この記事の作品:
第13話の副題は「冒険者の都ラコリナ」。マリスとの戦いに区切りをつけたエルマとルーチェは、冒険者の聖地と呼ばれる街に着く。ルーチェは幸運に15ポイントを振り、黒鋼装備を狙ってダンジョンへ向かう。エルマはスキル相談の仕事より「冒険の方が楽しいからな」と言い切る。そして幸運が呼んだ群れを、エルマは「おかげ」、ルーチェは「せい」と受け取る。




副題は「冒険者の都ラコリナ」、新しい章の始まり
公式サイトの第13話の副題は「冒険者の都ラコリナ」。公式のあらすじは、マリスとの戦いに勝ち、エドヴァン伯爵家との決別を果たしたエルマが、冒険者の聖地と呼ばれる新天地ラコリナを訪れるところから書き起こしている。
「冒険者の聖地と呼ばれている」
着いたラコリナは、周辺にレベルの高いダンジョンが出現しやすく、将来有望な中堅冒険者が拠点にすることが多い街だと説明される。そのため「冒険者の聖地と呼ばれている」のだという。伯爵家との因縁に区切りがついたあとの最初の回として、舞台そのものを一新してみせる入り方である。
伯爵家との別れのあとで
マリス編は、エルマが生まれた家との関係に決着をつける長い戦いだった。その直後の回を、まったく知らない街の景色から始めることで、物語の空気がはっきり切り替わっている。重い因縁の話から、二人でお金と装備を集める冒険の話へ戻ってきた、という手触りがある。章の変わり目を、説明ではなく街の大きさと賑わいで感じさせる入り方がうまい。
謎の地元愛
大きな街に驚きながらも、ルーチェは自分の故郷の都市ロンダルムも負けていないと言い張る。エルマの感想は「謎の地元愛」だった。新しい街の説明の合間に、ルーチェの人柄を一言で見せる軽いやりとりが挟まっている。
まずは武器から
エルマは、やっとレベルも初心者を抜けたところまで来たと振り返り、これから一気にレベルを上げたいが、やはりまずは武器をなんとかしないとな、と方針を決める。強さの話をいつも装備とお金の話から始めるのが、ゲーム知識で戦うこの主人公らしい。レベルより先に道具を整えるという順番は、ゲームをやり込んだ人ならではの考え方である。
スキルポイントの割り振りと、幸運15
ダンジョンに向かう前に、ルーチェはスキルポイントの割り振りをエルマに任せる。
「エルマさんならいいんです」
人に見せるべきではないと言われても、ルーチェは「エルマさんならいいんです」と返す。何気ない一言だが、ルーチェがエルマをどれだけ信頼しているかがよく分かる。自分の成長の方向を、迷わず相手に預けてしまえる関係になっている。
目指す型で変わる振り方
エルマは、道化師は目指す型が安定型、魔法型、手数型、クリティカル型で変わってくると説明する。ルーチェが選んだのは一番強いものだった。「私だって上を目指したいですし」という言葉に、第1話から少しずつ強くなってきたルーチェの気持ちが表れている。
幸運に15ポイント
クリティカル型に決まったことで、幸運に15ポイントが振られる。その結果、スキルが「幸福の天使」へと進化し、ルーチェは俄然やる気が出たと喜ぶ。幸運という数字を上げることが、この回の後半の出来事をすべて呼び込むきっかけになっている。
お金の桁が上がっていく
次に必要になるスキルブックの値段の話になると、エルマは以前の買い物を引き合いに出して、それなりの額を覚悟しておくべきだと言う。その頃には数億くらいどうにかなっているはずだ、という見通しに、ルーチェは足が震えてきたと答える。冒険の目標が、そのまま金額の桁で語られていくのがこの作品の面白さであり、同時に後半の金銭感覚の話への前振りにもなっている。
黒鋼装備を狙うダンジョン
ギルドで情報を集めた二人は、都市の近くの森の奥地に出現しているダンジョンを訪れる。公式のあらすじにある黒鋼装備のドロップが、今回の狙いである。
推奨レベルは目安
ルーチェは今回も推奨レベルが高いと心配するが、エルマは推奨レベルはあくまで目安だと落ち着かせる。狙う魔物はこの目安よりレベルが低く、そのドロップ品は中堅冒険者に扱いやすい性能で、比較的落としやすく価値も高いと説明する。エルマの説明の細かさが、そのまま安心材料になっているのがこの二人の関係である。
「実家の方でな」
ルーチェに、本当に詳しいですよねと言われたエルマは「実家の方でな」とごまかし、子供の頃に叩き込まれたと答える。ルーチェは思い出したくない話だったと謝るが、エルマは、ルーチェのおかげで伯爵家とは綺麗に別れられたと返す。本当の理由である前世の記憶は、ここでも誰にも言えないままである。
マジックワールドと同じ世界
エルマの心の中では、この世界が前世でやり込んでいたオンラインゲーム、マジックワールドとまったく同じだと改めて語られる。本人もその全貌をつかめていない、という一言が、この作品の大きな謎として置き直されている。
「冒険の方が楽しいからな」
ダンジョンに入る前に、二人のあいだで小さなやりとりがある。
スキル相談で大成功
