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『さよならララ』第9話「本当の愛」は、デートの回に見せかけていちばん残酷な一往復を置いた回だった。ララは望んだとおりの返事をもらっている。それなのに受け取れない。欲しかったのが気持ちではなく形だったからだ。そして、その日の昼に茉里がララを庇うために使った「ちょっとずつ」が、数時間後にルカの口から出て、そのままララを刺す。庇う言葉と断る言葉が同じ形をしていたという一点で、この回は組み上がっている。




副題の「本当の愛」が、探し物ではなく締め切りとして置かれた
三週間が飛んでいて、勝敗の報告がひとつも無い
冒頭で示されるのは「大会の日から3週間」という一行だけである。前回の副題が「決勝戦の夜」だったことを思えば、この作品はもう試合の結果に用がない。ララのモノローグも「私たちの関係は少しずつ変わり始めた」と関係のほうだけを数え、風景は「日差しが少しずつ和らぎ始める」「新しい日々が紡がれていく」と季節で時間を見せる。
つまりこの回は、前回の続きではなく前回のあとの日常から始まっている。恐れないと決めた夜からひと月近く経っていて、決意はもう日課になっている。にもかかわらず、そこに置かれた副題が「本当の愛」であることが、この回の性格を決めてしまう。ララにとってその言葉は、今までのように探せばいいものではなく、期日までに提出しなければならないものへ変わっている。
薬の評価が、作った側と渡した側でぴたりと一致する
魔女はリサから渡された薬を「私の薬とは似ても似つかない」「偽物だ」と切り捨てる。ララが「でも、すごく楽になったわ」と返しても、返事は「その場しのぎでしかない」「いつまで持つかは分からんな」だった。前回リサ自身が茉里へ「ただしこれは一時しのぎでしかないの」と断って渡した薬である。作った本人と渡した本人が、同じ薬に同じ評語を与えている。
それでもララは「私少しずつ、本当の愛に近づいてるって思うの」「今日もルカに会いに行くのよ」と言う。魔女の側は「200年前とは、違う結末が見られるというわけだ」「今度こそ本当の愛を手に入れられるのか」と、完全に見物人の口ぶりで見送る。時間が減っていることを知っている二人が、片方は当事者、片方は観客として同じ話をしている。
カラオケの採点ではなく「ルカらしい」で測る人
最初の一往復に、この回の物差しが全部入っている
歌い終えたルカが「今日は調子悪いねん」と言い、隣からは「確かにおかしな声だったけど」という遠慮のない感想が飛ぶ。そこへララが重ねるのが「でも、ルカらしい綺麗な歌声だったわよ」である。うまいか下手かではなく、その人らしいかどうかで褒めている。ルカが「機械がおかしいんかな」と逃げるのに対して、ララの側だけが評価の軸を持っていない。
この時点のララは、ルカを何かと比べていない。比べていないから、点がついても意味がないし、外れても減点にならない。ところがこの回の後半で、彼女は自分の恋にだけは締め切りと合否を持ち込むことになる。人の歌には点をつけないのに、自分の気持ちには採点をしてしまう人だ、という順番でこの回は始まっている。
送り出す側に回った茉里
茉里は「ランニングしたいし」と言って先に抜け、去り際に「じゃあ、ララのことよろしく」と置いていく。前回「あんたに死んでほしくない」と正面から言った人が、今回は二人にしてやる役をしている。心配の形が、引き止めから送り出しに変わっている。
完成しない絵が、会い続ける理由になっている
「もうすぐ完成やから」と言ってから、何度も描き直している
モデルをやらされているララが「いつまでこうしてればいいの?」と聞くと、ルカは「もうすぐ完成やから」と答える。だがララの独白は容赦がない。「そう言ってから何度も書き直してるわ」。ルカの言い分は「いい作品を作るためなんやから」だが、第7話で「まだ完成してへんだけ」と言い、拒絶された直後にも「また来てな」「完成させたいから」と言った人である。
絵が完成しない限り、次に会う理由が消えない。ルカにとって未完成は失敗ではなく、関係をつなぎ止めておく装置になっている。急がないこと自体が彼のやり方であり、これがこの回の終盤でララと正面からぶつかる。彼は最初から一貫していて、変わったのは相手の速度のほうだ。
