この記事の作品:
とある日の夜、クエスト達成を祝う酒場での打ち上げ。宴もたけなわという頃、どこか落ち着かない様子のアモナとロニは部屋へ戻っていく。二人が去ったあと、酒場のマスターがパーティーの取りまとめ役であるエウリィに、あの二人にもう少し声を静かにするよう伝えてほしいと頼む。マスターの頼み、二人への聞き取り、そしてエウリィの過去まで、第5話を振り返る。




第5話 打ち上げの夜
早々に抜けた二人
第5話「ダークサモナーとエルフの過去」は、クエスト達成を祝う酒場での打ち上げから始まる。「クエストお疲れ様」の声とともに杯を交わし、話題はエウリィが冒険者になった理由へ。ところが話が盛り上がりかけたところで、「そろそろ酔いすぎたので自分の部屋に戻ります」と、アモナとロニがそそくさと席を立ってしまう。
二人の様子を見送ったエウリィの「よくもまあ飽きずにやれるもんだな」というぼやきに、思わず笑ってしまった。パーティーの取りまとめ役として、二人の関係を誰よりも早く察してきたエウリィ。今回は、その気苦労が一気に噴き出す回になる。
これまでの話では、アモナとロニの関係はもっぱら二人の視点で描かれてきた。今回はそれを周囲の仲間の目から見つめ直す構成になっていて、同じ出来事でも立場が変わるとこんなにも違って見えるのかと新鮮だった。当事者には甘い時間でも、周りにとっては悩みの種になる。そんなすれ違いを、作品らしい軽妙さで描いていく。
マスターの頼み
一人になったエウリィのもとへやってきたのは酒場のマスターだった。「最近ずいぶんと活躍してるらしいじゃないか」、「提携してるうちとしても鼻が高いよ」と持ち上げたうえで切り出したのは、「そのあの二人もう少し声静かにするように言ってくれないか」という切実な相談だった。
「なんでそれを私に言うんだよ」、「本人に直接注意しろって」と抗議するエウリィだが、マスターは「こういうのって仲間からやんわり伝えたほうがいいんじゃないか」、「ハルちゃんはそういうの疎いだろうし」、「頼めるのがお前しかいないんだよ」と譲らない。こうして「あんまり期待するなよ」と渋々引き受けたところから、あらすじにあるエウリィの苦悩が始まる。
頼まれた内容は、言ってしまえばただの苦情の伝言だ。けれど相手は大切な仲間で、しかも話題が話題だけに切り出し方が難しい。パーティーのまとめ役というのは、戦闘の指揮よりもこうした人間関係の調整のほうがよほど骨が折れるのかもしれない。
マスターがわざわざエウリィを選んだのも納得だ。ハルは天真爛漫で、こうした話にはまるで疎い。アモナとロニ本人に言えば角が立つ。となれば、事情を察していて、なおかつ仲間から信頼されているエウリィに頼むしかない。頼られる人ほど損な役回りを引き受けてしまうという、どこの集団にもありそうな構図が妙にリアルだった。
二人への聞き取り
アモナの場合
まずはアモナから。酒場の制服姿で現れたアモナは、「サモナーの道具はいちいち金がかかるんだ」、「だから暇なときは店の手伝いして賄ってる」と、意外にも堅実な一面を見せる。ところが本題に入ると「あれは腕相撲勝負してるだけで」と苦しい言い訳を始め、エウリィに「無理あるだろ」と一蹴される。
言い訳が通じないと分かるや、開き直ったように赤裸々な話を始めるアモナに、エウリィは頭を抱えるばかり。照れるでもなく堂々としているアモナと、聞かされる側のエウリィの温度差がそのまま笑いになっていて、テンポのいい掛け合いが楽しかった。
一方で、サモナーの道具代を稼ぐために酒場で働いているという話は、アモナという人物の印象を少し変えるものだった。悪魔の力を扱う強力な魔法使いでありながら、その裏では地道に働いて自分の生活を支えている。奔放に見えるアモナの、意外な堅実さと努力がのぞいた場面でもあった。
ロニの場合
続いてロニ。「ワインは教会も認める伝統的な味ですから」と穏やかにワインを勧めてきたロニも、話を振られた途端に動揺し、「あれはマッサージ合戦してるだけで」とアモナと似たような言い訳を口にする。返ってくるのはやはり「無理あるだろ」。
ロニは「アモナとの件はしばし内密にしてください」と頭を下げ、神官としての咎めはいずれ受けるつもりだとまで言い出す。「いやそこまで責めるつもりはなくて」、「もう少し声を抑えてほしいっていう話で」と慌てるエウリィ。真面目すぎるロニと、ただ静かにしてほしいだけのエウリィとのずれがおかしい。しかも二人の話を突き合わせると申告に食い違いがあり、「アモナのやつサバ読んだな」というオチまでついていた。
同じことを聞いても、アモナは開き直り、ロニは恐縮する。対照的な二人の反応は、それぞれの性格をよく表していた。言い訳の中身まで似通っているあたり、やはり似た者同士なのだろう。聞き取りを終えるころには、エウリィのほうがすっかり消耗していた。それでも根っこのところでは互いを大切に思っていることが伝わってくるから、二人の関係はどこか微笑ましく見えてしまう。
エウリィの過去
リリララの森から
