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『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す』第5話「災害級のモンスター」は、従魔舎で出会った少女が聖女シャーロットだったところから始まる。名前で呼ばれたいと願う彼女と挑んだ回復薬の練習、相手のエネルギーが見えてしまうクェンティン団長の大混乱、そしてフィーアの正体に気づいた小さな聖女の決意まで、温かさと笑いがたっぷり詰まった第5話を振り返っていく。




第5話「災害級のモンスター」 名前で呼ばれたい聖女
シャーロットと呼んでください
『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す』第5話は、前回のラストで声をかけてきた少女との出会いから始まる。「契約主でもないのに 魔物に薬を飲ませることができるなんて」と驚く彼女は、離宮に暮らす聖女の一人、シャーロットだった。
名前で呼んでほしいと名乗ったフィーアに、シャーロットも「あの、よかったらどうかシャーロットと呼んでください」と返す。様付けではなく呼び捨てで、話し方も普通に、「あの、家族みたいに話してください」。聖女相手にそれはどうなのかと戸惑うフィーアの前で、シャーロットはぽろぽろと本音をこぼしていく。
「私にはシャーロットって名前があるのに」、「誰も呼んでくれなくて」、「みんな聖女様って呼ぶの」。3歳で聖女と認定されて教会に連れて行かれ、立派な聖女になったらお母さんにも会いに行けると言われてきた。けれど、聖女の力は弱く、回復薬も作れない。「でも私は出来損ないなの」という言葉が、小さな体にはあまりにも重い。
そんな彼女に、フィーアは「それじゃあ」、「私はシャーロットって呼ぶわね」と応える。名前を呼ぶ、たったそれだけのことが、ずっと聖女という役割でしか見てもらえなかった少女にとってどれほど大きいか。フィーアの肩の青い鳥を見て、お母さんが幸福を呼ぶ鳥だと言っていたと話すシャーロットに、「シャーロットにもきっといいことが起こるわ」と返す場面も優しかった。
失敗する練習
怪我をした従魔を見て「かわいそう」と心を痛めるシャーロットに、フィーアは聖女に向いているのではないかと語りかける。聖霊は聖女の血に惹かれて契約を結ぶため、血の色につながる赤髪が聖女の器にふさわしいとされていて、「赤に似たオレンジも上位の器のはずよ」。そして、「私と回復薬を作る練習をしてみない」と誘う。
尻込みするシャーロットにかけた言葉がとてもいい。自分は回復魔法が使えないから、うまくできなくても分からない。「それに練習ってのは大体失敗するものよ」。失敗してもいいと言ってもらえることが、自信をなくした子どもにとってどれだけ救いになるか。フィーアの前世の経験がにじむような、先輩らしい一言だった。
泉に回復魔法を流し、フィーアが自分の魔力を少しだけ添えて調整すると、泉の水はきれいな緑色に染まっていく。「この泉の水がぜーんぶ回復薬になりました」。体中を力が駆け巡る感覚に戸惑うシャーロットに、「それが回復魔法を使うということよ」と教えるフィーア。現代では透明な回復薬が当たり前で、緑色の泉は失敗だと思い込むシャーロットとの温度差も微笑ましい。
ところが、回復魔法を使ったフィーアの周りには、なぜか従魔たちが集まってくる。魔力がフィーアの中を巡り、その匂いが怪我をしたところからあふれ出ているのだという。「聖女の血の匂いって魔物にとっては極上だから」。前世では精霊が力を貸していたから気づかなかったという説明に、フィーアの体質のとんでもなさが改めて見えてきた。
前回、フィーアは現代の透明な回復薬が痛みを伴ううえに効き目も弱いことに気づき、300年前の緑色の回復薬との違いに首をかしげていた。その答えを、シャーロットという現代の聖女と一緒に形にしていく流れがとても自然だ。自分が聖女だと明かせないフィーアにとって、シャーロットの手を借りるのは、正体を隠したまま誰かを救うための精いっぱいの工夫でもあったのだろう。
第四魔物騎士団に団長が帰還
じゃじゃーん
一方、第一騎士団長のシリルとデズモンドのやり取りも挟まれる。「何しろ直属の部下から面と向かってクソったれですからね」と大げさに傷ついてみせる場面には、前回までの騒動の余波が感じられて思わず笑ってしまう。「望むところですよ」と飲みの誘いに応じる流れまで含めて、騎士団の大人たちの気の置けない関係が垣間見えた。
第四魔物騎士団では、回復薬の投与を報告したフィーアが、寝不足の副団長ギディオンに「お言葉を返すようですが」、「私も今日は寝不足です」と切り返す。理由は、かわいい従魔が風邪をひかないように防寒着を手作りしていたから。「じゃじゃーん」と披露されたのは、しっぽに開けた穴から手を入れるとパペットにもなるという謎の力作だった。
そこへ現れたのがシリルだ。魔物の生命力を数値化するためにフィーアを貸し出したはずなのに、本来の業務に手もつけていない。「第一騎士団長である私が指名して送り出した騎士を」、「あなたはないがしろにしているのでしょうか」、「職務怠慢で懲罰をお望みか」。丁寧な言葉で静かに追い詰めていくシリルの圧が、相変わらず怖くて頼もしい。部下を守る上司としての顔が、しっかりと見えた場面だった。
