『なのはEXGV』第10話の副題は「南極地下研究所・捜索殲滅戦」。場所と作戦名を中黒でつなぐこの形は第7話と同じで、人名も組織名も入らない副題はこれで三本目になる。内容のほうでは、第8話でトワが「私のことは忘れて」と書いて返した能力が、そのまま本人を助けに来る。そして突入の根拠になったのは誘拐ではなく、魔人狩りが持っていた特級魔人化薬のほうだった。




副題「南極地下研究所・捜索殲滅戦」は、第7話とまったく同じ型で付いている
公式の副題は「南極地下研究所・捜索殲滅戦」(出典: 公式サイト STORY #10)。場所の名前と作戦の名前を中黒でつないだ形で、この作りの副題は今回が二本目だ。一本目は第7話「第四管区地下鉄道・追跡駆除戦」である。
人名も組織名も入らない副題は、これで三本目
第1話から並べると、久瀬シイナ Origin/国連調査機関EXCEEDS/魔人狩り/久瀬シイナと夜海トワ/夜海トワ Origin/遭遇/蔵木エイジと篠宮マナ/陽光/第四管区地下鉄道・追跡駆除戦/夜海トワ Descent/『EXCEEDS』/南極地下研究所・捜索殲滅戦、となる。人名も組織名もまったく入っていないのは、第5話「遭遇」と第7話、そして今回の三本だけだ。
そしてその三本には共通点がある。第5話はEXCEEDSと魔人狩りが現場でかち合う回、第7話は二人が互いを魔人として認識する回、そして今回は両者が同じ作戦として同じ建物に入る回である。誰かひとりの名前を題に出せる回ではない、というだけの話なのだが、十本のうち三本がきれいにそろっているのは偶然にしては続きすぎている。
「捜索」と「殲滅」が、そのまま担当の分け方になっている
突入直後の割り振りがそのまま副題の語順になっている。人命救助を受け持つ側が「私は調査部隊と一緒に施設内の人命救助を最優先に」「シイナさんと相沢さんたちは夜海さんの捜索を」と決め、なのはが「私が原種ゼロ号の駆除だね」と引き受ける。捜索はシイナと魔人狩り、殲滅はEXCEEDS、という分担が最初の三十秒で確定する。
公式あらすじも同じ形をしている。「EXCEEDSは、侵略種捜査の名目で南極地下の篠宮マナの研究所へと突入。シイナと魔人狩り一同はトワを捜索するが、その頃トワは……。」(出典: 公式サイト STORY #10)。二つの動きを並べたうえで、三つ目だけを言いかけて切っている。切られた部分がこの回のほとんどを占める。
逃げるか皆殺しかを決めた基準が、鉢植えだった
「持ち出しにくいものがいっぱいあるんだよね」
冒頭、ラボに踏み込まれたと聞いたマナは「なんで?」「どうしよう」と蔵木エイジを呼ぶ。蔵木の返しは「わからん、こっちでも調べてるんだが」「ラボの位置を掴まれたのが痛いな」で、原因は分かっていない。そこでマナが並べる選択肢が「ラボを捨てて逃げるか、あるいは強制捜査に来た連中を全殺しにしてから考えるか」の二つだ。
どちらを選ぶかの理由が独特で、戦力比較でも損得でもない。「逃げてもいいけど、持ち出しにくいものがいっぱいあるんだよね」「何よりこのラボってエイジ君が指示して作ってくれたやつだし」、そして「大事な鉢植えはもちろん、いろんな宝物もあるし」。研究成果でも実験体でもなく、真っ先に名前が出るのは鉢植えである。
決め方も変わっている。「だからエイジ君、やっちゃっていい?」と許可を求め、「ああ、お前の好きなように。後始末は任せとけ」で押し切る。全職員への通達は「施設と資産を守ってね」。皆殺しの決裁が、恋人への確認と語尾の「ね」で終わっている。
資産の列に、原種ゼロ号が並ぶ
侵入されたあとも、マナが繰り返し口にするのは同じものだ。「場所を移すにしても、あの鉢植えだけは移動させなきゃ」。指示も「私の鉢植えの移動と輸送の準備、急いで」である。研究所が落ちようとしている場面で、所長が最優先で運び出させるのが植木鉢だという絵になっている。
対して職員の報告は「素材の運び出しはすでに開始しています」「原種ゼロ号の移動にも急ぎ取り掛かります」。素材と原種ゼロ号と鉢植えが、同じ「資産」の列に並んで語られる。人を材料と呼ぶ組織の価値観が、避難の段取りだけで説明されてしまう。
締めの独白も同じ調子だ。「無駄なんだよね。私は強いし、絶対に負けないの。絶対にね」。第9話でトワに言った「私が純粋に強いから」から一歩も動いていない。強さの理由を説明しないまま、事実として繰り返す。この人物の怖さは、そこが一度も揺れないところにある。
突入の根拠になったのは誘拐ではなく、魔人狩りが持っていた薬だった
