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第12話は、会いに行く方法が一本しかない日の話だ。空港へ乗り込めば会えるが、それは決勝公演の初日を落とすことを意味する。当人からの言伝は「あなたたちは練習に集中しなさい」で、断る理由が先に潰されている。団長代理が出した答えは「決勝公演の棄権はしません」だった。そして舞台が始まったあとの客席に、いちばん遠くにいるはずの人が座っている。




面会謝絶と、「私たちだって家族です」
会えるのは、ごく一部の人だけ
第12話は病室の話から始まる。伝えられた状況は「今のところ」「七海さんや親族のごく一部の人と」「凛さんしか面会ができないということです」だった。それでも返ってくるのは「ですが」「私たちだって家族です」という一言だ。血のつながりで線が引かれた直後に、自分たちも家族だと名乗り返している。
心配の仕方が、そのまま人柄になる
段取りはすぐ決まる。「迷惑にならないよう」「少ない人数で面会に行きましょう」と決め、容体についても「意識もしっかりしてるし」「食事も取れているそうです」「大事を取ってのことらしいので」と確かめている。会いたい気持ちより先に、相手を疲れさせない条件のほうが並べられる。
それでも収まらない一人がいる
一方で「会えないなら強行突破だな」と言い出す者もいて、「お願いだから問題起こさないで」となだめられる。理由もはっきりしている。「会える機会がなくなっちゃうんです」「マリアさんに会いたい」。無茶を言っているようで、時間が無いという事実のほうは誰も否定できない。
言伝と、空港という最後の手段
「こうなったら出発前の空港に乗り込むしかないな」
出た案が「こうなったら出発前の空港に乗り込むしかないな」だった。けれど「それは時間的に」という言葉に続くのは、決勝公演の初日を落とすという意味だ。会いに行く方法はあるのに、その一本しかないせいで選択が重くなる。
本人からの言伝が先に届く
そこへ「マリアから皆さんに事づてがあります」と知らせが入る。中身は「心配してくれてありがとう」から始まり、「あなたたちは練習に集中しなさい」「私に構ってる暇はないはずよ」と続く。締めは「私は元気にアメリカに行ってくる」「決勝公演」「楽しみにしてるわ」だった。会いに行くための理由を、当人が先回りして一つずつ外している。
伝える側も、言葉を足さない
受け取った側は「皆さんの気持ちは」「きちんとマリアに伝えます」と返す。慰めも説得も足さず、往復の形だけが残る。言伝という形にしたことで、断りきれない頼みではなく本人の意思として置かれている。
頂点に立ちたい人と、高みに登りたい人
決勝の相手と、人目を避けて会う
対戦相手との顔合わせは「こんな場所で申し訳ないわね」から始まる。理由は「決勝公演で戦う相手と」「堂々と会うのもどうかと思ってね」だった。そのうえで「正直」「ここまでやるとは思っていなかったわ」と続く。敵として扱いながら、評価だけは先に渡している。
二人の望みは、似ているようでずれている
相手が明かすのは「私はサーカスの頂点に立ちたい」で、「あなたも私と同じだと思っていたのだけれどね」と続く。返ってきた読みは「あなたはサーカスの高みに登りたがっている」「だから私の誘いに迷った」だった。頂点と高み、一字も同じではない言葉の違いが、そのまま二人の分かれ道になっている。
目標を聞かれて、出てくる答え
話は「負ければひまわりは解散」「バラバラになる覚悟があってのことよね」という確認まで進む。返事は「私たちは負けることなんて考えていません」。そして「一応聞いておくわ」「今のあなたの目標は何」と問われ、答えは「今はマリアの夢を叶えること」「みんなと一緒に」だった。自分の夢ではなく、預かっている夢のほうを目標として言い切っている。
立て替えられていた費用と、冗談ひとつ
「立て替えありがとうございます」
場を離れる前に、もうひとつのやり取りがある。「立て替えありがとうございます」と頭を下げられた側の答えは「当たり前のことをしただけよ」だった。敵として向き合ったばかりの相手が、治療費を先に出していたことがここで分かる。
「利子つけて返してね」
続く一言が「利子つけて返してね」で、相手が固まったところへ「冗談よ」と落とす。そして「オレンジジュース飲んでね」「おいしいわよ」と話題が変わる。照れ隠しの手順まで決まっていて、この人の厳しさの内訳が見えてくる。
