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第4話(通算第44話)のサブタイトルは「THE PERFECT CRIMSON」。深紅という言葉が何を指すのかは、剣八の肌を見れば一目で分かる。ジェラルドの希望の剣は刃こぼれするたびに次の奇跡を呼ぶので、斬れば斬るほど相手が強くなるという理不尽な構図から回が始まる。そこへやちるが戻ってきて、自分が何者なのかを剣八に告げる。さらに日番谷の側でも前提がひっくり返り、大紅蓮氷輪丸は氷の花が散り尽くしてから完成すると明かされた。締めは玉座の間で、一護が月牙天衝ではない何かを振り抜く。




公式サブタイトルは「THE PERFECT CRIMSON」。奇跡を名乗る男との第二ラウンド
戦闘より先に、境界の数値が動いていた
回の入口は斬り合いではなく計測である。境界の値が跳ね上がり、「なんでそんなに急変した」という声に対して、「境界面を強制的に押し広げてる何かがあるってことだろ」という答えが返る。何が起きているのかと重ねて問われた末に出てきたのが、「考えうることは、浮竹隊長の力が弱まってるってことだ」だった。
ここは一秒たりとも戦闘画面ではないのに、三界の土台がじわじわ抜けていく音だけが置かれている。戦っている当人たちには聞こえていない情報を、先に視聴者だけが渡される作りだ。
場面が第一の戦場に移ると、ジェラルドが待っている。「そんなに絶望を願うか」から始まり、「我が力はミラクル。ミラクルとは民衆の思いを形にすること」、そして「我はジェラルド・ヴァルキリー。我は奇跡であり、奇跡もまた我である」と名乗る。
名乗りがそのまま自己定義になっているのが、この相手の厄介なところだと思う。倒す倒さない以前に、否定という手段が届きにくい。民衆が思い描いた形に力が寄っていくなら、知られていない手だけが唯一の抜け道になるはずで、この回はまさにその一点で決着していく。
「要は剣を折らずに、てめえだけ殺しゃあいいんだろ」
長広舌を聞き終えた剣八の反応が短くて良い。「何を言ってんだか全く分からねえが、道理の通じねえ能力を持ってるってことだけは分かった」。そのうえで、「そうかよ。要は剣を折らずに、てめえだけ殺しゃあいいんだろ」と勝ち筋を口に出す。
公式あらすじによれば、ジェラルドの希望の剣は刃こぼれするたびに次の奇跡を起こす。つまり剣八の要約は的を外していない。斬れば斬るほど相手が強くなる相手に、斬ることしかしない男が当たっているという配置そのものが、この回の不利の正体である。
直後の応酬が今回いちばん笑った。剣八の「いちいち解決策を披露するとは甘え野郎だ。後悔するぜ」に対して、ジェラルドが「有り余る力の差を埋めるために教えているのだ。それも分からぬとは甘い奴。後悔するぞ」と返す。罵り文句の型が完全に同じで、そばで見ていた死神が「なんかこいつら似たもん同士な気がしてきたな」とこぼしていた。
神を名乗る側と、道理を知らない側。立っている場所は正反対なのに、相手を測る物差しだけがそっくり重なる。この一往復があるおかげで、以降の圧倒的な力押しがただの蹂躙に見えずに済んでいる。
眼帯は、とっくに外れていた
味方が援護に入ろうとすると、剣八はそちらへ刃を向ける。「何しやがる、更木」と咎められても「こっちのセリフだ」「邪魔すんじゃねえ」「てめえらはどこへなりとすっ飛んでいろ」で押し通す。止めに入ろうとする者へ、「無駄だ。道理の通じる相手ではないのは更木も同じこと」という声が飛ぶ。
それでも置いていくわけにはいかない、という判断の根拠が良かった。「こいつは更木一人で勝てる相手じゃねえ。その証拠に見ろ。更木の奴、とっくに眼帯を外してやがる」「あいつ自身が本能で分かってんだ。眼帯を外さねえと勝てねえ相手だってこと」。
