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『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』第9話の副題は「スーパーの裏で触れるひとり」。九本のうち、末尾がひとりになるのは四本目に続いて二度目である。佐々木の左手に指輪があるという噂から始まる回だが、レジで左手に触れた質問に返ってくるのは、まったく別の大切なものの話だった。そして一人で吸うのがいいと言った本人が、最後には相手のことを考えながら吸っている。




副題の末尾が「ひとり」になるのは、これで二度目
副題は公式サイトのSTORYに出ている
九本目の副題は「スーパーの裏で触れるひとり」。公式サイトのSTORYに、話数と一緒に並んでいる。
公式のあらすじは、後藤、前澤、大野との飲み会で浮上した、佐々木の左手に指輪があるという噂から始まる。ショックを隠せない田山は、喫煙所で再会した佐々木に思わず冷たい態度をとってしまう、と続く。前半の顛末がそのまま書かれている。
九本を並べると、末尾の人数が動いている
一本目から並べる。スーパーの裏でヤニ吸うふたり、裏で添えるふたり、裏で贈るふたり、裏で学ぶひとり、裏でかけるふたり、裏に残る匂い、裏と夏の終わり、裏から見つけるふたり、そして、裏で触れるひとり。
末尾がひとりになるのは、四本目に続いて二度目である。前の回で助詞が「から」に外れていたのが「で」に戻り、代わりに人数のほうが落ちる。戻ったところと崩れたところが入れ替わっている。
触れているのがひとりだけ、とも読める
この回で指輪の噂に気を取られているのは、山田ひとりである。
終盤で言われるのが正直山田ちゃん以外誰も気にしてなかったしだった。触れたのも、気にしたのも、ひとりだけという読み方ができる。公式の説明ではないので、あくまで読みとして置いておく。
絵コンテと演出が、二話続けて新しい人になる
この回のスタッフは、脚本が井上美緒、絵コンテが中山岳洋、演出が布施木和伸、総作画監督が佐藤惠美と大滝那佳である。
一本目から七本目まで、絵コンテは監督二人がきれいに交互に担当していた。八本目で三人目が入り、九本目でさらに四人目になる。演出の布施木和伸も初登板で、コンテと演出の両方が新顔という並びが続いている。
目撃したことは全部本当で、主語だけが違っていた
飲み会は、褒め合いから始まる
一年の労をねぎらう席で、誰かが抜けても誰でもフォローできますよ、と胸を張る声がある。
受けが前澤チーフは名調教師ねで、それほどですー、と返ってくる。飲みっぷりのほめ合いも並び、荒れる要素がどこにもない場面として始まる。
「最近特に美味い」と本人が言っている
話題が煙草に移り、最近すっごい美味しそうに吸うよね、と言われる。
返しが確かに、最近特に美味いですで、そのあとに、どっかの私のファンのせいで、が続く。この一言があとで効いてくる。
目撃談そのものは、ひとつも間違っていない
前澤が持ち出すのが、私見たんだもん、二十八号さんが指輪してんの、である。
山田が休みの日に、その客が女性と一緒に来た。私出すから、いいんだよこういうの久々だからというやりとりまで聞いている。見たことも聞いたことも、あとで嘘だと分かる部分がひとつもない。
レジで確かめてさえいる
前澤はその場で、お客様結婚されてたんですね、と確かめている。返事は、そうなんですよ、だった。
そのあとになあお前もう10年経ったか、覚えてたな、そりゃそうだろうが続く。確認までしたうえで結論が外れる、という形になっている。外れているのは事実ではなく、誰の話かというところだけである。
「関係ない」を数え上げてしまう
帰ったあとの山田の内心が、関係ない関係ない、から始まる。