二人の話を聞き終えたエウリィは、すっかり疲れ果ててしまう。100歳近くになっても恋愛とは無縁のままだと嘆くエウリィだが、そうなった理由は「パーティー内での色恋沙汰が破滅を招く事例を」、「嫌ってほど見てきたから」だという。ここから語られるのが、副題にもあるエルフの過去だ。
かつてのエウリィは「リリララの森から来ました」、「弓と簡単な妖精魔法なら使えます」と自己紹介する、初々しいエルフの少女だった。仲間と握手しただけで「男の人と触れ合うの初めてで緊張しちゃって」と顔を赤らめる姿は、今のさばさばしたエウリィからは想像もできない。そして始まったパーティー生活は「とても充実した青春の日々だった」。「あいつが来るまでは」。
クララという嵐
新たに加わったのは「魔法使いのクララです」と名乗る少女だった。回復魔法は使えないがマッサージが得意だという彼女の加入をきっかけに、「その後の私の青春は無残なものだった」。仲間の男たちがクララを巡って争い始め、「クララちゃんの彼氏は僕だぞ」と言い合う修羅場に発展してしまう。
問い詰められたクララの言い分は、「みんなに 幸せになってもらいたくて」。悪気がまったくないからこそたちが悪い。生まれついてのサークルクラッシャーという評価に、思わず深くうなずいてしまった。その後もエウリィが入るパーティーでは、なぜか恋愛のもつれが起きては「ことあるごとに解散」。エウリィが仲間内の恋愛に神経をとがらせる理由が、痛いほどよく分かる回想だった。
長命種のエルフであるエウリィは、人間よりはるかに長い時間を生きてきた。そのぶん、壊れていくパーティーを何度も目の当たりにしてきたのだろう。恋愛そのものが悪いわけではない。けれど、それがきっかけで仲間がばらばらになる痛みを知っているからこそ、エウリィはアモナとロニの関係にも気を配らずにいられないのだ。笑える回想の裏に、そんな寂しさも感じられた。
第5話のまとめ考察
ロニの変化
説教の続きをしようとしたエウリィに、ハルが「てっきり 次は私の番かと」と顔を出すのも楽しい。二人で振り返るのは、パーティーに加わったばかりのころのロニの姿だ。ハルとの握手を断り、「私の手 汚れたりしてた」とハルを戸惑わせ、「最初は目線すら合わせようとしなかったな」と振り返られるほど、ロニは周りに心を閉ざしていた。
それが今では「でも最近はロニ君もだいぶ心を開いてくれるようになったよね」、「アモナちゃんが入ってくれたおかげかな」。ハルの言葉に、エウリィも「そうかもな」とうなずく。かつて恋愛のもつれでいくつものパーティーが崩壊するのを見てきたエウリィにとって、二人の関係はむしろ仲間の結束を強めるものになっていた。「パーティーの結束が高まったなら」と、少しは大目に見てやろうと考えるあたりに、エウリィの面倒見のよさがにじむ。
握手さえ拒んでいたころのロニを思えば、今の変わりようは驚くほどだ。他人を寄せつけなかった神官見習いが、アモナと出会ったことで少しずつ心を開き、仲間とも打ち解けていった。二人の関係はパーティーにとって悩みの種であると同時に、ロニを変えたきっかけでもある。そう考えると、エウリィが説教をためらう気持ちもよく分かる。
イケメンハーレムの夢
もっとも、そんな寛大な気持ちも長くは続かない。もう一度アモナに声をかけに行ったエウリィは、再び二人のペースに振り回されることになる。せっかくの決意が台無しになるお約束の流れに、思わず笑ってしまった。
大目に見てやろうと決めた直後にこれでは、エウリィの苦悩は当分終わりそうにない。それでも、仲間のために気をもみ、怒り、あきれながらも見捨てずにいるところに、エウリィという人物の優しさがよく表れている。苦情を伝える役を押しつけられたはずが、気づけばパーティーの歴史や仲間の変化まで振り返ることになった一夜は、エウリィにとっても仲間たちとの絆を見つめ直す時間になったのではないだろうか。振り回される姿は気の毒だが、その苦労があってこそ、このパーティーは今日もにぎやかに続いているのだと思えた。
そしてラストに明かされるのが、エウリィが森を出た本当の理由だ。「外の世界に行って」、「イケメンハーレムを作るの」。初々しかった少女の夢が、まさかのハーレム作り。恋愛の破局をいくつも見届け、仲間の恋に頭を抱える今のエウリィと、この夢との落差が最高のオチになっていた。
第5話は、アモナとロニの関係を外から見守るエウリィの視点で描かれた回だった。冒険者としての活躍の裏で、仲間の人間関係に気を配り続ける苦労人のエウリィ。その過去と夢が明かされたことで、パーティーの中でも特に愛すべき人物になったように思う。いつかエウリィ自身の恋が報われる日が来ることを願いたい。
恋に振り回される仲間たちを見守る側に回り続けてきたエウリィだが、かつては誰よりも恋に憧れて森を飛び出した少女だった。その夢がどこかで形を変え、今の面倒見のいいまとめ役につながっているのだとしたら、なんとも味わい深い。アモナとロニの関係を通して、エウリィ自身の物語も少しずつ動き出していくのかもしれない。




関連作品:






























コメント