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『乙女怪獣キャラメリゼ』第11話の副題は「クロエVSアカエ」。主人公の名前が副題に入るのは、十一本目にして初めてである。冒頭の黒絵は「戻ろう」「あの頃の私に」と、恋を知る前の自分に戻りたがっている。南は「あの頃みたいに、また一人になるのが怖い」と、同じ「あの頃」を怖がっている。後半の黒絵が戻りたいと言う先は、南に会いに行ける元の姿だった。




副題に、主人公の名前が初めて入る
十一本目で初めて「クロエ」が副題に並ぶ
第11話の副題は「クロエVSアカエ」。これまでの十本にも「狙われた新汰」「らいりの森」のように人の名前を含むものはあったが、主人公の赤石黒絵の名前が副題に出るのは、十一本目のこれが初めてである。「VS」でつないだ対決の形も、ここで初めて使われた。
名前は漢字の黒絵ではなく、カタカナのクロエで書かれている。並べられたアカエとは頭の二文字が違うだけで、クロは黒、アカは赤。黒絵の名字が赤石であることを思うと、この並べ方はただの語呂合わせには見えない。
止められた名付けと、公式の呼び名
第9話で、凛子が育てていた卵について光太郎は「妹ってわけか」と言い、名前を口にしかけたところで凛子に「勝手に名前つけないで」と止められていた。
第10話の終わりに現れた新しい怪獣を、公式のあらすじもキャラクター紹介もアカエと呼んでいる。一方で本編のニュースは、この怪獣を「巨大飛翔生物」と呼ぶ。作品の外では名前があり、作品の中では大きさと翼で呼ばれている、というずれが面白い。
公式のあらすじは「怪獣になれない」と書く
公式のあらすじは「東京にアカエが出現した。狙いはどうやら黒絵らしい。」と始まり、続けて「新汰と聖奈の親しげな光景が脳裏にちらついて怪獣になれない」と書く。怪獣が来たのに、迎え撃つ側の怪獣が出てこられない。
これまでの黒絵の悩みは、なってはいけない場面で怪獣になってしまうことだった。この回はその逆が、東京が燃えている夜に起きている。
始まりは「戻ろう」
冒頭は、第10話の終わりに撮影現場で決心が折れた場面の続きから始まる。黒絵の独白は「さよならしたのは私の方だが」「いくらなんでも早すぎるだろう」と続く。別れを切り出したのは自分なのに、南が次へ進むのが早すぎると感じている。
そのあとが「こんな思いするくらいなら戻ろう」「あの頃の私に」「嵐のような感情を知る前の私に」で、「その方が楽だ」「世界だって平和だ」と締めくくられる。恋さえしなければ怪獣にもならないのだから、世界が平和だというのは冗談ではなく、この体質の人にとっては本当のことだ。
女優の忠告は、南の作戦のいちばん弱いところを突いていた
「振られでもしたの」
撮影の合間、南新汰に話しかけるのは共演者の聖奈である。「にしてはしけた顔してるけど」「なに、振られでもしたの」と聞かれて、南は「まあ、そんな感じっす」と答える。返事は「あら、残念」だった。
第9話で「あなたと共演できるのを楽しみにしてるわ、王子様」と言った女優が、ここでは南の暗い顔を気にしている。番組の出番を取られたと怒っていた人が、最初に南の様子に気づく側に回っている。
「あの女狐」の話
聖奈はそのまま忠告を始める。「あんたさ、知ってるの」「あの女狐」「業界人としての才能はピカイチだけど、結構ヤバい女よ」。
続きは「視聴率と自分のキャリアのためなら何だってするし」「素人が迂闊に近づいたら骨までしゃぶられるんだから」。そして「芸能界辞めるなら今のうちよ」で終わる。出番を取られた相手に、辞めるなら今だと教えている。この人は意地悪な役回りで出てきたが、根は面倒見がいい。
取り戻したかったのは時間
南の答えは「俺はただ、彼女との時間を取り戻そうと思って」だった。聖奈が「それでなんで芸能界入ったのよ」と聞き返すと、「テレビに出まくれば逆にみんな飽きるし」「ハルゴンのことも伝えられるって」と説明する。
