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稲城実業との決勝戦は、序盤から両エースの投げ合いとなった。ランナーを出しても落ち着いて0点に抑える降谷と、進化したボールで青道打線を寄せつけない成宮。0が並ぶスコアボードに、球場全体の熱気が高まっていく。互いの気迫が伝わり合う、緊迫の一話だ。動じない降谷、世代最強成宮の進化、そしてエースと4番の第2ラウンドまで、第16話を振り返る。




第16話 0が並ぶスコアボード
第16話「伝播」は、稲城実業との決勝戦で、降谷と成宮の息詰まる投手戦が続く回だった。ランナーを出しても動じない降谷と、進化したボールで青道打線をねじ伏せる成宮。互いのエースの気迫が球場全体に伝わっていく様子は、まさに副題のとおりだった。0が並び続ける緊迫の第16話を振り返っていく。
前回、初回から互いに全力でぶつかり合った両チーム。1年間、この相手を倒すことだけを目標にしてきた青道と、王者として迎え撃つ稲実。その思いがぶつかる決勝戦は、2回、3回と進んでもなお、どちらにも点が入らない展開が続いていく。1点の重みが、回を追うごとに増していくのが伝わってきた。
ランナーを背負っても動じない降谷
2回裏、稲実は先頭の成宮がフォアボールを選び、送りバントで得点圏にランナーを進める。さらに8番打者も粘ってフォアボールを選び、ランナーは一、二塁。8番にこれだけの打者がいるのが稲実打線だと言いたくなるほど、下位打線まで隙のない稲実の強さが際立つ場面だった。
投手である成宮自身が打席で粘ってフォアボールを選ぶあたりにも、稲実というチームの勝利への執念が表れている。送りバントで確実に得点圏へ進め、下位打線でも簡単にはアウトにならない。どこからでも点を取りにくる稲実打線の怖さを、改めて感じさせられる場面だった。
それでも降谷は落ち着いていた。何人ランナーを出そうと、0点に抑えればいい。そう言わんばかりの投球で、最後はセカンドフライに打ち取ってこの回も無失点。ランナー2人を出しながらも崩れない姿には、去年までの降谷とは違う頼もしさがあった。
エースの重圧を背負っていた頃とは違い、この日の降谷は、ピンチでも表情を変えず、自分のボールを信じて投げ込んでいく。フォアボールを出しても気にも留めず、次の打者に集中できる。その精神的な強さこそが、この1年で降谷が手に入れたものなのだと思う。
ベンチからは、エースのプレッシャーから解放されて、のびのびと投げられているという声が上がる。かつての自分も一人よがりで余裕がなかったのか、と振り返る言葉もあり、外から見えるからこそ分かる降谷の変化が伝わってくる。背負ったものの大きさから解き放たれた降谷のピッチングは、見ていて気持ちがいい。
エースナンバーを背負うことの重さは、それを経験した者にしか分からない。背番号から解放されたことで、降谷は自分のピッチングだけに集中できるようになった。皮肉なようでいて、それが降谷本来の力を引き出しているのだとしたら、チームにとってこれほど心強いことはない。
世代最強、成宮鳴のピッチング
進化したボール
3回表、青道打線は2巡目に入り、打席にはトップバッターの倉持。セーフティーバントの構えで揺さぶりをかけるが、成宮のボールは初回よりもさらにキレを増していた。スライダー、カット、フォーク。どの球も速く鋭く、倉持は追い込まれていく。「甘く来るまで 粘りまくってやる」という意地もむなしく、成宮は3者連続三振で青道打線を退けた。
セーフティーの構えで揺さぶったのは、初回にヒットを打った倉持だからこそ効果のある作戦だった。それでも成宮は動じない。気負っているわけでも、冷めているわけでもない。打席の倉持が感じた得体の知れない空気は、成宮が完全に自分のペースで試合を支配している証なのだろう。
成宮の進化を支えているのは、ただ純粋に日々目標を持ち、新しい球種を思いつけば確かめずにはいられない好奇心だという。「この人は野球の悪魔に取り憑かれているんじゃないかと思う時がある」という言葉が、成宮という投手のすごみをよく表していた。わがままで自信家でありながら、野球に対してはどこまでも貪欲。その姿勢こそが、世代最強と呼ばれる理由なのだろう。
新しいボールを手にしても、それに満足せず磨き続ける。その姿勢は、1年の秋から名門のエースナンバーを背負ってきた者だけが知る孤独とも無関係ではないのだろう。誰にも頼れない立場で勝ち続けるために、成宮は自分自身を進化させ続けるしかなかったのかもしれない。王者の風格の裏にある努力の積み重ねが、ボールの一球一球から伝わってくるようだった。
青道ベンチでも、「初回より全然球が来てる」と成宮の調子の良さが分析される。新しいカットボールだけでなく、「ストレート自体も去年より進化してる」。しかもここまでチェンジアップは一球も投げていない。すべてが「シナリオ通り進んでる」かのような成宮の投球に、青道の選手たちは「上等じゃねえか」と闘志を燃やす。
