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『LIAR GAME』第22話「罠」の出題は、目先の利益を捨ててまで眼前の敵と和合できるかというものだった。ディーラーは「人間ってそれができないから、このゲームは面白いのです」と言い切る。ところがこの回で起きたのは、誰一人利益を捨てないまま和合だけが成立するという第三の答えだ。しかもナオは嘘を一つもついていない。儲かる策の説明を、最後まで聞かせなかっただけだった。




前回途切れた「私たち今」の続きが、副題そのものだった
言いかけて終わった台詞が、冒頭で完成する
前回は、勝利が見えたところでナオが「大変なことに気づいてしまいました」「私たち今」と言いかけたまま終わっていた。その続きが冒頭で出る。パスを続けるべきだという意見に対して、「それがまずいんです」「そうなったら私たち、まんまと罠にはまる」。
副題の一文字が、そのまま前回の言い残しの続きになっている。しかもこの罠は敵チームが仕掛けたものではない。勝ちが確定に近づくほど深くはまる種類のもので、順調に見えていた前回の展開こそが入り口だった、という切り返しになっている。
前回一度も起きなかったルールが、二度起きる
前回のルール説明にはあったのに、一度も発生しなかったのが「流れ」だった。5回連続でパスが宣言されると場のチップがディーラーに移り、代わりにディーラーが引き金を引く。それがこの回でようやく動き、「プレイヤーの代わりに10発目は私が引き金を引きます」という宣言のあと、弾が出る。
説明だけ置かれて使われなかったルールが、次の回の冒頭で二度も回るというのは構成として気持ちがいい。前回の記事を書いたときは「ディーラーが被弾した例が無いまま説明されている」という声が視聴者側からも出ていたが、その空白がこの回の入り口として使われていた。
出題者のほうが、自分から答えを言ってしまう
「5000万のボーナス」は詭弁だった
ナオの説明が明快だ。事務局は「1人に1億5000万ずつ貸し付けるが1億しか回収しない」と言い、1人につき5000万のボーナスゲームだと説明していた。それに対して「でも、これって詭弁です」と切り込む。
根拠は流れのルールだ。1回流れるだけで3100万がディーラーへ渡り、10回流れれば総額3億1000万になる。配ったぶんより回収するぶんのほうが大きくなる仕組みで、「プレイヤーは餌になるんです」と言い切る。数字が全部きれいに合うのがこのゲームの怖いところで、チップ1枚が100万という換算でどの台詞も破綻していない。
「真の敵はディーラーです」
結論は短い。「真の敵は西軍の3人じゃないんです」「真の敵はディーラーです」。そして「私たちは試されているんですよ」「本質に気づき敵と手を組むか、それとも目先の利益のために敵を倒すのか」と続く。
この作品でナオが担う役どころが、ここではっきりする。切れ味のある一手を指す役ではなく、盤面の意味を言葉にする役だ。前回まで一番損をしていた人が、いちばん早く枠組みを疑うようになっている。
「人間ってそれができないから、このゲームは面白いのです」
恐ろしいのは、それを聞いたディーラー側が否定しないことだ。「この子、見かけによらず鋭い」と感心したうえで、「敗者復活戦のテーマはまさにそれ」「本当の敵に勝つために、目先の利益を捨ててまで眼前の敵と和合できるか否か」と、出題意図を自分から明かしてしまう。
締めが「人間ってそれができないから、このゲームは面白いのです」。答えを教えても解けないと踏んでいる。これは挑発というより自信の表明で、しかもこの回の結末は、その自信が半分だけ正しかったことを示すことになる。
気づいていたのは、ナオだけではなかった
「俺もフクナガも気づいていた」
また流れが起きそうになった場面で、アキヤマが「待て、大丈夫だ」と止める。理由が「流れでディーラーが儲かることには、俺もフクナガも気づいていた」だった。ナオの発見は正しいが、最新でも独占でもなかったことになる。
それでもナオの説明が無駄にならないのがこの作品の作りで、彼女が言葉にしたおかげで視聴者と西軍が同じ盤面を見られるようになる。後半でその共通認識が必要になるので、ここは段取りとしても正しい。
強欲が、そのまま正しい行動になる
安心していい理由の説明が良かった。「フクナガは事務局の人間に負けないくらいずる賢いし、その上、何より金にがめつい」「だから絶対、次は流れさせない」。ディーラーに1円も渡したくないという欲が、そのままディーラーを敵に回す行動になる。
信頼ではなく性質を読んでいるのがアキヤマらしい。約束させるのでも説得するのでもなく、放っておけばそうなる、で済ませている。この人物評が、後半でナオが仕掛ける策の土台にもなっていく。