第9話で黒絵が内心「甘いんじゃないかな」と思った作戦を、南はまだそのまま信じている。聞いた聖奈の感想は「鈍いわね」の一言だった。
「彼女の気持ちにも気づけない」
聖奈はさらに「そういうお人よしなとこにつけ込まれてんの」「そんなとろい思考じゃ、彼女の気持ちにも気づけないでしょうね」と続ける。説教の中心にあるのは、南の身の危険より、彼女の気持ちのほうである。
言われた南の独り言は「ほんと何やってんだ俺」。この一言は、後半で南が自分から口にする後悔の、最初の形になっている。
再会のハグシーンの稽古
話の途中で聖奈は「練習するわよ、ど素人」と切り替え、「再会のハグシーン」の稽古を始める。「ていうか共演したいとは言ったけど、なんで恋人役なの」とこぼしながら、南には「違う、もっと情熱的に」と注文をつける。
公式のあらすじが書く「親しげな光景」は、この稽古のことだろう。離れて見ていた側からは「演技の練習じゃね」という声が上がり、友里真夏も「ですわね」と受ける。
見抜いたときには、黒絵はもういない
ところが、そのとき黒絵はもうその場を離れていた。のちに南は、黒絵がさっきまで一緒にいたこと、稽古の様子を「目撃しちゃってショック受けて」いたことを聞かされる。
本当のことに気づいた二人と、その前に立ち去った一人の差が、この回の行き違いを全部生んでいる。もう少しだけ残っていれば、と思わずにいられない。
「怪獣映画じゃないんだから」と笑った直後に
爆発の音を、最初は冗談にする
爆発の音を聞いた黒絵の頭に浮かぶのは「まさか、私を倒しに」という考えだった。けれどすぐに「そんなわけないじゃないか」「怪獣映画じゃないんだから」と笑い飛ばしてしまう。
怪獣に変身する本人が、怪獣映画のような展開を打ち消している。しかもこの日、彼女が足を運んだのは怪獣映画の撮影現場だった。自分の置かれた立場を一番よく知っている人の、精一杯の現実逃避である。
「やっぱり狙いは私」
打ち消した考えは、すぐに「やっぱり狙いは私」に戻ってくる。撮影は「撮影中止」の声で止まり、現場からは「ハルゴンじゃない」という声も上がる。
テレビの臨時ニュースは「晴海に巨大飛翔生物が出現しました」「近隣の方は直ちに避難してください」と伝える。黒絵にとっては、自分を探しに来た相手が、街ごと壊しながら近づいてくる状況になった。
「私が」のあとが続かない
黒絵は「私を探してる」と気づき、「どうしよう、このままじゃどんどん被害が」と焦る。そして「私が」と言いかける。
けれど続いて出てくるのは「あんなのと戦えないって」という弱音で、公式のあらすじのとおり、怪獣にはなれない。責任を感じる気持ちと、変身の引き金になる気持ちは、別のものだった。
「戻ってきます、二人で」
知らせを受けた南
撮影が止まった現場で、南は河野来夢から「ヤバいよ、南くん」と黒絵のことを知らされる。黒絵がさっきまで一緒にいたこと、稽古を見てショックを受けていたことを聞いた南に、「あんた死にたいの」という声が飛ぶ。
南の返事は「戻ってきます、二人で」だった。冒頭で黒絵が口にした「戻ろう」とは、同じ言葉でも向きが逆である。
送り出す声が、恋人の台詞になる
走り出す南の背中に向かって「絶対帰ってきなさいよ」という声がかかり、続けて「これじゃ本当に恋人みたいじゃないの」とこぼれる。
さっきまで恋人役の稽古をしていた現場で、本物の別れ際のようなやり取りが起きている。稽古では「もっと情熱的に」と言われていた南が、いちばん情熱的に見えるのは、台本のない場面だった。
真夏も動き出す
見送った真夏は「私もうかうかしていられませんわ」と言う。第8話で「今度は私がハルゴンを迎えに行きますわ」と宣言した人が、ここでもう一度、会いに行く側に回る。
走り出した理由は南と真夏で違うが、二人とも逃げる方向ではなく、怪獣のいる方向へ向かっている。
カメラは止まらない
同じころ、現場では「カメラ追って」という指示が出ていた。止めようとする声に返ってくるのが「いいから、視聴率取るチャンスよ」である。
