。そのあと山田が「俺も心残りやんだけどいい?」と切り出す。中身は、序盤に「乗りたい」と言って自分で引っ込めたメリーゴーランドだった。我慢していたのは西だけではなかった、という回収である。
そして呼び方が変わる。西の「最初、私ばっかり楽しんでたらどうしようかとヒヤヒヤしちゃった」に対して、山田の答えが「奈津美ちゃんが楽しそうだったら俺も楽しみだよ」で、答えの中に下の名前がまぎれ込んでいる。理由を聞かれて「西さん読みはなんかなーって思ってて」と言い、「奈津美」「なっちゃん」と試したところに、西の「お任せします」が返る。呼び方の変更を、宣言ではなく返事の途中でやってしまうのがこの二人らしい。
安心させた側がいちばん不安。谷の独白が回の裏側にある
鈴木の誕生日は春休み中で、これは前回の第18話で「別れとか変化のある季節でもあるじゃん」「ほんで誕生日は春休みだし」と先に置かれていた話である。
前回の副題を、本編が自分で引き取る
花見の会話に「ちょっと前、寂しいって言ってなかった?」「それは春の手前」というやり取りが出てくる。前回の副題を、本編の台詞がそのまま拾い直している。公式のあらすじも第18話を「三学期が終わり、クラスが変わっても平との繋がりをなくしたくないと思う東」と締めていて(※3)、この回がその続きに置かれていることが分かる。いちばん機嫌のいい場面で出てくる台詞が「ずっと今みたいな時間だけが続けばいいのに」なのが、この作品の容赦のないところである。公式アカウントが放送後に出した一言は「名前がついた関係も、そうでない関係も、今この瞬間を大切に」だった。名前がついた側にも、まだつかない側にも、同じだけ重さがあるという並べ方である。
鈴木は不安を言葉にできて、谷はできない
贈り物は蓋つきの保温タンブラーで、「蓋もついてるから、部屋に持って行ったりするのにちょうどいいかなって」という理由つき。鈴木の「なんかすごく彼氏っぽい」に対して、谷は「けど、どれも自分一人じゃしないことだから」「見栄張ってるというか、格好つけてる部分はあると思う」と自分から明かす。そのうえで鈴木が不安を出す。「三年生、同じクラスになれたら嬉しいけど、確率的に難しいじゃん」「すれ違ったり寂しくなったりするのかなって」「気にしないようにしてたんだけど、心の奥の方で実はちょっと不安かもって気づいちゃった」。谷の答えが「気にしないようにって飲み込むんじゃなくて、伝えてほしい」「変わらないよ、僕は」で、ここまでは公式のあらすじどおりである(※1)。
「格好をつけることが、かえって格好悪く感じる」
直後の独白が、それを全部ひっくり返す。「本音を伝えるふりをして、まだ僕は見栄を張っている」「安心させるふりをして、自分に言い聞かせた言葉」「離れ難いのも不安なのも、本当は自分の方だ」「格好をつけることが、かえって格好悪く感じる」。花見の場で自分から明かした「格好つけてる部分はあると思う」という自己申告すら、まだ足りていなかったことになる。
作りとしては、前回の第18話で平が「前進してる感あるくない?」という東の言葉を受けたあとに「前進どころか、後退だ」と独白したのと同じ形である。口に出した言葉を、その直後の独白で裏返すという型を、この作品は二話続けて使っている。違うのは、前回それをやったのが自信のない側だったのに対して、今回は安心させる側がやっていることである。
東は一度、考えるのをやめている
山田からの電話は、バイト終わりで駐輪場にいる東にかかる。用件は「今、俺と平でファミレスにいるけど、地元だし、東も近いんじゃねって思って」で、東の返しが「今日、先に説明しろよ」だった。
ラーメン臭いと、カラオケ臭い
合流の第一声が「今、私ラーメン臭いかもだけど大丈夫?」で、返ってくるのが「大丈夫大丈夫、俺らもカラオケくせえし」。東のバイト先がラーメン屋だと分かるのは、この回が初めてである。匂いを気にする側と、こちらも似たようなものだと返す側という並びが、そのままこの三人の距離になっている。
人数が一人増えるだけで、身構えが要らなくなる
三人での応酬は速い。「平って何歌うん?」「いいだろ別に何でも」「なんか私にだけやたら壁つくんじゃん」「聞き方から悪意がはみ出てんだよ」「どうせいじる気満々だろ」「いじるよ」「否定しろ」。山田の「ケンカ漫才?」「プロレスプロレス」で締まる。前回、東と平が二人きりで入ったのと同じファミレスに、今回は山田がいる。同じ場所で人数が一人増えただけなのに、東の側の身構えが要らなくなっている。
「そもそも私はどうしたい」から「考えるのをやめよう」まで
その裏で、東の内心は動き続けている。「自分の気持ちがどれなのかとか、変に頭にちらついてるなあ」と身構えていたのに、会ってみると「だいぶ普通に行けるわ」。そこから出てくるのが「というか私、男子とこんなふうにちゃんと友達だったこと、あんまりなかったかも」「今まではもう最初から始まってる感あったというか」「近づかれてる時点でそういう空気だったし」「なんなら、その最初の空気感が一番楽しいくらいに思ってたとこあったし」である。
