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第6話のサブタイトルは「竜王の泉に浮かぶは異世界の理」。ついに旅の目的地である龍冠樹にたどり着いたアークたちが、異世界にあるはずのない鳥居と、そこに住まう龍王ウィリアースフィムに出会う回だ。そして待ちに待った泉は、アークの呪いを解いてくれなかった。代わりに龍王の口から、この作品の根っこにあるアークの正体そのものが語られることになる。




龍冠樹という、旅の到達点
エルフの案内なしではたどり着けない場所
第6話は、目的地に着いてしまうところから始まる。アリアンの「もう少しよ!」という声で視界が開け、アークが「まさに大絶景!」「前人未到の地とはまさにこういう光景を言うのだな!」と声を上げる。ここはエルフの案内なしではたどり着けない未開の地で、その中心にそびえているのが龍冠樹だ。公式サイトの用語解説によれば、龍冠樹とは龍王の住処のまわりにまれに生える大樹で、龍王の魔力を浴びた木が精霊を宿して変質したものだという。つまりこの木が立っていること自体が、この先に龍王がいるという看板になっている。
到着までの苦労も、短い回想でまとめて流れる。アリアンの「でも本当、ここまで大変だったわね」に、チヨメが「いろいろありましたからね」と応じ、食虫植物に溶かされかけたこと、モンスターの爆発に巻き込まれたこと、洞窟で「こっちこっち!」「絶対にこっちだ!」と言い合って迷ったことが次々に映る。会話としては数秒だが、前回まで里の事件で足止めされ続けていたことを思うと、この一行が本来の旅をしていた時間はけっこう長い。
最初にこの絶景を見せてから話を始めたのが良かったと思う。この作品は道中で厄介ごとに首を突っ込んでばかりで、そもそも何のために歩いているのかを忘れかけるくらい寄り道をしてきた。その積み重ねの先に「着いた」の一言があるので、風景そのものが報酬になっている。
ポンタに旅の実況をするアーク
龍冠樹を見上げながら、アークが急に語り口を変える場面がある。「こんにちは、アークです」「今、我々は龍冠樹にあるという泉へと向かっています」と、肩の上のポンタに向かって旅の実況を始めるのだ。そのまま「もしかすると君の体の呪いも解けるかもしれないよ」「龍冠樹のそばにあるあらゆる呪いを解く泉の話さ」と説明までしてやる。ポンタに呪いがかかっているわけでもないのに、である。
龍冠樹という名前は、作中ではロードクラウンと呼ばれている。王冠を意味する響きのとおり、遠目には森の上に冠が乗っているように見える巨木で、近づくとアーク自身が「木というより山にしか見えぬ」ともらすほどの大きさになる。アリアンいわく樹齢は不明で、「世界が生まれたときからあるって聞いてるけど」という伝聞しかない。
この実況ごっこがあるだけで、到着の場面が一気に軽くなる。命がけの旅の終点に立っているはずなのに、本人はカメラを回すノリで喋っている。強さや正体の重さを、本人がまったく背負わないところがアークの一番いいところで、後半で正体の核心が明かされたときにも、この軽さがそのまま効いてくる。
異世界にあるはずのない鳥居
アークだけが走り出した理由
泉の場所を尋ねようとしたところで、アークの視線が止まる。「ん? あれは?」「すまぬ! 我は先に行く!」と言い残し、アリアンとチヨメを置き去りにして駆け出してしまう。その先にあったのが、異世界にあるはずのない巨大な鳥居だった。
走りながらのアークの独白が、この暴走の理由をきちんと説明している。「間違いない、これは…」に続けて、「もしや、チヨメ殿が言っていた初代ハンゾウ殿と関係があるのでは?」と考えているのだ。第5話でチヨメが名乗った刃心一族の祖であり、この世界に日本風の文化を持ち込んだであろう人物が、実際にここにいたのかもしれない。元の世界から来たアークにとって、鳥居は単なる建物ではなく同郷の証拠になる。しかも「マナー違反であるが、今は我ら以外おらぬゆえ」と断ってから転移魔法を使うあたり、本人はいたって礼儀正しいつもりでいる。
