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平良兄妹に敗れた黒坂兄妹は、学園の創設者である先生のもとへ報告に向かう。最後のチャンスとして追跡の続行を命じられた二人のもとに、学園から送り込まれたのはA組の新人・渦。常識外れの登場、任務と称した破壊活動、そして異常なまでの回復力に、黒坂兄妹は振り回されていく。先生の冷たい価値観、規格外の新人・渦、そして凪への執着まで、第5話を振り返る。




第5話 敗れた黒坂兄妹と先生
第5話は、平良兄妹に敗れた黒坂兄妹の側から描かれる回だ。冒頭、直墨の心の声が二人の歩んできた道を語る。「特別な才能を持たない俺たち兄弟は」、「学園で生き残るために」、「異常な身体改造を進んで受け入れてきた」。その結果「今じゃA組だ」。けれど「身の丈に合わないこの力は」、「いずれ俺たちの体を蝕み殺すだろう」。「兄として、これでよかったのか」という自問には、前回までの強気な姿からは想像できない迷いがにじんでいた。
才能ではなく努力と改造で最上位のクラスにたどり着いた兄妹。その努力は本物でも、代償として体は確実に削られている。前回の戦いの後、黒坂兄妹がどれほど深い傷を負ったのかが伝わる重いアバンで、敵として登場した二人にも背負っているものがあるのだと思い知らされた。
直墨が「俺たちは」と言いかけて「俺は」と言い直すところも印象的だった。妹を巻き込んでここまで来てしまったことへの責任を、兄である自分ひとりで背負おうとしているように見える。妹を守るために戦う静と、妹を連れて危うい道を進んできた直墨。立場は正反対でも、兄と妹という関係の重さが両方の陣営に描かれているのが、この作品の奥行きを生んでいる。
ろくろを回す先生
黒坂兄妹が報告に訪れた先で、先生は静かにろくろを回していた。「陶芸はいい」、「何かを作り出すことの」、「原初的な快感を味わえる」、「教師の仕事にも通じるところがあるよ」。素材と作り手の意図が合わさって器が生まれるという話は、そのまま生徒を作品のように扱う先生の価値観を表しているようで、穏やかな口調がかえって不気味だった。
凪について先生は、自分が見てきた中で「最も完璧に近い」存在だったと語り、「なんとか取り戻したいと思っていた」と明かす。一方で報告によれば、凪は頭の中に残った弾丸の影響で「殺意を向けられた時のみ覚醒する」、「特殊な麻痺状態にあると推測できます」。それを聞いた先生の「かわいそうに」という一言も、心からの同情なのか、作品が傷ついたことへの嘆きなのか判然としない。
先生の嫌いなもの
ここで先生は直墨に「私が嫌いなものはなんだと思う」と問いかける。カウントダウンに追い詰められた直墨が絞り出した答えは、いつも裸足の先生にちなんだ靴下。先生は「違うよ」と否定しつつ、「たまには靴下」、「10年に1回くらい」とはくのだと付け加える。緊張感の中に妙なおかしさが混ざるやり取りだが、明かされた「正解は」、「不完全なもの」、「でした」には背筋が冷えた。
先生いわく、この学園の目的は「完璧な器を作り出すこと」。そして、その足を引っ張るのはいつも不完全なものだという。矛先が向けられたのは静だった。「あれさえいなければ」、凪が「そんな体になることもなかっただろうに」。凪を完璧に近い作品と見る先生にとって、静は作品を傷つけた不完全な存在でしかないのだろう。兄を想う静の気持ちなど一切考慮しない冷たさに、この人物の恐ろしさが凝縮されていた。
生徒を器にたとえ、完璧かどうかで価値を決める。先生の物差しの上では、努力でA組にはい上がった黒坂兄妹もまた、いつ不完全なものとして切り捨てられてもおかしくない。靴下をめぐる問答は一見すると笑える場面だが、答えを外した直墨がどんな気持ちで先生の言葉を聞いていたのかを想像すると、笑ってばかりもいられなかった。
先生は黒坂兄妹に、引き続き平良兄妹の追跡を命じる。ただし「次しくじったら卒業だからね」。卒業という言葉がこれほど物騒に聞こえる学園もないだろう。さらに「任務にはA組の新人をつける」、「5分くらいでつくはずだよ」と告げられ、物語は新たな人物の登場へと動いていく。
失敗を責めるでもなく、声を荒らげるでもなく、淡々と最後通告を突きつける。先生の怖さは、感情がまったく見えないところにある。ろくろの上で形を整えられていく土のように、生徒たちもまた先生の手の中で思いのままに形を変えられているのではないか。そんな想像をさせるだけの説得力が、この短い面会の場面には詰まっていた。
A組の新人・渦
空から来た新人
学園から現地までは「1000キロ以上あるぞ」という距離。それを5分で着くとはどういうことかといぶかしむ黒坂兄妹のもとに、文字どおり空から降ってきたのが渦だった。「よろしくお願いします」、「黒坂センパイ」。明るく軽い口調とは裏腹に、その登場の仕方からして規格外。移動するだけで周囲に被害をまき散らすあたり、とんでもない新人が来てしまったという空気がひしひしと伝わってきた。