「やっぱりルカは王子様じゃない」は否定ではない
ララはルカを「すぐムキになるし、時々いじけたり、そっぽ向いて拗ねたりする」と観察し、「だから王子って言われても、なんだか違う気がする」と結論づけ、最後には「やっぱりルカは王子様じゃない」と言い切る。ところがそれは切り捨てではない。直後に続くのが「彼の中の温かな気持ちが、時々かすかに見えて心を伝う」「そして、それは胸いっぱいに広がっていく」だからだ。
王子ではないと確かめる作業が、そのままその人を見る作業になっている。二百年前の面影を剥がしていくほど、目の前の高校生の輪郭が濃くなる。ララは自分でも気づかないうちに、探していたものではなく、いま隣にいるものを見る目を手に入れている。
温かさは手に入っているのに、それを本当の愛とは呼べない
前回についていた保険が、今回は外れている
前回のララは、ルカから受け取ったものを「今まで感じたことのない、なんていうか、なんだろう」と言い淀んだうえで「温かさみたいなもの」と呼んだ。愛とも恋とも言わず、「みたいなもの」という保険をつけていた。今回の独白にその保険は無い。「温かな気持ち」と言い切り、「胸いっぱいに広がっていく」とまで書いている。感じ方の解像度は明らかに上がった。
それでも「違う」と即答してしまう
その話を聞いた茉里が「あんたが今言った温かい気持ち、それが本当の愛ってこと?」と踏み込む。ララの返事は一言、「違う」だった。茉里が「ちゃうんや」と受けたあとの独白も「そう、違う。なぜかそう感じた」で、理由は自分でも説明できていない。手のなかにあるものを、探し物の名前で呼べない。
この一往復に、今回の悲劇はほとんど全部入っている。ララは温かさを得ているのに、それは正解ではないと自分で判定してしまう。そして続く言葉が「でも、今は違っても、答えはすぐに見つかるかもしれない」「ルカといれば」である。ルカを、答えそのものではなく答えに行き着くための手段の位置に置いてしまっている。探し物の枠から一歩も出ていない。
三人がばらばらに、同じ方向へ背中を押す
弟は、待っていても何も起きないと言う
ルカが飲み物を買いに行った隙に、レオがララへ「お兄ちゃんのこと好き?」「お付き合てんの?」と切り込む。ララが言葉を濁すと「僕、子供ちゃうねんから」「誤魔化さんでええで」と押し、そのうえで「でも、せやな。お兄ちゃんビビりやからなぁ」と兄の側の事情まで説明してしまう。第7話で兄の秘密の部屋に平然と入ってきた弟が、今度は兄の恋に入ってくる。
決定打は「ララちゃんはどうなりたいん?」と聞いたあとの一言だった。「ララちゃんが待っとったら、多分ずっとそのままやで」。帰ってきたルカに「レオ、お前、要らん話してそうやな」と怒られているとおり、これは余計な一言である。だがララは帰り道のあいだずっとそれを反芻することになる。
お好み焼きを焼きながらの助言は、前半と後半で向きが逆
ララが「付き合わないと本当の愛は手に入らないの?」と聞くと、返ってくるのは「そんなわけあらへん」という明確な否定である。ところがそのすぐ後ろに「でも、付き合うから分かることもあるな」「自分と相手の気持ちを、愛の形を確かめな、進み始めへんもんや」が続く。前半は「付き合わなくてもいい」、後半は「付き合うと分かる」で、助言としては両方を立てている。
ララが持ち帰ったのは後半だけだった。あとで彼女の独白に出てくるのは「愛の形を確かめな」のほうで、「そんなわけあらへん」は一度も戻ってこない。焦っている人間は、聞いた話のうち急ぐ理由になるところしか拾わない。この回の助言は誰ひとり間違ったことを言っていないのに、受け取り方だけが偏っていく。
振られた側が、伝えられる側に回っている
ひめかは「絶対、付き合ったほうがいい」「その人、絶対ララちゃんのこと好き」と押したあと、自分の話を始める。「実は私、この間告白された」「嬉しかったね」「人から好意を伝えられるのって、思ってたよりずっと嬉しい」。そして「実はな、付き合ってんねん」で締める。第4話で自分から告白して、恋愛感情ではないと言われた側が、今度は伝えられる側に立っている。