置いていかれた二人の顔がいい。アリアンの「アーク?どうしたの?」には、驚きよりも先に「またか」という響きがある。この人がひとりで走り出すのはこれが初めてではない、という関係の積み重ねが一言に乗っている。
踏みつけから始まったドラゴンブレス
そして公式あらすじのとおり、アークは着地の勢いのまま龍王ウィリアースフィムを踏みつけてしまう。鳥居しか見ていなかったので、その足元に龍がいることに気づいていない。怒った龍王はいきなり攻撃を仕掛け、アークは「あ、し、しばし待たれよ! 我に戦う意思など…」と言い訳をしながら逃げ回るはめになる。
戦いそのものは短いが、密度は高い。龍王のドラゴンブレスを正面から受け切ったアークに、相手が「立っておるか? 我に挑みに来ただけのことはある」と感心してしまうのだ。この一言で、龍王がアークを「無礼者」から「歯ごたえのある相手」へと格上げしたことが分かる。ただ、当のアークは最初から最後まで戦う気がないので、評価だけが勝手に上がっていく。
誤解が生んだ喧嘩なのに、両者とも全力なのが面白かった。龍王は「久方ぶりに楽しい戦いができると思ったが…残念ながらここまでだな」と切り上げるのだが、この「思ったが」に、ずっと退屈していた強者の生活が透けて見える。
名乗りだけで解けた誤解
三人が順に名を告げる
戦いを止めたのは、追いついてきた二人の名乗りだった。アリアンが「はい! 私はアリアン・グレニス・メープル! カナダ大森林に住む一族の者です!」と告げ、続けてチヨメが「僕はチヨメ! ハンゾウ様が率いた刃心一族の末裔です!」と名乗る。龍王のほうも二人を見て「山向こうの森に居を構えるエルフの一族だな」「そしてもう一人はハンゾウに連なる者か」と、名乗る前から出自を当てている。
ここでようやく龍王も名乗る。「わしの名はウィリアースフィム。そなたは?」に対して、アークの答えは「我はアーク。旅の傭兵だ」。最強の装備で龍王のブレスを受け切っておいて、肩書きは傭兵で通す。チヨメの一人称が「僕」であること、アリアンが家名までまるごと名乗ることも含め、この短い名乗りだけで三人の立ち位置が並べて示される。
戦闘の解決手段が名乗りだった、というのが妙に気持ちいい。力比べで決着させず、お互いが誰なのかを言葉にしただけで刃を下ろす。第5話までの敵が名を隠したがる連中ばかりだったので、その対比としてもよく効いていた。
双方が頭を下げるという決着
誤解が解けたあとのやり取りが、この回で一番好きだったところかもしれない。チヨメが「それなのに、ドラゴンロード様を足下にしてしまい…」と恐縮すると、龍王のほうから「わしもお主をただの不埒者と早合点してしまったことは謝ろう」と切り出すのだ。アークも「我も鳥居に気を取られ、周りを見ていなかった。丁重にお詫び申し上げる」と返す。踏んだ側と踏まれた側が、そろって自分の非を先に認めている。
そのうえで龍王は「事情は分かった。泉は鳥居の奥にあるゆえ、好きに使うとよい」と許可を出し、「昔、ハンゾウが使っておった社があるので目印となるだろう」と道案内まで添える。旅の最大の関門になってもおかしくなかった相手が、名乗り合った次の瞬間には案内役になっている。
強い者どうしが殴り合ってから仲良くなる展開は珍しくないが、この回はどちらも先に謝るところまで丁寧にやる。第5話の黒幕が最後まで一言も詫びなかったことを思い出すと、この作品が本当に嫌っているのは強さではなく不誠実さなのだと分かる。
チヨメが龍王に願い出たこと
行き場のない同胞と、あふれた里
泉へ向かおうという流れになったところで、チヨメが「一つよろしいでしょうか」と龍王を呼び止める。ここからが、この回のもう一つの本筋だ。「実は、我らはずっと、ハンゾウ様の隠れ里を探していたのです」と切り出し、「以前、こちらのアーク殿たちに、同胞を救出していただいたのですが、我らの里にかくまえる人数を超えてしまって」と事情を明かす。
