第7話でいちばん多く起きているのは、戦闘でも爆発でもなく「名前を勝手に決められること」である。前半、魔人狩りは名乗った覚えのない「提携団体」にされ、後半、トワはやっていない事件の「容疑者」にされる。どちらも本人の外側で呼び名が決まっていて、本人には拒否する窓口がない。しかもこの回、犯人の名前を自力で正しく言い当てたのはトワひとりだった。正解にたどり着いた人が、その直後に名前を奪われる。順番がそうなっていることが、この回のいちばん嫌なところである。




結論:この回、誰ひとり自分が名乗った名前で呼ばれていない
第7話は都市規模の事件が動く回だが、起きていることを言葉のほうから並べ直すと、呼び名が本人の外側でどんどん決まっていく回になっている。前半、魔人狩りは臨時ニュースで「提携団体」にされる。後半、トワは警察発表で「容疑者」にされる。どちらも本人はその場にいないし、訂正する窓口もない。そして事件の犯人を自力で正しく言い当てたのはトワひとりだった。正解した人が、その直後に別の名前を貼られる。順番がこうなっていることが、この回の設計だと思う。
前半で起きるのは、名乗った覚えのない肩書き
臨時ニュースは「緊急事態のため提携団体にも支援を要請」「原種3号、4号の駆除時、違法施設の調査と4号の駆除を担当したグループに協力を要請」と読み上げる。それを聞いた側の反応が「これ、もしかしてあたしたちのこと?」「私らがいつあいつらと提携したの?」で、締めが「危険な災害です。使えるものは使いたいというところでしょうか」。提携した覚えがないのに提携団体であるという、一方通行の関係がここで一度成立してしまう。
後半で起きるのは、やっていない事件の容疑
締めの緊急速報が「第四管区で発生した侵略種を利用した大規模テロ事件の容疑者について、警察より発表がありました」「容疑者は夜海トワ、18歳」である。理由づけが「かねてより魔人狩りと称して犯罪者への死刑を行っていた容疑がかけられており、今回の犯行はその延長として行われた可能性がある」。本当のことに嘘を一段だけ足す形になっていて、前半が「使えるものは使いたい」だったのに、後半では同じ活動が動機の説明に流用されている。
犯人の名前を正しく言ったのは、名前を奪われる側だった
トワは事件の最中に「この事件、多分、蔵木と篠宮が関わってる」と仲間へ伝え、「後で説明する。待ってて」と付け足している。公式のあらすじが「この事件は、蔵木がトワを確保するための計画だった」と書いているとおり(※1)、この見立ては当たっている。一方で指揮所に入ってきたのは「警察から事件の犯人について発表を行うと連絡が」だった。当てた側の言葉は仲間内で止まり、外れた発表のほうが全国に流れる。
フルネームと年齢が読まれるのが、この場面だという皮肉
ここまでトワは、第3話でシイナに自分から名前を伝え、仲間からは名前で呼ばれてきた。ところが「夜海トワ、18歳」と、姓名と年齢を揃えて読み上げられるのは指名手配の速報が最初である。18歳という数字も、この場面ではじめて視聴者に渡される。素性を一番きちんと整理して発表したのが、この人を犯人にしたがっている側だったというのは、言葉の扱いとしてかなり意地が悪い。
第7話「第四管区地下鉄道・追跡駆除戦」で起きたこと(要点だけ)
筋そのものは追いやすい。公園の騒ぎは囮で、本命は地下鉄だった、というのが骨格である。
- 公園で捕まった運び屋の供述が「荷物を公園まで運んだら金をくれるって」「依頼者は闇バイトのサイトから」。中身は寄生型の侵略種で、「集まったのは6、7人」=同時多発の理由もここで説明される
- 臨時ニュースが魔人狩りを「提携団体」として要請。トワは「信用するわけじゃないけど、この惨状を放ってはおけないから」と受け、「駆除に協力します。こちらは元凶を探して潰しますと」をユズに送らせる
- 侵略種が第四管区三番地区の地下へ移動し、駅が封鎖。なのはとフェイトが「一斉駆除を行います」で片づけていく
- シイナが「本部、無人の電車が走ってる」を発見。確認できた範囲で3台、うち1台は停止したが、ユーナの担当分は「なんで爆発したの。まあいっか」で終わる
- 指揮所は「都市を狙った一大テロです」「ただの爆弾や毒物じゃなく、侵略種を使う理由」「私たちか、誰かへのメッセージ」と読む
- 戦場でシイナとトワが鉢合わせし、互いを魔人として認識する。直後にトワの指名手配が速報で流れて終わる
「使えるものは使いたい」と「魔人狩りと称して」は、同じ相手を指している
前半と後半で呼び名が入れ替わるところを並べると、言っている中身は一度も変わっていないことが分かる。トワたちがこの回でやったのは、駆除に協力することと、元凶を探すことの二つだけだ。変わったのは、その活動を外側がどう名づけるかだけである。前半では「使えるもの」、後半では「犯罪者への死刑」。評価を反転させるのに、新しい事実は一つも要らなかった。
要請の理由に挙げた実績が、そのまま容疑の材料になる
