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第11話の副題は「心のありか」。後宮に囲われたユーリは、最初は逃げ道を探していたが、ナディアの罠をくぐり抜けたあと「私、ここを逃げ出すのやめる」と決める。ユーリは自分を殺そうとしたナディアを「その気持ちはわかるから」とかばう。捕虜の世話を続ける姿を、黒太子は「一人の人間として人を惹きつける」と認める。王宮では、姉の生き方を「したたか」と切り捨てる黒太子に、ユーリが真っ向から言い返す。




副題「心のありか」と、後宮という場所
公式のあらすじは、ナディアの正体まで書いている
第11話の副題は「心のありか」。公式サイトのあらすじは「刑場で猛獣との闘いを生き延びたユーリ」から始まり、黒太子が「国民の士気高揚と対外的な威信のためにイシュタルを欲する黒太子は、彼女を後宮に囲う」と続け、最後に側室ナディアが「ナキア皇妃の妹であり、ユーリを始末するようウルヒに唆されている」ことまで明かしている。この回の敵は、戦場ではなく後宮の中から現れる。
後宮の決まり
後宮に入ったユーリに、まず決まりが伝えられる。「ご側室と女官合わせて約200人が暮らしております」、ただし「正室は」「いらっしゃいません」「今後もお持ちになるおつもりがないそうです」。「広間や中庭は自由にお使いになって結構ですが」、南側の一室だけは別で、「今まで入ったものはすべてお手打ちになっております」。自由に見える場所の中に、一つだけ命に関わる部屋が置かれている。
ユーリは待たない
付き添いの二人が、殿下の迎えを待とうと言うと、ユーリは「ううんすぐに逃げ道を探しに行くよ」と返す。理由は「だって王子の足手まといになりたくないし」「自分でここを抜け出すの」。助けを待つ側でいることを、ユーリは最初から選んでいない。この「自分で」が、回の後半で形を変えていく。
ナディアと「身分」
「この中で一番ご身分の高いナディア様ですよ」
後宮で紹介されるのが、バビロニア王家から来たナディアだ。「この中で一番ご身分の高いナディア様ですよ」と言われ、ユーリは「身分」と聞き返す。ナディアは「いいのよ」「早く慣れるようにね」とやわらかく応じるが、ユーリは内心で「何よ正室ではないんでしょ」とつぶやく。正室のいない後宮で、いちばん上に立つことにナディアはこだわっている。
ナキア皇妃の妹
ユーリはやがて、ナディアが誰かに似ていると気づく。ナキア皇妃と同じバビロニア王家の出だという点が、その答えになる。ヒッタイトでユーリを狙い続けてきたナキア皇妃の影が、ミタンニの後宮にまで伸びている。公式のあらすじが書くとおり、ナディアはウルヒにそそのかされている。
黒太子に始末させる筋書き
ナディアの側では「どうやって始末してやろうかしら」という相談が始まる。持ち出されるのは、「ここは下手に騒がず」、黒太子自身の手でユーリを始末させるという筋書きだ。「あの部屋を使ってみようかしら」「殿下に見つけさせるのよ」。自分の手を汚さず、決まりそのものを凶器にする企みになっている。
偽の書簡と、「その気持ちはわかるから」
呼び出された部屋
狙いどおり、ユーリは入ってはいけない部屋にいるところを黒太子に見つかる。「貴様なぜここにいる」、そばからは「殿下早くお手打ちに早く」とせかす声が飛ぶ。決まりを破った者は手打ち、という後宮の約束が、そのままユーリに向けられる。
刃の向きが変わる
ところが次の場面では、黒太子の刃は仕掛けた側に向いている。ユーリは「なんでこの人を殺すのよ」と止め、黒太子は「自分を殺そうとした女を助けるのか」と問う。殺されかけた本人が、殺そうとした相手をかばっている。
「その気持ちはわかるから」