令状の名目は「危険な侵略種の存在確認」
踏み込むまでの手続きが、この回はきちんと描かれる。分析結果は「古寺さんから提供していただいた特級魔人化薬、その材料に含まれていた侵略種の卵細胞と、原種ゼロ号の卵細胞の遺伝子データが一致しました」。そこから「薬が作られた場所のすぐ近くに原種ゼロ号が生息していて、繁殖活動をしています」が導かれる。
続く一言が要になる。「篠宮のラボの場所が分かれば、私たちが大手を振って突入できるわけです」「危険な侵略種の存在確認のため、強制捜査の権利を発動できます」。国連機関を動かしたのはトワの誘拐ではなく、生物災害の疑いのほうだ。人ひとりの行方では令状が出ず、卵細胞の一致では出る。
そして皮肉なのは、その卵細胞が入っていたのが魔人狩りの持っていた特級魔人化薬だということだ。トワが根絶を誓ってきた当の薬が、証拠品として提出され、突入の根拠になる。第9話でトワが自分の身体で確かめた強さの出どころと、同じところに行き着いている。
総督が現場で魔法を使うのを、部下が「初めて見るかも」と言う
場所の特定を買って出るのは古寺ユズだ。「あの、場所は私が見つけます」「痕跡を追って座標を特定できるはず」。止められかけて「いえ、絶対にやります」と押し切る。第9話で薬を提出したのも、第10話で座標を出すのも、四人のうちいちばん後ろに置かれがちだった一人である。
そこに八神はやてが乗る。「私も探しますが、古寺さんをサポートできることはありますか?」「能力使用にかかる負担や疲労の軽減とか、集中力の活性化とか」。ユズが「補助系能力者の方ですか?」と聞き返し、返ってくるのが「割と何でもできます」「私は騎士で魔法使いですから」。
直後に部下から出るのが「八神総督の魔法、初めて見るかも」で、本人の答えが「ですよね」。総督の席に長くいる人が、現場で魔法を使うところを部下が見たことがない、という設定がここで一行だけ明かされる。そのうえで出る答えが「場所は南極、地下200メートル」だった。
「忘れて」と書いて返した力が、そのまま本人を助けに来る
留置所に残されたクモに、伝言が託されていた
第8話でトワは四人の能力を取り上げ、一人で出ていった。今回分かるのは、それだけでは終わっていなかったことだ。「留置所に残されたクモには、トワさんからのメッセージが託されていた」。第9話で誰も説明しなかった「トワさんが残してくれた子」は、おそらくこれである。
中身は謝罪と宣言と別れだ。「ごめん。篠宮と会えたけど、倒せなかった」「でも、篠宮を倒して施設を破壊して、蔵木を倒すところまでは必ずやるつもり」。そして「自分を守れるように能力は返しておくね」。取り上げたものを返した理由が、戦力ではなく護身になっている。
最後は完全な訣別の文面になる。「シイナに会えたら、ごめんねって伝え」、そして「みんなも、私のことは忘れて、普通に学校に行って、大切な人を見つけて、本当に困った時以外、魔人の力なんて使わなくていいように、幸せに生きていって」。使うなと書いて、使えるように返している。
「おかげであなたを助けに来られました」
受け取った側の返事が、この回でいちばん効く。「私たちは悲しくて、悔しくて、ただ泣いてただけだったけど」から「トワを探そう。探して絶対助け出す」に切り替わる。そして本人の前まで来て言うのが「能力を返してくれてありがとうございます。おかげであなたを助けに来られました」である。
忘れてほしくて返した力で、忘れなかった側が追いついてくる。続く言葉も遺言への逐条の反論になっていて、「トワさんこそ、なんで私たちを置いていくの?」「トワちゃんは私たちに幸せと居場所をくれた大切な人だよ」「どんなところにだって一緒に行きたいに決まってる」と並ぶ。手紙に書いた「幸せ」の中身が、書かれた側から言い返される形だ。
「人間なんだ」と名乗った相手に、「どうでもいいよ」と返る
遠慮はいらない、という前提の作られ方
突入前、ひとつだけ念押しされることがある。「トワさんから聞きました。このラボの職員のほとんどは人間でも魔人でもない、人の姿をした怪物だって」。それを受けての返事が「なら遠慮はいらないね」「はい」。職員を殺していい根拠が、トワからの伝聞ひとつで置かれている。
この確認自体は丁寧で、聞いた側も律儀に前提を共有している。ただ、前提を出したトワは今この場にいない。裏を取る手立ても、そもそも裏を取ろうという発想も出てこない。踏み込む側の手続きが妙に整っていたぶん、この一往復だけが軽い。
優しさを受け取った直後の一往復