これは第5話までの出来事の請求書でもある。アークたちはさらわれた者を助け続けてきたが、助けたあとにどこへ帰すのかという問題は誰も解いていなかった。チヨメ自身が前回、解放された者がまたすぐ別の者にさらわれていると報告している。助けることと、守り続けることは別の仕事だ、という当たり前をこの場面が引き受ける。
戦いが終わった直後にこの相談を持ち出すチヨメが、いかにも彼女らしい。龍王に会えたこと自体が千載一遇なので、逃さずに使い切っている。普段は忍びとして裏方に徹している人が、こういうときだけ真正面から頼み込むのが良かった。
「わしがどうこういうものではなかろう」
チヨメの願いは「ここならば皆、心安らかに過ごせるはず」「ここに隠れ里を作り、みなが住むことを、お許しいただけないでしょうか」というものだった。住処の目の前に集落を作らせてほしい、という相当な頼みごとである。ところが龍王の答えは「そもそもハンゾウは、わしが住み着く前からそこにおったからな。わしがどうこういうものではなかろう」だった。
自分のほうが後から来た、だから許可を出す立場にない、という理屈だ。力ではこの土地の頂点にいる相手が、順番を理由にあっさり譲る。チヨメが「皆さんも本当にありがとうございます」と頭を下げる先が龍王だけでなくアークたちにも向いているのも、この里が一人の手柄ではないことを示していた。
願いを聞き入れる場面としては、ほとんど拍子抜けするほどあっさりしている。だが「先にいたのはあちらだ」で通すこの理屈は、エルフや獣人を後から来た側が勝手に線引きしてきた、この作品がずっと描いてきた迫害の構図をそのまま裏返した形になっている。
たどり着いた泉は、秘境の大露天風呂だった
全身が骨でも羞恥心はある
鳥居の奥、ハンゾウの社を目印に進んだ先で、アークが泉を見て開口一番「これって、泉っていうより…秘境の大露天風呂ではないか!」と言う。あらゆる呪いを解くという伝説の泉が、湯気の立つ広い岩風呂だったわけである。「感謝するぞ、アリアン殿!」と礼まで言うのだが、続く台詞が「長く浸からないとダメなのだろうか…」なので、期待の持ち方まで温泉のそれだ。
そして入る直前、アークが妙なことを言い出す。「どうも、見られていると妙に気になるというか…全身骨とはいえ、我にも羞恥心が…」。骨には隠すものが何もないはずなのに、本人の中身が元の世界の一般人のままなので、人に見られながら脱ぐのは無理なのだ。アリアンたちも「アーク殿の湯浴みが終わるまで、我々も別の泉に浸かりましょう」と気を利かせて席を外す。
この一言のおかげで、アークがいまだに自分の体をよそのものだと感じていることが伝わってくる。呪いを解きに来た人が、その体を恥ずかしがっている。笑い所として置かれているのに、後半で明かされる正体の話とまっすぐつながっているのが上手い。
湯の中で話していたのは、旅の終わりのことだった
別の泉に移ったアリアンとチヨメの会話が、この回で一番静かに刺さる場面だった。はじめはチヨメが「アリアン殿は本当に見事な体つきをされてますよね…触ってみてもいいですか?」とからかうような調子で始まり、ポンタも一緒に湯に浮かんでいる。そこから話題が、アークが元の体を取り戻したらどうなるか、という方向へ流れていく。
チヨメの「姿は全く想像できませんが、あれだけの腕力なのですから、かなり筋肉質なのでは?」に、アリアンが「そうね…もしかして、ものすごいイケメンだったりして? なんて、そんなわけないか!」と笑う。ここまでは完全に世間話なのだが、そのあと彼女がこぼす一言が違う。「アークが元の体に戻ったら、この旅も終わりなのかな?」。呪いを解くためにここまで案内してきた本人が、解けたあとを想像して寂しがっている。
