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第19話のサブタイトルは「グラデーション」。前半は山田と西の水族館デートと鈴木の誕生日、後半はクラス替えという並びだが、この回がいちばん時間をかけて掘るのは東の内側である。しかも安心させる側にいたはずの谷が、その直後にひとりで正反対の独白をしている。寂しいでも悲しいでもない感情に、本人が名前をつけられないまま終わる回だった。




公式サブタイトルは「グラデーション」。二年生が終わって、それぞれの春休み
「デート」と言える人と、言えない人
冒頭のナレーションが「二年生も終わり、各々が思い思いの春休みを過ごしていた」で、そこから六人ぶんの春が順番に並べられていく。この回は誰か一人の物語ではなく、同じ季節を六通りに映す作りになっている。
最初に置かれるのが山田と西である。「課題、先に片付けたほうが安心するから」「終わったらどっか行こうな」という約束の中で、山田が「遊びの方のデート」と言い切る。西の内心が「デート」「躊躇なく発声できるのすごい」だった。第17話で先に告白したのは西の方なのに、その単語をあっさり出せるのは山田の方である。
恋人になっても、この二人の間では西のほうが言葉に詰まる。付き合う前と力関係が変わっていないのが、むしろこの作品らしいと思う。
「自分が行きたい場所に人を連れて行くのって緊張する」
行き先は西が選んだ水族館である。「小さい頃、近くの水族館の年パスを持ってたから、家族でよく行ってて」と説明が始まり、「ここは来るの初めてなんだけど、前から気になってはいて」まで一息に出てしまう。直後の内心が「急に早口で喋り倒してしまった」だった。
入場前の内心が、この場面の芯になっている。「すごく今更だけど、自分が行きたい場所に人を連れて行くのって緊張する」「山田君的に退屈だったりしないといいな」。人見知りの人が、自分の好きな場所を人に見せるときにだけ起きる緊張で、好きだからこそ怖い、という順番になっている。
記事内のツイートが「自分一人だけが楽しんでいたらと思うのは自信のなさと優しさ」と書いていて、たぶんその両方だと思う。どちらか片方なら、ここまで前もって心配しない。
水族館。見逃した水槽と、引っ込めた心残り
水がかかる席と、出せなかったカメラ
館内に入ると西は「夢中で見入ってしまった」「というか序盤なのに時間かけすぎ」と自分を急かし始める。「なるべくサクサク回ろう」と自戒までしていて、隣の山田は普通に「きれいだね」と言っているだけである。
いちばん切ないのが「今急に大きなカメラ取り出したら、私だけ本気すぎる感じになるかな」という内心だ。カメラは持ってきている。持ってきていて、出さない。
イルカショーでは席取りで一悶着ある。空いていたのが「こちらのエリアは大変水がかかるお席となっております」という場所で、二人とも相手が嫌がるのではないかと気にして譲り合いになる。
好きなものを見に来ているのに、半分は相手の顔色をうかがっている。この居心地の悪さの描き方が、この作品はいつも異様にうまい。
「俺も心残りやんだけどいい?」と、呼び方が変わる場面
終演後、西が「序盤の水槽、もうちょっと見てもいい?」と言い出せたのが、この日の小さな前進である。山田の返事は「おお、もちろん」。目当ての生き物が出てきて「出てくれてありがとう、満足です」まで言い切る。
そのあと山田が「俺も心残りやんだけどいい?」と切り出す。中身は、序盤に見かけて「乗りたい」と口に出しながら自分で引っ込めたメリーゴーランドだった。「いえーい」「やりたかったんだ」で、我慢していたのが西だけではなかったことが分かる。
そして呼び方が変わる。「最初、私ばっかり楽しんでたらどうしようかとヒヤヒヤしちゃった」に対する山田の答えが「奈津美ちゃんが楽しそうだったら俺も楽しみだよ」「もっと適当でオッケー」で、この中に下の名前がまぎれ込んでいる。理由が「西さん読みはなんかなーって思ってて」で、そこから「奈津美」「なっちゃん」と試して、西の返事が「お任せします」だった。心配していたことが全部いらなかった、という順番で置かれているのが気持ちいい。
