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ついに待望の第2期の始まりとなる第14話で描かれたのは、天才ピアニストの奏史と、一人だけのピアノ同好会に入ってきた転校生の昴の物語。似た者同士の二人はすぐに打ち解けるが、昴には誰にも言えない別の顔があった。口の悪い天才と転校生の連弾、殺し屋としての昴の素顔、そして花束を待つ奏史の告白まで、第14話を場面ごとに一つずつ丁寧に振り返る。




ピアノ同好会の二人
『ホテル・インヒューマンズ』の第2期が始まった。第14話の主役は、ホテルの宿泊客ではなく、一人の高校生ピアニストと転校生だ。ピアノを通して少しずつ心を通わせていく二人の時間が描かれる。けれど、その友情の裏には、この作品らしい冷たい真実が隠されていた。
「人の心あんのか」
天才ピアニストの奏史は、部活強制のルールを避けるために一人だけのピアノ同好会を作っていた。そこへ突然入部してきたのが、転校生の昴だ。動画サイトで見たストリートピアノに憧れたという昴は、キラキラ星しか弾けない初心者。それなのに、奏史と連弾をすることになってしまう。
初心者で音楽のセンスもない。面と向かってそう言い切る奏史に、昴は思わず「人の心あんのか」と返す。奏史の答えは「天才の心しかない」。昴はあきれながらも、確かにそうでなければここまでひどいことは言えないと妙に納得してしまう。口も性格も悪い天才と、すぐに音を上げる転校生の掛け合いが、テンポよく楽しかった。
何度も休憩をねだる昴と、もう一回と譲らない奏史。鍵盤に顔を乗せて弱音を吐く昴の姿は、どこにでもいる高校生そのものだ。このやりとりを見ている間は、まさか彼が殺し屋だとは誰も思わないだろう。
それでも奏史は、初心者の昴が努力すればぎりぎり弾けるレベルの譜面を、わざわざ書き起こしていた。「習うより慣れろ」がスタイルだと言い、簡単な曲から始めたいという昴の希望は「天才の時間は高えんだよ」と却下する。口は悪いが、ちゃんと昴に向き合っている。その不器用さが奏史らしかった。
似た者同士の二人は、言い合いをしながらもすぐに打ち解けていく。昴に「だから友達いないんだよ」と言われる奏史だが、その言葉を受け流せる関係ができつつあることが、むしろ二人の距離の近さを感じさせた。
一人で同好会を作り、誰ともつるまずにいた奏史にとって、遠慮なく言い返してくる昴は初めての存在だったのかもしれない。天才として扱われることに慣れた少年が、対等な言い合いを楽しんでいる。その姿は、年相応の高校生そのものだった。
父が見に来るリサイタル
帰り道、奏史の父についての心ない噂が聞こえてくる。元外交官の父は、横領の疑いをかけられていた。周囲から嫌われていることをわかっている奏史は、それでも昴に打ち明ける。父が、1か月後の自分のリサイタルを「見に来るって」。最近は体調がいいらしい。
昴は気にも留めず、よかったじゃんと笑う。父ちゃんが来るならいっぱい練習しないとな、「超絶イケてる連弾」を聞かせてやろうぜ。自分のリサイタルだと突っぱねる奏史に、昴はケチだと返す。重い話を軽やかに受け止めてくれる友人の存在が、奏史にとってどれほど救いだったかがよく伝わってきた。
父をめぐる噂は、奏史が背負っている重荷そのものだ。周囲の冷たい目にさらされながら、それでも父が来てくれることを素直に喜べない。そんな複雑な気持ちを、昴は深刻にせず、明るい言葉で包み込んでくれた。だからこそ、この後に明かされる真実がいっそう重くのしかかる。
殺し屋としての昴
奏史と別れた昴が向かったのは、殺し屋専用のホテル、ホテル・インヒューマンズだった。ここから物語の空気が一変する。
「友達のパパを殺す」
コンシェルジュに迎えられた昴は、クラスメイトが授業中に撮った動画に自分が映ってしまったと相談し、削除を頼む。殺し屋として、顔が出回ることは避けなければならない。部屋には、昴のために手配されたグランドピアノも届いていた。
ホテルのスタッフとのやりとりは、学校での昴とまるで変わらない軽さだった。けれど話している内容は、自分の痕跡を消すための依頼だ。いつもの調子で物騒な話をする姿に、昴が生きてきた世界の異常さが表れていた。
ターゲットは、奏史の父だった。元外交官として秘密費を賄賂に使い、やがて横領に手を染めた男。当時の癒着リストが流出したことで、死んでもらわないと困る者が大勢いる。警備が厳重な中で唯一の狙撃の機会が、一人息子である奏史のリサイタルだった。昴は高校に潜入して3週間、ピアノを使って奏史に近づいていたのだ。
仲良くなるのはつらいのではないかと気づかうコンシェルジュに、昴は笑って答える。自分はプロなのだと。「友達のパパを殺す」、「それが俺のお仕事」。明るい転校生の顔の下に隠された殺し屋の素顔が明かされる瞬間は、ぞっとするほど鮮やかだった。
ホテルのコンシェルジュたちは、そんな昴の仕事を全力で支える。動画の削除も、スマホの情報収集も、狙撃ポイントの確保も、決してノーとは言わないサービスだ。殺し屋をもてなすホテルの完璧さが、かえって昴の孤独を際立たせているようにも見えた。