台詞ではなく装備で相手の格を測っている。更木剣八は自分の霊圧を抑えるために眼帯を着けている男なので、外れているという一点だけで、本人が全力を認めたという意味になる。本人が一言も弱音を吐かないぶん、外野の観察が説明を引き受ける形になっていて、うまい省き方だと思った。
日番谷と白哉が組み立てた一手と、それを見透かす目
「氷の花がもう随分と散っている」
剣八が突っ込んでいる横で、残る二人は分担を決めていた。日番谷の独白が「氷の花がもう随分と散っている」で、続けて「無理もない。皆疲弊しきっている。時間がないのは皆同じことか」。自分の残り時間と、戦場全体の残り時間を同じ物差しで並べている。
そこから朽木白哉への提案になる。「奴らの隙を突いて俺があの大男を凍らせる。それを千本桜で粉砕してくれ」「今までの感触なら最大出力で骨まで凍結できるはずだ」「少し時間がかかる。協力してくれ」。返事は「分かった」の四文字だけだった。
凍らせてから砕く、という順番は理屈として正しい。再生する相手には、再生する余地ごと物理的に消してしまえばいい。最強を並べただけの共闘ではなく、役割を割った共闘になっているのが今回の気持ち良さだと思う。
「全て見えているぞ」で作戦が先に潰される
ところがジェラルドは、剣八の刃の状態から先に指摘してきた。「どうした。剣の威力が落ちているぞ」「まあ当然か。剣を刃こぼれさせずに戦うなど土台無理なこと」「戦っていれば刃はこぼれ、貴様の体にはそうして絶望が刻まれる」。剣八の作戦は、成立させようとした瞬間から自壊していく設計になっている。
そして視線がもう二人へ向く。「見えているぞ朽木白哉。そして日番谷冬獅郎。貴様らが我の隙を突こうと画策する姿、全て見えているぞ」「我は全てを与えられた戦士。我を出し抜けるなどと思うな」。「素晴らしいなその精神。だが精神で力の差は埋められぬ」という言い方も嫌らしい。
ここまでで、三人がかりという前提が一度きれいに潰されている。考えて勝つ道は塞がれ、精神論も先回りして否定された。残っているのは、誰も知らない手だけである。そのタイミングで出てくるのが、この回でいちばん唐突な人物だった。
やちるが持ってきた深紅
「剣ちゃん、ほら起きて。続きやろ」
倒れた剣八の前に、やちるが立っている。「剣ちゃん、ほら起きて。続きやろ」という、いつもの軽い声だ。剣八が「今までどこに」と聞き返すと、返事はまるで噛み合わない。
やちるは剣八の刀に触れながら、「剣ちゃんが私をちゃんと使えば、剣ちゃんが斬れない奴なんていないんだから」と言う。直後に剣八の中で何かが動き、「今何をした」「力が」と本人が戸惑う。やちるは「ほら。剣ちゃん、何にも知らないんだから」と笑って、「その力の名前はね」まで言ったところで場面が切れた。
つまりやちるは剣八の斬魄刀そのものだった、というのが今回の答えである。どこから来たのかと聞かれ続けてきた子どもが、刀に触れて所属を示す。名前だけを言わせずに切るのがずるいのだが、力の出所が分かった瞬間に画面が赤く染まるので、順番としては文句のつけようがない。
肌が赤い、それが副題の意味だった
周囲の反応が状況説明を兼ねている。「まさか更木大将の」「見ろ、更木の肌が」「赤い」「急激な霊圧の上昇」。深紅は炎でも血でもなく、剣八自身の皮膚の色である。サブタイトルの一語が、そのまま画面の色として置かれている回だった。
面白いのは、ジェラルドが最初これを軽く見ることだ。「卍解かと思えばさしたる変化もなし」「よもやその折れた剣が卍解という訳でもあるまい」「つまらぬな更木剣八。潰れて消えろ」。派手な形も新しい武器も出てこないので、外形だけ見れば何も起きていない。
