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最終回の副題は「スーパーの裏で続くふたり」。恩師の中島から定年退職の連絡が届き、佐々木は会いに行ける資格はないと断ろうとする。田山さんは「今の佐々木さんと吸ってても全然楽しくない」と言って、喫煙所から佐々木を締め出す。背中を押したのは、北海道出張を譲った鈴木だった。そして中島は、田山さんのことを聞いて「それは大切な関係だな」と言う。




副題は「スーパーの裏で続くふたり」
公式サイトの第12話の副題は「スーパーの裏で続くふたり」。これまでの副題と同じ「スーパーの裏で」の型に、最後は「続く」という言葉が入った。公式のあらすじは、かつての上司であり恩師でもある中島から、佐々木のもとに定年退職の連絡が届くところから書き起こしている。
新年早々の上の空
年が明けて仕事が始まっても、佐々木はどこか上の空である。店に来て何を買いに来たのか忘れてしまい、山田さんに心配される場面まである。いつもは周りの様子によく気がつく人が、自分のことで手いっぱいになっている様子が最初に丁寧に描かれる。
「車に轢かれないか見てるの」
帰っていく佐々木の背中をじっと見送る山田さんに、同僚が気になるのかと聞く。返ってきたのは「車に轢かれないか見てるの」だった。冗談のようでいて、本気で心配しているのが伝わる一言である。山田さんとして店にいるときも、田山さんとして喫煙所にいるときも、佐々木を見る目は変わらないのだと分かる場面でもある。
腕時計と、定年退職の知らせ
佐々木の上の空の理由は、最近になってつけ始めた腕時計にあった。
大事な先輩からもらった腕時計
喫煙所で田山さんに聞かれ、佐々木は腕時計の由来を話す。以前の職場で一緒に働いていた上司が、本部に移るときに引き抜いてくれた。そのときに「記念だって」渡されたものだという。「面倒見のいいお人よしでね」と語る顔は穏やかである。田山さんの「どっかの誰かと一緒」という返しが、その上司と佐々木の似ている部分をさらりと言い当てている。
「今月退職されるらしい」
その上司が「今月退職されるらしい」「定年退職だって」と佐々木は言う。田山さんは退職祝いに飲みに行かなきゃと返すが、佐々木は「いやいいんだ」と断る。会いに行く話がすぐ出てくる田山さんと、断る理由を先に探してしまう佐々木の違いがはっきり見える。
「のこのこ会いに行ける資格はないよ」
佐々木は、世話になった以上の大きな迷惑をかけたと言い、それきりの関係だから「のこのこ会いに行ける資格はないよ」と続ける。何があったのかを具体的に語らないまま、本人の中の重さだけが伝わってくる。昔から律儀な人だったと言いながら、その律儀さに甘えることができない不器用さも、佐々木という人物らしい。
「すっきりするまでここには来ないで」
田山さんは、その返事に納得しなかった。この回で二人の関係がいちばん揺れる場面である。これまで穏やかなやりとりが続いてきた喫煙所で、初めてはっきりとした言い争いが起きる。
「佐々木さんが大げさなんだ」
田山さんは、相手もそう思っているなら連絡なんかよこさないでしょうと言い、「佐々木さんが大げさなんだ」と言い切る。それでも佐々木は、あの人には気分よく退職してほしいからと、行かない理由を重ねる。相手を思っての遠慮に見えて、実は自分が傷つかないための言い訳になっていることを、田山さんは見抜いている。
「今の佐々木さんと吸ってても全然楽しくない」
そして田山さんは「今の佐々木さんと吸ってても全然楽しくない」と言い、「すっきりするまでここには来ないで」と告げる。突き放しているようで、行きたい気持ちに正直になれと背中を押している言葉である。
怒らせたのではなく、言わせてしまった
帰り道、佐々木は上の空で失礼なことをしたと反省しかけて、すぐに思い直す。あんなことを言わせたのはそこではない、と。自分の態度ではなく、自分が気持ちを我慢していることが相手を怒らせたのだと気づくまでが、佐々木の中で短く描かれる。
鈴木の「カニ食ってこいや」
行き詰まった佐々木の背中を押したのは、意外にも同僚の鈴木だった。
北海道への出張
鈴木は以前から、北海道への出張を押しつけられたとぼやいていた。カニ好きの佐々木に譲ってやらんこともない、とまで言っていたが、佐々木は「自分で行きなさい」と返していた。このやりとりが、あとでそのまま伏線として回収される。上司への文句ばかり言っているように見えた鈴木が、実は同僚の様子をよく見ていたことも、この回で分かる。
「カニ 食ってこいや」
寒い外でたばこを吸っていた佐々木を探し当てた鈴木は、頼みがあると言われて先回りする。「先輩とやら 最後の仕事 そこなんだろ」と言い、「カニ 食ってこいや」と出張を譲る。佐々木の返事は「鈴木お前ほんといい奴だな」だった。事情を細かく聞かずに察して動く鈴木の格好よさが、最終回でしっかり描かれている。
喫煙所に来なくなった佐々木と、待つ田山さん
一方で、佐々木は喫煙所にも店にも来なくなる。自分で「来ないで」と言った田山さんのほうが、落ち着かなくなっていく。佐々木の側から見れば言われたとおりにしているだけなのに、待つ側には不安だけが積もっていくという、すれ違いの描き方がうまい。