ルーチェは、そんなに詳しいならギルド側で冒険者のスキル相談をやったら大成功するのでは、と言いかけて、そうなったら自分が不要になると慌て出す。自分で言い出した案に自分で焦るのが、ルーチェの可愛らしさである。
「冒険の方が楽しいからな」
エルマの答えは「大丈夫だ 絶対にやらない」で、理由は「冒険の方が楽しいからな」だった。ルーチェは「よかった 安心しました」と胸をなでおろす。金策や効率の話ばかりしているエルマが、冒険そのものを楽しんでいると言葉にする珍しい場面である。
言えない前世の記憶
ルーチェには実家で叩き込まれたと説明し、心の中では前世のゲームの知識だと分かっている。この二重の説明は、これからも二人の間に小さな秘密として残り続けるのだろう。ルーチェが素直に信じているぶん、エルマの隠しごとが少しだけ重く見えるのも、この回の味わいの一つである。
群れと希少種、「私のせいなんですか」
目当ての魔物は、エルマの読みどおり単調な動きしかしない相手だった。盾でしのぎ、移動範囲を縛り、攻撃力を下げて、ダメージをルーチェが稼ぐ。
ピンポイントでナイフ
最初の一体からさっそくドロップが出る。ルーチェの幸運なら一発で出ると思っていたが、ピンポイントでナイフとは、とエルマも驚く。狙った装備がいきなり落ちるところに、ルーチェの幸運の強さがはっきり出ている。
群れで来る理由
普段は群れない魔物が群れで現れ、その中には希少種がいた。エルマは、幸運の高さはレアな魔物の出現率にも影響すると説明し、「ルーチェのおかげだな」と言う。ところがルーチェの反応は「あの群れって私のせいなんですか」だった。同じ出来事を、エルマは「おかげ」、ルーチェは「せい」と受け取る、この認識のずれが面白い。
幸運は良いことばかりではない
幸運が高いほど、レアな魔物が出やすくなる。それは良い装備が手に入りやすいということでもあり、同時に強い相手と出会いやすいということでもある。ルーチェの幸運は、これまでも思わぬ大物を呼び込んできた。幸運を上げた直後の回で、その裏側をさっそく見せてくるところに、この作品の数字の扱いの誠実さがある。
リーダーを狙う
エルマは自分が敵を引きつけ、ルーチェには泣き顔の奴を狙えと指示する。そいつがリーダーだという。役割を分けて群れを崩す戦い方が、二人の連携の成長を感じさせる。エルマが前で受け止め、ルーチェが決定打を狙うという形は、重騎士と道化師という二人の職の組み合わせをよく生かしている。
破壊のルーンと、麻痺していく金銭感覚
戦いのあと、二人の手元には思っていた以上の戦利品が残る。武器が次々と落ち、材料まで手に入り、エルマ自身が最低限の目標は達成だと認めるほどだった。
「お揃いですね 私たち」
必要な武器がそろい、ルーチェは「お揃いですね 私たち」と喜ぶ。エルマの返事は、入手しやすくて強いからな、というものだった。ルーチェのうれしさと、エルマの実用一点張りの返しが、いつもの二人らしくかみ合っていない。それでも同じ素材の武器を並んで持つことが、二人が一つの組として歩んでいることの小さな印になっている。
破壊のルーン
そして問題は希少種のドロップだった。武器に埋め込むことで性能を上げる、破壊のルーンである。今のレベル帯でルーンまで目を向けられると思っていなかった、とエルマも驚く。装備をそろえるだけのつもりが、大当たりまで引いてしまうのがルーチェの幸運である。
驚かなかった自分に驚く
ルーチェは、額にも驚いたが「思ったより驚かなかった自分にびっくりしました」と言う。エルマはそれを、幸運持ちの道化師らしくなってきたと受け止める。大金に慣れていく様子を笑いにしながら、どこかで危うさも感じさせる場面である。
まとめと考察
第13話は、マリスとの戦いが終わったあとの新しい章の入り口として、街と目標と二人の関係を整え直す回だった。大きな事件は起きないが、そのぶん二人の会話と数字のやりとりがじっくり描かれ、この作品本来の楽しさが戻ってきた一話でもある。
「おかげ」と「せい」
幸運がもたらすものを、エルマは「おかげ」と受け取り、ルーチェは「せい」と受け取った。同じ力をまったく違う形で受け止めている二人だからこそ、この組み合わせは面白いのだと改めて思わされる。
冒険を楽しむ主人公
「冒険の方が楽しいからな」という一言は、ゲーム知識で効率よく強くなる話の中で、この主人公が何を大事にしているかを示していた。効率のためではなく楽しいから冒険をしている、という軸がある限り、この先の話も軽やかに読めそうだ。
ルーチェの成長
今回のルーチェは、自分から上を目指したいと言い、群れのリーダーを狙う役目もきちんと果たした。怖がりながらも前に出る姿は、最初のころの頼りなさとはずいぶん違う。エルマの知識に頼るだけでなく、自分の役割を持った相棒になりつつあることが、この回のあちこちから伝わってくる。
黒鋼は最低限の装備
エルマは、黒鋼の武器は今のレベルの最低限の装備であって、最強格とは言い難いと気を引き締める。大当たりを引いても浮かれすぎず、次の目標をすぐに見据えるところで回を締めているのが、この作品の手堅さである。




関連作品:
























コメント