「殺しは1日にしてならず」
それでも昴は、帰宅後もホテルの部屋でピアノの練習を続ける。ホテルのコンシェルジュに教わりながら、指の動きを一つずつ確かめていく。自分は「真面目系の殺し屋」だと言い、「努力は結構得意」だと笑う昴。決行は30日後。奏史との関係の深さが、成功の鍵を握っている。
「殺しは1日にしてならず」という言葉には、仕事への徹底したこだわりが込められていた。けれど、その努力はピアノの上達という形で、奏史との関係にもまっすぐ跳ね返っていく。仕事のための練習が、いつの間にか本物の連弾の練習になっていく皮肉が、この回の切なさを深めていた。
練習の場面で流れる楽曲と、射撃の場面が重なる演出も印象的だった。鍵盤をたたく指と、引き金を引く指。同じ手が、まったく違う二つのことに使われている。その対比が、昴という人物の二面性を鮮やかに映し出していた。
揺れ始める心
練習の成果は、すぐに表れた。仕事のために始めたピアノが、少しずつ昴自身の楽しみにも変わっていく。
「もっと弾けるようになる」
翌日、昴の演奏を聞いた奏史は驚く。そんな音が出せたのか。ちゃんと練習したのだと見抜いた奏史は、ほめる代わりに、さらに高度なアレンジの譜面を用意してくる。昴はホテルで、奏史が言うには自分は「もっと弾けるようになる」のだと話す。その声には、どこかうれしさがにじんでいた。
ほめ言葉を口にしない代わりに、もっと難しい譜面を渡す。それが奏史なりの最大の評価なのだろう。昴の努力をちゃんと見ていて、さらに上へ引き上げようとする姿に、天才らしい厳しさと優しさが同居していた。
リサイタル当日は舞台袖で見学できることになり、昴は大はしゃぎしてみせる。関係者席も取れるのにと言う奏史に、袖から見るのが「特等席」だと答える昴。その舞台袖こそ、昴が狙撃のために必要としていた場所だった。無邪気な言葉と冷徹な計算が同じ口から出てくるのが恐ろしかった。
一方で、ポスターを見た生徒たちは奏史の陰口をたたく。元外交官の息子だから、親が裏で手を回したのだろうと。天才と呼ばれる奏史もまた、学校では孤独な立場にいる。その中で昴だけが、彼の味方のように振る舞っていた。
「人間なんてみんな変じゃん」
奏史は昴に、リサイタルの最後に父が花束を持ってくるのだと打ち明ける。父はどの国にいても、ピアノの発表会の日だけは休みを取って見に来てくれた。上達していないと次の年は来てくれなくなると思い、子どもの頃からずっと練習してきた。父を振り向かせるために弾いてきたピアノ。その「答え合わせ」が、演奏の最後の花束だった。
父の汚職をニュースで知り、最低だと思う。非難されて当然だ。それでも、また花束を待っている自分がいる。おかしいよな、と自嘲する奏史に、昴は「うんおかしい」と答えたうえで「人間なんてみんな変じゃん」と続けた。突き放すようでいて、相手をそのまま受け止める言葉だった。
父を許せない気持ちと、父に認められたい気持ち。その矛盾を抱えたまま、奏史はピアノを弾き続けてきた。昴の短い一言は、その矛盾ごと奏史を肯定してくれるものだった。殺し屋の口から出た言葉が、誰よりも温かく響いたのが皮肉だった。
その日の練習後、ホテルで昴の演奏が少し変わったようだと指摘されると、昴は友達って難しいな、とつぶやく。プロとして割り切っていたはずの心が、奏史の言葉で確かに揺れ始めていた。
まとめと考察
第14話は、ピアノを通して結ばれていく友情と、その裏に隠された殺しの計画を、同時に描いた回だった。
花束と銃弾
奏史にとって、父の花束は自分の努力が届いた証だった。けれど昴の任務が果たされれば、その花束が渡されることはない。同じリサイタルを、一人は父を待つ日として、もう一人は父を撃つ日として見ているという構図が、あまりにも残酷だった。
昴は奏史に近づくために練習を重ねてきた。けれど、努力して上達していく過程で、奏史の言葉や素顔に触れてしまった。仕事として作ったはずの関係が、本物の友情になりかけている。友達って難しいという昴のつぶやきは、プロの殺し屋としての迷いの始まりなのだろう。
殺し屋たちの人間模様を描いてきたこの作品が、第2期の始まりに選んだのは、少年同士のまっすぐな友情だった。30日後のリサイタルで、昴はどんな答えを出すのか。連弾の行方とともに、二人の結末を見届けたい。
父の罪と、息子の思いと、殺し屋の任務。三つの思いが一つのリサイタルに向かって集まっていく。どの思いも嘘ではないからこそ、結末を思うと胸が苦しくなる。
第2期の幕開けとして
第1期では、コンシェルジュの生朗と沙羅が、ホテルを訪れる殺し屋たちをもてなす姿が描かれてきた。第2期の始まりでは、そのホテルの客である若い殺し屋が、一般の高校生と心を通わせる物語が選ばれた。殺し屋の日常に入り込む、普通の友情という切り口が新鮮だった。
物語はまだ前半にすぎない。昴が任務と友情のどちらを選ぶのか、そしてホテルのコンシェルジュたちがその選択にどう関わるのか。奏史の連弾と父の花束の行方を、最後まで見届けたい。




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