一年間この男を倒すことを目標にしてきた、という青道の選手たちの言葉には、この1年に積み重ねてきた思いがにじんでいる。成宮が進化しているのは承知のうえで、それでも真正面からぶつかっていく。その覚悟があるからこそ、圧倒されても心が折れないのだろう。
変化球を生かすのはストレートの威力があってこそ。成宮の投球は、その基本を極限まで突き詰めたものだった。しかも切り札のチェンジアップを温存したまま、青道打線を手玉に取っている。相手の手の内をすべて見せられないまま試合が進むのは、打者にとって何よりも嫌なことだろう。それでも青道の選手たちが目の色を変えて立ち向かおうとする姿に、この1年の成長を感じた。
怪物、降谷暁
その裏、降谷も負けていない。高めのストレートでカルロスを空振り三振に仕留め、続く打者にはフォアボールを与えるものの、低めに決まる力のあるボールで見逃し三振を奪う。そして迎えるのは、一発だけには気をつけたい稲実の4番、山岡。レフトへ大きな当たりを打たれてひやりとさせられるが、最後は空振り三振でこの回のアウトをすべて三振で奪った。
成宮の3者連続三振に呼応するように、降谷もまた三振の山を築いていく。相手エースの圧倒的なピッチングを見せつけられた直後だからこそ、降谷の闘志にも火がついたのだろう。エース同士が互いを意識し、互いを高め合っていく。投手戦の醍醐味が、この一つの回に詰まっていた。
球数こそ成宮より多いものの、三振の数は互角。序盤からの投手戦に、球場全体が揺れ始める。「選抜を沸かせた」あの頃の降谷が戻ってきたかのような投球に、見ているこちらも胸が熱くなった。成宮の気迫が降谷に伝わり、降谷の気迫がまた球場を巻き込んでいく。副題の「伝播」が、こうした試合の空気そのものを表しているように感じた。
両エースの三振の数が並ぶことで、試合はますます互いの意地の張り合いになっていく。どちらかが先にほころびを見せた瞬間に、試合が大きく動く。そんな緊張感が画面越しにも伝わってきて、一球ごとに思わず力が入ってしまった。野球というスポーツの、点が入らないからこその面白さが存分に描かれていた。
第16話のまとめ考察
エースと4番の第2ラウンド
4回表、小湊が空振り三振に倒れ、成宮は前の回から4者連続三振。それでも白州が見事なバットコントロールで二塁打を放ち、得点圏にランナーを置いて打席には4番の御幸。第1打席ではピッチャーライナーに倒れた御幸と、成宮の第2ラウンドが始まる。
白州の二塁打は、まさに職人技と呼ぶにふさわしい一打だった。体勢を崩されながらもスライダーを捉え、サードの頭上を越えていく。ゾーンに来た球を積極的に振り、楽には投げさせないという青道の攻略法が、ようやく形になった瞬間でもある。この一本が、試合の流れを変えるきっかけになるのかと期待が高まった。
得点圏にランナーを置いて4番を迎えるという場面は、青道にとってこの試合最初の大きなチャンスだった。ここで先制できるかどうかが、試合の行方を大きく左右する。その重みを知っているからこそ、成宮も温存していたボールを解禁したのだろう。
初球の変化球で空振りを奪った成宮は、ついに温存していたチェンジアップを投げる。御幸はタイミングを合わせてファウルにするが、成宮は「一度バッテリー組んだくらいでさ」、「そんなに俺 安くないよ」と言い放ち、最後はストレートで仕留めてみせた。珍しくガッツポーズを見せた成宮の姿から、この勝負にかける集中力の高さが伝わってきた。
御幸にとって、成宮はかつてバッテリーを組んだこともある相手だ。その経験からボールの軌道を知っているという強みはあったものの、成宮はそれすらも上回ってきた。互いを知り尽くした者同士だからこその駆け引きの深さに、思わず息をのんだ。
続く4回裏には、打席に立った成宮と御幸の軽口の応酬もあり、張りつめた試合の中にもライバル同士ならではの空気が漂う。そして降谷は、前の回から3者連続の三振。両エースが一歩も引かない投げ合いに、「どっちもすげえ」という声が上がるのも当然だった。
投手でありながら打者としても相手に脅威を与える成宮と、その成宮を誰よりもよく知る御幸。二人のやり取りには、敵同士でありながらどこか通じ合っているような不思議な空気がある。こうしたライバル関係の描き方が、ダイヤのAという作品の大きな魅力だと改めて感じた。
振り返ってみると、第16話はエース同士の気迫がぶつかり合い、伝わり合う回だった。成宮は進化したボールと自信で青道打線を圧倒し、降谷はエースの重圧から解き放たれて本来の力を取り戻しつつある。先制点を奪うのはどちらなのか。0が並び続けるスコアボードの先に、どんなドラマが待っているのか、目が離せない。次の打席、次の一球が試合を決めるかもしれないという緊張感が、最後まで途切れなかった。
成宮の気迫は青道打線に、降谷の気迫は稲実打線に、そして両者の投げ合いは球場全体へと伝わっていく。副題の「伝播」は、エースの存在がチーム全体を、さらには見ている人たちまでも巻き込んでいく力のことを指しているのだと感じた。決勝戦にふさわしい、濃密な投手戦の序盤だった。



















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