自分の欲深さを、そのまま餌として使う
弾倉の偏りは、もう読めている
フクナガの読み筋は前回の延長にある。「この拳銃の弾倉は、弾の重みで銃身が偏っている」という前提から、「9・10・11発目で弾が出ていて」「次の3発も3連続で出ることを考えると」「次の弾が出現するのは15か16発目になることが予想できるわけさ」と組み立てる。
前回、この偏りを見抜いたのはアキヤマだった。今回はそれを実際に運用する側の説明になっていて、同じ道具でも使う人が変わると見え方が変わる。フクナガの手つきには理屈より度胸の匂いがあるが、中身はきちんと計算だ。
「1回しかパスしなかった」ことが仕掛けだった
ナオが引っかかるのがここだ。「今、フクナガさん1回しかパスしませんでした」「もう1回パスすればチップは10枚獲得できるのに」。アキヤマの答えは「だから言ってるじゃないか。フクナガはがめついって」で、その場では説明になっていない。
種明かしは後から本人の口で出る。相手も同じ疑問を持つはずで、「私の行動に違和感を感じたニシダは、それをどう解釈するかしら」。もっと稼げるのに稼がなかった、という不自然さが、弾の在りかを知っているという誤ったメッセージに化ける。がめつい人が金を取りこぼす、という一点だけで相手に情報を渡している。
気づきがいいだけの人が、いちばんカモになる
相手評も的確だ。「ニシダって男、ああ見えて妙に気づきがいいところがある」。前回の偽の火薬にも気づいた相手で、そこは認めている。ただ「残念なことに分析力がない」「早い話がバカ。一番カモにしやすいタイプ」と続く。
気づけない人には罠を仕掛けられない。気づけて、しかも検算しない人にだけ罠が効く。前回の偽の汚れも同じ形で、あのときは追い込まれた心理が検算を奪っていた。ここまで来ると、この作品で狙われているのは無能ではなく、中途半端に有能な人だとはっきりする。
差し出された救いの糸は、間違った数字だった
先に、逃げ場を潰しておく
仕掛けは二段構えだった。まずフクナガは相手を追い込む。負債の話を持ち出し、「この差じゃ後の2人が勝っても負債が拡大、なんてことになるかもね」「あんたのせいで西軍は勝っても闇、負けても闇って状態になってるのよ」と、勝っても救われないと突きつける。
目的は動揺そのものではない。「精神的に追い込まれた人間ってのは、一本の救いの糸を差し伸べると、簡単にそのか細い糸に飛びつくもの」という前提を作るためだ。飛びつく状態を作ってから糸を垂らす、という順番が徹底している。
言い間違いに見える一言が、糸だった
垂らされた糸が「まさか先鋒戦だけで2億6400万も差がつくとはね」という何気ない一言だ。受け取った側はすぐ引っかかる。「チップ差は194枚。差は1億9400万だろ。なのになぜ」。合わない数字が引っかかりを作る。
そこから相手は自力で答えを組み立てる。相手が最後まで撃ち続けた場合の最終差が2億6400万になる、だから弾の位置が逆算できる、と。そして「こいつ、決定的なミスをした」と確信する。ミスをさせたのではなく、ミスをしたように見せている。仕掛けた側は一度も嘘を主張していない。
前回と、まったく同じ形で決まっている
結果は「案の定」で、相手は空だと信じた弾を続けて撃ち、二発目で被弾する。「馬鹿だね、騙されてるとも知らずに」という独白つきだ。
この形は前回と同一だと思う。前回、アキヤマは最善手を独り言のふりで教え、フクナガは偽の汚れを置いた。どちらも突きつけていない。相手が自分で見つけたと思っている情報だけが相手を動かしている。今回の間違った数字も完全に同じ設計で、二話続けて同じ原理で決着している。
ナオは嘘をついていない。聞かせなかっただけだ
引き分けの提案は、正面から断られる
勝利が確定した局面で、ナオが持ちかけるのが「次とその次、わざと被弾してください」だった。狙いは「この後の2回を引き分けにして、ディーラーにチップが流れるのを防ぐんです」で、そうすれば西軍の3人を救済できるという。
返事はにべもない。「見ず知らずの3人救って、何の得があんだよ」「お前とアキヤマは負債が1億ずつ増えるんだぞ」。ナオが「勝ち上がって、ヨコヤさんともう一度勝負して、負債分はガッチリ取り返しますから」と返しても、「乗らねえぞ、絶対」で終わる。正しさでは1ミリも動かない相手だと、ここで確認される。
「大儲けできる、すごい策があるのに」
そこでナオが切り替える。「ああ、もったいない」「ここを引き分けにしたほうが、フクナガさんは大儲けできる、すごい策があるのに」。食いつきは一瞬で、「引き分けたほうが、あたしが儲かるって?」と身を乗り出してくる。
