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『転生重騎士』第10話の副題は「交渉」。十本のうち、ゲームの中の名前や用語をひとつも含まない副題はこの二文字だけである。しかも公式のあらすじは、五話前とほとんど同じ形をしている。同じ店へ同じ物を買いに行く回で、変わったのは等級と人数と、手の中に報酬があることだけ。そしてこの回のエルマは、駆け引きが嫌いだと宣言してから二度詰まる。




十本目の副題だけが、ゲームの外の言葉でできている
九本にはかならずゲームの名前が入っている
公式サイトに並んでいる副題は、順に「重騎士エルマ」「脅威の猿蜘蛛」「大規模依頼(レイドクエスト)」「存在進化」「燻り狂う牙」「道化師ルーチェ」「成金ラーナ狩り」「王の彷徨(ワンダリング)」「夢の主(マスター)」。クラス名、魔物、システム用語、アイテム名と、どれも作中のゲームの内側から取られている。
第10話は「交渉」。ゲームの中の名前や用語をひとつも含まない副題は、十本でこの二文字だけである。ふりがなの付いた横文字も、ここには付かない。
ゲーム知識で無双する話が、ゲームの外の言葉で一本もつ
この作品の売りは、前世でやり込んだゲームの知識で先回りすることにある。攻略も戦闘も、数値と手順の話として説明されてきた。
その主人公が、十本目でゲームに載っていない技能の勝負をさせられる。しかも本人はそれが苦手だと、はっきり言葉にする。
公式のあらすじが、五話前とほとんど同じ形
第5話のあらすじは「E級冒険者に昇格したエルマは、重騎士の本当の能力を発揮するための最重要アイテム<燻り狂う牙>を求めて」「<破れた魔導書堂>を訪れる」だった。
第10話は「報酬獲得とD級冒険者への飛級昇格を果たしたエルマとルーチェ」「<燻り狂う牙>を手に入れるべく<破れた魔導書堂>を再訪する」。変わったのは等級と人数と、手の中に報酬があることだけで、あとは同じ文である。
放送直後の反応にも、そのあたりが出ていた。
分け前の話が、三つ並んで出てくる
死んでもごめんだ、と言った男が同じ回で頭を下げる
冒頭のクラインは「あいつに頭下げるなんて死んでもごめんだぞ」と言い切っている。ルーチェを追い出したのは自分たちの判断で、戻ってこいとは言えないというのが理屈だった。
ところがギルドで二人の稼ぎとD級昇格を知った途端、飛び出してくるのが「俺が悪かった!」「戻ってきてくれないか!」である。プライドを理由に断っていた男が、相手の等級が上がった瞬間に前言を取り消す。
詫びの言葉といっしょに出てくるのが金の話
きっかけは立ち聞きだった。二人の様子をうかがっていた男の内心が「こいつら一体いくら稼いだんだ」で、そこへギルド職員の昇級の説明が重なる。ルーチェはF級からD級への飛び級で、そばにいた仲間の感想が「なんかよくわからないうちに、雲の上の存在になっちゃったわね」だった。
続けて言うのが「剣の金はやっぱり三等分しよう!」だった。謝罪の中身が、いったん独り占めした分け前を分け直すという申し出になっている。
エルマとルーチェの返事は無い。「行こう、ルーチェ」「調査は時間がかかるらしいからな」で歩き出し、背中に「話だけでも聞いてくれないか」が飛ぶ。
追い出した側が、聞いてもらえない側に回る
第6話でルーチェに戦力外を告げたのはこの一行である。理由も「金の切れ目が縁の切れ目」だった。四話のあいだに、話を打ち切る側と打ち切られる側が入れ替わっている。
冒頭の流れをそのまま拾っている投稿もあった。
受け取らせようとする側と、受け取るまいとする側
攻略報酬は都市が出していた
天使の玩具箱には都市から攻略報酬が出ていた。放置されたダンジョンは魔物災害につながるため、都市や村が攻略依頼を出すことがある、という説明が入る。額は1000万ゴルド。
倒したから偉いのではなく、放っておくと困るから金が出る、という理屈で報酬が説明されている。ルーチェの反応は「喜ぶべきなんでしょうけど、ドロップ品のせいで感覚が麻痺して反応に困りますね」だった。
八対二で、多いほうを相手に渡す
総額はおよそ5700万ゴルド。エルマの提案は「これを8対2で、ルーチェが4600万ゴルド」「俺が1100万ゴルドってところだな」で、念を押すのが「もちろんそっちが8、俺は2でいい」である。
ルーチェは受け取らない。「逆の立場で受け取れますか、この4000万ゴルド」「ここまでレベルを引き上げてもらっただけでも感謝してもしきれないくらいなのに」。二人とも相手に多く渡そうとしているせいで、話が平行線になる。
スキルブックを使わない理由
ドロップした中級風魔法のスキルブックについて、エルマは「ルーチェは使うか?」と勧める。断ったルーチェの理由が「だってそれって、目指す先が変わるってことじゃないですか」「私だってもっと上を目指したいですもん」だった。
もらえる強さではなく、同じ方向を向いていられるかどうかで決めている。付け足しが「それに、早々にはいお別れなんて寂しいじゃないですか」。
実感がない、の中身
祝賀会で漏れた一言
