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『花織さん』第9話の副題は「スクリーム」。この作品の副題は毎回実在の映画の題で、九本目にして初めてホラーが来た。ところが本編でいちばん怖い場所は、お化け屋敷ではなく教室のほうだ。小鳥遊綾姫が我慢している理由は正しさではなく、殴り返したときに自分がどう見えるかだった。そしてミーティアが苦手だと言うのは「人間の正義感」。幽霊退治といじめの話が、同じ一語でつながっている。




副題「スクリーム」で、九本目にして初めてホラーが来た
この作品の副題は毎回、実在の映画の題を借りている。並べると「恋人たちの予感」「オズの魔法使い」「ミッドナイトラン」「許されざる者」「から騒ぎ」「パルプ・フィクション」「セブン」「トレーニング デイ」、そして第9話が「スクリーム」だ。恋愛映画から始まって西部劇や犯罪映画を通ってきた並びに、ここで初めてホラーが入る。
並びを見ていると細かい癖も出てくる。数字が入るのは「セブン」の一本だけで、しかもそれが第7話に置かれている。公式表記で二語のあいだに空きを入れているのは「トレーニング デイ」だけ、中黒を使っているのは「パルプ・フィクション」だけだ。九本目の「スクリーム」は一語で、いちばん短い部類に入る。
借りてきた題が、そのまま回の作りを決めている
中身のほうもきっちり合わせにきている。文化祭でゴーストが大量に出てきて、隣のクラスはプロジェクションマッピングとドローンを使ったお化け屋敷をやっている。本物と作り物が同じ校舎に同時に並ぶ状況を、わざわざ用意している。
ただし悲鳴が上がる場面はもうひとつある。しかもそちらのほうが長い。副題を素直に読むなら、この回で誰がいちばん叫んだのかを見ておいたほうがいい。
総作画監督の三人周期が、この回で崩れる
公式サイトのスタッフ欄を第1話から並べると、脚本は九本すべて菅原雪絵、絵コンテも九本すべて山本秀世で固定されている。動くのは演出と総作画監督だ。そして総作画監督は、奥田陽介、松岡謙治、西尾淳之介の三人が第1話から第8話までぴったり三話周期で回ってきた。
ところが第9話は小林利充で、周期でいえば西尾淳之介の番だったところに四人目が入っている。八話まで一度も乱れなかった並びが、この回で初めて崩れている。ちなみに演出のいとがしんたろーは第2話以来の再登板で、演出欄に同じ名前が二度出るのもこれが最初だ。
名乗りに「さん」まで入っている闖入者
冒頭に出てくるのが公式のゲストキャラ、メカ6号(CV 阪田佳代)。名乗りが「私の名前はメカ6号さん」で、敬称ごと自分の名前として言い切ってしまう。
「交通事故みたいだった」と言われるドキドキイベント
流星の説明は「朝、曲がり角で人とぶつかってな」。ぶつかった相手は口に何かをくわえていた、というところまで揃っている。聞いた側はもちろん食いつく。「ちょっと何そのドキドキイベント」「恋に落ちちゃうやつじゃん」。
返ってくるのが「ドキドキというか交通事故みたいだった」。お約束の場面を、当事者だけが体験として処理してしまっている。公式のプロフィールで倉石摩那が「ラブコメ警察」と紹介されているとおり、盛り上げる係と冷ます係が最初から分業になっている。
名乗りも口癖も、借りてきたものだ
メカ6号という名前も、名乗りに敬称を含めるやり方も、それ自体が引用になっている。番号で呼ばれる人物が「〜オブ・ジ・イヤー」を口癖にする、という組み合わせは『ぱにぽにだっしゅ!』の6号さんのもので、演じているのも同じ阪田佳代だ。
ゲストキャラの作り方が、声と口癖と呼び名をまとめて借りてくる形になっている。この作品はマルチバースを設定として持っているので、別の世界から来たという説明だけで全部が成立してしまう。作中の言葉づかいでいえば、次元の狭間から来たのは怪物ではなく元ネタのほうだ。
殺戮マシンだと名乗ったことを、全員が忘れる
メカ6号は自分で「次元の狭間から現れた殺戮マシン」と説明している。ところが会話は恋バナのほうへ流れ、しばらくしてから「そういえばこいつ、殺戮マシンだった」と思い出される。
その後の被害報告も「どうやらロボットが暴れたみたいよ」「しかも先生にラブラブみたいで」で終わってしまう。危険度の申告が、いちばん軽い情報として扱われている。名前に敬称が付いている時点で、この作品はもうそういう扱いだと決めていた。
我慢の理由が、正しさではなく見え方だった
中盤は小鳥遊綾姫のパートになる。公式のあらすじも「復活の勇者・綾姫がいじめっ子に絡まれ、不穏な雰囲気が広がります」と、この一件を回の柱として書いている。
第4話の宣言が、そのまま回収される