上手いのは、手柄を自分のものにしないところだ。「といっても、その方法に気付いたのはアキヤマさんですけどね」と振り、当のアキヤマも否定しない。信用の担保をその場で借りてきていて、しかも借りた相手は嘘をついていない。
説明の途中で、時間切れになる
そして肝心の説明が始まったところで、ディーラーの「時間です」が入る。両軍はゲームルームへ戻され、ナオは「じゃあ、フクナガさん、よろしく」とだけ言って行ってしまう。
残されたほうは、儲かる方法の中身を一言も聞いていない。それでも撃つ。この構図がとても良かった。強引に信じ込ませたのではなく、途中まで聞かせて中断させただけだ。金の匂いを嗅がされた人は、続きを自分で埋めてしまう。前半でニシダが数字の続きを自分で埋めたのと、まったく同じことがここでも起きている。
誰も利益を捨てないまま、和合が成立する
聞いていない儲け話を信じた人が、人助けを名乗る
二発被弾して引き分けが成立したあと、西軍から「なぜ撃った?」「パスし続ければお前の勝ちは確定だった」と問われる。返事が最高だった。「パスしたら、お前らが助からねえだろ」「お前ら3人を助けるために、わざと撃ったんだよ!」。
ディーラーに金を流さなければお前らは助かる、という説明まで、ナオの言葉をそのまま自分の言葉として話している。儲け話につられて撃った人が、結果として人助けの説明を代行している。「詳しいことはうちの大将に聞いてくれ」で締めるのも良くて、この回でいちばん株を上げたのが、いちばん何も知らなかった人になっている。
「だって、これはライアーゲーム」
種明かしのあと当然の怒りが飛んでくるが、ナオの返しが涼しい。「あれ? なんで怒るんですか?」「だって、これはライアーゲーム。騙し合いのゲーム…でしたよね?」。
ずっと騙され続けて泣いていた人が、初めてタイトルを盾として使う。しかも使い方が完璧に相手の土俵で、文句のつけようがない。前回、模擬ゲームで何もできずに謝っていた人物と同じとは思えない。この作品の主人公の成長が、勝ち負けではなく作法の習得として描かれているのが好きだ。
「彼女の言ったことは真実だから」
グルだと責められたアキヤマの返答が、この回のいちばん重要な一行だと思う。「別にグルになって騙したわけじゃない」「先鋒戦引き分けは、彼女一人で考えた作戦さ」。そして共犯だろうと詰められて、「騙してないさ」「だって、彼女の言ったことは真実だから」。
つまり儲かる方法は本当にあった。ナオが省いたのは中身ではなく、聞かせる時間だけだ。ちなみにその方法をこの場で説明しない理由も示される。「この会場には監視カメラが仕掛けられている」「詳しい説明は、敗者復活戦が終わった後だ」。嘘を一つも使わずに人を動かした、という点で、これは前半の数字の罠より一段上の仕事だった。
三者三様の理由が、一つの結論に集まる
アキヤマは動機まではっきり言葉にする。「正直、俺はナオのように、西の三人をこのゲームから助け出したいなんて高尚な気持ちは持っていない」「このゲームの主催者の正体を突き止め、潰す。それだけが俺の目的だ」。ナオは救済のため、アキヤマは主催者を潰すため、フクナガは儲けるため。三人の理由は一つも重なっていない。
ここでディーラーの言葉に戻ってくる。この敗者復活戦の出題は「目先の利益を捨ててまで眼前の敵と和合できるか」であり、人間にはできないから面白い、というものだった。ところがこの回で起きたのは、誰も目先の利益を捨てないまま和合だけが成立する、という第三の答えだ。ナオは負債を取り返す前提で提案し、アキヤマは自分の目的に合うから賛成し、フクナガに至っては儲かると思って撃っている。捨てられないなら、捨てなくて済む形にすればいい。出題者の想定した二択の外側に出たのが、この回の勝ち方だった。
中堅戦は、17枚しかないポーカー
引き分けを受けて中堅戦へ移る。種目はセブンティーンポーカーで、「その名の通り17枚でやるポーカーのこと」。ジョーカーはワイルドカードとしてどのカードにも化け、それを含めたエースの5カードが最高役になる。カードが極端に少ないだけで、あとは普通のポーカーと変わらないという説明だ。
前回と同じく模擬ゲームから始まり、フクナガの助言は「ポーカーってのは駆け引きの勝負」「とにかく、相手のクセを探れ」。そして引きで、アキヤマが模擬ゲームに出ないことに西軍側が反応する。「これは俄然面白くなった」「このゲームに限って言えば、模擬ゲームをやっておいた方が絶対有利なのに」。前回、模擬ゲームで負けたナオの一発が偏りを読むデータになったことを思い出すと、出ないという選択がすでに一手に見えてくる。次の勝負も、始まる前から始まっていそうだ。




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