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第20話「挑発」は密輸ゲームの精算にあてられた回で、新しい勝負は始まらない。それでもこの回がいちばん危ないのは、ヨコヤがライアーゲーム事務局の儲け方を正確に説明してみせるからである。事務局の収入は、勝った側が降りるときに払うドロップアウト料しかない。だから彼は「絶対に僕を儲けさせてはならなかったのだ」と言う。ところが本人は降りなかった。結果としてこの回、事務局は誰からも1円も受け取っていない。そしてそれを起こしたのは、ナオがついたたった一つの嘘である。




結論:ヨコヤの敗北宣言は、事務局の商売の説明でもある
この回に新しいゲームはない。密輸ゲームの払戻額を発表し、負けた側の演説を聞き、次の会場へ移動する。それだけの構成である。それでも前半の空気がここまで重いのは、ヨコヤが自分の負けを認めない代わりに、この作品がずっと伏せてきた「事務局はどこで儲けているのか」を口に出してしまうからだ。しかもその説明は正確で、そのうえで彼自身が、自分の説明を裏切る形で去っていく。
事務局の収入は、勝った側が降りるときにしか発生しない
ヨコヤの論法はこう進む。ライアーゲームはゼロサムで、金は参加者のあいだを移動するだけである。だから「みんなで損失を補い合い、誰もドロップアウトしなければ事務局には1円も入らない」。裏返せば、事務局にとって理想の形は「圧倒的勝者と大量の敗北者を出させること」になる。そして「勝者が支払うドロップアウト料こそが事務局唯一の儲け」。ここまで積み上げたうえで、彼は結論を置く。敵は事務局だと言うのなら「絶対に僕を儲けさせてはならなかったのだ」。
その儲けを消したのは、演説ではなく一行の嘘だった
密輸ゲームの結果、18人のうちヨコヤ一人が儲けた。事務局にとって理想の形が、そのまま出来上がっている。ところが回の終わりまでに、その理想は跡形もなく崩れる。ヨコヤはドロップアウトの手続きを取らずに4回戦へ進み、アカギも残り、フクナガは自分から敗者復活戦に登録し、アキヤマとナオは前話ですでに4億の返却を辞退している。誰も降りない。つまり事務局は、この回で一人からも料金を取れていない。ヨコヤが定義してみせた「事務局にとって最悪のシナリオ」が、彼の演説の直後に、その場で成立してしまう。
何が起きたか(要点だけ)
前半はロビーでの言い合いに終始して画としての動きが少ないので、先に事実を並べておく。
- 払戻額が発表される。昼の国は「私たちのボロ儲けね」と沸くが、その儲け分は夜の国に協力した3人の救済に充てられる。3人のマイナスは合わせて7億で、前話でアキヤマが宣言した救済額とぴたりと合う。
- 儲けた人物は一人だけだった。ヨコヤ「18人のプレイヤーの中で、この僕だけが儲けられたのです」。
- 種明かし。前話で「敵を混乱させるため」と説明された属性の書き換えは、入金に使うカードがヨコヤ自身のものだったため、通すたびにヨコヤの金という属性に変わっていた。3日目に「残りの検査官も密輸人も全部自分がやる」と言い出した表向きの理由は、裏切り防止ではなくこちらである。
- ヨコヤの演説のあいだ、アキヤマは一言も言い返さない。表情も動かない。
- 代わりにナオが前へ出て、ヨコヤ自身が持ち出した「支配力」という物差しを裏返す。
- ヨコヤは4回戦へ、アカギも4回戦へ、フクナガは自分から敗者復活戦へ。
- 会場は廃校になった中学校の跡地の図書室。新しい仮面の男・ソラリオが現れる。
本作は連続2クールで、第20話からが最終章にあたる。つまりこの1本には、密輸ゲーム編の締めと、次の団体戦の顔見せが同居している。前半と後半で場所も人数も温度も変わるのはそのためで、実質的には別の2話ぶんが背中合わせに置かれている。
ヨコヤの反論は、どこまで正しかったのか
ドロップアウト料は「獲得賞金の半額」と定義されている
原作は甲斐谷忍が週刊ヤングジャンプで2005年2月17日から2015年1月22日まで連載した全19巻の作品で、すでに完結している(※1)。アニメは2026年4月7日放送開始、制作はマッドハウス、総監督は佐藤雄三、監督は川野麻美(※1)。その原作の設定として明記されているのが、ドロップアウト料は「直前のゲームでの獲得賞金の半額」という一点である(※1)。ここが分かると、ヨコヤの一言の意味が変わる。事務局の取り分は定額ではなく、勝ち幅に比例する。大きく勝った人間が一人いればいるほど、事務局は太る。ヨコヤが単独で儲けた盤面は、事務局にとってこの上なく都合がよかった。「僕を儲けさせるな」という言い方が奇妙に聞こえるのは、彼が自分を勝者としてではなく事務局の集金装置として説明しているからである。
