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『桃源暗鬼 ~日光・華厳の滝編~』第5話は、等々力に連れられた矢颪が鬼國隊に合流し、華厳の滝跡に建てられた桃の研究所への突入に向けて動き出す回だった。個性派ぞろいの鬼國隊の面々、屋上で等々力が語った仲間を求める理由、そして四季たちが出会った奪われた娘と父親の悲劇まで、見どころが詰まった第5話を、場面ごとに一つずつ順番に振り返っていく。




第5話 鬼國隊の拠点と個性的な仲間たち
山の中の小さな廃墟
『桃源暗鬼 ~日光・華厳の滝編~』第5話は、等々力に連れられた矢颪が鬼國隊の拠点へたどり着くところから始まる。華厳の滝に向かうのではないのかと急かす矢颪に、「まずは仲間と合流する」と返す等々力。山の中にぽつんとあった小さな廃墟が、彼らのとりあえずの拠点だった。羅刹学園の整った環境とはまるで違う場所に、鬼國隊の置かれた状況がにじんでいる。
中で待っていた隊員の一人は、いきなり矢颪の顔を触ってどんな顔をしているのか確かめ始める。怒る矢颪に向けられたのは、「未熟で尖っててへそ曲がり」、「素直じゃないくせに」、「ズバ抜けてピュアなところがある」という容赦のない人物評。触っただけでここまで見抜かれてしまうのが可笑しく、しかも全部当たっているのがまたいい。
仲間じゃなくてただの同盟だ
戦力になるのかと疑われた矢颪は、自分の能力を武器を作ることだと説明する。ただし何が出てくるかは分からず、「俺の怒り次第ってとこだな」。運の要素はあれど戦闘向きだと認められ、改めて礼を言われるが、矢颪は仲間になったつもりはないと言い張る。自分がやりたいことをやっている連中だから入っただけで、「仲間じゃなくてただの同盟だ」。前回までの意地っ張りぶりはそのままで、この一線がこの先どう変わっていくのかが今回の軸になっていく。第3話で仲間は作らないと決めた矢颪が、よりによって仲間を何より大切にする集団に身を置いたという皮肉も、見ていて面白いところだ。
隊員同士の小競り合いも絶えず、「なんで大将の周りには 変な奴ばっか集まるんだろう」とぼやく声に、「苦労が絶えないね 中間管理職は」と返すやり取りが笑える。大将の等々力を支える側の気苦労が、短い会話だけで伝わってきた。変わり者ばかりの集団をまとめる役回りの隊員がちゃんといるからこそ、この少人数の部隊が成り立っているのだろう。
なんや このピュアボーイ
やがて偵察から不破真一と囲岬も戻ってくる。好みのタイプの話でいきなり脱線したかと思えば、ババアという一言に過剰に反応する者がいたりと、鬼國隊はとにかく個性派ぞろい。そんな中で矢颪のまっすぐすぎる反応が面白がられ、「なんや このピュアボーイ」とすっかり気に入られてしまう。怒っていてもかわいく見えると言われ、気安く触るなと振り払う矢颪の姿に、思わず頬がゆるんだ。羅刹学園ではいつも突っかかってばかりだった矢颪が、ここでは年上たちにすっかりおもちゃにされているのが新鮮で、意外な一面を見た気がする。
制服に着替えた矢颪に「仲間感出てきたな」と声がかかり、すかさず「仲間じゃねえよ」と返すのもお約束。口ではどれだけ否定しても、少しずつ輪の中に引き込まれていく様子が微笑ましかった。
華厳の滝跡の研究所
ヒルが見てきたもの
全員がそろったところで、偵察の結果が共有される。研究所は華厳の滝があった場所に建てられた十階建ての立派な建物で、屋上には何かの運搬に使うらしい飛行船まであった。見取り図の一部を用意していたのは蛭沼。「体内に複数のヒルを飼っているのだよ」という能力で、ヒルたちに中を探らせていたのだ。
各階には厳重な扉があり、その先に重要なエリアがあるらしい。扉の奥までは行けなかったものの、「ただ死体を運んでいる現場を見たそうです」。捕らえた鬼を使って何かを研究しているのではないかという見立てに、「身勝手に鬼の命を扱うなど言語道断」と、捕らわれた鬼の解放も目的に加わる。蛭沼の穏やかな口調と、報告の中身の重さとの落差がかえって不気味だった。
数に恐れて足踏みはしない
そして相手の戦力。研究所の大きさからすると、隊長が3人いてもおかしくなく、副隊長も同じ数、主戦力となる桃が6人、「配下の隊員は400から500くらいかな」。対する鬼國隊は、この場にいる十人に満たない人数だけ。「おいそんなの死にに行くようなもんじゃねえか」と声を上げる矢颪に返ってきたのは、全員そろっての関係ないの一言だった。
「たとえ圧倒的不利でも我々の目的は桃の根絶」。数に恐れて足踏みするわけにはいかない、「鬼の命をもてあそび実験しているならなおさらだ」。普段はふざけ合っていても、この目的の前では誰一人迷わない。突入は深夜、地下から各階にばらけて侵入し、隠密で進むという作戦が決まる。さっきまでの騒がしさとの切り替わりに、鬼國隊が本物の戦闘集団であることを思い知らされた。十人に満たない人数で数百人に挑む作戦は、普通に考えれば無謀そのものだ。それでも誰も引かないのは、これまでも同じように戦い、同じように仲間を失ってきたからなのだろう。
屋上で語られた仲間の意味
俺は寝るのが怖いんだ
