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『DIGIMON BEATBREAK』第46話の副題は「バグ」。この一語は回のあいだに三回、持ち主を変える。王会長はデジモンをバグと呼んで排除すると宣言し、ニリンソウを襲ってきた新しい五行星は同じ言葉を人にも向ける。そして最後に、その言葉を自分の側の動詞として持ち帰るのがトモロウだった。あわせて、サポタマを作り替えると言い出した回に、サポタマを作った本人が現れるのもこの回だ。




副題「バグ」は、この回のあいだに持ち主が入れ替わる
第46話の副題は「バグ」。公式サイトのあらすじは「ニリンソウで目を覚ましたトモロウは悲痛な表情を浮かべていた。一方、王会長はデジモンというバグを排除し、理想的な世界を届けると宣言する」と書き出している。この一語が、回のあいだに三度も持ち主を変えていくのがおもしろかった。
副題そのものも異例だ。ここまで四十六本並んだ題のなかで、「バグ」は最も短い。第9話の「理想郷」や第36話の「歪んだコード」と同じ系統の言葉だが、それらよりさらに削られている。しかも今回、王会長の会見の締めが「理想的な世界を皆様のもとに」で、第9話の題とそのまま重なる。
まず、排除される側の名前として出てくる
王会長の会見はこう組み立てられている。異常なe-パルスを発生させる人間のサポタマには、まれにエラー、つまりバグが発生する。そこから実体化するのがデジモンだ、と。そのうえで「サポタマを完全にデバッグし、全く新たなシステムにアップデートします」と続く。
バグという言い方をすると、消すことがそのまま整備の作業になる。倒すとも殺すとも言わずに済むし、反対する理由も技術の話に見えなくなる。会見の言葉づかいは最後まで穏やかなままだ。
次に、敵が同じ言葉を人にも使う
ニリンソウを襲ってきた側は、その言い方をそのまま人とデジモンの両方に向ける。「お前らもバグだから狩ってやる」。さらに、人間の味方をするデジモンに対しては、そういう連中に飼われていたせいでお前たちもバグってしまった、という理屈まで足してくる。
会見では手続きの言葉だったものが、現場では相手を数えないための言葉になっている。同じ一語で、片方は制度を語り、片方は狩りを正当化する。返しは「狩られるのはあなたの方よ」だった。
サポタマを作り替えると言った回に、それを作った人が出てくる
王会長が宣言したのは、思想ではなく道具の入れ替えだ。サポタマを新システムに更新し、持ち主と自動でリンクさせ、異常なe-パルスを事前に検知して強制的に排除する。ここまで全部が、あの手のひらサイズの端末の話でできている。
公式が同じ日に足した一行
その道具について、公式サイトは放送当日に新しい人物を登録している。天馬タスク。紹介文は「トモロウ、アスカの祖父。サポタマの開発者。神生島事件後は、『さくら園』で身寄りがなくなった子ども達の面倒を見ていた」(CV 堀内賢雄)。
取り上げて作り替えると宣言された道具の、設計者が同じ回に現れる。しかも孫にとっては初対面で、本人も「覚えてないよな」と言う。四十六話目にして初めて出てくる身内、という受け取られ方をしていたのも当然だった。
作った側は、数が足りないと言っている
一方でタスクの手元にあるのは、王会長の仕組みを切るための装置だ。準備を尋ねられたときの答えが「なんとか完成させたが、数が足りん」だった。
世界中の端末を一度につなぎ替えられる側と、数が足りないと言いながら手作りしている側。同じ道具をめぐって、規模の差がそのまま台詞の長さの差になっている。会見は数分あるのに、こちらは一行で終わる。
反対したから、家族ごと消された
タスクが語る過去は短い。神生島の事件のあと、自分はe-パルスの商業利用に反対し続けた。王会長は口を封じようとし、抵抗したトモロウの両親まで逮捕した。そして大学の後輩たちの協力で、国民保護省の特別収容所に隠れて生き延びてきた。
いちばん安全だった場所が、敵の側の施設だったという説明になっている。理由は「あそこは王の目も届かなかったからな」。追う側の組織の内側が、追われる側の避難先として機能していた。
「理想的な世界」は、選別で作られる
会見の締めは「理想的な世界を皆様のもとに」だった。ところがその場でひとりだけ、話を止めようとする声が上がる。「いやおかしいですよ、これでは人間はe-パルスによって選別されるということに」。
反論はその一言だけで終わる
この指摘は正確で、しかも作中でいちばん短い。にもかかわらず、そこから議論には広がらない。会場のもう一方には「これですべては王会長の思うまま」という受け止めが並んでいて、選別という言葉が出たあとに続くのが、感心の声のほうだった。