その直後に「我が盾が」「馬鹿な」「何だこの力は」と崩れ、「死神が我を追い詰める。こんな馬鹿なことがあってたまるか」まで言わせる。見た目が変わらない強化がいちばん怖い、という筋を一分足らずで通してきた。民衆の思いを形にする力は、誰にも知られていない形には反応できない。名前を言わせずに切ったことにも、たぶん意味がある。
大紅蓮氷輪丸は、散り尽くしてから完成する
「氷の花が散り尽くしたら終わりだなんて、言った覚えはねえぞ」
日番谷の側でも前提がひっくり返る。氷が限界だと味方が悲鳴を上げ、花が落ちきる寸前まで追い込まれたところで、本人が「氷の花が散り尽くしたら終わりだなんて、言った覚えはねえぞ」と言い出す。
続く説明が短くて強い。「氷の花が散り尽くして、ようやく大紅蓮氷輪丸は完成する」。理由もきちんと添えてあって、「氷輪丸を十二分に使いこなすには、俺の力はまだ未熟だ。だからなのか知らねえが、大紅蓮氷輪丸が完成すると、俺は」と言いかけたところで姿が変わる。
成長した体になった本人の第一声が「この姿はあんまり好きじゃねえんだけどな」なのが、この人らしくて良い。制限時間だと思われていたものが、実は充填時間だったという反転である。長く追ってきた読者ほど、これまでの見積もりを全部書き換えられる作りになっていた。
四歩のうちに踏みしめた空間を、すべて凍らせる
ジェラルドの「何者だ貴様」に対する名乗りが「護廷十三隊十番隊隊長、日番谷冬獅郎」。相手は「卍解か。いや貴様はすでに卍解していたはず。なぜさらに変化した」と戸惑いつつ、「今の貴様の方が我の相手に相応しい」と受け入れてしまう。
投げつけられた巨大なものを見て、日番谷が「そんなでかいもの投げるんじゃねえよ」と怒鳴るのも良かった。落ちれば下がただでは済まない、という理由がちゃんとある。そのうえで「お前の希望の機能は停止したぜ」と告げる。凍らせたものは物として動かなくなる、という理屈を、よりにもよって希望の剣に通したわけである。
力任せに切り替えたジェラルドに対して、日番谷は「クインシーの弓か」「その判断が少し遅かったな」と返し、技を明かす。解放してから四歩のうちに踏みしめた空間を、すべて凍結する。「三歩までの間にクインシーの矢を撃っていれば、これを射抜くこともできただろうな」まで言うので、猶予が三歩しかなかったことが後から分かる仕組みだ。
「我は神の戦士。この世の元素などには囚われぬはずだ」と掴みかかった相手が、触れた側から凍りついていく。「この状態の俺に触れて、ただで済むと思うのか」に対して、「凍らぬと言ったはずだ、死神」という返しが残るのも芸が細かい。そこへ白哉の千本桜が入り、「かなり体に無理を強いる卍解のようだが、想像よりもっているな」「いい読みだな。そろそろ限界だ」という短いやりとりで幕になる。読み合いの相手が敵ではなく味方になっているのが、この回の共闘らしさだった。
送り出す白哉と、虚をまとった一護
「おそらく日番谷隊長の兄上だ」
戦いが一段落したあとに、この回いちばんのくだらない場面が来る。合流した死神が、成長した姿の日番谷を見て「こいつはお前らが戦ってた敵のなれの果てだ。化け物だぞ。気をつけろ」と身構えるのだ。それを止めたのが朽木白哉で、「たわけ。声で分からぬか。おそらく日番谷隊長の兄上だ」。
止めた側も間違っている。「なるほど。初めまして」と挨拶され、日番谷が「ああそうだ。初めまして」と乗ってしまうのも含めて完璧だった。少し前にも、赤くなった剣八を遠巻きにして「やっぱり近づかない方がいいと思うか」「どう見ても平時に増して意思の疎通の測れぬ顔だ」というやりとりがあり、この日の白哉は妙に口数が多い。
