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第11話の副題は「辺境領主様とアルナーの兄」。アルナーの兄ゾルグが「俺が救い出してやる」と現れ、妹を連れ戻すと言って聞かない。噛み合わないまま村を出た兄と、見送りに出たディアスの前にウィンドドラゴンの群れが現れる。魔力の少なさで見下され続けてきた男が、なぜ詐欺に引っかかったのかもここで明かされる。そして最後に、ディアスが倒れる。




副題「辺境領主様とアルナーの兄」と、公式のあらすじ
あらすじは「ウィンドドラゴンの群れに遭遇してしまう」で切れる
第11話の副題は「辺境領主様とアルナーの兄」。公式のあらすじは「アルナーより穀潰しと非難される兄・ゾルグ」から始まり、「ゾルグはディアスを悪徳領主だと思い込み、妹を連れ戻すとい言って聞かない」と続く。締めは「その道中でウィンドドラゴンの群れに遭遇してしまう」だ。兄妹のいさかいで始まった回が、竜との遭遇で終わると予告されている。
副題に身内が入るのは、これが初めてだった
この作品の副題は「辺境領主様と」で始まる形が続いている。そこに入ってきたのが、今回は敵でも来客でもなく、妻の兄だ。しかも本人は助けに来たつもりで、村の側から見れば厄介事として現れる。いちばん近い身内が、いちばん話の通じない相手として出てくる。
「恐ろしいほど噛み合ってないわ」という再会
「生きて戻ったのか」「俺が救い出してやる」
現れたゾルグは妹の名を呼び、「俺が救い出してやる」と言う。アルナーの第一声は「生きて戻ったのか」で、返しは「私を助けるだと」の一言だ。悪徳領主に無理やり結婚させられたと思い込んでいる兄と、自分の意思でここにいる妹が、正面から噛み合わない。救出だと思っている側と、迷惑だと思っている側が、同じ言葉で話している。
「実家が貧しいのはお前のせいだろ」
家が貧しいことにつけ込まれた、というゾルグの理屈に、アルナーは「実家が貧しいのはお前のせいだろ」と返す。周りの評は「恐ろしいほど噛み合ってないわ」で、事情を知らない者には何が起きているのか分からない。兄の主張の前提そのものが、兄のせいで成り立っていない。
仲裁の決め手が「セナイとアイハンにも見られてしまうぞ」
割って入るディアスも、正論では止めない。「ここまで言っているのだから」「話を聞いてやってはどうだ」と促し、効かないと見るや「セナイとアイハンにも見られてしまうぞ」と子どもたちの名前を出す。それでアルナーの手が止まる。言い分ではなく、見ている子どもを持ち出して場を収めている。
「二人の名前を出したのは 少し卑怯だったかな」
その直後、ディアスは自分で「二人の名前を出したのは」「少し卑怯だったかな」と振り返る。効く手を使った自覚があり、それを胸の内で認めている。うまくいった手ほど、使った本人が後ろめたく思っている。
魂鑑定が青でも、騙されるときは騙される
「病気だと言われたんだ」「治すには金が必要だと」
家の金に手を出した件を問われると、ゾルグは黙らない。「病気だと言われたんだ」「治すには金が必要だと」「後で絶対に返すと」と、女から聞かされた話をそのまま並べる。アルナーの返しは「今さらだな」「家族や族長にまで止められてもやめなかったくせに」だ。止められても続けた理由が、嘘だと分かったあとも本人の口では筋の通った話になっている。
「魂鑑定も所詮は魔法の一つでしかないんだ」
鬼人族には相手の心を見る魂鑑定があり、その女は青だった。だから騙されるはずがない、という空気に、ディアスが説明を入れる。「嘘や悪意があれば赤くなるのだろう」と確かめたうえで、「魂鑑定も所詮は魔法の一つでしかないんだ」「それが魔法である以上」と続ける。村の常識だった判定法を、外から来た人間が一段下げて見せている。
「例の女に逃げられて帰ってきたんだな」
結論は身も蓋もない。「例の女に逃げられて帰ってきたんだな」と言い当てられ、帰郷の理由まで暴かれる。妹を助けに来たという名目の下に、行き場を失った事情が転がっている。助けに来たと言い張る人物が、いちばん助けを必要としていた。
