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家庭科の授業で、あかねが一生懸命に焼いた手作りの動物クッキー。形はいびつでも、そこには乱馬に食べてほしいというまっすぐな思いが込められていた。ところが、黒バラの小太刀が現れてそれを奪い去り、さらに五寸釘のカメラが乱馬と小太刀の決定的瞬間をとらえてしまう。奪われたクッキー、隠し撮りされたネガ、そしてかすみ直伝のクッキーに込めたあかねの本音まで、第5話を振り返る。




第5話 五寸釘のネガと手作りクッキー
第3期第5話(第29話)「黒バラクッキー」は、暗い部屋でフィルムを現像する五寸釘の姿から始まる。「これは僕が撮影したあかねさんのネガフィルム」。ネガさえあれば「いつでもいくらでも写真を焼き増しできるんだ」と悦に入る五寸釘のこだわりぶりは、相変わらず執念深くて少し怖い。けれど、このネガこそが今回の騒動の火種になっていく。
家庭科の時間と黒バラの影
学校では家庭科の授業でクッキー作りの真っ最中。お菓子を作るあかねの姿を、五寸釘は物陰からこっそり撮り続けている。「お菓子を作ってる姿も素敵だ」とうっとりする五寸釘を見つけたのは乱馬だった。「あかねばっか撮ってて飽きねえのか」とフィルムを台無しにされても、「フィルムの予備ならいくらでもあるんだからな」と一歩も引かないあたりが五寸釘らしい。
一方、別の学校でも同じようにクッキー作りが行われていた。「急用を思い立ちましたので」と授業を抜け出していく人物の言葉づかいと、黒バラの気配。乱馬を思う小太刀の再登場を予感させる、わくわくする導入だった。
フィルムを現像して写真を焼き増しするという五寸釘の手法は、今となってはどこか懐かしい。データではなく一枚のネガが物理的に存在するからこそ、それを奪い合うという騒動が成り立つ。古風な小道具が、そのまま物語の仕掛けとして生きているのが面白いところだ。
動物クッキーの品評会
焼き上がったあかねのクッキーをめぐっては、九能先輩がさっそく名乗りを上げる。そこへ「気が遠くなるほどまずいぞ」と水を差す声。あかねは「うまいかまずいか、食べてから文句言いなさいよ」と言い返し、「かわいいでしょ、動物クッキーよ」と自信作を差し出す。
ところが、形がまったく伝わらない。タコかと聞かれて「失礼ね、ペンギンよ」、カニかと聞かれてライオン、「わかった、ミジンコだ」と言われて「ウサギよ」。当てずっぽうの答えが次々に外れていくテンポのよいやり取りは、何度見ても笑ってしまう。
不器用なりに一生懸命作ったことは、いびつな形からも伝わってくる。からかいながらも、あかねのクッキーから目を離せない乱馬の様子に、二人のいつもの距離感がにじんでいた。家庭科の授業というありふれた場面が、この二人と九能先輩が集まるだけで一気ににぎやかな騒動の舞台に変わってしまう。そのテンポのよさこそ、この作品の大きな魅力だと改めて感じた。
黒バラの小太刀、ふたたび
奪われたクッキー
そこへ現れたのが、黒バラの小太刀だった。「お久しぶりです乱馬様」と優雅にあいさつする妹を、九能先輩は「我が変態妹ではないか」と迎える。兄妹そろって濃すぎるやり取りに、思わず吹き出してしまった。
小太刀はあかねのクッキーを奪い去り、「このようなもの、乱馬様のお口に合いませんわ」と言い放つ。残されたあかねの怒りの矛先は、なぜか乱馬へ。「乱馬が悪いんだ」、「一生懸命作ったのに」と涙ながらに叫ぶあかねの姿が胸に刺さる。
乱馬からすれば完全なとばっちりだが、あかねの叫びには、乱馬に食べてほしかったという本音がそのまま出ている。素直に言えない分、怒りとしてぶつけてしまうあかねの不器用さが、たまらなくいじらしい。
小太刀の登場シーンは、何度見ても華やかで強烈だ。現れるなり、相手の都合などお構いなしに自分の思い込みだけで突き進んでいく。久しぶりの登場でも、その勢いはまったく衰えていなかった。あかねにとっては迷惑な恋敵でしかないが、見ている側としては、彼女が出てくるだけで物語が一段と騒がしくなるのが楽しい。
隠し撮りされた決定的瞬間
クッキーを追いかけてきた乱馬に、小太刀は「きっと追ってきてくださると思っていました」と大喜び。「おめえじゃなくってクッキー追ってきたんだよ」と必死に否定する乱馬に構わず迫った小太刀は、「続きはいずれまた」と言い残して去っていく。
取り戻したクッキーの騒ぎの中で、小太刀のクッキーには「やはり眠り薬が仕込んであったか」という事実も判明する。妹の迷惑ぶりをとがめられ、「もはや返す言葉もない」と答える九能先輩の姿には、兄としての苦労がにじんでいた。
そして、すべてを見ていたのが五寸釘だった。「早乙女の浮気現場を隠し撮りしてしまった」とうろたえる五寸釘の前に現れ、「そのフィルムください」と迫る小太刀。何気ない一枚の写真が、とんでもない取引材料に変わる瞬間だった。
あかねのリベンジと小太刀の手紙
かすみ直伝のクッキー
家に帰ったあかねは、最初からまずいと決めつけて食べもしなかった乱馬に腹を立てていた。「乱馬のバカ」とつぶやきながらも、向かったのはかすみのところ。クッキーのおいしい作り方を教えてほしいと頼み込む。