問題は、ララがここから取り出した結論のほうだ。ひめかが言ったのは「伝えられると嬉しい」であって、「伝えれば手に入る」ではない。それでもララの独白は「私が思いを伝えることで、愛を形にできるなら」と、伝える側の効能へ組み替わってしまう。弟の「待っていてもそのまま」と、助言の「確かめな進まない」と、恋バナの「伝えられると嬉しい」。誰も急げとは言っていないのに、三つ足すと急げになる。
魔女の不調を、同居人は水槽の管理で測っている
「とりあえず水変えてみてやな」
最近ずっと寝ていることに気づいたのは茉里だった。「体調悪いんやと思う」と言いながら出てくる対処が「とりあえず水変えてみてやな」で、根拠は経験である。「初めて会ったときだって今にも死にそうやったけど、水槽作ったらすぐ元気なったし」「狭いとかなんとか文句ばっか言ってたけどな」「砂も草もこだわりすごいねん」「水温もな、ちょっと低めで整えんとあかんし」。二百年を生きた魔女の体調を、ペットの世話の手つきで測っている。
ララが「魔女様のこと、何でも知ってるのね」と言うと、茉里は「もっと知ってるで」と受け、「機嫌がいいときは口が悪うなるとか」と続ける。そこへ本人から「うるさいぞ、お前たち、まったく」「少しは静かにできんとか」が飛んできて、茉里は「すぐよくなりそうやな」と笑う。悪態が回復の証拠として読まれている。付き合いの長さだけが持てる読み方で、この短い場面はこの回で唯一心配が笑いに変わる場所になっている。
同じ相手を、もう一方は抽出物で測っている
同じころリサの側では、報告が届いている。「これは、屋敷に残された痕跡から抽出したものです」「おそらく魔女のものかと」。そして続く見立てが「もしそうだとしたら、彼女はもう人魚でも人でもなく」で、そこから先は言い切られない。第6話で百年前に消えたはずの魔女を捜し続けてきた側が、ようやく手がかりの端をつかんだ場面である。
水温を気にする者と、痕跡を分析する者が、同じ相手を追っている。片方は毎日世話をしていて種族に関心がなく、もう片方は正体を突き止めようとしていて相手の体調は視野に入らない。魔女がどちらの方法で先に見つかるかは、この回では決着しない。
告白は望みどおりに通ったのに、受け取れない
「私たちは二度生まれる」
告白の前日、ララの耳に入るのが「私たちは二度生まれる」「一度目は存在するために」「二度目は生きるために」という言葉である。ララは「何それ」と受け流すが、二百年前に一度泡になって消え、琵琶湖でもう一度目を覚ました人にとって、これは比喩ではなく事実の説明になっている。存在するためだけの一度目は済んでいて、いまは二度目の途中だ。
そのうえでララの独白は「私は出会ってしまった」と言う。出会えた、ではない。「この世界に、かけがえのない人たちに、運命の人に」と続けながら、動詞のほうは迷惑をかけた側の語彙になっている。前回「ここに来てよかった」と言い切った人が、その出会いを自分の落ち度のように数え始めている。
「好き」を飛ばして「恋人になりたい」と言った
前夜のララの計画は明快だった。「私が私の気持ちをルカにあげて、ルカが返してくれたら、それはきっと愛の形になる」。翌日の言葉もそのとおりで、「今日、あなたに伝えたいことがあるの」に続けたのが「あなたと恋人になりたい」である。好きだ、ではない。関係の名前を先に要求している。気持ちではなく形が欲しいという設計が、そのまま台詞になっている。
そしてルカは、その要求に正面から応じている。「嬉しい」「俺もそうなりたい」。ここまでは満点の返事である。にもかかわらず、ララはこれで終わらなかった。もう一歩先まで確かめようとして、ルカが身を引く。望んだとおりの答えをもらった直後に、望んだとおりの答えでは足りないことが露呈する。彼女が求めていたのは合意ではなく、目に見える形のほうだった。
「ちょっとずつ」が、庇う言葉から刺す言葉に変わる
同じ言葉を、先に使ったのは茉里だった
告白の前に、ルカは茉里のところへ相談に来ている。切り出し方は「ララって不思議やんな」「知りたくて、近づこうとしても、その度にもっと遠くに感じる」で、行き着く先が「ララの中には、誰にも見せられへんもんがあって」「ララの本当の顔は一回も見たことないって、そんな気して」だった。人魚だと知ったうえで近づいている人が、それでも届かないと言っている。