その答え合わせが、少し先で唐突に来る。ラボの中で追い詰められた職員が言う。「私たちはただの雇われで、化け物じゃない、人間なんだ」。返ってくるのは「どうでもいいよ、そんなん」、そして「トワちゃんはどこ」「ここに連れてこられた黒髪の女の子」。反論ですらなく、話題として扱われない。
怖いのは、この直前に置かれている独白のほうだ。「一瞬の迷いもない」「あの子の言葉が、どれだけ温かくて、どれだけ優しく響いたか」。優しさを受け取ったからここまで来た、と言った同じ口が、次の場面で他人の「人間なんだ」を切って捨てる。作品はここを咎めもせず、正当化もせず、ただ順番に並べて置いている。
「駆除」と「救助」が、どちらも十秒で終わる
目をつぶって10秒数えて
人命救助に回ったフェイトの場面が短くていい。「国連の調査員です。皆さんを助けに来ました」で入り、相手は「地下鉄に現れたっていう不定形型」「毒を散布するタイプ」。第7話で追いかけ回した相手と同じ種類が、今度は施設の中に放たれている。
そこで助けられる側から出るのが「あれはすごく危なくて怖いやつだから」という心配だ。返事が「君は優しいね。心配してくれてありがとう。でも大丈夫。国連の魔法使いはすごく強いんだ」、そして「怖かったら目をつぶって10秒数えて。その間に全部終わらせるから」。次のカットが「大丈夫だったでしょ」である。
第9話の予告で聞いた一行が、本編に置かれている
なのはのほうは独白から入る。原種ゼロ号を前にしたシイナの言葉が「島を襲ったあいつは」で始まり、「きっとここの薬で生まれたやつだ」で終わる。そのうえで「邪魔だから、どいて!」「探さなきゃ」と押しのけていくのが、この人の今の優先順位を示している。
駆除そのものは「これが原種ゼロ号」「全部駆除」で始まり、「いけるね」「やってやりましょう」で幕が上がる。この「やってやりましょう」は、第9話では本編のあとに流れる予告のほうにあった一行だ。第8話の予告に出ていた「盤面を進めるよ」「出動準備よろしくな」が第9話の本編に置かれたのと、まったく同じことが二話続けて起きている。
加害者が「ご両親も望んでいない」と諭してくる
事故と買い物に言い換える
トワ側の場面は、覚悟の確認から始まる。「あの時は勝てなかった」「まだ命に執着があったから」。そして「この怪物を今日ここで殺せるなら」「あんな悲しいことをもう起こさずに済むのなら」「私の命なんて燃え尽きても構わない」。炎の力の正体を、マナはその場で読み解いてしまう。「命を燃やして寿命を削って火力と爆発力に変えてる?」「悪くないんだけど、でも全然足りない」。
続く言葉が容赦ない。「頑張っても必死になっても、命を懸けたつもりになっても、弱いやつは強い相手に勝てない」。そのうえで動機のほうへ手を伸ばす。「育ての親が死んだ件なら、別に私のせいじゃないし」「あれ、ただの不幸な事故でしょ?」「私は商品として売ってた捨て子を買っただけ」「なんも悪くなくない?」。
極めつけが「トワちゃんの両親だってそんなこと望んでないと思うよ」「復讐なんて何も生まない」で、返るのが「お前が父さんと母さんを語るな!」。奪った側が、奪われた側に向かって遺族の気持ちを代弁する。この回でいちばん悪意のある一手が、いちばん物腰のやわらかい言い方で出てくる。
「可哀想だと思わないの?」に答えたのは、可哀想と言われた側だった
追い打ちは仲間のほうへ向く。「そんな馬鹿げた復讐心に、子分たちまで巻き込んで人生を狂わせて、可哀想だと思わないの?」「ねえ、トワちゃん?」。トワが答えるより先に、可哀想だと名指しされた当人たちが「私たちの人生、狂ってなんかない!」と割り込む。問いの宛先を、話題にされた側が横から奪っている。
続く言葉も自己申告の形をとる。「私やアオイが頭悪いのはそうかもだけど」と自分から認めたうえで、「でもトワさんを一人になんかさせない、寂しいままになんてさせないって、それだけは決めてるんです」。頭の良し悪しでは譲り、決めたことでは譲らない。可哀想かどうかを決める権利が、外から来た評価ではなく本人たちの手に戻る。
締めが「だからトワちゃんを傷つけるやつは、私たち魔人狩りがぶちのめす!」で、マナの返事が「今忙しいのになぁ」。宣言はまるごと受け流される。それでも、この回で言葉が届いた相手はマナではなくトワのほうだ。忘れてくれと書いた手紙に、忘れませんという返事が本人の目の前で読み上げられた。



































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