結婚してる人がアイドルを推してたって、それはそいつの自由だしと例まで作り、仕事終わりに吸いに来たって何も問題ない、まで積む。関係ないことを説明するのに、これだけの手間がかかっている。
レジで左手に触れて、返ってくるのは時計の話
客としてやってきた相手に、踏み込む
レジに並んだ佐々木に、ポイントカードはお持ちですか、と聞いたあと、山田が続ける。
つける時とつけない時があるんですねである。何の、と聞き返され、左手に今日はつけてないんですね、まで言う。接客の口調のまま、私事にひとつだけ踏み込んでいる。
返ってくるのは、まったく別のものの話
佐々木の答えが、なくしたり壊したりしたくなくて、外ではあんまりつけないんですよ、である。
山田が、身につけてるもんなのに矛盾してるってことか、と返すと同僚によく言われますけど、すごく大切なものなのでが来る。話は最後まで噛み合っているように見えて、指しているものが違う。
腕時計も、左手につける
後日、喫煙所で田山が話を振ると、佐々木の答えは、それは時計のことかな、だった。
昔仕事の先輩からもらったやつを大事にしててと続く。左手について聞かれた人が、左手につける別のものを思い浮かべていたことになる。噛み合わない理由が、置き場所の同じさにある。
「山田さんから聞いたけど」と本人が言う
田山が話を振るときの前置きが、山田さんから聞いたけど、身につけてる大事なものがあるって、である。
自分が聞いた話を、自分が伝聞として持ち出している。前の回では、本人が本人へ渡してくれと頼んでいた。同じ形の一人二役が、今回は情報の出どころとして使われている。
「隠す気はありません」で終わってしまう
山田の内心が、聞かれてないから言ってないだけで、隠す気はありませんってか、である。
そのまま関係ない、を数え直すところへ戻る。踏み込んで確かめたはずなのに、確かめる前より材料が増えている。
同じ冷たさを、二人が別々の理由で説明する
佐々木は、避けられていると読む
久しぶりに喫煙所へ来た佐々木への返事が、い、久しぶり、と短い。
内心があ、避けられてるで、本当に嫌な思いをさせてしまったんだ、この前のあれで、と続く。前の回で自分が言ったことを、ずっと引きずっている。
「謝りたい」が、別の件を指す
佐々木が切り出すのが、謝りたいことがあるんだけど、である。
田山の受け取りが謝りたいってことは、まずは、前から罪悪感があったってことだった。同じ言葉が、二人の頭の中でまったく別の件を指している。
「俺、独身ですけど」
田山の返しが、さっさと家に帰ってやんなよ、奥さん、いいんだから、である。
そこへ来るのが田山さん、俺、独身ですけどだった。長く積み上がった前提が、一行で崩れる。
指輪は、妹夫婦のものだった
種明かしが、それは俺の妹だね、指輪は妹夫婦のもんだよ、である。
指輪買い替えたからいらないって、俺の指にはめてきたんだと続き、変な妹で参っちゃうよ、で終わる。本物の結婚指輪ではあって、持ち主だけが違っていた。
「俺と俺の架空の奥さん」
笑われた佐々木のまとめが、田山さんはあれだ、というものだった。
俺と俺の架空の奥さんに気を使ってくれてるんだよ、ありがとうねである。存在しなかった人に気を使わせたことへの礼になっていて、本当のところは何ひとつ伝わっていない。
気にしていたのは、ひとりだけだった
「機嫌が悪い時ほどレジで元気が出る」
飲み会のあと、後藤が前澤に確かめる。山田ちゃんは飲み会ではご機嫌斜めだったけど、いつも通りでよかった、と言われて、本当にそう思うか、と返す。
続くのがあいつはな、機嫌が悪い時ほどめっちゃレジで元気が出るだった。笑顔が本心の目安にならないという、この作品の仕掛けそのものが、店長の口から説明される。
前澤も、とっくに気づいていた
話の流れで前澤が口を滑らせる。田山って名乗ってこっそり裏でヤニ決めてんのに、である。