ユーリの理由は「だって好きな人のために何かしたい」「何かしなくちゃいられないって」「その気持ちはわかるから」。黒太子の返事は「バカな女だ」の一言だ。ユーリはナディアの企みの奥にある気持ちを、自分と同じものとして読んでいる。カイルのために自分で逃げ道を探そうとしたユーリだからこそ出てくる言葉だ。
本物なら印章があるはず
黒太子はユーリにも容赦がない。「ムルシリからの書簡なら」「奴の印章が押されているはず」「そんなことが判断できないほど」「奴のことが恋しいのか」。罠にかかった理由を、黒太子は恋しさだと言い当てている。第10話でユーリは、書簡を渡されて「文字」が「読めない」と戸惑い、届いたのは文字ではなく手しるしだった。読めない相手に届く本物と、読めないからこそつけ込まれる偽物が、二話続けて並んでいる。
ナディアへの一言
ナディアに向けられたのは「もう少し骨のある方かと思ったが」だった。黒太子はナディアを、ナキア皇妃の妹という肩書きの割に手ぬるい相手として切り捨てている。後宮で一番の身分にこだわった女性は、こうして黒太子の目から外れていく。
逃げるのをやめて、捕虜のもとへ
「私、ここを逃げ出すのやめる」
この一件のあと、ユーリは付き添いの二人に「私、ここを逃げ出すのやめる」と告げる。「どうせするなら」「王子のためになることをするよ」。心配されても「大丈夫、うまくやるから」。冒頭の「自分でここを抜け出すの」が、「王子のためになること」へ置き換わっている。
捕虜の扱いを確かめる
ユーリは捕虜たちに会わせてほしいと願い出る。黒太子は「捕虜たちに会わせろだと」と驚きつつ、「勝手にしろ」「ただし、見張りはつけるぞ」と許す。捕虜の様子を見たユーリは「ひどい扱いは受けてないみたい」と胸をなで下ろす。第10話で勝ち取った「捕虜たちの扱いを改善すること」という約束を、ユーリは自分の目で確かめに行っている。
泥だらけの世話
ユーリはそのまま病人や怪我人の世話を始める。黒太子が「あやつは一体何をしてるのか」と尋ねると、「はい、なんでも怪我人たちのことを見ているとか」。付き添いの二人は「今日の分の洗濯しなきゃ」「またユーリ様泥だらけになるわ」「本当にこんなことするご身分じゃないのに」とこぼす。後宮で身分を競うナディアと、身分を気にせず泥にまみれるユーリが、同じ回に並んでいる。
「一人の人間として人を惹きつける」
捕虜たちは「綺麗な人だな」「ああ、あんな綺麗な人見たことねえ」「泥だらけでも着飾ってなくても」「どんな姫君より綺麗だ」と話す。それを聞いた黒太子の胸の内が「ムルシリの側室やイシュタルなどとは関係なく」「一人の人間として人を惹きつける」だ。第10話でイシュタルという名前だけを欲しがった黒太子が、ここで初めてユーリを一人の人間として見ている。ただしすぐに「あの娘もタトゥーキアのように」と、別の女性の名前を重ねる。
鉄の車輪と、カイルの期限
防衛線が破られる
国境からの知らせは「第一次、第二次防衛線ともに陥落」「ヒッタイト軍が進攻してきます」。公式サイトの用語解説がミタンニを「最強の戦車軍団を擁する軍事国家」と紹介しているとおり、黒太子は「ムルシリめ」「我が最強の戦車軍団を破ると」と受け止め、「だがこれ以上は進軍させん」「私が出る」と腰を上げる。最強を名乗る戦車軍団が、正面から押し返されている。
「ユーリと約束した期限まであと5ヶ月もない」
ヒッタイト側では、兵が「一年足らずで」ミタンニを落とせるかもしれないと沸くが、カイルは「それでは遅い」と退ける。「ユーリと約束した期限まであと5ヶ月もない」「黒太子との決着はそれまでにつける」。第8話で「10ヶ月でミタンニを滅ぼしてみせる」と言った期限を、カイルは律儀に数え続けている。
鉄の車輪