だからアキヤマは一言も言い返せなかった
アキヤマはこの密輸ゲームで「本当に戦うべき敵はプレイヤーではなく事務局だ」と言い、その一言で夜の国の3人を動かした。ところが出来上がったのは、事務局の取り分を最大化する形である。旗を掲げた本人が、旗と正反対の結果を作った。反論できないのは理屈で負けているからで、沈黙はその長さぶんだけ正確である。ヨコヤが「偽の正義を振りかざし、事務局を援護したアキヤマという男なのですよ」と締めるまで、彼は表情ひとつ変えない。この長さは尺の都合ではなく、後半で本人に理由を語らせるための置き方だと思う。
ただし「正しい」と「破綻していない」は別である
ナオが突くのは、ヨコヤの計算ではなく前提のほうだ。ヨコヤは検査ルームで「このゲームで問われているのはね、支配力です」と言っていた。ナオはその物差しをそのまま持ち出して、「ヨコヤさんに従順だった者は損をし、裏切った者が救われた」と結果を並べる。支配力が答えなら、支配された側が損をして逆らった側が救われるのはおかしい。相手の土俵を否定するのではなく、相手が決めた勝ち負けの基準の上に相手を乗せて、そこで負けを宣告する形になっている。ヨコヤの計算は最後まで合っている。合っていないのは、彼が最初に立てた看板のほうだった。
ナオの嘘は、相手を降ろすためではなく残らせるために使われている
「バカ正直」と呼ばれる人物が、初めて自分から嘘を武器にした
ナオは人物紹介からして「バカ正直」と呼ばれる側の人間である。過去の敗者復活戦を振り返る場面でも、全マネーを占有できる立場から全員に金を返し、ライアーゲームは嘘つきのゲームではなく正直でいられるかを試すゲームだ、と言い切っていた。その本人が、ヨコヤに向かって「その概念を覆す方法はあります」と言う。そして手続きへ向かう背中を見送った直後、アキヤマに問われて返すのが「嘘です」の三文字だった。
この作品の嘘は、普通は相手を降ろすために使う
これまで積み上がってきた嘘は、相手の金を抜いて退場させるための嘘である。ナオの嘘は向きが逆だ。「あの人はものすごくプライドが高いんです」「だから私、ヨコヤさんの感情を逆撫でしたんです」「必ずあの人はゲームに戻ってきます」。降ろすためではなく、残らせるための嘘である。しかも狙いは「もう一度対決してマネーを奪い返せば、そのお金でもっとたくさんの人たちを救い出すことができる」ことで、嘘の目的が自分の取り分ですらない。題名の「挑発」がヨコヤのものだけではないのはここで、ナオの側の挑発は本人が策と自覚して放った初めての一発として置かれている。
「お前、強くなったな」の直後に置かれた告白
アキヤマの返しは短い。「お前の奮闘の成果だな」「お前、強くなったな」「今回は本当、お前に助けられたよ」。そのうえで彼は、黙っていた理由を話し始める。ヨコヤが自分の口座に金を流していることにうすうす気づいていたこと、気づいたうえで何の手も打たなかったこと。さらに、夜の国の3人を引き込んだ本音は「3人いれば1人が不穏な動きをしても2人がそれを抑えようとする」という計算で、「利用したにすぎなかった」と言う。
第17話で掲げた「繋がりこそが支配を砕く力になる」を、本人が裏側から解体する形になる。ただし、前話でその3人が寝返りの理由として口にしたのは「この2人が自ら身を切ってまでプレイヤーを助けたいと思っているからだ」だった。打算で引き込まれた人たちが、打算では説明できない理由で戻ってきている。「根っこの部分は俺もヨコヤも変わらないんだ」という自己評価は、少なくとも起きた結果とは食い違っている。ナオの独白が愛する母親の死と詐欺グループとの戦いに触れ、「その一方でアキヤマさんの中の良心が、そんな自分を激しく責め立て苦しめる」と続くのは、その食い違いに名前を付けるためだろう。
敗者復活戦のルールは、ヨコヤ型の勝ち方を制度で禁じている
取り分は必ず頭割り。一人だけが儲かる形が作れない