乱馬のためかと聞かれて慌てて否定しつつ、「あいつにおいしいって一言言わせたいだけで」、「とにかく乱馬に負けたくないの」と打ち明けるあかね。負けず嫌いを装いながら、本音は乱馬に喜んでほしいという気持ちが見え見えで、とてもかわいらしい。
かすみは「とびっきりおいしいクッキーの作り方教えてあげるわね」と優しく応じる。ところが、バニラエッセンスのつもりで手に取ったのは「あかねそれラー油よ」。危なっかしい場面を挟みつつも、最後は「いい焼き色」、「頑張ったわね」と言ってもらえるクッキーが焼き上がった。
かすみの穏やかなフォローがあったからこそ、あかねは最後まで投げ出さずに作り切れたのだろう。姉妹の温かいやり取りが、騒がしい回の中でほっと一息つける場面になっていた。
写真を食べる乱馬
ところが、満を持して差し出したクッキーを食べてもらう前に、小太刀から手紙が届く。「手料理を作ってお待ちしています」という誘いに添えられていたのは、あの時の二人の記念写真。「嬉しくて街中にばらまきたい気分ですわ」という脅しに、乱馬は顔色を変えて飛び出していく。
あかねの「食べないで逃げる気」という声にも、「それどころじゃねえ」と振り返らない乱馬。あかねからすれば、せっかくのクッキーを放り出して小太刀のもとへ向かったように見えてしまうのが切ない。
九能家で待っていたのは、例の写真を焼き付けた料理の数々だった。「写真お好きなんですね」と次々に写真を差し出す小太刀に、証拠を消すため食べ続ける乱馬。「とてもこんなに食い切れるかよ」と悲鳴を上げた末に、元を断つため「この写真のネガが食いたい」と頼み込む作戦に出る。「乱馬様のためなら喜んで」と応じる小太刀との噛み合わなさが、ひたすらおかしかった。
写真を食べて証拠を消すという発想そのものが、あまりにもばかばかしくて最高だった。どれだけ食べても次から次へと写真料理が出てくる絵面は、乱馬の焦りが伝わってくるほど必死なのに、見ている側は笑いが止まらない。ネガという元を断たない限り終わらないと気づく流れも、筋が通っていて妙に納得してしまった。
第5話のまとめ考察
九能家とミドリガメくん
九能家には、やがてあかねも乗り込んでくる。九能先輩の「誰が横恋慕しとるか」というずれた返しや、交際を申し込みに来たと決めつけられたあかねの「誰が交際を申し込んどりますか」という即答など、九能兄妹のペースに巻き込まれていく流れが楽しい。「今頃ノコノコ現れても手遅れです」と勝ち誇る小太刀に対し、あかねは「乱馬のやつ絶対ゆすられてるんだ」と見抜き、「このまま帰るもんですか」と居座りを決める。
肝心のネガは、「池で飼っているミドリガメくんの首輪の中にしまってあります」というとんでもない場所にあった。しかも、そのミドリガメくんの正体は大きなワニ。首輪を無理に外すと「高圧電流が流れる仕組みでした」という念の入れようで、九能家の常識外れぶりに笑うしかない。
ペットのワニにかわいらしい名前をつけ、その首輪に大事なネガを隠してしまう発想は、まさに九能家ならでは。乱馬がどれだけ知恵を絞っても、一筋縄ではいかない仕掛けが次々に待ち受けているのが、この屋敷の恐ろしいところだ。一方で、真相を探ろうと九能先輩の部屋に入り込んだあかねも、乱馬が何をゆすられているのかを突き止めようと動き出していて、二人がそれぞれ別の場所で奮闘している構図も面白かった。
池に落ちて女の姿になったらんまの前に、九能先輩が「おさげの女」と目を輝かせて現れたところで、物語は大騒ぎのまま幕を閉じる。ネガは取り戻せるのか、あかねは真相にたどり着けるのか、気になるところで終わる構成が憎い。
素直になれないあかねの一途さ
第5話を振り返ると、物語の中心にあったのはあかねの手作りクッキーだった。小太刀の強引な奪取、五寸釘の隠し撮り、九能家での写真料理と、騒動はどんどん大きくなっていく。それでも、その出発点はあかねが乱馬に食べてもらいたかった一枚のクッキーにあった。
乱馬もまた、あかねにあの写真を見られたくない一心で必死になっている。お互いを意識しているからこそ空回りしてしまう二人の関係が、今回も騒動の原動力になっていた。小太刀の暴走と五寸釘の執念という強烈なキャラクターたちに囲まれながらも、最後に心に残るのは、乱馬においしいと言わせたいと願うあかねのまっすぐな気持ちだった。
かすみに教わって焼き直したクッキーを、乱馬はまだ口にしていない。あかねの努力が報われる瞬間はいつ訪れるのか。乱馬が本当のことを言えないまま走り回る姿と、それを知らずに怒るあかねの姿がすれ違うほど、二人がわかり合える瞬間への期待はふくらんでいく。騒がしいドタバタの裏に、そんな切なさがしっかり描かれていたのが印象的だった。
小太刀の濃いキャラクターも、改めて見るとやはり強烈だ。思い込みの激しさと行動力、そして手段を選ばない一途さ。迷惑きわまりないけれど、どこか憎めないのは、乱馬への気持ちだけはいつも本気だからだろう。兄の九能先輩と並ぶと、九能家の血筋の濃さを改めて思い知らされる回でもあった。




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