なんで俺の部屋に災害級のモンスターが2体も
そして、ついに第四魔物騎士団の団長、クェンティン・アガターが帰ってくる。ところが部屋に入った瞬間、彼の表情が凍りついた。「なんで俺の部屋に 災害級のモンスターが2体もいるんだ」。昔から相手のエネルギーがぼんやりと見えるという彼の目には、フィーアの肩の青い魔物と、フィーア自身が、とてつもない存在として映っていたのだ。
青い鳥の格好をしているのは、半年前から大陸中を探しても見つからなかった伝説の黒竜。「しかも幸せの青い鳥の格好をしているだと」と内心で絶叫し、もう一体はエネルギーが大きすぎて輪郭すら見えない。「なんでみんなこれと同じ空間にいて平気なんだ」という心の声に、思わず声を出して笑ってしまった。周りから見ればただの新人騎士とブルーダブなのだから、このギャップがたまらない。
極めつけは、フィーアが「実は1体は私が作ったパペットなんですよ」と明るく話しかけた場面だ。「これは罠か」、「正解以外の答えを口にしたら」、「その瞬間肉の塊にされるのだろうか」。必死にパペットを褒めちぎるクェンティンの姿は、命がけのリアクション芸そのもの。
さらに、敬語でおべっかを使う団長に戸惑う部下たちや、余計なことを言いかけるシリルに「お前は黙ってろ」と必死で止めるクェンティン。真っ二つに割れたローテーブルまで登場して、執務室は大混乱だった。「命が惜しければ俺のやり方に口を出すな」という忠告が、本人だけ真剣なのがおかしくてたまらない。周りの誰にも見えていない恐怖を一人だけ抱え込み、汗だくで最善手を探し続けるクェンティン。初登場にしてこの存在感は見事で、第四魔物騎士団の空気が一気ににぎやかになった。
秘密を守る小さな聖女
私を聖女にしてくれてありがとう
翌日、泉の水を飲んだ魔物たちの怪我はすっかり治っていた。「緑の回復薬は 使用者本来の回復力を高めるのよ」。誰も苦しまずに怪我が治る回復薬に、「私はこんな回復薬がずっとずっと欲しかった」と喜ぶシャーロット。近々第一騎士団に戻るフィーアは、泉に毎日一回回復魔法を流してほしいと彼女に頼む。
ところが、シャーロットはまっすぐにフィーアを見つめて言った。回復薬を作る練習で初めて魔力の流れを体の中に感じたこと、泉を丸ごと回復薬に変えるなんて上位の聖女にもできないこと。そして、教会にあった大聖女の肖像画。「鮮やかな赤髪に金色の瞳」、「あなたと同じ色をしているの」。
正体を見抜かれたかと身構えるフィーアに、シャーロットは「だから私は誰にも言わない」と約束する。隠すのにはきっと理由がある、緑の回復薬もここの魔物専用にする。そして、「私を聖女にしてくれてありがとう」。出来損ないだと泣いていた少女が、自分の意思で秘密を守ると決めた姿に胸が熱くなった。「賢明だね、小さな聖女」というザビリアの一言には、少しだけひやりとさせられたけれど。
食堂でのクェンティン
ラストは食堂でのクェンティンとフィーア。しばらくまともな食事をしていないと言いながら、緊張のあまり水しか喉を通らない団長の姿が切ない。それでも、フィーアの手首の従魔の証を見た瞬間、彼の目つきが変わる。80名の騎士でAランクの魔物を取り囲んで従魔にした自分の証と比べ、「あなたの証は完全なる一本の線になっていて」、「全く途切れがない」。
たまたま死にかけていたところを治療したら従魔になることを申し出てくれた、というフィーアの説明に、ますます理解が追いつかないクェンティン。「ぜひそのままお話ください」とザビリアに直接話しかけようとする彼を見て、ようやくフィーアも、ザビリアの正体がばれているのではと気づく。最後の最後でのこの気づきに、思わずにやりとしてしまった。
第5話のまとめ考察
名前を呼ぶことと、秘密を守ること
第5話は、聖女シャーロットとの出会いと、クェンティン団長の登場という二つの軸が気持ちよく噛み合った回だった。聖女という役割でしか見てもらえなかった少女が、名前で呼ばれ、失敗してもいいと背中を押され、自分の力で回復薬を作り上げる。その流れは、フィーア自身が前世で背負ってきたものを思わせて、ただの微笑ましいエピソード以上の重みがあった。
一方のクェンティンは、エネルギーが見えるという能力のせいで、誰よりも正確にフィーアとザビリアの異常さを理解してしまう人物だ。秘密を隠したいフィーアにとっては、シャーロットとは違う意味で最も厄介な相手かもしれない。それでも、周りに伝えるより先に命の心配をしてしまう彼のリアクションを見ていると、悪い方向には転ばない気もしてくる。
秘密を守ると誓ったシャーロットと、秘密に気づいてしまったクェンティン。フィーアの正体を知る人が少しずつ増えていく中で、彼女がどこまで聖女であることを隠し通せるのか。にぎやかさと温かさがたっぷり詰まった、満足度の高い一話だった。名前を呼んでもらえる喜びを知ったシャーロットが、今度は誰かの秘密を守る側に立つ。その小さな成長が、第5話でいちばん心に残った場面だった。




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