任務のために集められた下位クラスの生徒たちには、改めて作戦が説明される。ターゲットは「3年前学園を脱走した元生徒だ」。任務は「奴らの追跡および居所の特定」で、第1班は交通網の監視、第2班は島内での追跡を担当する。「実際の戦闘は俺たちA組に任せろ」、「車椅子姿だからと侮るな」、「死ぬぞ」。前回、凪の強さを身をもって知った黒坂兄妹だからこそ出てくる重い忠告だった。
A組の生徒には、下位のクラスの生徒を学園の外で動かせる特権があるらしく、黒坂兄妹のもとには大勢の生徒が集められている。最上位のクラスに属することがどれほどの力を持つのかがよく分かる場面で、その地位を必死に守ろうとする黒坂兄妹の焦りにも説得力が増していた。
生徒たちが整列して校歌を歌う場面まで描かれ、殺し屋を育てる学園にも、普通の学校のような顔があるのが妙におかしい。草木も散る荒原にそびえる母校をたたえる歌詞が、いかにもこの学園らしく物騒で、思わず笑ってしまった。
任務と称した破壊活動
ところが、肝心の渦の姿が見当たらない。聞けば「食後の運動」に出たらしく、街ではギャング相手に暴れている者がいるという噂が広がる。駆けつけた黒坂兄妹が見たのは、刃物で刺されながらも「もう終わるんで ちょっと待ってください」と平然としている渦の姿だった。「この傷でなんともないのか」と驚かれるのも当然だ。
渦の言い分はこうだ。凪は「強い殺意を受けることで」、「ギリ肉体を保ってる」。つまり、島にいる強い者はみな潜在的に凪を生かす薬になりうる。だからできるだけ潰しておいたほうがいい。理屈としては筋が通っているようで、やっていることはただの無差別な破壊だ。「結構お薬候補が取れちゃいました」、「宇宙一治安の悪い町」と楽しげに語る姿に、黒坂兄妹以上に視聴者のほうが困惑させられた。
しかも渦は、ただ暴れているだけではない。賞金首を調べ上げたうえで相手を選んでいるあたり、本人なりの筋道はきちんと立てている。その筋道が常人とはまったく違う方向を向いているからこそ恐ろしい。明るく礼儀正しい後輩の顔と、ためらいなく人を壊す顔が同時に存在している渦は、これまでに登場したどのキャラクターとも違う種類の危うさを持っていた。
第5話のまとめ考察
閲覧制限のかかった新人
渦の正体を探るため、直墨は学務部にいる元B組の知り合いに頼み込む。その知り合いからは、生まれながらの化け物しかいないA組に「努力で編入した凡人の星」とからかわれ、黒坂兄妹もいよいよ終わりかと茶化される。それでも調べてもらった渦の情報には、「最高ランクの閲覧制限」がかかっていた。A組でさえ見ることを許されない記録。見られるのは「先生だけか」。
傷の手当ての場面では、渦の体の異常さもあらわになる。あれだけの傷が「もうほとんど塞がっていた」、「あの不死身っぷり」。先生だけが知る秘密を抱え、常識外れの回復力を持つ新人。凪を完璧な作品と呼ぶ先生が送り込んできた以上、渦もまた、先生にとって特別な作品のひとつなのではないかと思えてくる。
努力で這い上がり、身を削ってA組の座を守ってきた黒坂兄妹にとって、先生しか素性を知らない新人の存在は、それだけで自分たちの立場を揺るがす脅威になる。仲間として送り込まれたはずの渦が、実は自分たちの監視役なのではないか。直墨が渦を調べずにいられなかったのは、そんな不安の表れだったのかもしれない。
凪への執着
そして最後に響くのが「お前は絶対に俺が殺す」、「そして俺の方が優れていると先生に認めてもらうんだ」という言葉だ。あらすじにある凪への異様な執着が、ここではっきりと形になった。凪を殺すことで、先生に自分の価値を認めさせる。そのあまりにも歪んだ動機は、凪を取り戻したいと願う先生の思惑とも、凪を守りたい静の思いとも真っ向からぶつかる。
強い殺意を浴びることで命をつないでいる凪にとって、殺す気で向かってくる相手は、皮肉にも生きるための糧にもなる。凪を殺したいという執着と、凪を生かしてしまう殺意。この矛盾した関係が、これから凪と静の前でどんな形になって現れるのか。渦という存在は、物語そのものをかき回す起爆剤になりそうだ。
第5話は、黒坂兄妹の迷い、先生の冷たい価値観、そして渦という規格外の存在を一気に描いた回だった。努力で這い上がってきた黒坂兄妹が、生まれながらの怪物のような新人に振り回される構図は、どこか哀しくもある。完璧を求める先生と、それぞれの理由で凪を追う者たち。平良兄妹の前に立ちはだかる壁はますます厚くなりそうで、目が離せない。
今回、平良兄妹はほとんど画面に登場しない。それでも、先生の言葉や渦の執着を通して、凪と静の存在感はかえって大きく感じられた。追う側の事情や思惑がこれだけ丁寧に描かれたことで、次に両者がぶつかるときの緊張感は確実に増している。黒坂兄妹がこのまま先生の駒として動き続けるのか、それとも渦という異物をきっかけに別の道を選ぶのか。学園側の人間模様からも、ますます目が離せなくなった。敵の側にもそれぞれの事情と迷いがあると知ったことで、この先の戦いは、単なる勝ち負け以上の意味を持つものになっていきそうだ。




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