山田が店長を疑うと言っとらん、私言っとらんもんが返り、誰にも言ってないから安心してね、で終わる。そのあとの、よう我慢しとったなザワ、で、自力で気づいて黙っていたことが分かる。
「山田ちゃん以外誰も気にしてなかったし」
後日、山田が大野に報告する。私のファンの佐々木、やっぱ独身でしたよ、である。
返ってくるのがどう反応したらいいのかしら、正直山田ちゃん以外誰も気にしてなかったしだった。一話ぶんかけて揺れた話が、外から見ると一行で片づく。
実家の話が、次の話題を連れてくる
続けて、実家は三重県らしいです、と付け足す。
たまに出ちゃう方言が可愛いんだこれという話になり、関西弁みたいな方言よね、で終わる。世間話がそのまま、次に喫煙所で持ち出される注文になる。
三重弁を頼む
喫煙所での注文が、三重弁で喋ってみて、である。自分で可愛いなんて思ったことはないんだけど、と言いながら応じる。
なんか意識するとスルッと喋れんわな、あとやっぱり照れるやにが出て、妹はあっちに住んどるでもっとなまっとるけど、と続く。笑ってない笑ってない、と言いながら笑い声が漏れている。
題の言葉が、語尾として戻ってくる
この語尾を受け取った側が、そのまま真似して返しはじめる。
返しが別にヤニを語尾につければいいってもんじゃないですからねだった。九本目にして、題に入っている言葉が、まったく別の意味で本文に出てくる。
世界に一人のはずの時間に、相手がいる
薄着を注意した側が、くしゃみをする
上着を着ろ、薄着してると風邪ひいて、と言った直後に、自分がくしゃみしてるじゃん、と返される。
言い訳が風邪はめったにひかないんだけれど、寒いとくしゃみがよく出るんだよなである。以前は薄着を心配される側だった人が、この回では心配する側に回って、そのまま自分で足をすくわれる。
早朝の一服は、ひとりで見つけたものだった
心当たりとして出てくるのが、俺最近早朝にタバコ吸ってるんだよね、六時前くらいかな、である。
学生のころに見つけた吸い方だと言い、一人で見つけたし、一人で吸うのがいいんだよと念を押す。誘われる前に、誘わないと言っている。
「今世界で一人だけになったんじゃないか」
中身の説明が、冬の早朝って本当に静かだね、タバコの燃えるチリチリって音が聞こえるくらいなんだ、である。
続くのがもしかしたら、今世界で一人だけになったんじゃないかって怖くなったり、でも、それと同じくらいワクワクしたりもしたよだった。怖さと楽しさが同じ大きさで並んでいる。
「想像できそう?」への答えがずれている
語り終えた佐々木が、想像できそう、と聞く。
返ってくるのがまだ三重県ってそんな雪降るんだってとこである。情景ではなく地理の話が返る。同じ話を聞いていても、届く速さが違う。
「最近タバコがうまい」を、二人とも言っている
佐々木が理由に挙げるのが、ここ最近、タバコがうまいことが多いから、である。
まったく同じことを、この回の冒頭で山田が言っていた。飲み会での、確かに、最近特に美味いです、がそれにあたる。二人が別の場所で同じ感想を持っていて、そのもとが同じところにある。
別々の場所で、同じ時間のことを考える
締めは、二人がそれぞれ一人で吸う場面になる。片方は、今頃もう吸ってるのかなあ、人に起きれる、とか聞いといてさあ、と考える。
もう片方は朝に吸って、あの子、風邪ひいたりしないかなあと考え、普段着てる服がこう、薄着がちだし、まで心配する。この前も余計な心配をして怒られた、と自分で分かってもいる。
最後に、本人が矛盾を認める
そして自分に言うのが、だめだなあ、こんなこと考えちゃう、である。
締めがアホだな俺、世界に一人なのがいいんだっつったのに、さっきからだった。副題の言うひとりは、ひとりでいられなくなった時間のことでもある。




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