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7月に入り、いよいよ夏がやってくる。インターハイ予選に敗れて3年生が引退し、女子バスケ部の新キャプテンになったのは陽だった。来年こそはと部活に打ち込む陽たちを眩しく見つめる朔は、壮行会で野球部を送り出す側に立ち、かつての監督とも再会する。劣等感とは友達だという陽、送り出す側になった朔、そして夜の素振りと明日姉まで、第17話を振り返る。




第17話 陽の独白と夏の入り口
第17話「夏の入り口」から、物語は新しい章へ。明日姉の物語に区切りがついた前回から一転、今回の中心にいるのは女子バスケ部の新キャプテンになった陽だった。部活に打ち込む陽たちの眩しさと、それを見つめる朔の複雑な想い。夏の始まりの空気が詰まった第17話を振り返っていく。
劣等感とは友達だ
冒頭は、陽の独白から始まる。走っても走っても追いつけなかった、飛んでも飛んでも届かなかった。「昔から負けることには慣れている」、「劣等感とは友達だ」。いつも明るく元気な陽の内側に、こんな言葉が眠っていたことに驚かされた。
太陽からもらった名前にふさわしい自分でいたいと思う。けれど時々は、一人ぼっちに怯えてしまう夜がある。何より恐れているのは、「いつか自分の中にある真っ赤な炎が」、「消えてしまうことだ」。熱くなることは、泥臭く頑張ることは、「格好悪いことなんかじゃないって」。この小さな体で証明したい。陽という少女の芯の強さと脆さが、短い独白の中にぎゅっと詰まっていた。
夏の入り口には目印が転がっている
朔の語りも印象的だった。「夏の入り口には目印が転がっている」。耳をかすめる風鈴の音色や、すれ違う子どもたちから漂うプールの匂い。そして「今年の夏はサイダーの泡みたいに弾ける」、「女の子の汗が連れてきた」。副題そのものを朔の言葉で描き出す導入が、とても美しかった。
新キャプテン陽と副キャプテン悠月
女バスの新体制
女子バスケ部は先月の準決勝で、インハイ常連の高校に惜しくも敗れた。3年生は引退し、新キャプテンに就任したのが陽、副キャプテンが悠月。練習では「手の内知ってる相手にあんなんじゃ」、「本番で通用しないよ」と厳しい声が飛ぶ。
けれど、ただ厳しいだけではない。「いきなり実力以上のプレイを」見せろと言っているわけではなく、「できなくてもいいけど やろうとはしようよって話」。新しい体制で何を大切にするのかが、言葉の端々から伝わってくる。「反省会は後にして」と空気を切り替える声も入り、チームの雰囲気の良さが感じられた。
限られた瞬間の限られたきらめき
その姿を見つめる朔は、「やっぱりいいな」と思う。限られた瞬間の限られたきらめき、「限られた汗と涙」。こんなにも本気で何かに打ち込むことが、この先の人生でまたあるのだろうか。この問いは、野球を辞めた朔自身に向けられたものでもあったのだろう。
休憩に入った陽に、朔は予選は残念だったなと声をかける。チームの地力の差、ディフェンスの弱さと控えの薄さ、そして相手チームのエース。ミニバス時代から公式戦で「一度も勝てたことないんだ」という相手が、高い身長で速くて強くてうまい。「でかいだけの」相手には負けないという口癖が通じない相手の存在が、陽の焦りを強めていた。
ワンオンワンで勝負だ
それでも陽は、キャプテンとして自分ができることはしなくちゃと前を向く。そこに割って入るのが悠月だ。次は自分のスリーを攻撃の軸にした方がいいのではと言い出し、二人の言い合いが始まる。「やっぱりエースの20センチ差は致命的」と言われた陽は「うっさいうっさい」と返す。
さらに悠月が、ちょっと褒められた服をうきうきで買って「嬉しそうに電話してくるお子ちゃまに」男を語られてもね、と挑発すれば、陽も「言っちゃいけないこと言ったな」とワンオンワンを挑む。「バスケも女子力もとっくに格付け終わってるって事実を叩き込んであげる」という悠月の返しまで、ライバルであり親友でもある二人らしさが全開だった。
送り出す側になった朔
去年の夏に
学校では、インターハイ出場選手と野球部の壮行会が開かれる。「なんかこっち側で見てるのってちょっとしんどいね」、「負けちゃったんだなーって実感して」とつぶやく陽に、朔は「去年は俺もあっち側だった」と返す。
まだ負けていないでしょ、という陽に、朔は「負けたんだよ」、「去年の夏に」と答える。そして野球部を代表して挨拶に立ったのは、かつてのチームメイトだった。「キャプテンになったんだな」。送り出される側だったはずの場所を、朔は今、送り出す側から見つめている。その目の寂しさが痛かった。
そんな朔に、陽は本当にしんどくなったときは「胸ぐらい貸してあげるから」と声をかける。朔の答えは「あいにく枕はふかふかの方が好みなんだ」。照れ隠しの軽口の裏に、陽の優しさを受け取った朔の気持ちがにじんでいた。
そんな風に受け入れてしまう自分
壮行会のあと、朔はかつてバスケをしていたというクラスメイトの女子と話す。中学3年のとき県大会ベスト8まで行き、準々決勝で負けたのが七瀬のいたチームだった。「才能の差だって思えたらよかったのに」。けれど違った。「あの子は単に私の何十倍も練習をしてただけ」。