知らせを聞いたユーリは「王子きっと鉄を使ったんだね」と見抜く。戦場では兵たちが「こっちは車輪も車軸も鉄で強化してるんだ」「お前らの木製とは物が違うんだよ物が」と誇り、同時に「操縦技術は向こうが上だ」と気を引き締めている。腕では勝てない相手に、ヒッタイトは道具の差で勝ちにいっている。
黒太子の出陣は好機
ユーリはさらに先を読む。「黒太子の出陣はチャンスだよ」「守りが手薄になることを王子に知らせよう」。後宮に囲われた身のまま、ユーリは戦の流れを内側から読んでいる。問題は、その知らせをどうやって外へ出すかだ。
ザナンザの迎えと、「今度は私が」
新入りの捕虜はザナンザだった
ユーリは捕虜たちに「ねえこの中で一番元気な人は誰」と尋ね、「それなら昨日来た新入りが体力ありそうですが」と教えられる。現れたのは「ザナンザ王子」だった。捕虜たちも「まさか新入りが殿下のことだとは」と驚く。ザナンザは「もちろんあなたを迎えに」「兄上の指示でね」と、カイルの使いとして捕虜にまぎれ込んでいた。
「ううんここにいる」
「さあ兄上は近くまで来ている」「一緒に行こう」と誘われても、ユーリは「ううんここにいる」と断る。「私はこのまま残って城門を開ける役をする」。ザナンザは「だが明けの明星が昇るまであと4ヶ月」「一刻も早く兄上の元へ行かないと」「じゃないとあなたはまた家族の元に帰れなくなる」と引き止める。ユーリが残ることは、家へ帰る道を自分で細くすることでもある。
「だから今度は私が王子を手伝いたいの」
ユーリの答えは「分かってる」「けど今までカイル王子にずっと守ってもらってきた」「だから今度は私が王子を手伝いたいの」。そこへ捕虜たちが「どうぞ私たちをお使いください」「ユーリ様のおかげで体力は十分あります」と名乗り出る。ユーリが世話をした捕虜たちが、そのままユーリの手足になっている。
「背伸びたかな」
ザナンザは「あなたはまた一回り大きくなったな」と言い、ユーリは「背伸びたかな」ととぼける。成長を体の話にすり替える返しに、張り詰めた場面の中でもユーリらしさが残っている。
王宮で、黒太子の姉の話
黒太子とカイルがぶつかる
戦場ではカイルと黒太子が向き合い、カイルは「必ず取り戻す」と言い切る。ところが黒太子は「ムルシリの剣ならすでに勝負がついてもいいはず」「まさかこれは私を引き止めておく罠か」と気づく。カイルの狙いは黒太子を倒すことより、黒太子を戦場に縛りつけておくことにあった。
ユーリは王宮へ向かう
ザナンザは「いや首都を取っただけではダメだ」、王と王太子を押さえてこそだと説く。「だから兵たちを王宮に向かわせたいが手が足りない」。ユーリは「じゃあ私が行くよ」「私なら王宮に出入りできるから」と申し出て、「このままじゃカイル王子がやってきたことが無駄になる」と押し切る。後宮に囲われていた立場が、王宮へ入れる通行証に変わっている。ザナンザの条件は「兄上がここに着いたら何があっても脱出するんだ」。
王は動かず、ナディアは置いていかれる
王宮では、王が「このままでは王宮が落とされる」とうろたえ、黒太子の「このままワスガンニを脱出しますのでご用意を」にも「余は絶対にここを出ん」と拒む。黒太子は父を「昔の覇気の片鱗もない」と見限る。追いすがるナディアの「私を共にお連れください」には、「ヒッタイトにいる姉を頼りにすればいいだろう」と突き放す。黒太子は、父もナディアも、役に立たないと見れば迷わず切り捨てる。
タトゥーキアは姉だった
ユーリが「ちょっと冷たすぎるんじゃないの」「タトゥーキアって人もどうするのよ」と食ってかかると、黒太子は「何を誤解しているのか知らないが」「タトゥーキアは私の姉だ」と明かす。「もう20年も前にエジプトに嫁いでいる」「父上に金と引き換えに売られてな」。姉はファラオの死後も「次のファラオの正妃に収まった」「それがエジプトの王太后ネフェルティティ陛下だ」。黒太子が女性を信じない理由の根には、売られていった姉がいる。公式サイトの用語解説も、ミタンニの王が「積極的に強国と婚姻を結び」国を広げたと書いている。