つまり恋愛の入口の空気そのものを楽しむ癖があった、という自己申告になっている。そのうえで「そもそも私はどうしたい」「付き合いたい」「平と?」「いやいやいや」と自問し、「昔は好きかもぐらいの軽さで恋愛モードに慣れてたけど、もっと大切に慎重に考えないと」を経て、「だからもう、考えるのをやめよう」で閉じる。結論ではなく先送りである。この先送りがあるから、後半の帰り道で足をすくわれることになる。
三つ試して、三つとも外す。名前がつかないことが副題になる
新学期のクラス替えで、六人の顔ぶれが割れる。鈴木は渡辺と同じ、谷は平と同じ、東は佐藤と同じ、西は本田と同じ。つまり鈴木と谷は別、東と平も別である。
誰も一人にならないように割れている
西と本田のところがいちばん言葉数が多く、「またクラス同じ」「嬉しい嬉しい嬉しい」「ねえ、また一年よろしく」と続く。鈴木は、東づてに互いの話を聞いていたという同級生と鉢合わせて「勝手に結構知ってる感じなってるわ」「奇遇だね、私も」となる。誰も一人になっていないのに、全員が去年とは違う組み合わせになっている。この配り方があるから、離れた二組の側だけを悲観的に見なくて済む。
平の即答が、東の中に引っかかる
帰り道、東の「それで、どうだ新しいクラスは」に平が「まあ、俺的にはいいクラスかも」と即答する。東が「ま、他にいるもんな」と受けると、平は「そこじゃなくて、荒れなさそう的な意味でな」と言い直す。東の側はそこで止まらない。「即答すんの結構意外だったな」「自分と仲いい相手に、自分よりも仲がいい人がいるのかも、なんて大体いつもそうなんだけど」「そんなの気にしだしたらきりないし」「今まではもっと割り切れてたのに」。
名前を三つ試して、三つとも当たらない
続く独白がこの回の中心である。「なんだろう」「寂しい、悲しい、なんか違うの」「悔しい」「自分ばっか頭パンパンで、平の頭の中に全然私のことなさそうな感じがなんか悔しい」「なんだこの感情」「幼稚、みっともない、やだやだ」。前回の第18話で東は「距離があると寂しくて、近づくと嬉しい」「今そわそわするこの気持ちは一体どれなんだろう」と自問していた。あのときは候補の中から選ぶ問題だったのに、今回は「なんだこの感情」で候補の外に出てしまっている。副題は、この名前のつかない幅のことだと読める。
欲しかったのは、離れても会うという確認だけ
別れ際、東が「クラス離れちゃったな」と言う。平の返事は「え、まあそうだな、確かに」で、東は「もうなんだ、その感じ。ドライだな」と食い下がる。そこで出てくるのが「どうせ俺ら放課後会うし、駅とかこの辺で」だった。そのあと平は「え、そう思ってたん俺だけ」という顔をする。東は「ああ違う違う、そう、本当そう」と慌てて、帰り道でスキップしている。欲しかったのは告白でも進展でもなく、離れても会うという一言だけだった。公式のあらすじはここを「平の思いがけない言葉に、胸を弾ませる」と書いているが(※1)、平の側からすれば前提の確認にすぎない。思いがけなかったのは言った側ではなく、受け取った側の事情である。
まとめ:この回でいちばん動いたのは、言えた人ではなく言えなかった人
この回は、名前がついた側(山田と西、谷と鈴木)と、まだつかない側(東と平)を、同じ長さで並べて置いてある。
名前がついた側のほうが、不安を抱えている
面白いのは、名前がついた側のほうが不安を抱えていることである。西は自分の趣味に相手を付き合わせている後ろめたさを抱え、谷は安心させたその口で見栄を張っていると自分を責める。関係に名前がつくと、失うものが増えるからだろう。逆に東は、名前がないぶん身軽なはずなのに「悔しい」で足止めを食っている。境目のない変化をグラデーションと呼ぶなら、この回はその一枚を六人ぶん切り出したものだった。
次回の予想
公式サイトの一覧では次が第20話「この先」で、あらすじは「高校3年生になり、進路に揺れる一同。受験勉強に追われ、鈴木は谷と会える時間の少なさに寂しさを覚えていたが、谷もまた自分の進路に迷いを抱き始めていた」と出ている(※4)。第19話で谷が独白した「離れ難いのも不安なのも、本当は自分の方だ」の続きがそのまま来る形で、鈴木の不安を受け止めた側が、今度は自分の迷いを抱えることになる。気になるのは谷の見栄がどこで割れるかで、第19話では独白の中だけに置かれたものが、次は鈴木に向かって出てくるのかどうか。原作は阿賀沢紅茶(集英社「ジャンプ コミックス」刊)、監督は長友孝和、シリーズ構成は内海照子、キャラクターデザインはみやこまこ(※5)。もっとも、ここから先はあくまで予想である。
出典
※1 テレビアニメ公式サイト 第19話「グラデーション」(公式あらすじ)/sh-anime.shochiku.co.jp
※2 テレビアニメ公式サイト ストーリー(第1話から第20話までの副題一覧)/sh-anime.shochiku.co.jp
※3 テレビアニメ公式サイト 第18話「春の手前」(公式あらすじ)/sh-anime.shochiku.co.jp
※4 テレビアニメ公式サイト 第20話「この先」(公式あらすじ)/sh-anime.shochiku.co.jp
※5 テレビアニメ公式サイト スタッフ/sh-anime.shochiku.co.jp




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