臨時ニュースが挙げた実績は「原種3号、4号の駆除時、違法施設の調査と4号の駆除を担当したグループ」だった。つまり表の側は、この集団が何をしてきたかを把握したうえで頼っている。ところが警察発表は同じ活動歴を「かねてより魔人狩りと称して」と言い換える。実績として数えていたものが、そのまま前科として数え直された。同じ材料が、褒める側と潰す側の両方に使えてしまうのが怖いところである。
「信用するわけじゃないけど」で受けたのが効いてくる
トワの返し方は用心深かった。「あの時の子かな」とだけ確認して、「信用するわけじゃないけど、この惨状を放ってはおけないから」と条件をつけている。送らせた文面も「駆除に協力します。こちらは元凶を探して潰しますと」で、協力する範囲を自分から限定している。それでも結果は変わらなかった。協力を申し出た窓口とは別のところから、いちばん重い名前が出てくる。
指揮所は正しく読んでいるのに、渡す先を間違えている
八神はやて総督のいる指揮所の読みは、この回でいちばん鋭い。「これは通常の侵略種災害や魔人犯罪の枠には収まりませんね」「都市を狙った一大テロです」と規模の不自然さを見抜き、把握している組織には「ここまで大規模なことを起こす理由も意味もないはず」と切り捨てる。ところが直後に「警察には情報を共有しています」と続く。正確に分析したものを、そのまま仕掛けた側に届く経路へ流している。
なのはとフェイトが片づけたのは、事件ではなく侵略種のほう
この回のなのはとフェイトは強い。「一斉駆除を行います」「屋台区画の一時消毒完了」「防御隊、処理をお願いします」で、画面の脅威が片端から消えていく。ただ、二人が処理したのは撒かれた侵略種だけで、事件そのものには一歩も近づいていない。犯人にも、計画にも、指名手配にも届いていない。戦闘力がいくら高くても解けない種類の事件だ、という線がここで引かれている。
止めたはずの爆弾が、ちゃんと爆発する
電車の担当は分けられた。「車両停止はフェイト執務官を向かわせます」「久瀬さんは寄生型の排除を」。ユーナも「あの電車を止めればいいんだよね」「こういう力仕事はユーナさんにおまかせ」と引き受ける。ところが結果は「なんで爆発したの。まあいっか」だった。止めれば防げるという前提のほうが崩されている。力ずくで間に合わせても、仕掛けた側の計算からは出られない。
爆発の代わりに残るのは、手が足りないという言葉
この作品は、寸前で止めて見せ場にする作り方をここで一度捨てている。止めたのに爆発し、止めた本人が「まあいっか」で流す。派手な達成感が出ないぶん、残るのは処理しきれない量のほうである。そのうえで被害の描写は淡々と積み上がる。広域避難、救護、駆除、捜索が同時に走り、現場で繰り返されるのは派手な号令ではなく手が足りないという言葉だった。
「私たちか、誰かへのメッセージ」を受け取れるのは誰か
指揮所が出した核心が「ただの爆弾や毒物じゃなく、侵略種を使う理由」「私たちか、誰かへのメッセージ」である。メッセージという言葉が出た以上、この事件には宛先がある。そして計画の狙いがトワの確保だった以上、宛先は指揮所ではない。受け取り手が届いた内容を理解する前に、送り主が受け取り手を犯人として指名している。強さで解けないというのは、そういう意味である。
公式サイトの側でも、この回だけ名前が抜けている
ここからは本編の外の話になる。公式サイトのストーリー欄には第1話から第7話までの副題が並んでいるのだが(※1)、この作品の副題は、そもそも人名を出す型で作られている。第1話「久瀬シイナ Origin」、第3話「久瀬シイナと夜海トワ」、第4話「夜海トワ Origin」、第6話「蔵木エイジと篠宮マナ/陽光」。第2話も「国連調査機関EXCEEDS/魔人狩り」で、人か組織かの違いはあっても誰の話かを名前で示している。
人名の入らない副題は、七本のうち二本しかない
名前が一つも入っていないのは第5話「遭遇」と第7話「第四管区地下鉄道・追跡駆除戦」だけである。そしてその二本は、どちらもEXCEEDS側と魔人狩り側が現場で出くわす回だ。第5話の公式あらすじは「両者は予期せず遭遇することに」と書き、第7話は二人が互いを魔人として認識する。両陣営が同じ場所に立つ回にだけ、公式は誰の名前も付けていない。名前で呼び分けられない状態そのものが副題になっている、と読める。
脚本の欄に名前があるのは、ひとりだけ
副題の付け方を設計の話として読める根拠が、公式のスタッフ表にある(※3)。ここは「シリーズ構成」ではなく「原作・脚本 都築真紀」と書かれていて、脚本の欄に載っている名前が一つしかない。監督は浜名孝行、副監督は佐藤博暉、キャラクターデザイン・総作画監督は新垣一成。分業されている欄が並ぶなかで脚本だけが単独名なので、副題の並びも一本の設計として読んでよいはずだ。
公式が付けた集団の名前は、本編で一度も呼ばれない