用意されている仕組みも回りくどくない。世界中のサポタマはミラーワールドのホストサーバー、アプラクサスへ常時つながっている。そしてその中心にアルバタスモンが組み込まれた。
会見の言い回しも徹底している。アップデートが始まればバグの発生はなくなり、デジモンも適切に管理されることになるでしょう、という言い方だ。消すとは言わず、管理すると言う。
「接続解除は不可能」と先に言われている
説明のなかで一番きついのがこの一言だ。つないだあとで切れないなら、更新に同意するかどうかを選ぶ余地は最初から無い。異常を検知すればタグから強制的にe-パルスを吸い上げる、という手順まで公開されている。
第45話でアルバタスモンが見せたのは「さあ、ここにある全てのe-パルスを吸い尽くしなさい」という一撃だった。あのとき戦場でやったことが、今回は世界規模の常設の仕組みとして説明されている。技が制度になった、と言い換えてもいい。
三つの席が同時に空いて、代わりはもう動いている
王会長の指示は「お前たちの手でクリーナーを消せ」だった。理由は、彼らのサポタマが正常に機能していないから。ここまでは会見の理屈と地続きである。
消せと命じられた相手が、辞表を三通出す
ところが命じられた側が差し出したのは、報告ではなく退職の意思だった。「二人から預かってきたの」「火と水の星、五行星をやめると」。そのうえで「あと、これは私の分」と続く。
命令を受け取る場が、そのまま三人ぶんの離脱を渡す場になっている。火の星の側も、少し前に「俺はもう五行星じゃねえ、てめえらも好きにしろ」と部下に言っている。上から順に外れていくのではなく、同じタイミングで三つが抜けた。
抜ける側は、残る人に何も指示しない
火の星の宣言も、部下を連れて行くための言葉ではなかった。どういうことかと詰め寄られて返ってくるのが「俺はもう五行星じゃねえ」で、そのあとに続くのが「てめえらも好きにしろ」だけである。
辞める理由も、次に何をするべきかも、一言も渡していない。決めるのは自分たちだ、という形で置いていく。残された側がどう動くかは、この回では描かれないまま次へ流れる。
返事が「ご安心を」だったのがこわい
側近の返しは動じない。「ご安心を、すでに新たな木の五行星を動かしています」。辞めた本人の目の前で、もう代わりが動いていると報告している。席は人ではなく番号だった、ということがこれで分かる。
その新しい木の五行星も、公式サイトが放送当日に登録している。西野センカ(CV 豊口めぐみ)、紹介文は「新しい木の五行星。挑発的な態度で相手を刺激する」。ただし登録先は五行星の欄ではなく「その他」で、五行星のページのほうは今も前任者のまま並んでいる。第43話で土の星が交代したときも同じだった。
助けに来たのは、かつて助けられた側だった
ニリンソウ側は戦える状態ではない。キョウは一命を取り留めたものの、もうクリーナーとしては動けない。トモロウは「俺がわがまま言ったせいで」と自分を責めていて、ファミリーの話し合いも「私たちにできることなんてない」「私たち、正義の味方じゃない」で止まってしまう。
止まっていたのは、責任の取り方が分からないからだ
トモロウの止まり方は、負けたからではない。「俺がわがまま言ったせいで」と、キョウが失ったものを自分の選択に結び付けてしまっている。ファミリーの会話も、できることが無いという確認で終わってしまう。
ここで足りないのは戦力ではなく、動いていい理由のほうだ。そして外から来るのは戦力の補充に見えて、じつは理由のほうの補充になっている。
「今度は僕たちの番よ」
そこへ入ってくるのが、これまでの回で助けられてきたデジモンたちだった。相手は完全体で、勝ち目の説明はどこにもない。それでも出てくるのが「あなたたちを守る、今度は僕たちの番よ」という言い方だ。
一年かけて積み上げてきたのは強さではなく、貸し借りのほうだったことになる。困っている相手に手を伸ばしてきた回が全部、ここで返ってくる形に組み直されている。
公式が「逃げ出す」と書いたデジモンが並んでいる
公式サイトはこの回に合わせて四体のデジモンを追加している。ブラキモン、トリケラモン、ヴァーミリモン、そしてユラモンだ。前の三体は竜の形をした戦えるデジモンだが、四体目の紹介文はこうなっている。
「体中を細長く柔らかい毛の様な物で覆われた種子型デジモン。攻撃力は殆ど無く、粘着性の泡を吐き出し相手の動きを鈍らせ、その隙に逃げ出す」。公式のプロフィールが、逃げるための技しか持っていないと書いている。その説明を持った個体が、この回では逃げないほうに立っている。
その場にいない人の言葉が、全員を動かしている
この回のキョウは、ほとんど何もできない。それなのに、動く人たちの口から出てくる理屈がだいたいキョウのものだ。