鈴木の誕生日と、谷が張っている見栄
花見と、「それは春の手前」
場面が変わって鈴木と谷である。前日の電話で谷が「誕生日おめでとう」と言い、「明日、公園近くで行きたいとこある?」と誘う。鈴木の誕生日が春休み中だという第18話の会話が、そのまま実装されている。
当日は花見になる。鈴木はすでに東と渡辺とも花見をしていて、そのときに誕生日も祝ってもらっている。それを話したあとで「あれ? なんかプレゼント催促したみたいになってる?」と一人で慌て出すのが、いかにも鈴木である。
会話の中に「ちょっと前、寂しいって言ってなかった?」「それは春の手前」というやり取りがある。前回の副題を、本編が自分で参照している形だ。締めが「ずっと今みたいな時間だけが続けばいいのに」だった。
いちばん機嫌のいい場面で出てくるのが「続けばいいのに」なのが、この作品の容赦のないところだと思う。
「離れ難いのも不安なのも、本当は自分の方だ」
ケーキ屋の場面で、谷からのプレゼントが渡される。蓋つきの保温タンブラーで、「蓋もついてるから、部屋に持って行ったりするのにちょうどいいかなって」という選び方である。鈴木の感想が「なんかすごく彼氏っぽい」だった。
谷の返しが正直すぎる。「けど、どれも自分一人じゃしないことだから」「見栄張ってるというか、格好つけてる部分はあると思う」。鈴木の「言っちゃうんだ」に、「けど、そう思ってもらえるの嬉しい」と重ねてくる。
そこから鈴木が不安を出す。「三年生、同じクラスになれたら嬉しいけど、確率的に難しいじゃん」「すれ違ったり寂しくなったりするのかなって」。谷の答えが「今までよりは会える時間も減るだろうけど」「気にしないようにって飲み込むんじゃなくて、伝えてほしい」「変わらないよ、僕は」で、鈴木は「それ聞いてちょっと安心した」と笑う。
ところが直後に谷の独白が来る。「本音を伝えるふりをして、まだ僕は見栄を張っている」「安心させるふりをして、自分に言い聞かせた言葉」「離れ難いのも不安なのも、本当は自分の方だ」「格好をつけることが、かえって格好悪く感じる」。安心させた側が、いちばん不安だったという置き方で、ここがこの回の隠れた山場だと思う。
ファミレスに集まる三人と、東が考えるのをやめた夜
ラーメン臭いと、カラオケ臭い
東のところには山田から電話が来る。バイト終わりで駐輪場にいるところで、用件が「今、俺と平でファミレスにいるけど、地元だし、東も近いんじゃねって思って」。先に用件を言わないので「今日、先に説明しろよ」と突っ込まれている。
合流した東の第一声が「今、私ラーメン臭いかもだけど大丈夫?」で、返ってくるのが「大丈夫大丈夫、俺らもカラオケくせえし」。東のバイト先がラーメン屋だと、ここで初めて分かる。
三人になると平と東のやり取りが加速する。「平って何歌うん?」「いいだろ別に何でも」「なんか私にだけやたら壁つくんじゃん」「聞き方から悪意がはみ出てんだよ」「どうせいじる気満々だろ」「いじるよ」「否定しろ」。見ていた山田の判定が「ケンカ漫才?」だった。
第18話で二人きりで入ったファミレスに、今度は山田がいる。同じ場所で人数が一人増えただけで、まったく別の空気になっているのが面白い。
「そもそも私はどうしたい」
その裏で東の内心はずっと動いている。「自分の気持ちがどれなのかとか、変に頭にちらついてるなあ」から始まるのに、実際に会ってみると「だいぶ普通に行けるわ」と拍子抜けしている。
そこから出てくるのが本題である。「というか私、男子とこんなふうにちゃんと友達だったこと、あんまりなかったかも」「今まではもう最初から始まってる感あったというか」「近づかれてる時点でそういう空気だったし」「なんなら、その最初の空気感が一番楽しいくらいに思ってたとこあったし」。恋愛経験の話ではなく、友達だった経験がないという話になっている。