公式のキャラクターページは所属ごとに区切られていて(※2)、シイナの枠がISLANDERS、なのはたちがEXCEEDS、そしてトワたちの枠には「DIABOLI SLAYER」という名前が付いている。ところが本編でこの呼び名が出たことは一度もない。作中で聞こえるのは魔人狩りという通り名と、そこへ外から乗せられた提携団体、そして「魔人狩りと称して」だけである。公式が用意した名前まで含めて、この集団は自分の名前で呼ばれていない。
事件を計画した人物は、キャスト表にまだ載っていない
同じキャラクターページのUNKNOWNの枠には、篠宮マナ、蔵木エイジ、炎の少女の三人が並ぶ。ところがスタッフ&キャスト欄のキャスト一覧を数えると(※3)、この三人のうち載っているのは篠宮マナだけで、蔵木エイジの名前はまだ無い。第6話の副題は「蔵木エイジと篠宮マナ」で、第7話の事件を組んだのもこの人物である。掲載が追いついていないだけかもしれないが、計画した側の名前だけが表に出てこない状態が続いているのは確かだ。名前が出ているのは、狙われている側と使われている側ばかりである。
翻弄という言葉は、放送前から公式に置いてあった
キャスト欄には演者のコメントも載っていて(※3)、十二人ぶんのうち加害を予告しているのは一つだけだった。篠宮マナを演じる上坂すみれの「己の欲のためにあらゆるものを翻弄する彼女の活躍を、どうぞお楽しみに」がそれである。ほかの十一人は見守ってほしい、楽しみにしていてほしいという書き方で揃っている。第7話は都市をまるごと動かしてトワを追い込む回なので、翻弄という言葉がいちばん大きく実現した回だと思う。
まとめ:正解にたどり着いた側が、そのまま容疑者にされる
第7話をひとことで言うと、名前を決める権利がどこにあるかを、一話まるごと使って見せた回だった。提携団体という肩書きも、容疑者という肩書きも、本人の同意なしで成立している。そのあいだトワがやっていたのは、惨状を放っておけないと言って協力し、犯人を突き止め、仲間に伝えることだけだった。正確に動いていることは、呼ばれ方を何ひとつ守ってくれない。
ラボの回想が、この構図の出発点になっている
合間に差し込まれるラボの記憶が効いている。「あなたたちは、今のところは優秀な実験体です」から始まり、逆らった者への処分は「この魔人に捕食され、この魔人の一部になってもらいます」。締めが「しっかり食べて、ちゃんと育って、言うことを聞いて」「私のために強くなってね」だった。人を実験体と呼ぶところから始まった話なので、トワはずっと、他人が決めた呼び名の中で生きてきたことになる。
次回の予想:受け取り手が動くまで、事件は終わらない
ここからは予想である。指揮所が事件を「私たちか、誰かへのメッセージ」と読んだのに、次に流れたのが容疑者の発表だった以上、EXCEEDSは自分たちが協力を要請した相手を追う立場に置かれる。総督が要請の事実をどう扱うかが分かれ目になりそうだ。公式の各話振り返り動画は、第4話をなのは(田村ゆかり)が、第6話をトワ(結川あさき)が語るという配役で作られている(※4)。自分の生い立ちの回を他人が語り、自分を狙う二人の回を本人が語る形になっていて、ここでも語り手と中身がずらされている。第7話を誰が語るかも、公式がこの回をどちらの側から見せたいかの手がかりになると思う。
二人が次に会うときは、名乗り直しから始まる
第3話の副題は「久瀬シイナと夜海トワ」で、公式あらすじも橋の場面から始まる出会いの回として書かれている(※5)。二人が並んで名前を付けてもらえた回は、あの一本だけだった。今回はその二人が、名前ではなく魔人という属性で互いを認識してしまう。指名手配が出た以上、次に顔を合わせるときは表の組織と容疑者という立場になる。もう一度友達に戻るには、外から貼られた名前を二人で剥がすところから始めるしかない。トワを演じる結川あさきは放送前のコメントで、この役を「大切な何かに出会えるように、それに気づけるように、ぜひ本作品を見守ってください」と紹介していた(※3)。出会いも気づきも第7話でちゃんと起きたのに、起き方がいちばん苦しい形だった。
出典
※1 テレビアニメ公式サイト ストーリー(第7話の公式あらすじと、第1〜7話の副題一覧)/nanoha.com
※2 テレビアニメ公式サイト キャラクター(所属の区分とDIABOLI SLAYERほか)/nanoha.com
※3 テレビアニメ公式サイト スタッフ&キャスト(スタッフ一覧・キャスト一覧と、演者のコメント)/nanoha.com
※4 テレビアニメ公式サイト ニュース(各話振り返り動画のナレーション担当)/nanoha.com
※5 テレビアニメ公式サイト ストーリー 第3話「久瀬シイナと夜海トワ」/nanoha.com


























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