茉里の返しは、まずルカを認めるところから始まる。「あんたっていいやつやんな」「迷ってばっかりのララに、あんたは寄り添ってくれてる」。そのうえで理由を説明する。「ララはちょっとずつしか進めへんから、分かりづらくて見えづらくて」。そして「でも、大丈夫」「だって、あんたら、ちゃんといい感じやで」と締める。これは完全にララを庇うための言葉である。
この場面にはもう一つ、聞き逃せない一往復がある。ルカが「ララってどんな子?」と聞き、茉里が「アホでおもろいやつで、大事な」と答える。第3話でララを家に置く理由として言われた「アホでおもろいやつは好きや」に、「大事な」が足されている。同じ評語が、好みの話から手放せないものの話へ格上げされている。
数時間後、同じ言葉がララの前に置かれる
身を引いたルカの弁明はこうだった。「俺、ビビってるだけやけど」「ララが大事で」「だからこういうの、早いっていうか」「ちょっとずつ進めんとあかんっていうか」。理由の語まで茉里と同じで、「大事」だから「ちょっとずつ」だと言っている。彼は茉里の説明を疑わずに実行しているだけである。
ところがララにはそう聞こえない。返ってくるのは「ちょっとずつ?」「じゃあ、いつ?」であり、「ゆっくりって、いつ?」である。庇うために作られた言葉が、断る言葉とまったく同じ形をしていた。しかも、それを最初に口にした人はこの場にいない。誰も悪意を持たずに、ララを守るために言われた一文が、そのままララを刺す一文として回ってくる。この回の設計は、この一点に集約されている。
初めて期限を口にして、そこから先は歌が引き受ける
恐れの代わりに、焦りが出てきた
ララがついに言うのが「私には、もう時間がないの」だった。続けて「ゆっくりじゃ形にできない」「本当の愛が、手に入らない!」「まっすぐじゃなきゃダメなの!」と畳みかける。前回の最後、彼女は「私はもう恐れない」「たとえ怖くても」と言って地上に戻る道を選んだ。恐れは確かに退いている。ただし空いた場所に入ってきたのは平静ではなく、期限だった。
告白を決めたときの独白にも同じ符号がある。「私、進まなきゃ」「間に合わなくなる前に」。この「間に合わなくなる前に」は、第7話でリサが妹を取り戻すと誓ったときに使った語とそっくり同じである。人間との愛など無理だと言い続けてきた姉の焦り方を、いつのまにか妹が自分の言葉として使っている。方向は正反対なのに、走り方だけが似てきている。
そして取り残されたルカが「いったい、どうしたん」と言ったあと、副題と同じ言葉が問いの形で置かれる。「本当の愛って、何?」。第1話から作品全体の目的として掲げられてきた言葉が、九話目にして初めて、答えを持っていない人の口から質問として出てくる。
説明が消える終盤
ここから先、この回は台詞をほとんど手放す。挿入歌に切り替わり、二分半以上にわたって言葉らしい言葉が出てこない。誰が何をしたのかは絵だけで示され、説明も注釈も付かない。デートの回として終わる用意をしていた視聴者ほど、この転調に置いていかれる作りになっている。
日常の側では茉里が水を替えていて、追う側では抽出物が調べられていて、当事者は締め切りに追われている。三つの時計がばらばらに進んでいたものが、この終盤でひとつにまとまる。台詞が無いぶん、直前まで積まれてきた言葉のほうが効いてくる構成になっている。
進むほど消えに近づく形は、今回さらに悪くなった
第7話で見えた形は、心が大きく動くほど体が人から離れていくというものだった。薬は一時しのぎで、期限そのものは延びていない。そこへ今回、もう一つの条件が足された。急ぐと相手が引く、である。愛を形にしようとするほど、相手は時間をかけたいと言う。ララにとっては、進むための行為が二重の意味で自分を遠ざける。
目の前には温かさがちゃんとあった。カラオケの声を「ルカらしい」と褒め、完成しない絵に付き合い、王子ではないと確かめながら胸がいっぱいになる。それを「本当の愛」と呼んでいいと自分に許せなかったことだけが、この回の失点である。締め切りのある課題として扱うかぎり、どれだけ温かさを受け取っても採点対象にならない。副題が「本当の愛」であることの意地の悪さは、たぶんそこにある。




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