持ち帰られるひと缶
受け取った側は「みずかに持って帰ろう」とつぶやく。誰かに会えない日の土産が、缶のジュース一本になる。大きな選択の話が続く回の中で、いちばん小さな物が人の距離を示している。
空港か、公演か
条件は出そろっている
整理すると答えは単純ではない。「決勝公演を棄権することになる」し、「それはマリアさんが望んでいない」。それでも「みんなも」「私も」「マリアさんに会いたい」という気持ちは消えない。正しい答えが先に分かっているのに、消えない気持ちのほうが同じ重さで残っている。
「ちょっと会うくらいいいじゃない」
迷いを口に出す声も上がる。「ちょっと会うくらいいいじゃない」という言い分は、誰も間違っているとは言えないものだ。反対する理由が無いまま、決める人だけが決まっていない状態が続く。
「団長をやりなさい」
そこへ短い指名が入る。「みずか」「団長をやりなさい」。迷いを止めるのではなく、決める役をその場で渡している。答えを出すのではなく、答えを出す人を決めるという形で場が動いた。
団長代理が下した判断
「決勝公演の棄権はしません」
全員を集めて言い渡されたのは「団長代理としての判断を言います」から始まる短い方針だった。「決勝公演の棄権はしません」「マリアさんの言いつけ通り」「私たちは決勝公演に向けての練習を最優先します」。会いたい気持ちを否定せず、言いつけを守るという形で棄権を退けている。
理由の置き方が優しい
続けて添えられたのが「私たちが目標に向けて全力で挑むことが」「何よりのお見舞いになると思います」だった。行かないことを、行くことより価値のある行為として言い直している。命令ではなく、別のお見舞いの形として提示されたので誰も傷つかずに済んでいる。
反応は、ほとんど先回りされていた
返ってきたのは「みずかは」「なんかそういうと思った」で、続くのは「棄権なんかしたらぶっ殺されるわよね」という乱暴な同意だ。「正直迷うとこもあったけど」「踏ん切りついた」と認める声もあれば、「決勝公演の優勝賞金でアメリカにお見舞いに行けばいいじゃん」という切り替えも出る。重い判断が、団員の側ではとっくに共有されていたと分かる。
団長代理の一言と、そのあとの夜
「私生まれた時からサーカスと一緒でした」
一言を求められて出てきたのは、挨拶ではなく身の上話だった。「私生まれた時からサーカスと一緒でした」「ロータスサーカスは私の家で仲間で家族で」と始まり、「それがいきなり亡くなって父親を恨んでサーカスから目を背けて」と続く。士気を上げる言葉の代わりに、いちばん触れたくない過去から入っている。
「ここが私の新しい場所なんだって」
話はそのまま今へ移る。「ひまわりに来た時もすごく嫌でした」「昔の家族を裏切るみたいで」と認めたうえで、「私サーカスが好き」「ここが私の新しい場所なんだって」「皆さんに教えてもらいました」と続く。締めは「この場所を守るため」「みんないつまでも一緒にいられるように」「勝ちましょう」「みんなで」だった。守りたいものが賞金でも優勝でもなく、いま立っている場所そのものになっている。
人前では言わないこと
そのあと二人きりで「辛い役目ご苦労様でした」と労われ、「団を預かってるんですから」「当然の判断をしただけ」と返す。続けて出てくるのが「私勝つためには何でもやるって」「マリアさんに言ったんです」、そして「胸を張ってお帰りなさいって言えるサーカス団になって」「待ってます」だった。「私ひまわりに来てよかった」まで言って、皆の前で言えばと促されると「恥ずかしいですから」で終わる。いちばん大事な言葉だけ、一人にしか渡していない。
新しい演目は、風呂場から出てきた
「私たちの新たな演目構成です」
空気が変わるのは「それよりもですね」「これ見てください」という切り替えからだ。差し出されたのは「私たちの新たな演目構成です」で、「明日から皆さんにも協力してもらって」「特訓です」と続く。落ち込む時間を作らないまま、次の手がもう紙の形になっている。
思いつきの出どころ
種明かしは「私の大好きなお話」だった。「映画を見てきました」「そしたらもうすごく夢中になっちゃって」と語り、「この楽しさをサーカスでもできないかなって思ったんです」と続ける。決勝の作戦が、遊びに行った先で受け取った感情から始まっている。
「演目を物語仕立てにする」
