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柏大商業戦の終盤、ついにピッチに立った栗林。たった一人の投入で試合の流れは一変し、アシトは初めて「これにはなれない」という感情を味わう。それでも考えることを諦めず、最後の1プレーで自分なりの答えを出したアシトだったが、試合後に待っていたのは厳しい宣告だった。栗林の衝撃、考えることを諦めない柏大商業、そしてベンチ外を告げられたアシトまで、第5話を振り返る。




第5話 栗林が変えたピッチと最後の1プレー
第5話「考えることを、諦めない」は、柏大商業戦の終盤、栗林がピッチに立った直後から始まる。相手の選手たちが「何なんだ、こいつ」、「エグすぎる」と思わず漏らすほど、試合の空気は一変した。「これまでの流れが一切関係なくなった」、「たった一人の投入で」という言葉どおり、たった一人の存在がゲーム全体を塗り替えてしまう。前話でアシトがようやくつかみかけた守備の手ごたえさえ、栗林の前ではかすんで見えるほどだった。
これにはなれない
栗林のプレーを一番近くで見せつけられたのはアシトだった。「子供の頃テレビですごい選手を見たとき」、「Bで初めて義経さんのプレーを見たとき」は、いつも「憧れた」し、「俺もいつかああなるって」思えた。ところが栗林を前にして湧いてきたのは、まったく別の感情だった。
「なのに初めてやこんな気持ち」、「ああこれにはなれない」。「意味がわからない」、「何がどうなって」、「どういう理屈で」と、目の前で起きていることを頭で理解することすらできない。どんなに高い壁を見ても、いつか越えてやると前を向いてきたアシトが、初めて「なれない」と感じてしまう。その一言の重さに、栗林という選手の異質さが詰まっていた。
憧れとは、自分もその場所にたどり着けると思えるからこそ生まれる感情なのだと思う。理屈が見えないほどの差を突きつけられたとき、人は憧れることさえできなくなる。アシトがこれまでどんな相手にも食らいついてこられたのは、相手のプレーの中に自分が学べる何かを見つけてきたからだ。その取っかかりが一つも見つからないという絶望は、技術の差以上に彼を打ちのめしたはずだ。
考えることを決して諦めるな
栗林に圧倒されていたのはエスペリオンの相手である柏大商業も同じだった。それでも彼らは崩れなかった。「フィールドでは 考えることを決して諦めるな」、「人間として強くあれ」、「杉浦監督の教えだ」と声を掛け合い、栗林にマンマークをつけ、空いたスペースは周りでカバーすると即座に形を作り直していく。
この柏大商業の姿勢が、アシトの心にも火をつける。「そうや… 自分が未熟だとしても」、「それでも考えるんや」。前話で自分に言い聞かせた「だから、どうするか」をもう一度胸に刻み、「考えろ、考えろ、考えろ」と自分を奮い立たせる。「分かんないなら見るしかねえ、学ぶしかねえ」という開き直りは、理解できないものから目をそらさないというアシトなりの答えだった。
敵チームの監督の教えが、味方であるアシトの背中を押すという構図がとても面白い。サブタイトルの「考えることを、諦めない」は、柏大商業の合言葉であると同時に、この回のアシト自身のテーマでもあった。勝ち負けを越えて、同じピッチに立つ者同士が同じ言葉で戦っている。そんな高校サッカーとユースの対戦ならではの熱さを感じる場面だった。相手から学ぶことをためらわないのも、アシトの大きな長所だと改めて思う。
ひょっとして、我慢してないっすか
ピッチ上では「てめえごときじゃ、どうせ栗林のサポートはできねえ」という容赦のない声も飛び、指示どおりに動けと迫られる。それでもアシトは、栗林を必死に観察するうちに「今のは意味わかった」、「マークがボールウォッチャーになった」と、少しずつ理屈の断片をつかみ始める。軽やかなボールさばきに「あんたんところだけ重力がないんか」とこぼすあたりは、驚きと感心が入り混じったアシトらしい反応だった。
一方で、ピッチ上では「ちょっと… ずれてんだよなぁ」、「返さずに そのまま運んで欲しかったんだ」という声も聞こえてくる。栗林の頭の中にある絵と、周りの動きがわずかに噛み合っていない。そこへアシトが「ひょっとして、我慢してないっすか」と声をかける。誰もが見とれるだけだった栗林のプレーの中に、遠慮や窮屈さを感じ取ったのはアシトだけだった。
そしてアシトは「俺が栗林なら、俺は」、「どこにいてほしい」と考え始める。前話で阿久津の視点に立って守備の位置を探ったのと同じやり方を、今度は栗林に向けたのだ。相手の立場から逆算するという考え方が、攻撃でも守備でも少しずつアシトの武器になりつつあるのが分かる。
最後の1プレーと3対0
「時間的にもラスト1プレー」。攻め上がる流れの中で、アシトは相手の選手が自由になっている場所に気づく。「もう一点取るプランはあったけど」、「点取られる方が気持ち悪い」と判断し、あえて守備の位置に残る。「そこに一人入るだけで」、「カウンターの起点になれる」という読みどおり、その位置取りが次の得点へとつながっていった。