泊めるほうと、入れないほうと
「もう遅いから」「今日は泊まっていくといい」
夜になり、ディアスは「ゾルグ」「もう遅いから」「今日は泊まっていくといい」と声をかける。返るのは「俺に構うな」で、アルナーは「うちには絶対入れないからな」と言い、ゾルグも「俺だってお断りだ」と返す。泊めると言った本人だけが、三人の中で怒っていない。
「夜の草原は危険だ」という理由の出し方
ディアスが押すときの理由づけは感情ではない。「夜の草原は危険だ」「モンスターにでも」「遭遇したらどうする」と、危険の話で押し切ろうとする。相手を立てるでも責めるでもなく、外の条件を並べるだけだ。仲直りをさせようとせず、死なせないための話だけをしている。
「僕たちのユルトに来ます?」「ギュウギュウで楽しいですよ」
場を動かしたのは子どもたちだった。「僕たちのユルトに来ます?」「ギュウギュウで楽しいですよ」と誘われ、ゾルグは「楽しい?」と面食らい、最後は「ありがとうな」と言う。結局は別の家に泊まることになる。大人が理屈で動かせなかった相手を、子どもの誘い文句が動かしている。
「魔力のことで俺をバカにしなかったのは」
翌朝の服は「試作品の出来損ないだ」
翌朝、ゾルグに服が渡される。言い方は「試作品の出来損ないだ」「好きにしろ」と、捨てるつもりだったものを押しつける形だ。ところがそれはゾルグの体格に合わせて作られていて、包み方も雑ではない。ディアスの見立ては「どれほど嫌っていても」「兄への情がまだ残っているらしい」。捨てるはずのものが、相手の寸法で作られている。
「悪意なしかよ」「腹の中じゃ俺を見下してると思っていたが」
見送りに出たディアスに、ゾルグは驚く。「悪意なしかよ」「腹の中じゃ俺を見下してると思っていたが」「違うとはな」。返ってくるのは「訳もなく人を下に見たりはしないさ」という一言だけだ。疑っていたのは悪意の有無ではなく、見下されているかどうかだった。
「努力しても上げようがない魔力のことで 見下されてきたんだ」
そこでゾルグが漏らす。「今までずっと」「努力しても上げようがない魔力のことで」「見下されてきたんだ」「お前には分からねえよ」。そして「魔力のことで俺をバカにしなかったのは」と続け、そこで挙がるのが妹の名前と、「あの女だけだった」という一言だ。詐欺に引っかかった理由が、金でも恋でもなく、バカにされなかったことだった。
ウィンドドラゴン五匹と、破れたシャツ
「おいお前」「村に戻れ」
話の途中で群れが来る。数は五匹で、ゾルグは「1匹でも手に負えないのに冗談じゃねえぞ」と言いながら、「おいお前」「村に戻れ」「あの村には守る者がいるんだろ」と促し、「弓じゃ倒せねえが」「時間は稼ぐ」と残ろうとする。妹を連れ戻しに来た男が、妹の村を守れと言う側に回っている。
「アルナーの家族であるゾルグを 一人残してはいけない」
断り方が理屈になっているのがディアスらしい。「それはちょっとできないな」と言い、理由は「アルナーの家族であるゾルグを」「一人残してはいけない」だ。兄として認めたわけでも、和解したわけでもない。家族だから残せない、という一点だけで並んで戦うことになる。
「王国の領主様がそこまで嫁に頭が上がらないのかよ」
戦いの最中、ディアスはシャツが破れたことを気にして「これではまたアルナーに叱られてしまうな」とこぼす。ゾルグは「王国の領主様がそこまで嫁に頭が上がらないのかよ」と呆れる。返事は「今の私があるのはアルナーのおかげなんだ」「このシャツもアルナーが苦労して作ってくれたものだし」「頭が上がらないのは当然のことだ」だった。竜と戦いながら、話しているのは服を作ってもらった話だ。
「俺を見下さず一緒に戦おうとする時点で かなりの変わりもんだよ」
ゾルグの評価はここで変わる。「王国人らしくないっつうか」「何もかもが変わりもんなんだなお前は」と言い、ディアスが「そうかな」と返すと、「俺を見下さず一緒に戦おうとする時点で」「かなりの変わりもんだよ」と続ける。見下さないことが、この男の目には風変わりな性質として映っている。