湯浴みの場面がただの息抜きで終わらないのは、この一言が置かれているからだ。しかもこの直後、泉に浸かったアークが倒れてしまう。旅が終わることを心配していた相手が、そもそも目を覚まさないかもしれない側に回る。順番の作り方がずるいと思った。
「竜王の泉に浮かぶは異世界の理」まとめと考察
息をしていない骸骨と、接吻という手段
泉から上がったアークは「おお、戻った!」と一度は喜ぶ。ところが「ちゃんと全身に戻っておるか?」と自分を確かめた直後、「元の世界の肉体とは、だいぶ違うような…」とつぶやいて倒れてしまう。運び込まれた先はハンゾウの社で、アリアンが「本当によかったの? 初代ハンゾウ様の家に勝手に入って…」と気にすると、チヨメが「今はアーク殿の一大事ですから、きっと許してくださいますよ」と押し切る。
看病の場面で笑ってしまったのが、生死の確認の仕方だ。アリアンの「死んじゃったり、してないわよね。息、してないみたいだけど」に対して、チヨメが「アリアン殿、そもそもアーク殿は息をしていたのでしょうか」と返す。アリアンも「え? どうなのかしら。ため息とかついてたし、食事だってしてたし」としか言えない。付き合いの長い仲間が、いまだに相手の生命維持の仕組みを把握していないのである。結局、龍王に尋ねに行って「案ずるな。そのうちに目を覚ますであろうよ」と言われて一安心する。
それでも起きないアークに、チヨメが「こうなったら、あの手を使うしかないかもしれません」と切り出す。その手立てが接吻だった。「親しい者に接吻すると目を覚ます。そんな記述が古今東西複数の文献で見つかったと」「心が通い合っている相手であれば間違いなく」と理屈まで用意され、アリアンが「心が通い合ってるなんて…それに、私、初めてだし」と真っ赤になる。ここまでお膳立てしておいて、目を覚ましたアークは「よく『返事がない、ただの屍のようだ』と判断せずにいてくれた」と冗談を飛ばすだけで、自分が何をされたかまったく気づいていない。彼女の覚悟が空振りに終わったところまでが一つの場面として受け取られていて、反応でも、そのあとの照れ隠しまで含めて楽しまれていた。
流れ者という答えと、次の目的地
この回の核心は、目を覚ましたあとに龍王が語る解説にある。まず前提として、泉はアークの呪いを解かなかった。龍王の見立ては「おそらく小僧の呪いが泉に対して耐性をつけてしまったのであろうな」で、つまりこの手段はもう使えない。旅の目的地に着いて、目的が達成できないことだけが分かった、という結果である。
そのうえで龍王は、アリアンに乞われて調べた結果として、こう告げる。アークは流れ者、すなわち「ここではないどこかから流れ着いた者」であり、それ自体はそう珍しくない。だがアークは流れ者の中でも特殊で、本来の肉体は別の世界にあり、魂だけが今の体に宿っているというのだ。泉に浸かったことで一時的に肉体が戻り、この世界で得た感情や刺激が仮初めの体から一気に流れ込んだ結果、器のほうが耐えられなくなった。アークが倒れた理由はそれだった、という筋道になっている。
ここまで曖昧にされてきた設定に、作中の登場人物の口から説明がついたのが大きい。本人が「なるほど理解した」と受け止めて終わるのも、いかにもこの主人公らしかった。そして話は次へ動く。皇帝ドミティアヌスへの報告場面では、ローデン王国で暴れていた魔獣の体に石が埋め込まれていたこと、それがフンバの使っていたものと同じ類の技術だったことが伝えられ、ヒルク教の信者が南の大陸のタジエントでも増えていると続く。アークたちの「タジエントに向かうには陸路しかないか」という会話と、きれいに同じ地名で噛み合っている。そこへ「あなたがアーク殿ですな」とゴエモンが現れて引きになるので、呪いは解けなかったのに、次に行く理由だけは山ほど増えて終わる回だった。




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