最後は栗林がたった一人でカウンターを仕掛け、「カウンター一気で3点目」。「タイムアップ」、「3対0」、「エスペリオンの圧勝だ」。「もう一人いねえかな」、「俺のイメージ通りに動いてくれた奴が」という声には、栗林が誰かと同じ絵を描きたがっている孤独もにじんでいた。
試合後、仲間からは「最高のロングフィードだったぞ」、「偶然でもいい場所にいたじゃねえか」と声をかけられる。けれどアシト本人は「攻撃のイメージは感覚で瞬時に得られる」一方で、守備はまだ頭で考えなければ動けないことを痛感していた。「守備でも無意識下で動けるようになりたい」。「俺のプレミアリーグ初戦が終わった」という言葉は、達成感よりも次への課題を抱えた響きだった。
第5話のまとめ考察
俺以外の10人がすごかった
柏大商業の選手たちは「戦えてよかった」、「これでまた俺たちは強くなれる」と敗戦を前向きに受け止め、「応援ありがとうございました」とスタンドに頭を下げる。「真正面切ってまともなサッカー貫くチーム」だったからこそ、栗林にとっても新鮮な相手だったのだろうという分析もあり、最後まで勝つことを諦めなかった柏大商業の姿は、敗れてなお清々しかった。
対照的に、勝ったはずのアシトの表情は晴れない。「このままじゃダメだ」、「話にならねえ」、「今日のエスペリオンは」、「俺以外の10人がすごかった」。周りが「上々のデビュー戦じゃねえの」と褒めてくれても、自分だけはごまかせない。「情けねえ」、「守備を何とかしないと」と、喜びの輪に入りきれないアシトの姿が胸に刺さった。
ベンチ入りも無理だ
福田に呼ばれたアシトが告げられたのは、厳しい現実だった。「結論から言う 今日の出来では試合に出せない」、「ベンチ入りも無理だ」。「今日の俺の守備じゃ」、「そう言われても仕方ねえ」と分かっていながらも、アシトは引き下がれない。プレミアの舞台で味わった「あれを味わったら」、「もう戻れねえよ」という感覚を手放したくない一心で、「掴みかけてる気がするんだ」、「俺を使ってくれ」と食い下がる。
それでも答えは「ダメだ」、「しばらく外からAを見ろ」。さらに、守備型で春先からずっと左サイドバックを任されてきた3年生が怪我から復帰すること、栗林の合流と合わせて「エスペリオンはベストメンバーとなる」ことも告げられる。アシトが立とうとしていた左サイドバックの席は、いよいよ遠のいてしまった。
ただ、首脳陣の会話からは「俺を使ってくれなんて堂々と言ってのけるやつは今時貴重じゃ」、「わざわざ呼び出してまで話すだの」、「青井に期待しているのがよくわかる」という声も聞こえてくる。突き放したように見えて、アシトの可能性をちゃんと見ているからこその判断なのだと思う。外から見ることで何を学べるのか、アシトの次の一歩が気になる終わり方だった。
思えば第1話でAチームに上がったとき、アシトは這いつくばってでもBには落ちないと誓っていた。プレミアのピッチに立ち、得点の起点にもなった直後に、試合どころかベンチからも外される。結果だけを見れば後退だが、福田が見ているのはきっと今日の出来ではなく、もっと先のアシトの姿だ。一度ピッチの外に出て、ベストメンバーの守備を冷静に観察できる時間は、考えることを諦めないアシトにとって、むしろ大きな学びの機会になるのかもしれない。
海堂杏里と一条花
ピッチの外では、二人の少女の存在も大きく動いた。スタンドの隅で顔を隠すように試合を見ていた花に、杏里は「なんでそんなにこそこそ見てるの」と声をかけ、福田監督の妹らしいと気づいて話しかける。花の「私サッカーのことわからんから邪魔したくない」という言葉からは、アシトを応援したい気持ちと、踏み込みすぎることへのためらいが伝わってくる。
杏里は冨樫にも臆さずぶつかっていく。「思ったよりつまらない人だったんですね」、「あなたは青井選手から何かを学ぼうとしたことはあるんですか」、「無意識に下に見てるんですよ」。足を震わせながらも言い切る強さに、男子の監督を目指す彼女の本気が表れていた。
落ち込むアシトを見守る二人の間では「純粋な言葉だったら」、「選手はいつだって励みになるわよ」という言葉も交わされる。そして杏里はアシトに守備の気づきをまとめたノートを手渡す。「守備はやっぱり形なので」という言葉は、前話でアシトが学んだばかりの考え方とぴったり重なる。アシトに向けた「プロになれると思います」、「私は知ってますから」とまっすぐ伝える杏里。その一方で、かつてアシトが口にした「お前の応援は効く」という言葉もよみがえる。サッカーの理解でアシトを支える杏里と、応援する気持ちで支える花。どちらの支え方もアシトには必要で、二人の想いが交差する終盤は、試合とはまた違った緊張感があった。
栗林という高すぎる壁、ベンチ外という現実、そして自分を見守る人たちの存在。第5話は、アシトが「考えることを諦めない」という言葉の意味を、ピッチの内と外の両方で突きつけられた回だった。外からAチームを見る時間が、アシトの守備をどう変えていくのか、じっくり見届けたい。




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