結論の出し方がこの回でいちばん好きだった。「そもそも私はどうしたい」「付き合いたい」「平と?」「いやいやいや」と自分で自分に突っ込み、「昔は好きかもぐらいの軽さで恋愛モードに慣れてたけど、もっと大切に慎重に考えないと」まで来て、たどり着くのが「だからもう、考えるのをやめよう」である。慎重に考えなきゃ、の次が考えるのをやめよう。結論ではなく先送りで、しかも本人はそれを解決だと思っていない。
クラス替え。六者六様のばらけ方
誰と誰が同じで、誰と誰が離れたか
新学期のクラス替えで顔ぶれが割れる。鈴木は渡辺と同じ、谷は平と同じ、東は佐藤と同じ、西は本田と同じ。つまり鈴木と谷は別のクラスになり、東と平も離れた。
西と本田のところが、いちばん言葉数が多い。「またクラス同じ」「嬉しい嬉しい嬉しい」「ねえ、また一年よろしく」。第16話で「せめて背中を押したい」と決めた人が、今年も隣の席にいる。
一方の鈴木は、東づてに互いの話を聞いていたという同級生と鉢合わせて、「勝手に結構知ってる感じになってるわ」「奇遇だね、私も」と挨拶を交わしている。ばらけたぶんだけ、新しい線もつながっている。
誰も一人になっていないのに、全員が去年とは違う組み合わせになっている。この配り方が丁寧だと思う。
「平の頭の中に全然私のことなさそうな感じがなんか悔しい」
帰り道、東と平が並ぶ。「それで、どうだ新しいクラスは」「親か」というやり取りのあと、平が「まあ、俺的にはいいクラスかも」と即答する。東の「ま、他にいるもんな」に、平は「そこじゃなくて、荒れなさそう的な意味でな」と返している。
東の側は「即答すんの結構意外だったな」で止まる。そこから独白が始まる。「自分と仲いい相手に、自分よりも仲がいい人がいるのかも、なんて大体いつもそうなんだけど」「そんなの気にしだしたらきりないし」「今まではもっと割り切れてたのに」。
そして名前がつかない。「寂しい、悲しい、なんか違うの」「悔しい」「自分ばっか頭パンパンで、平の頭の中に全然私のことなさそうな感じがなんか悔しい」「なんだこの感情」「幼稚、みっともない、やだやだ」。感情の名前を三つ試して、三つとも当たらない。副題はたぶんここを指している。境目がないまま色が変わっていて、本人だけが自分がどこにいるか分からない。
「グラデーション」まとめと考察
「どうせ俺ら放課後会うし」からのスキップ
別れ際、東が「クラス離れちゃったな」と言う。平の返事が「え、まあそうだな、確かに」で、東は「もうなんだ、その感じ。ドライだな」と食い下がる。
そこで出てくるのが「どうせ俺ら放課後会うし、駅とかこの辺で」だった。平にしてみれば当たり前のことを言っただけで、「え、そう思ってたん俺だけ」と不安になっている顔まで読み取られている。東の「ああ違う違う、そう、本当そう」で終わる。
帰り道の東はスキップしている。直前まで「幼稚、みっともない」と自分を責めていた人が、一言もらっただけで足取りが変わる。欲しかったのは告白でも進展でもなく、離れても会うという確認だけだった。安いようでいて、たぶん今の東にはこれ以上のものは受け取れない。
考察。名前がついた関係と、まだつかない関係
公式アカウントが放送後に出した一言が「名前がついた関係も、そうでない関係も、今この瞬間を大切に」で、この回の設計をそのまま説明している。名前がついた側が山田と西、そして鈴木と谷。まだつかない側が東と平である。
面白いのは、名前がついた側のほうが不安を抱えていることだ。西は自分の趣味に相手を付き合わせている後ろめたさで頭がいっぱいになり、谷は見栄を張っている自覚を独白でしか吐き出せていない。関係に名前がつくと、失うものが増える。
逆に東は、名前がないぶん身軽なはずなのに「悔しい」で足止めを食っている。受験の年に入る六人が、同じ季節から別々の色へ分かれていく。境目のない変化のことをグラデーションと呼ぶなら、この回はまさにその一枚だった。次に効いてきそうなのは、谷が誰にも言っていない不安と、東が考えるのをやめようで蓋をした感情の二つだと思う。どちらも本人が自分で開けるまで、周りからは見えない。




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