聞かされた側の反応は正直だ。「演目を物語仕立てにする」と確かめられ、「そのままの意味です」と返され、「ちょっと何言ってるかわかんない」と言われる。それでも理屈は通っている。「演目の優劣だけが戦い方じゃないんじゃないかって思ったの」「お客さんに楽しんでもらう方法は演目だけじゃないってことです」。技で勝てないと認めるのではなく、勝負の軸そのものを増やしにいっている。
観客席も舞台にする
「でも私たちは観客席も舞台にします」
もう一つの提案が距離の話だ。「サーカスって舞台からお客さんに一方的にお見せするものですよね」と前置きし、「でも私たちは観客席も舞台にします」と言い切る。狙いは「見るだけじゃない演者と一緒に楽しむサーカス」で、受け取った側も「客席全部を巻き込んじゃうってことね」と言い換える。見せる側と見る側の線を引き直すことが、そのまま作戦になっている。
足りないものは、すぐ埋まる
課題もその場で出る。「しっかりとした台本が必要です」と言われ、「その台本私に任せてくれるかしら」と手が挙がる。返事は「ぜひお願いします」で、「そのつもりだったでしょ」と笑われる。思いつきが数分で分担表に変わっていく速さが、この団の強さになっている。
全員の案が入る
さらに「俺たちの考えた案も組み込んでみたい」と続き、「そういうのどんどんください」と受ける。空気は「この新しいサーカス行けるような気がしてきた」まで変わる。団長代理の思いつきが、全員の持ち寄りに作り替えられている。
決勝公演と、オズの物語
第24回の初日が始まる
舞台は「第24回キルクスコレクション日本大会」「その決勝公演初日を迎えました」と紹介される。「これより5日間にわたり繰り広げられる決勝公演」「最後まで目が離せません」と実況が入り、舞台裏では「決勝といっても何も変わることはありません」「いつも通り日々の練習の成果を出せばいい」と声がかかる。特別な日の直前に、特別ではないと言い聞かせる言葉が置かれている。
「物語の舞台はオズの魔法使い」
幕が開くと語りが入る。「物語の舞台はオズの魔法使い」「愛犬のトドと一緒に東の国へやってきました」「ヘンリーおじさんとエムおばさんと楽しく暮らしていたのに」と進み、「銀の靴を履きなさいと言われました」まで説明される。演目の説明ではなく物語の語りから始まるので、客席は最初から観客ではなく読者にされている。
客席が、仕掛けの一部になる
進行はそのまま客席を使う。「心が欲しいブリキさんが困っています」「動けるように油のボールを投げてあげてください」と呼びかけ、「取り返されないように弾いてください」「さあさあ」「魔女が追いかけてきますよ」と煽る。結果は「皆さんのおかげで西の悪い魔女は退治されました」だった。手伝わされた客席が、手柄まで分けてもらっている。
まとめと考察
相手側から見た、この演目
休憩中の報告も面白い。「芝居と言いますか芝居仕立てというか」「物語の進行に合わせて演技する構成になってまして」「道具を使って客席を巻き込んでの盛り上がりになってます」と伝えられ、返るのは「報告ありがとうございます」だけ。別の場所では「演者と観客が一体になるなんて」「こんなサーカスの見せ方があるん」と驚かれ、「さすがはブラックロータスの娘といったところで」と評される。敵陣の評価が、そのままこの回の解説になっている。
揺れているのは、勝っている側だった
ブルーローズの側でも小さな乱れが出る。「ひまわりが気になる」と漏らした者に「他のことに気を取られては」「舞台に集中しなさい」と注意が飛び、別の場面でも「他のことに気を取られちゃダメじゃない」と同じ言葉が使われる。同じ注意が二度出てくることで、気を取られているのが一人ではないと分かる。
いちばん来てはいけない人が来ている
そして締めの二言だ。「なんでいるのよ」と絶句する相手が返すのは「どうしてもこの目で確かめたいことがあるの」だけ。客席に座っているのは、この日いちばん遠くにいるはずの人だった。会いに行けば棄権になるという条件を、会いに来た側が破ってひっくり返している。
判断の中身が、まだ終わっていない
団長代理の判断は、練習を選ぶかわりに会うことを諦める取引だった。ところが相手がその取引ごと無効にしてしまったので、守られたはずの言いつけも宙に浮く。正しい判断をしたのに、その正しさが相手の一手で置き去りにされるという終わり方をしている。




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