高い店での祝賀会は、エルマが「冒険者としてこれだって成果が出たら、パーティーの仲間とここに来ようって」と話すところから始まる。それを受けたルーチェの一言が「まあ、その時はクラインさん、リースさんと来るつもりだったんですけどね」だった。
追い出された相手と来るはずだった店に、追い出されたおかげで来ている。
祝いの席で先に出るのは次の計画
エルマの「D級冒険者になったことで、お前はどう思う?」への自答が「スキルポイントの上限が45へと上がった」「それに燻り狂う牙の入手も見えてきた」「次の稼ぎ方を考えるべきか」だった。祝いの席で真っ先に並ぶのが、次の目標の数え上げである。
そのあと本人が「あー、すまない。せっかくの祝賀会だ。今は素直に楽しまないとな」と言い直す。ルーチェが値段を見ているあいだ、エルマは数値を見ている。実感がないのは二人とも同じで、向いている先だけが違う。
五千万を手にした人が探すのは四千ゴルド以下
メニューを見たルーチェは「エルマさん、このページのやつはダメです」「単品4000ゴルド以下のものから探しましょう」と言う。取り分の話がまとまらないうちから、財布の感覚だけが元のままである。
エルマの「大丈夫です?」に返るのが「まだ実感がないですが」。この一言の中身が、値段の見方に出ている。
「交渉になってない」と言われた案だけがまとまる
駆け引きはしたくない、と先に宣言する
第9話の引きは「あの欲深な婆さんが相手だ。一筋縄でいくだろうか」だった。心配は当たるのだが、当たり方は本人の想定とは違っている。
店に着いたエルマは、最初に「面倒な駆け引きはしたくない」と言い、3000万ゴルド出すならここで売る、それ以下なら別の店を当たると告げる。店主の答えは2500万ゴルド。
駆け引きをしないと宣言した相手に、店主はふつうに駆け引きを返してくる。エルマの内心も「こっちは余計な駆け引きはしたくないと言ってるのに」で、結局この品は売らずに持ち帰ることになる。
二つ目も、数字を出し合ったまま止まる
本題のスキルブックでも同じことが起きる。市場価値2000万ゴルドに対し、ギルドなら700万、店主の提示は1400万、エルマの返しが2200万。
店主は「あんたら、自分で使う気なんてさらさらないんだろ」と足元を見て、エルマは「今後は客としても利用させてもらうって言ってるんだ」と押す。互いに言い分は通っているのに、金額だけが動かない。
欲しい本の値段が、その場で明かされる
割り込んだルーチェに、店主が明かすのが「そのガキが欲しがってるのは5500万ゴルドのレアスキルブックさ」である。第5話で示された金額と同じで、エルマの内心は「市場価値は3000万ゴルドなんだけどな」「なかなか足元見てくれる」。
買い手が隠していた目標額を、売り手のほうが先に口に出した。ルーチェの感想は「話の流れで覚悟してましたけど、すごい高い」。
交渉になっていない、と言われた案
ルーチェが出したのは、売却で得た金を数えるのではなく、スキルブックとここへ持ち込んだ品をまとめて目当ての一冊と交換する、という案だった。店主の第一声は「そんなの交渉になってないさね」「思いつきで口を挟んで」。
ところが数秒後には「その条件なら飲んでもいいさ」に変わる。この回で唯一まとまった交渉が、交渉になっていないと言われた案である。副題の二文字は、たぶんここに掛かっている。
査定の相手が、品物から人へ移っていく
店主の見方が三段階で変わる
最初の店主は「聡明そうなあんたなら、うちでの売却なんて端から考えてないと思ったんだけどね」と警戒している。持ち込まれた品を見ると「こんな大物だと知っていればそうに接したのに」「こりゃ損したね」。
マスターからのスキルブックまで出てくると「本当にたまげたね」「近いうちに英雄様と呼ばれるようになるかもしれんね」に変わる。値踏みの対象が、机の上の品物から目の前の二人へ移っている。
最後に賭けているのは将来のほう
交換に応じるときの言い方が「小娘、あまり商人の邪魔をするもんじゃないよ」「だが、未来の英雄様にかけるのも悪くないさ」だった。商売の判断を、品物の相場ではなく人の伸びしろで決めている。
交渉相手が、途中から片方の味方になる
分配金が渡せなくなると渋るエルマに、ルーチェは「私からの感謝のプレゼントだと思って」と押し切る。エルマが「事情ができてパーティー解散になったらどうするんだ」と言うと、返るのが「まさか、私を切り捨てるつもりなんですか」だった。
先のことを心配して出した言葉が、そのまま別れ話に聞こえている。「だったら問題ないじゃないですか」「エルマさんがまた余計なことを言い出す前に」で話は決まる。
店主が拍手を送る側に回る
店主の感想が「よく言い伏せたよ、小娘」「しっかり捕まえときな、逃がさんように」で、エルマの内心が「なんで息が合ってるんだ、この二人」だった。値段でやり合っていた相手が、締めでは味方の側に立っている。
締めに置かれるのは、この二人を外から見ている人物の短い場面である。口ぶりからすると、エルマを幼い頃から知っている相手で、時間をかけて追い込むつもりでいる。祝勝と値段の話で埋まった一本の最後に、二人がまだ知らない敵意だけが置かれた。




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