「したたか」への反論
黒太子の結論は「女はどこにいてもしたたかに生きていく」。ユーリは「違うよ」「知らない国で心細くて」「そんな風にしか生きられなかったんだよ」と返し、「花だって木だって」「光や水がなければ育たない」「人間だって愛されずに大きくなるなんて無理だよ」と続ける。知らない国で心細いのは、遠い時代に呼び込まれたユーリ自身のことでもある。だからこそ、会ったこともない姉の心の中を言い当てられる。
「本気でそばに置くのも一興かもしれん」
黒太子は「奴はお前を王妃にするつもりか」と尋ね、ユーリは「私にはそんな身分ないよ」「それに私はもうすぐ」と言いかけて止まる。黒太子の返しは「変わった女だ」「本気でそばに置くのも一興かもしれん」。第10話で「本当に側室にするつもりはない」と言った黒太子の言葉が、同じ相手に向けてひっくり返っている。
火の手と、「この女が可愛いなら通せ」
カイルは期限より早く着く
ヒッタイト軍が王宮へ迫る中、カイルは「ユーリはどこだ」と尋ね、ザナンザは「今王宮に」と答える。ザナンザは「早かったのはユーリのおかげです」「彼女をさらったのは黒太子の誤算だ」「兄上を本気にさせましたからね」と続ける。ユーリを奪ったことが、黒太子にとっていちばん高くついている。
街に火が放たれる
「王宮の門が破れました」の知らせに、カイルは「よし、中にユーリがいるはずだ」と応じる。だが「ミタンニ兵が混乱に紛れて」「街に火をつけたようです」「王宮のそばまですでに火の手が」。カイルは「王宮には多くの人間がいるんだぞ」「火を止めろ」と命じ、「よい、私が行く」と自ら向かう。ユーリを取り戻すことと、街の人を守ることを、カイルは同時にやろうとしている。
「この女が可愛いなら通せ」
ユーリは「もうすぐ、カイル王子と」会えるところまで来ていた。そこで黒太子がユーリを盾に取り、「この女が可愛いなら通せ」と言い放つ。本気でそばに置くのも一興と言ったばかりの相手を、黒太子は脱出の人質として使っている。ユーリはまたしても黒太子の手の中で回を終える。
まとめと考察
「心のありか」は、ユーリだけが読めている
この回のユーリは、他人の心を次々に言い当てている。ナディアには「その気持ちはわかるから」、会ったこともない黒太子の姉には「知らない国で心細くて」。副題の「心のありか」は、まず相手の心がどこにあるかを見抜くユーリの力のことだと読める。黒太子が「したたか」と一言で片づけたものの内側を、ユーリは言葉にしている。
ユーリ自身の心は、二つに割れている
一方で、ユーリ自身の心のありかははっきりしない。「今度は私が王子を手伝いたいの」と言って残る道を選びながら、「明けの明星が昇るまであと4ヶ月」という帰りの期限も背負っている。黒太子の問いに「それに私はもうすぐ」と言いかけて止まったのは、心が家とカイルのあいだで割れているからだろう。
黒太子の心も動き始めている
捕虜の世話をするユーリを「一人の人間として人を惹きつける」と見た黒太子は、姉の話をしたあとで「本気でそばに置くのも一興かもしれん」とまで言う。名前だけを奪ったつもりの黒太子が、いつのまにか中身のほうに惹かれ始めている。売られた姉をしたたかと呼ぶ人物にとって、愛されずに育つのは無理だと言い返したユーリは、初めて出会う種類の相手なのかもしれない。
次は、脱出の人質として
回の終わり、ユーリは黒太子の盾にされる。城門を開ける役を引き受けたユーリが、今度は門を抜けるための人質になる、という皮肉な形で次へ続く。カイルの期限と、明けの明星までの時間は、どちらも減り続けている。




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