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『FX戦士くるみちゃん』第5話は、FXをやめると決めたはずのくるみが、もう一度相場へ引き戻されていく回だった。芽吹の先生役として予想を当て続けても、自分は一円も儲からない。そのもどかしさが、少しずつくるみの心を追い詰めていく。やす子の忠告、FX以外の趣味探し、突き飛ばした幼い日の自分、そしてスーパー投資バトルの始まりまで、第5話を場面ごとに振り返っていく。




第5話 先生役のくるみと勝ち続ける芽吹
私は一円も儲けてないのに
『FX戦士くるみちゃん』第5話は、FXをやめると決めたはずのくるみが、もう一度相場の世界へ引き戻されていく回だった。初取引で利益を出してから2週間、くるみは芽吹の先生役として相談に乗り続け、芽吹の口座残高は順調に増えていく。読みが当たるほど自分は取り残され、心がざわついていく。その揺れを場面ごとに振り返っていく。
冒頭は、指値決済と成行決済の違いを芽吹に教える場面から。教えたとおりに下がっていくチャートを前に、くるみは「もし私も売っていたら」と考えかけて、いやダメダメと首を振る。芽吹は、全部くるみ先輩の言う通りに取引すれば全部勝てると、とんでもない必勝法を見つけてしまう。思わず漏れた「私は一円も儲けてないのに」という一言に、くるみの本音が詰まっていた。
予想は当たるのに自分は儲からない
最近は毎日のように芽吹から連絡が来て、勝ち続けているのは芽吹だけ。せっかく予想が当たりまくっているのに、くるみの手元には一円も入らない。いっそ顧問料を取ってしまえばと思いついたものの、お金を取ったら法律違反だったかもと引っ込めるあたり、根は真面目なのが可笑しい。ところがその直後、なんか上がりそうと様子見程度に5枚くらいロングを入れかけ、自分でバカと止める。誘惑はもう、すぐそこまで来ていた。
やす子の忠告「クソゲーなんだよ」
なんでFXなんて始めちまうんだよ
一方の芽吹は、お隣同士なのに久しぶりに顔を合わせたやす子と一緒にゲームセンターへ。教えたい話があると切り出した芽吹に、やす子は「なんでFXなんて始めちまうんだよ」と声を荒らげる。あれだけやめとけと言ったのにという言葉から、前から心配していたことが伝わってくる。同い年なのに投資の先輩だから先輩と呼ぶ芽吹の無邪気さと、誰が呼ぶかと突っぱねるやす子の掛け合いがテンポよく楽しい。
あんなもん、誰がやっても損するようにできていると言い切るやす子。15万くらい稼いだ、楽勝だよと笑う芽吹に、このままだと風呂に沈められちまうぞと警告しても、お風呂は毎日入ってるよと返されてしまう。この噛み合わなさが、芽吹という人物の危うさをよく表していた。
破産RTAのスタートだ
やす子の言葉は妙に具体的だ。FXには一度でも負けたら取り返したくなる魔力があるのだという。賭け金が大きくなって引き返せなくなってきたら、そこからが破産へまっしぐらの始まりだという。勝てそうな通貨としてポンドを挙げた芽吹には、値動きがマジでやばい殺人通貨じゃねえかと即座に返し、安全バーなしでジェットコースターに乗るようなものだとまで言う。
詳しいんだねと感心されると、詳しくなんかねえし、FXなんかやってねえしと慌てて否定するのが何とも怪しい。それでも芽吹は、心配してくれるのはありがたいけど、私には「FXの必勝法があるから」大丈夫だと笑う。その必勝法がくるみの予想そのものだと思うと、笑っていいのか分からなくなる。
FX以外の趣味を探して
きっと私にはFX以外何もないから
芽吹からの報告を見るたびに揺れるくるみは、誘惑される理由を自分で探し始める。「きっと私にはFX以外何もないから誘惑されるんだ」。高校生の頃は勉強ばかりで、遊ぶことを知らずに生きてしまった。だったら新しい趣味を見つければいい。明日は学校も相場も休みだからと、くるみは街へ出かける。
けれど、どれも大変そうで、なかなかしっくりくるものが見つからない。最後にたどり着いたのは、さすがに違うでしょと言いながらも足を止めてしまう大人の遊び場だった。この機会に大人の遊びがどんなものか知っておくのもと自分に言い訳しながら入り、何もわからないままお金を溶かしてしまう。そこで出てくるのが、ちょろっとFXをやれば取り返せるという考えなのだから、もう重症だ。
どうしてまたFX口座にお金が入ってるの
やめるって決めたじゃんと自分に言い聞かせる声と、私はFXをやめられない、だって勝てちゃうんだもんとささやく声。もう一人の自分に問い詰められて、くるみはFX口座に再びお金が入っていることを突きつけられる。あの時の地獄を思い出さないとと必死になっても、はっきり思い出せるのは光り輝く数字と、安堵を超えた至福だけだった。
今思えば大ピンチも悪くなかったでしょ、乗り越えた先に大勝利が待っていたんだから。脳汁もいっぱい出たよね、我慢はストレスだよ。心の中のささやきは、どこまでも甘く、そして容赦がない。「誰か私を止めて」という叫びは、くるみ自身がもう自分では止まれないことを知っている証のように聞こえた。
突き飛ばした幼い日の自分
幼稚園の先生
もし私がFXに出会わなかったら、今頃何をしていたんだろう。そう考えたくるみの脳裏によみがえるのは、幼い頃の記憶だ。母に話しかけられて絵を描き間違え、猫が上手に描けてるね、将来は絵描きさんかなと言われる。返ってきた答えは「幼稚園の先生」だった。