「二人で討伐したのなら半分はお前のものだ」
戻ってきたゾルグは「アルナー俺もドラゴンを倒したんだ」「お前のくれた弓矢のおかげで」と報告し、「鬼人族の男なら誰もが憧れるドラゴン狩りを」「この俺が」と誇る。アルナーの返事は「二人で討伐したのなら半分はお前のものだ」「せいぜい気をつけて持って帰ってくれ」で、最後まで甘くない。認めた言葉は一つも出さずに、取り分だけを正確に半分にしている。
族長候補の証と、泉での一日
「突き放すのも 思いやりか」
ディアスは「アルナー」「もう少しゾルグに優しくしてあげてもよかったのではないか」と言い、「ゾルグはアルナーに男気を認めてもらいたかったようだし」と続ける。アルナーの答えは「奴が男気を誇るべきはここではない」「鬼人族の村だ」「家族を大事にしたいなら」「家を出た私よりも」だ。ディアスはそれを「突き放すのも」「思いやりか」と受け取る。冷たくした理由が、実家に残っている家族のほうを向いていた。
モールが渡した「族長候補の証」
村に戻ったゾルグに渡されるのが「族長候補の証」だ。「これまでの失態さえなけりゃ」「すぐにでも族長にしたんだけどね」と言われ、「今までがひどすぎたから」「とりあえずは候補止まりだよ」と釘を刺される。順位まで明示され、「輪の数を見れば分かる通り」「お前は3番目だ」。評価された理由を先に潰してから、証だけが手渡されている。
「こちらにもドラゴン殺しがいるというのは 悪くない」
選んだ理由も打算として語られる。「隣人のドラゴン殺し」を「利用するにせよ」「対等に付き合っていくにせよ」、「こちらにもドラゴン殺しがいるというのは」「悪くない」。そのうえで「あとは鬼人族全体を守る覚悟」「それと経験があれば」「悪くない族長になるはずさ」と続く。身内びいきではなく、隣村との釣り合いのための人事として説明されている。
「入っていいのは星の深さまでだぞ」
場面が変わって、村の面々が泉へ出かける。ここは「山側の天気一つですぐに荒れたり氾濫したりで」「住むには適さない」が「たまに遊びに来る分には悪くない」場所だ。子どもたちには「入っていいのは星の深さまでだぞ」と釘が刺され、クラウスは釣りに挑んで周りに指示を出される。危ない土地だと説明したうえで、遊ぶ場所として使っている。
まとめと考察
喋るメーアと「我が主の命により」
夜、ディアスの前に見慣れないメーアが現れて言葉を話す。「ああもうまどろっこしい男だね」「言葉がわからなくても」「なんとなく察したりとかできないのかい」とまくしたて、「我が主の命により」と切り出して褒美を置いていく。ディアスは「今のは夢」「幻だったのか」「あれは一体」と取り残される。受け取った本人が、何を受け取ったのか分かっていない。
「私たちは家族であり夫婦なんだぞ」「すまないなんて言うな」
泉では、アルナーが木の実を差し出して「これも食べろディアス」「疲労回復の効果がある」と言い、「これからは体調に異変を感じたらすぐ教えろ」「いいな」と念を押す。ディアスの「いつもすまない」に返るのは「私たちは家族であり夫婦なんだぞ」「すまないなんて言うな」だ。兄には取り分を半分にした相手が、夫には謝るなと言っている。
見下さない相手が、二人目だった
この回の芯は、ゾルグが漏らした一言にある。魔力の少なさで見下され続け、バカにしなかったのは妹とその女だけで、そのうちの片方に騙された。そして今回もう一人、同じように見下さないディアスが現れる。だから彼は「変わりもん」という言葉でしか、それを言い表せない。騙された理由と、認めた理由が、まったく同じ性質から出ている。
優しくしない側の言い分も、最後まで崩れていない
一方でアルナーは、最後まで兄に優しくしない。ドラゴンの取り分は半分に割り、誇りたがる兄には村へ帰れと言う。それをディアスが「思いやりか」と読み替えるが、本人はうなずきもしない。甘い顔を見せない側の理屈も、通り一遍の和解に回収されずに残っている。




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