敗者復活戦の説明のなかで、さらりと重要なことが言われる。使うのは現金ではなくチップで、1枚が100万円相当。1人150枚、つまり1億5000万を借り、回収されるのは1人1億なので、差額の5000万が取り分になる。そしてマネーの取り分は必ず頭割りの同額で、1人だけが儲けることはできない。
密輸ゲームは「一人だけが儲けられる」設計だった
この一行が効くのは、直前まで見ていたのが真逆のゲームだったからである。密輸ゲームは個人ごとに口座と払戻があり、だからこそヨコヤは属性の書き換えを自分の入金に転用できた。頭割りが強制される盤面では、あの手はそもそも成立しない。ヨコヤの勝ち筋を、次のルールのほうが先に塞いでいる。しかも当のヨコヤはここにいない。彼は4回戦へ進んでしまった。密輸ゲームの答えが出た直後に、その答えが二度と使えない部屋へ場面が移るという並べ方になっている。
新しい仮面の男と、外の音が届かない部屋
会場はおととし廃校になった中学校の跡地で、勝負の場は図書室である。新しいメインディーラーとしてソラリオが現れる(※2)。勝負部屋は窓の向こうにあって完全防音、中の音はマイクで拾われるが、中のプレイヤーに外の音は聞こえず、中からは図書室も見えない。使えるのは1ゲームにつき各チーム1回だけ、3分のタイムのみ。つまりこの構造は、アキヤマが外から指示を出し続けるやり方を封じている。東軍の布陣が先鋒フクナガ・中堅アキヤマ・大将ナオに決まり、ナオが「私、足手まといなんだな」とこぼす場面と、この防音の設計は正面から噛み合っている。3対3で3人が生き残り3人が消える、負けたら終わり、という条件も同じ場で示される。
西軍の布陣は先鋒ニシダ・中堅キクチ・大将コサカ。負債はニシダが2億、残りの二人が1億ずつで、3人合わせて4億である。対する東軍は、ナオ一人で同じ金額を背負っている(アキヤマも同額で4億、フクナガの額はこの場では示されない)。取り分が頭割りで同じなら、同じ一勝でも救われる度合いは同じにならない。大将に置かれたナオが足手まといだとこぼすとき、実際にはこの盤面でいちばん重い札を持っているのが本人だという逆転がある。
まとめ:この回、事務局は誰からも1円も受け取っていない
抜けられるのに抜けなかった者が、5人ぶん並んでいる
動機は全員違う。アキヤマとナオは前話で4億の返却を辞退し、他人の負債を消すために自分から負債を背負い直した。ヨコヤは意地で、手続きを取らずに4回戦へ進む。アカギは「負債は自分の力で返したい」と言って残る。フクナガは「そんなんじゃ私の気が収まらないんだよ」「あの憎たらしいヨコヤから大金巻き上げるまでゲームやってやる」「厳しいゲームを一緒に戦い抜いた仲間じゃねえか」と言って、自分から登録する。金・意地・筋・仲間と、理由は一つも重なっていないのに、全員が同じ側へ残る。
ヨコヤが定義した「最悪のシナリオ」が、その場で成立している
彼の説明をもう一度置くと、事務局にとって最悪なのは「みんなで損失を補い合い、誰もドロップアウトしない」状態だった。この回の終わりに出来上がっているのは、まさにそれである。ヨコヤは事務局の急所を正確に言い当て、その急所を突く盤面を自分の足で作ってから退場した。ナオの嘘が最後に効いたのは勝ち負けではなく、この一点だと思う。彼女は勝者を一人減らしたのではなく、事務局の請求書を一枚破っている。
次回の見どころ(予想)
先鋒戦のゲームはロシアンルーレットで、東軍の先鋒はフクナガである。ここからは予想になるが、頭割りという条件はフクナガにとって最も相性が悪い。金に貪欲で裏切りも厭わないという行動原理が、一人勝ちできないルールの下では換金先を失うからだ。それでも自分から登録したのがこの人物で、しかも先鋒である。外から助けを出せない防音の部屋は、フクナガが金以外の理由で戦えるかどうかを最初に試す形になっている。ナオに向けたアキヤマの「言ったろ、絶対勝つって」「お前のことは必ず守る」「信じろ」が守られるかどうかも、まず先鋒戦の結果に預けられた。
出典
※1 ウィキペディア「LIAR GAME」(原作の連載期間・全19巻・完結/ドロップアウト料の定義/アニメのスタッフ)/ja.wikipedia.org
※2 TVアニメ『LIAR GAME』公式(@liargame_anime)第20話「挑発」告知(新ディーラー・ソラリオの登場)/x.com




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