「ここを作った人が言ったんだ」
敵の前で立ちふさがった側の言い分がこうだった。俺たちはどうしようもなかった、でも「ここを作った人が言ったんだ」「何度でもやり直せるって」。そして人間とデジモンが一緒に暮らせる、「ここはその夢を守る場所だ」「だから絶対に壊させない」。
守っているのは建物ではなく、そこで言われた一文のほうだ。相手はそれを「そんな夢くだらない」と切り捨てるが、切り捨てられているのが誰の言葉なのかは、この時点でもう画面の外にある。
ここを作った人、という呼び方も効いている。公式サイトのキョウの紹介文は「グローイングドーンのリーダー。最強クラスの実力を持つ天才クリーナー。自分の仲間を『家族』と呼び、大切にしている」で、シェルターの主であることが前提として置かれている。名前を出さずに場所のほうから呼んでも、誰のことかが通じてしまう関係が積み上がっていた。
呼んだのは仲間だった
増援が現れた場面のやり取りも短い。「どうして」と驚く側に、「俺が呼んだ」と返る。理由は「今必要なのは仲間だろ」だけだ。
作戦でも兵力でもなく、必要なものの名前として仲間が出てくる。第45話で腕とパートナーを失った回のあと、最初に選ばれた手段がこれだった、というのが効いている。
消えていたのは、国民保護省のほうだった
この回にはもうひとつ、静かな逆転が入っている。制度の側が、いつの間にか無くなっているのだ。
「そんなものもうとっくに消えてるし」
追い詰められた相手が捨て台詞のように口にするのが「次はラボからもっと使える兵士連れて行け」。返ってくるのは「次はない」「あんたは国民保護省行きよ」。ところがそこへ「国民保護省? そんなものもうとっくに消えてるし」がかぶさる。
連行先として名前を出した組織が、口にした本人の知らないうちに存在しなくなっている。脅し文句が空振りする形で、状況が変わったことだけが伝わる作りだ。
現場の側は、まだ古い地図で喋っている
面白いのは、この台詞を吐いた側が自分の後ろ盾の消滅を知らないことだ。ラボからもっと使える兵士を、という言い方は、送り出す組織がまだあることを前提にしている。
使い捨てにされる順番が、いちばん近くにいる人ほど早い。会見でクリーナーが犯罪者集団として名指しされたのと、この場面の空振りは、同じ一本の線の上にある。
すべてを押し付けてから消した
消え方の説明も先に出ている。会見では、デジモンの存在は国民保護省がクリーナーという犯罪者集団を使って隠蔽してきた、と説明されていた。そして現場では「すべて国民保護省のせいにして、口封じってわけね」という受け取り方が出てくる。
不都合を集める役割の組織を作っておいて、集め終わったところで畳んでいる。クリーナーを消せという指示も、同じ流れの最後の一手として並んでいる。
最後まで、手渡しで進む
この回の物語は、大きな一撃ではなく物のやり取りで進む。誰かが誰かに手渡し、その人がまた別の誰かに手渡す。それだけで状況が動く。
「それは彼らにこそ必要だ」
河原崎は、自分の時間があるうちに会わせたい人がいる、と言って動く。届けるのはタグとサポタマの強制接続を解除できるもので、渡す理由が「それは彼らにこそ必要だ」だった。
自分のために使う選択肢を一度も口にしないまま、行き先だけを決めている。この場面のあと、視聴者の側から格好よすぎると言われていたのもよく分かる。
もう無い組織の人から、最後の依頼が来る
締めの段取りが利いている。河原崎はもう国民保護省が無いと知っている。そのうえで届くのが「あの人から依頼があるわ」という伝え方だった。中身は「最後の」「王会長の偽りのシャングリラをぶち壊せ」。
存在しなくなった組織の人間から、依頼という形式で最後の一件が来る。この作品でクリーナーはずっと依頼を受けて動いてきた。その形式だけを最後まで守ったまま、受ける側も出す側も所属を失っている。
「あと一回分だから」
手渡されたものには限りがある。「これを使えばサポタマとタグの接続を強制的に切ることができる」、つまり兄とアルバタスモンも切り離せる。ただし添えられるのが「気をつけて、あと一回分だから」だ。
使える回数が一回しか残っていない道具を、迷いのある人に渡している。送り出す側の言葉も「見せてね、約束した新しい世界」で、確認ではなく期日の無い約束の確認になっている。
それでもトモロウの返事は「俺はもう迷わない」「ファミリーを信じて行ってくる」だった。そして最後の一言が「行こう」「世界をバグらせに」。会見では排除されるものの名前、戦場では相手を数えないための言葉、そして最後に自分の行き先の名前。副題の二文字が、一話のあいだに三回住み替えたことになる。




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