「来ないで」と言ったのは自分なのに
田山さんは、本当に来なくなったことに焦り、あの言い方は余計なお世話だった、もっといい言い方があったと考え込む。突き放した側が後悔している様子を、そのまま見せてくれるのがこの作品の優しさである。
「何でもないような顔して教えてくるくせに」
それでも田山さんは、自分では気づかない気持ちを見つけて「何でもないような顔して教えてくるくせに」と佐々木を思う。そんな人が横で自分の気持ちを我慢しているのは寂しい、と。佐々木がこれまで田山さんにしてきたことを、今度は田山さんが佐々木に返そうとしていたのだと分かる。
「直接あの子に聞いて欲しいから」
北海道から戻った佐々木は、店で山田さんに声をかける。田山ちゃんに伝えておきますと言われても、佐々木は「直接あの子に聞いて欲しいから」と断る。返ってきたのは「はい 待ってます」だった。同じ人物が二つの名前で向き合っている、この作品ならではの距離の取り方がいちばん生きた場面である。
中島との再会と、「大切な関係」
北海道で、佐々木は中島と会う。公式のあらすじが書く本社時代の苦い記憶に、ここで一つの区切りがつく。昔に戻ったみたいだと言い合う二人の姿は、佐々木が恐れていたものとはまるで違っていた。
「いい思い出の方が僕ら多かったろ」
佐々木は自分のことを、中島さんの悪い思い出の代表みたいなものだと言う。中島の返事は「いい思い出の方が僕ら多かったろ」だった。佐々木がずっと抱えてきた負い目を、相手のほうはまったく違う形で覚えていたという答えである。
「彼女に叱ってもらうまでビビってたんです」
佐々木は、分かっていたのに「彼女に叱ってもらうまでビビってたんです」と打ち明ける。中島は、そんな女性が近くにいるのか、その人は君の何なんだと聞き返す。最終回で初めて、佐々木が田山さんのことを他人に説明しなければならなくなる。
「それは大切な関係だな」
佐々木は、知人というほど遠くはなく、友人を名乗るには知らないことが多いと言葉を探す。そのうえで、背中が縮こまっているとき必ず押してくれる子だと答える。中島の返事は「それは大切な関係だな」だった。二人の関係に名前をつけないまま、第三者の口から「大切な関係」と言ってもらうのが、この作品らしい着地である。
雪の喫煙所と、北海道の話
最後の場面は、いつもの喫煙所に戻る。雪の降る寒い夜に、二人はいつもと同じように並んで座り、同じようにたばこを吸っている。何かが大きく変わったわけではないが、二人の間の空気は確かに少しだけ近くなっている。
マフラーを貸す
北海道に行ったことがないという田山さんに、佐々木は冬は死ぬほど寒いと話し、その格好で行ったらと心配しかける。「また私の服装の心配した」と返した田山さんは、心配ならマフラーをかけて、と頼む。第11話まで何度も繰り返してきた服装の心配が、最後はマフラー一枚の形に落ち着く。
「話そう いっぱい」
田山さんは「うん 聞かせて たくさん」と言い、「話そう いっぱい」と続ける。そこから始まるのは、カニやラーメンの他愛のない話だった。大事な言葉を交わしたあとに、いつもの取るに足らない会話へ戻っていくのが、副題の「続くふたり」そのものである。
「それっておじさんだから」
最近はラーメンが半分で足りるようになったという話に、返ってくるのは「それっておじさんだから」だった。最後の台詞まで、いつもの二人の軽いやりとりで締めているのが心地いい。しんみりした言葉で終わらせず、ちょっとした軽口で幕を引くのがこの二人らしい。
まとめと考察
第12話は、佐々木が過去の負い目と向き合う話を通して、田山さんとの関係に「大切な関係」という言葉が与えられる最終回だった。
背中を押す人が、押される側に回る
これまでは佐々木が田山さんの気持ちに気づき、何でもない顔で背中を押してきた。最終回では立場が入れ替わり、田山さんと鈴木が佐々木の背中を押す側に回っている。その入れ替わりが、二人の関係が対等になったことを示している。
鈴木という同僚
この回の鈴木は、出張をぼやき、カニを口実にして、最後に佐々木の背中を押す役を担った。自分の都合を装って相手の遠慮を取り払う、という押し方は、田山さんとはまた違う形の優しさである。佐々木の周りには、本人が思っているよりずっと多く、背中を押してくれる人がいたということが、最終回で静かに示されている。
名前のない関係のまま
恋人でも友人でもない、という二人の距離は、最後まで言葉で決められなかった。佐々木自身が中島に説明しようとして、知人とも友人とも言えずに言葉を探していたのが、そのまま答えになっている。それでも「大切な関係」とだけは言える、というところで止めたのが、この作品の誠実さだと思う。
続くふたり
副題の「続くふたり」は、最後の喫煙所の他愛のない会話そのものだった。大きな約束をせず、明日も同じ場所で話すという形で終わるのが、スーパーの裏という舞台にいちばん似合う結末である。




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