絡んでくる相手の言い分は「私がいない間、楽しくやってたみたいじゃんか」で、締めが「いつまでも調子乗ってるとぶっ殺すよ」。これに対する綾姫の内心が「殺そうとしてた人から殺すって言われた」だった。
第4話で綾姫は「私をいじめてた奴らと、見て見ぬふりをしていたクラスの連中も、ちゃんと最後に殺すけどね」と言っている。五話ぶん置かれた宣言が、同じ相手の登場でそのまま回収されている。今回も「彼女たちは最後に殺そうと思ってたからね」と口に出し、直後に「冗談よ」と引っ込める。
公式の紹介文が「当て馬ヒロイン系帰還勇者」なのも、この回では効いている。当て馬という言い方は恋愛の側の役割だが、実際に振られているのは殺すか許すかの判断だ。第8話でOZが「怪我の治療で入院していたが本人の希望で学校に復帰、要監視対象」と報告していた人物が、今回いきなり単独で長い場面を持つ。
「私が悪いことにされる」が我慢の理由
では、なぜ殴り返さないのか。ここの説明が異様に理屈っぽい。謹慎中の身で一般人に手を出したら、あいつはやっぱり悪い奴だと思われるかもしれない。異世界の力を振りかざして弱い人を傷つけた、と言われる。「いじめていたのはあいつらなのに、私が悪いことにされる」。
我慢の根拠が、やっていいかどうかではなく、やったあとに自分がどう見えるかになっている。締めが「私はそういう理不尽が最高に嫌なの」で、そのあとに「それに、少しでも気を許した人たちにそう思われるのつらいじゃない」が続く。理不尽が嫌だという言い方をしながら、実際に守っているのは新しくできた関係のほうだ。
意見はいらないと言った相手に、判断を信じると返す
そこへ入ってくるのが朝比奈絵理子。公式の紹介は「マルチバースな魔法少女」で、所属は綾姫と同じ二年三組になっている。第6話で別の並行世界から来たと明かされた人物だ。
助けに入った側が、原因を名乗られる
朝比奈が「今のはもしかしていじめ?」と聞くと、綾姫は隠さない。「見ての通りよ」。しかも続けて、あなたが別の次元から来た魔法少女なのは知っている、なぜならその原因が私だから、と自分から言う。
そのうえで「私は悪い勇者なの」と名乗り、次元に穴を開けたことも、鳴神先生を利用して花織さんたちを傷つけようとしたことも並べていく。助けてもらった直後に、自分の加害から先に説明している。順番がふつうと逆だ。
朝比奈の側にも事情がある。魅了で学校に来ない暗示をかけていたのに、敵意のある相手には効きが悪い、という説明が綾姫から出てくる。つまり手は打っていて、それが外れたあとの場面をやっている。何もせずに我慢していたわけではない。
相談を断られたあとの返し方
綾姫の答えは「今は一人で考えたいんだ」「今は誰の意見も聞きたくない」だった。これは相談を断る言葉である。ところが朝比奈の返しは、話したくなったら聞くから、というだけでは終わらない。
「私は何があっても、あなたの判断を信じるから」まで先に渡してしまう。中身を聞かないまま結果を承認すると言っているわけで、ふつうなら無責任な励ましになる。それでも綾姫の返事が「これは私が決めなくてはいけないことだから」になるので、渡されたのは許可ではなく、決めていいという確認だったことが分かる。
綺麗事を言わない大人が、いちばん相談してはいけない大人だった
決着のつけ方は結局まっすぐで、「シンプルに行くべきだったわ」と言って殴る。相手が金を無心し、朝比奈まで標的にしはじめたところで線を越えた形だ。
「殺してないからね」から始まる報告
終わったあとに現れた流星への第一声が「何も言われなくても殺してないからね」。そのうえで「先生も復讐はいけないとか死んでいい命はないとか綺麗事言わないでよ」と先回りする。
叱られる前提で防御を固めているのに、返ってきたのが自分語りだった。流星は「話していなかったが、俺は異世界の魔王だったんだ」と切り出し、国を滅ぼされたこと、復讐のために禁じ手で魔王になり、軍団を従えて敵国を滅ぼしたことまで並べる。
語られた中身自体は、公式のあらすじが第7話で「罠と死霊魔術を駆使した魔王の本領」と書いていたものとつながっている。手札は前から見えていた。見えていなかったのは、その手札を持つに至った理由のほうだ。
「復讐を成し遂げてどうだった?」「最高」
そして「だから綺麗事なんて言えないさ」で締める。綾姫の反応が「魔王なんて聞いてないんですけど」なのは当然として、そこから先が良い。復讐を成し遂げてどうだったのかと聞かれて、返ってきた答えが「最高」である。
綺麗事を言わない大人は、たしかに綺麗事を言わなかった。綾姫の内心が「この人に相談しなくてよかった」で終わるのもうなずける。公式は六道さくらを「アドバイスは絶対あてにならない」と紹介しているが、この回でその役をやったのは流星のほうだった。
本物の幽霊を、偽物の幽霊の部屋へ追い込む