その夜、眠れずにいた矢颪は、屋上で一人たたずむ等々力を見つける。何をしているのかと尋ねると、等々力は「死んでいった仲間のことを考えていた」と答える。桃を滅ぼすため、志を共にした仲間たち。「俺は寝るのが怖いんだ」という言葉の理由は、「夢の中で過ごす仲間たちとの時間が幸せすぎて」、永遠に夢の中にいたくなってしまうからだった。
目を閉じて夢を見て、目を開けて「その夢を現実にしなければいけない」。だから夜は死んでいった仲間へ思いを馳せる。そうすればあっという間に夜が明けるのだという。話したいことがありすぎる、という一言に、等々力が背負ってきたものの大きさがにじんでいた。昼間は方向音痴で乗り物酔いもする、どこか抜けた大将に見えていただけに、この静かな告白には不意を突かれた。夢を見ることが怖いという言い方に、失った仲間への思いの深さがそのまま表れている。
俺が弱いからだな
仲間を失った経験を持つ矢颪には、それが分からない。あんな思いは二度とごめんだ、こんなに失ったのに「なんでまた仲間を作れるんだ」。等々力の答えは意外なものだった。「俺が弱いからだな」。計画も立てられず、器用に頭も使えない。できるのは先陣を切って戦うことだけ。「だから俺には仲間が必要なんだ」、「それに孤独は怖い」。
強さで仲間を引っ張っているように見えた大将が、自分の弱さを認めて仲間を頼っている。「誰だって心の拠り所が必要なんだ」、「死んだ仲間の思いを実現できるのは 生きている俺たちだけだ」。そんなに簡単に仲間の死に納得して次に進めるかと反発する矢颪も、その言葉を正面から否定はできない。仲間を作らないと決めていた矢颪にとって、これ以上ない問いかけになった場面だと思う。
奪われた娘とその未来
鬼が素材
一方、矢颪を追う四季たちは、無陀野とともに夜の山道を進んでいた。たどり着いたのは、こんな場所にあったのかと驚くような小さな集落。人の気配はなく、全員で警戒しながら足を踏み入れる。そこで見つけたのは、大けがを負った男性だった。娘が連れていかれたと言い残して意識を失う男性を、近くの民家に運び込む。
傷の治りの早さから、男性が鬼であることはすぐに見抜かれた。「安心しろ」、「俺らも鬼だ」と告げられ、男性は「俺は榎本哲次」と名乗る。この集落は鬼が集まってできたもので、娘のレミと暮らしていた。華厳の滝の周辺で有毒ガスの事故が起き、一般人が避難したのは鬼にとっては好都合だった。ところがある日、滝がなぜか止まり、そこに妙な研究所ができていたという。奥にあったもう一つの鬼の集落は住人が全員姿を消し、そしてついに桃が大勢で攻め込んできた。
娘を連れて逃げようとした哲次の前で、桃たちはレミだけを確保し、「ご要望の素材は確保しましたって」と所長に連絡を入れる。鬼が素材。だから殺さずに連れ去ったのだ。前回の研究所の場面で語られていたことが、ここで一人の父親の悲劇として目の前に突きつけられる。
その未来を奪う権利は誰にもない
哲次には妻がいたが、病気で亡くなった。「家族で華厳の滝を見に行くのが日課だった」、「娘はまたあの滝が戻ってくるって信じてるんだ」。前回の冒頭で、水の消えた滝のそばで食事をしていた父と娘の姿が、ここで哲次とレミにつながる。あの穏やかな時間がもう戻らないかもしれないと思うと、たまらない気持ちになった。滝が止まったのも、研究所ができたのも、すべてが桃の側の都合で、そこで暮らしていた鬼たちには何の説明もない。その理不尽さが、哲次の言葉から痛いほど伝わってきた。
「誰も殺してない」。暴走で人を巻き込まないよう、人のいない場所でひっそり暮らしていただけなのに、鬼というだけで奪われる。レミはまだ6歳で、「その未来を奪う権利は 誰にもねえはずだ」という叫びが重く響いた。そんな哲次に向けられたのが、「おっちゃん 俺らが取り返してやるよ」、「あんたの娘も その未来も」という言葉。矢颪もおそらく研究所に向かっている。桃がたくさんいると止める哲次に「死なねえよ」と返し、深夜2時、ついに突入の時が来る。
第5話のまとめ考察
仲間を拒む矢颪と、仲間を求める等々力
第5話は、鬼國隊の騒がしい日常と、研究所に挑む覚悟、そして奪われた親子の悲劇が一つにつながっていく回だった。前半のにぎやかなやり取りで鬼國隊の面々を好きにさせておいて、後半で彼らが命を懸ける理由をしっかり見せる構成がうまい。数百人の敵を前にしても関係ないと言い切る彼らの姿には、無謀さよりも覚悟の深さを感じた。
そして何より印象に残ったのは、屋上での等々力の言葉だ。仲間を失ったからこそもう作らないと決めた矢颪と、仲間を失ったからこそ仲間が必要だと言う等々力。同じ痛みを抱えながら正反対の答えを出した二人の対比が、この先の矢颪の変化を予感させる。レミの救出、そして研究所で待つ桃たちとの戦いに向けて、物語が大きく動き出した。そして矢颪を追う四季たちもまた、同じ研究所へと向かっていく。別々の道を選んだはずの二つの集団が、レミという一人の少女を軸に再び交わろうとしているのが熱い。




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