幼い頃の純粋な夢と、今まさに芽吹の先生役をしている姿が重なって見えるのが、何とも皮肉だ。誰かに教えて喜ばれるという意味では、夢はある形で叶っているのに、その中身は相場の予想なのだから。
そいつ消しちゃおう
いつものように予想をお願いしますと頼まれ、くるみはこういうの今日で終わりにしないかと切り出す。けれど芽吹には届かず、上がると思うよと答えた通りに相場は動き出す。芽吹は50万円を突破し、このペースだと来月には100万円と大はしゃぎ。もったいないと嘆くくるみに、心の中のささやきは、勉強はご苦労様でしたと芽吹が思っているんじゃないかとまで追い打ちをかける。
違う、私は自分のためだけに勉強してきた。「2000万円を取り返す」、そのために生きてきたのだと叫ぶくるみ。行かないでとすがる幼い日の自分に向けられたのは、じゃあ、そいつ消しちゃおうという残酷なささやきだった。くるみが最後の良心を突き飛ばしてしまう場面は、この作品の中でもひときわ重く、見ていて背筋が冷えた。
幼い自分を消してしまう演出は、くるみが自分の中にあった歯止めを自ら手放した瞬間として描かれている。誰かに止めてほしいと叫んでいたはずなのに、最後に止める手を振り払ったのはくるみ自身だった。そのきっかけが、芽吹が勝ち続ける姿への羨望だったというのもやるせない。
久しぶりのFXの感想を聞かれたくるみは、悩んでたのがバカみたいと晴れやかに答える。「私はFXをやっていいんだ」。その笑顔が明るいほど、見ている側の不安は大きくなっていく。
運だけのドラマチックな勝利
ナレーションは容赦なく告げる。結局くるみは自分が負けることなど全く想像していなかった、いや、できなかったのだと。どれだけ含み損を抱えても最終的に勝ってしまえば、成功体験として記憶に残り続ける。あの時の運だけのドラマチックな勝利が、「一生消えることのない 呪い」になっていたという言葉が、第5話の核心だった。
4人の戦士がそろう
健全な関係
芽吹の通う大学へやって来たやす子は、悪い先輩から引き離してやると意気込む。その頃くるみは萌智子と話していた。最近前よりFXやってるよね、あんなに辞めたがってたのにと言われ、もう少し戦えそうだったしとはぐらかすくるみ。調子がいいのは芽吹ちゃんのおかげかもという言葉の真意は、芽吹自身の予想はだいたい外れるから、ある意味で逆の指標になるということだった。
友達を利用しているとも取れる話に、萌智子はむしろ見直したと笑う。相場をやっている以上、自分の利益のために利用し合うのは健全な関係だと言い、だからくるみが相場に戻ってきてくれて嬉しいとまで言う。私を利用したいからかと聞かれれば半分正解、じゃあ私も利用しちゃうよと返され、いいよやってみなと受けて立つ。この二人の会話に、物陰のやす子が思わずおびえてしまうのも無理はない。
私もFXやってやるよ
芽吹が連れてきたやす子は、やすこです、お手柔らかにとあいさつする。一緒にFXやったら楽しいと思ったからと誘う芽吹に、やらねえってと断り、稼いだ額を見せられると、そんな有害なもの見せるな、羨ましくなっちゃうだろうと返すのがやす子らしい。専門学校に行っていたけれど今はフリーターで、デザイナーになって自分のブランドを作りたい夢追い人だという話から、描いてみてと頼まれる。
夢を追うだけですごいのか、結果を出したやつだけがすごいという辛辣な声も飛ぶが、描いた絵には「かわいい」「悪くない」と素直な反応が返ってきて、やす子は二人とも案外いい奴らじゃんと少し打ち解ける。グッズを作っても売れなかった、金持ちになるのって難しいなと漏らしたやす子に、芽吹はFXならお金持ちになれると言い放つ。
バブル経済みたいな脳みそを捨てろと怒るやす子だったが、実際この中でお金を稼げていないのはやす子ちゃんだけと言われてしまい、ついに「私もFXやってやるよ」と宣言する。ただしギャンブルはしない、低いレバレッジでボラティリティの小さい通貨しか触らないという条件の付け方は、どう見ても経験者のそれだった。芽吹の提案で、誰が一番早くお金持ちになれるかを競うスーパー投資バトルまで始まってしまう。
第5話のまとめ考察
成功体験という呪い
第5話は、くるみがFXをやめられない理由を、心の中の葛藤として丁寧に描いた回だった。父との約束も、引退の決意も、新しい趣味探しも、たった一度の大勝利の記憶には勝てない。地獄を思い出そうとしても思い出せるのは至福だけという描写は、ギャンブルにのめり込む人の心理そのもので、コメディの皮をかぶりながら本当に怖い。
芽吹は自分では何も分からないまま、くるみの予想に乗って勝ち続けている。くるみはその芽吹を逆の指標として利用し、萌智子はそれを健全だと言う。そして、相場の怖さを知っているはずのやす子までがバトルに加わった。年初から続いた平和な為替相場は終わりを告げ、彼女たちの人生を変えるような狂乱怒涛の相場が始まろうとしているというナレーションで、4人の戦士がそろった物語は新しい局面へ入っていく。
幼稚園の先生になりたかった少女を自分の手で突き飛ばしたくるみは、この先どこへ向かうのか。誰が笑って誰が泣くことになるのか、見届けるのが怖いのに目が離せない。




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