後半は御剣女子の文化祭になる。一組は冒険者カフェ、二組はプロジェクションマッピングとドローンを使ったお化け屋敷、三組はお嬢様カフェ。「うちの文化祭は結構ガチでやるのが恒例なのよ」という説明どおり、どのクラスも本気で作り込んでいる。
メニューまで作り込む一組
冒険者カフェのメニューが「冒険者ギルドの真心ポトフ」「エルフの森の焼きバナナ」といった調子で、そこに六道先生の名前まで混ざっている。理由は「ネタがなくて手伝ってもらったんだ」「賢者だしね」。
装飾のほうも派手で、「エルフの森が燃えてるのだが」と突っ込まれる。答えが「茉莉花渾身のアイデアよ」なので、公式のプロフィールにある学級委員長のポンコツぶりが、そのまま内装として立体化している。
三組のお嬢様カフェの扱いも良い。異常事態が起きても「何事ですわ?」「事件ですわ」「私、様子を見てきますわ」と語尾が崩れず、見ている側から「緊迫感全然ねえ」と突っ込まれる。そのまま「今日は味方ってことでよくってよ」と戦力に加わってしまう。
隠蔽策と作戦が、同じ一つの案になる
そこへゴーストが大量発生する。学校のどこかに次元の亀裂が開いたらしい、という説明つきだ。まず出てくる案が「お化け屋敷の演出ってことにすればよくない?」「プロジェクションマッピングだと言い張れば大丈夫だろ」。
そして倒し方のほうも同じ場所を使う。人混みでは火の玉も雷撃も撃てないので、手分けして二組のお化け屋敷へゴーストを誘導し、部屋に入ったところをまとめて消す。ごまかすための口実と、実際の作戦が、一つの場所で重なっている。作り物の幽霊のための部屋が、本物を捕まえる罠になった。
勇者が苦手なのは、人間の正義感
この作戦には副作用がある。お化け屋敷に残るのは流星ひとりになるのだ。ここで作品側がわざわざ説明を入れる。「説明しよう、流星はお化けが怖いのだ」。魔王が幽霊を苦手にしている。
残ったのは、誘導ができない側だった
ミーティアの言い方が上手い。「やっぱり一人じゃ怖いでしょ」ではなく、そのあとに「私は幽霊の誘導とか無理だから、こっちにいてあげる」を足している。できないから残るのだ、という形にして相手の面子を潰さない。
「お前、勇者みたいだな」と言われた返事が「困ってる人を見過ごせないのが勇者なのよ」で、そこに「誰にでも苦手なものはあるからね」が続く。助ける理由を、相手の弱さではなく自分の役職の説明にすり替えている。
ちなみにこの作戦、成功したあとの評判まで描かれている。幽霊騒ぎが落ち着いたあとの一言が、むしろガチで怖いという噂で人が増えた、というものだ。本物を紛れ込ませた結果、二組の出し物の評価が上がっている。
「人間の正義感かな」が中盤に刺さる
続けて、じゃあお前の苦手なことはなんだと聞かれる。返ってきたのが「人間の正義感かな」だった。世界を救った側の口から出てくる答えではない。
この一言が、中盤の綾姫のパートに正面から刺さる。綾姫が恐れていたのは、いじめっ子でも処分でもなく、殴り返したあとに向けられる正しさのほうだった。副題が「スクリーム」でも、この回でいちばん怖いものは幽霊ではない。
語られたばかりの過去から、その国の姫が出てくる
締めの引きが効いている。文化祭が無事に終わり、むしろ本物のせいで「ガチで怖い」と評判になって客が増えた、というオチまでついたあとで、最後にひとり現れる。
公式の一覧で、一人だけ所属が無かった枠
公式のキャラクター一覧を見ると、ほとんどの人物には御剣女子高等学校の学年とクラスが書かれている。そのなかで紬奈愛琉(つむぎな める、CV 内田真礼)だけが違う。紹介文が「かつての世界で流星が魔王になる前、宮廷魔術師として仕えていた姫」で、学校の所属が無い。
一覧に名前だけ置かれて本編に出てこない枠が、ここでようやく埋まる。流星がずっと捜していた相手でもある。
この人物は第2話の時点から名前だけが動いていた。流星が捜しているのは姫の魂で、それがこの世界には見つからない、という状態がずっと続いていた。第6話でパラレルワールドの存在が確定したときに、捜す範囲のほうが広がったという読み方も出ていた。
同じ回に、過去の説明と本人が揃う
ここで効いてくるのが中盤だ。流星が自分の国を滅ぼされたと語ったのは、この第9話が初めてである。その国の宮廷魔術師だった姫が、同じ回の最後に出てくる。順番として、視聴者が事情を知った直後に本人が来る形になっている。
直前には「気をつけた方がいいわよ、例えば恋のライバルが登場したりとか」という軽口も置かれている。恋愛方面の茶化しとして流せる一言だが、直後の引きと並ぶと意味が変わる。この回は最後まで、軽い言い方と重い中身を同じ場所に置き続けている。




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