その白哉が、恋次とルキアに指示を出す。「お前たちは黒崎一護のもとへ向かえ」「霊圧を見ろ。奴はすでにユーハバッハと対峙している。何を迷う」。ルキアが食い下がると、「うぬぼれるな。黒崎にお前たちの力が必要だと言っているのではない。ここにお前たちの力は必要ないと言っているのだ」と突き放した。
見送ったあとで日番谷が「見透かされちまったなあ、あんたの気遣い」と言い、白哉は「もとより見透かさせるつもりで言ったのだ」と認める。続けて日番谷が「あんたが霊術院に通ったかどうか知らねえが、俺は霊術院で、上官や家族のために戦えとは教わらなかったぜ」「死神皆すべからく友と人間とを守り死すべし」と教えを引き、「俺たちと黒崎は仲間だが、あいつらは黒崎一護の友だろう」と続ける。白哉の答えは「死神らしい教えだ」だった。わざと嫌な言い方をして送り出す人と、それを見抜いたうえで理屈で援護する人。二人とも不器用で、そこがいい。
「これは月牙天衝ではない」
玉座の間では、一護がすでに虚の面をまとっていた。ユーハバッハの「それがお前の狙いか」に対して、一護がまず言うのが「大丈夫だ井上。俺のままだ」である。敵より先に味方へ向けた一言なのが、この主人公らしい。
「どうやら虚のように見える。それがお前の力と溶け合った虚の姿か」と問われて、一護は隠さずに答える。「そうだ。本当は俺の力と溶け合ってんだから、俺が自由に出し入れできればよかったんだけどな」「まだ全然使いこなせちゃいねえから、あんたの力を使わせてもらった」。
前回、クインシーの霊圧を打ち込んで叩き起こしたい相手がいる、という説明が置かれていた。誰の狙いなのかは分からないままだったが、今回の一言で、それが一護自身の計算だったと確定した。殴られながら目的を果たしていたわけで、耐えていたのではなく使っていたことになる。
「井上、そのまま下がってくれ。少し広くする」から先は速い。「素晴らしい力だ。よかろう、私も剣を抜いて相手をしてやろう」「こんなもので私が切れると思うか」と余裕を見せたユーハバッハが、「月牙天衝か。同じことだ、そんなもの」と斬られ、そこで訂正が入る。「違う。これは月牙天衝ではない。月牙天衝と混ざり合ったグランレイセロだ」。混ざり合ったのは力だけではなく技だった、という引きで次回に渡される。
「THE PERFECT CRIMSON」まとめと考察
知られていない手だけが、奇跡に届く
今回は三つの前提がまとめてひっくり返された回だった。やちるは付き添いではなく斬魄刀そのものだった。氷の花が散り尽くすのは終わりではなく完成だった。そして一護の虚化は暴走ではなく本人の狙いだった。どれも、これまで読者が正しいと思って数えていた条件の書き換えである。
ここで効いてくるのが、ジェラルドの名乗りだと思う。力とは民衆の思いを形にすること、と本人が言っていた。だとすれば、知られていない力の前ではその奇跡は形を取れない。作戦は「全て見えているぞ」で潰されたのに、剣八の変化とやちるの正体だけは最後まで読めていなかった。あの人が崩れた理由は、力の量ではなく情報の側にあったのではないか。
だからこそ、やちるに名前を言わせなかった演出が気になる。視聴者にも伏せたまま話を進めたということは、名前が明かされる回に何かを持ってくるつもりなのだろう。深紅に染まった肌と、折れたままの刀。見た目には何も足されていないのに、盾が砕けて神が取り乱した。サブタイトルが完璧という語を選んだ意味は、次回その名前が出たときに、もう一段はっきりするはずである。




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