その七瀬は、準決勝で青海に負けた。絶対優勝すると思っていたのに。「それなら納得できたのにって言葉が頭をよぎって気づいちゃった」、「ああそんな風に受け入れてしまう自分はここまでなんだろうなって」。誰かのせいにして諦めることを覚えてしまった自分。その静かな告白は、陽の独白にあった炎が消えることへの恐れと、まっすぐにつながっている気がした。
優空の忘れ物とサックス
ありがとう 私に気づいてくれて
昼休み、購買で大量のパンを注文した朔。いつもは弁当なのに珍しいと思っていると、優空が駆けてくる。弁当を作ったのに忘れてきてしまったのだ。けれど朔は、優空の分まで買っておいてくれていた。「慌てて走ってくるのが見えたからな」。
「まったくサク君は」、「ありがとう 私に気づいてくれて」。何気ない場面なのに、優空の言葉がとても温かい。朔は大げさだと照れるけれど、相手のことをちゃんと見ている朔の優しさが、こういうところで自然に伝わってくる。
いつかさ聞かせてよサックス
陽たちが昼休みまで練習する姿を見ながら、優空は自分は「競争みたいなことは苦手なんだよね」と語る。小さい頃からピアノとフルートを習い、高校では少しだけ自分らしくない楽器としてアルトサックスを選んだ。新鮮で楽しくて、それで満足してしまうのだという。
朔は「いつかさ聞かせてよサックス」と頼む。「とびきり冴えたシチュエーションで」と付け加える朔に、優空は「はい任されました」と微笑み、「その時はきっと誰よりもサク君の隣にいるから」と心の中でつぶやく。控えめな優空の想いがそっと描かれた、好きな場面だった。
雑に扱ってくれたから
練習を終えた陽たちと一緒に昼食をとる中で、陽は前から気になっていたことを尋ねる。優空と朔は、どうして仲がいいのか。優空の答えは「きっとサク君が誰よりも私のことを雑に扱ってくれたからじゃないかな」。意外な答えに見えて、陽は「まあわかるよ」、「千歳はそういうとこある」と納得する。特別扱いしないことが、かえって特別な信頼になる。この関係性が面白い。
監督との再会とプール掃除
お変わりないようで 監督
体育館の使用許可を確かめに来たのは、朔がかつて所属していた野球部の監督だった。「何一つ変わっちゃいない」という朔の心の声。「見られたもんじゃないな」と言われた朔は、お変わりないようでと返す。軽口のように聞こえても、その場の空気は張り詰めていた。
辞めてから監督と直接言葉を交わしたのは、これが初めてだったという。朔が野球を辞めた理由は、まだはっきりとは語られていない。けれどこの再会が、朔の心を大きく揺さぶったことは、夜の場面ではっきりと示される。
二人仲良くいい度胸だな
教室では、朔と陽がそろって先生に叩かれ、「二人仲良くいい度胸だな」と、明日の放課後に二人でプール掃除をするよう言い渡される。本当は自分で有志を募って掃除するつもりだったという先生に、朔が有志のあてを聞けば、返ってきたのはクラス委員長という答え。「どっちに転んでも俺は逃げられないのかよ」というぼやきに笑ってしまった。
夜の素振りと明日姉
自分の調子は耳でわかる
その夜、朔は一人でバットを振っていた。「生ぬるく湿った風に乗って」、「むせ返るような夏の夜の匂いがした」。「自分の調子は耳でわかる」。整うまでにいつもより時間がかかったのは、やはり昼休みの一件のせいだろう。辞めたはずの野球を、朔は今も毎日振り続けていたのだ。
そこに現れたのが明日姉だった。勉強の息抜きにお散歩と言いながら、家から来るにはちょっとお散歩の距離ではない。「もしかしたら 偶然君が出てこないかな」。前回、あれほど大きな別れを経た二人が、こうしてまた自然に言葉を交わしている。その姿だけで、なんだか嬉しくなった。
毎日毎日振り続けてきたんだね
野球をやめられなかったんだねという明日姉に、朔は「ラジオ体操みたいなもんだ」とはぐらかす。けれどバットを手にした明日姉は、その重さに気づく。「こんなに重たいものを」、「毎日毎日振り続けてきたんだね」。
いつもはぐらかして、結局辞めた理由を教えてはくれなかった。そう言う明日姉に、朔は「カッコ悪い自分を見せたくなかったんだよ」と打ち明ける。「見せられなかったでしょ」と返す明日姉は、朔のことを本当によく分かっている。素振りでいいならいつでも見においでという朔に、お泊まりセットを持ってきてもいいかと返す明日姉のかわいさも反則級だった。
明日に向かって
最後に明日姉はバットを構え、「明日に向かって」と振り抜く。危ないってば、と慌てる朔に、明日姉は「去年より素敵な夏になるといいね」と微笑む。前回、朔の物語をハッピーエンドに変えてみせると誓った明日姉らしい、背中を押すような一振りだった。
陽の炎、朔の未練、優空の想い、そして明日姉の願い。それぞれの想いを乗せて、物語の夏が動き出した。副題のとおり、ここはまだ夏の入り口。この夏が朔と陽にとってどんな季節になるのか、楽しみに見届けたい。




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