聖奈が「視聴率と自分のキャリアのためなら何だってする」と忠告したのは、ほんの少し前のことだった。忠告の中身が、そのまま目の前で起きている。
南が赤石さんをかっこいいと思った理由
燃える街で黒絵を探す南に、回想が重なる。「赤石さんってなんか、かっこいいよな」「いつも下向いてね」「でも、すごく力強い目してるんだよね」「常に何かと戦っているような」。
最後に出てくるたとえが「まるで侍」で、そばからは「いや、睨んだだけだろ」と返される。本人は睨んだだけの顔を、南は戦っている顔として受け取っていた。
南の「あの頃」
回想の締めは南の独白で、「俺とは全然違うんだろうなと思った」「あの頃みたいに、また一人になるのが怖い自分とは」と続く。
学園一の人気者として描かれてきた南が、一人だった時期と、それを繰り返す怖さを本人の口で語っている。第9話で女優に「もし何か、俺にできることがあれば言ってください」と申し出たのも、この怖さから見るとつじつまが合う。
少なくとも一人は
回想には、「食べろ」から始まる短い言葉も差し込まれる。「でも今日お前とここに来れてよかったと思う」「そういう人間もお前の周りにはいる」「少なくとも一人は」。
一人になるのが怖いと言う人の記憶に、「少なくとも一人は」という言葉が残っている。黒絵をかっこいいと思った回想の中に、この言葉が置かれている。
嫉妬では変身できず、「このままは嫌だ」で変身する
無事を確かめるメッセージ
一方の黒絵は「真夏さんたちはちゃんと逃げたが」と、まず友達の無事を確かめている。そこへ来夢から、無事かどうかを尋ねるメッセージが続けて届き、最後に「とにかくこの動画見て」と送られてくる。
その先で黒絵は南の名前を呼ぶ。南が走り出したあとに「カメラ追って」と指示が出ていて、のちに「いい絵撮れたわ」という声も上がる。南が本気で走るほど、それを撮る側には都合がいいという皮肉が、この回にはずっと付いて回る。
「嫌だ」「このままは嫌だ」
黒絵の口から出るのは「嫌だ」「このままは嫌だ」だった。冒頭で「戻ろう」と言った人が、ここでは戻るのでも、立ち止まるのでもない言い方をしている。
恋を知る前に戻ればいいという逃げ道を、黒絵が自分で閉じた瞬間だと思う。
大好きだ、の一言が重なる
そこへ重なるのが「俺、本当に赤石さんが大好きだ」という南の声である。第7話で、黒絵が「私、きっと南くんが思うよりずっと強いと思うから」と言ったのを受けて、南が返したのと同じ言葉だった。
公式のあらすじは、南と聖奈の親しげな光景がちらついて変身できないと書いていた。黒絵を止めていたのが見たくない光景なら、動かしたのは一度聞いたことのある言葉だった。嫉妬では怪獣になれず、好きだと言われた記憶で怪獣になる。この作品の変身の仕組みが、いちばんきれいに出た場面である。
怪獣の中にいるのは、ただの女子高生
ヘリの特等席
後半、真夏と来夢はヘリの上にいる。「ヘリの方が安全ですのよ」と言う真夏に、同乗者からは「冗談じゃないわよ」と悲鳴が上がる。真夏はかまわず「もっと、もっと接近してくださいな」と頼み、「ハルゴンの勇姿」を「見届けますわ」と言い切る。
怖がって身を隠す相手には「あらあら、せっかくの特等席ですのに」。真夏の恋は、相手が戦っている最中でも、いちばん近い席を取りにいく。
ニュースの実況と、中の本音
テレビは「なんということでしょう」「我々は今信じられない光景を目撃しています」と伝え、「いいぞハルゴン」と声援も飛ぶ。
その怪獣の中で黒絵が思っているのは「だって私、ただの女子高生なんだから」だった。外からは頼もしい怪獣に見えていても、中にいるのは声援を受け止めきれない高校生である。
侍と女子高生
回想の南は、黒絵を「常に何かと戦っているような」「まるで侍」と見ていた。この夜の黒絵は本当に怪獣と戦っているのに、本人は自分をただの女子高生だと言う。
南が見ていた強さと、黒絵が感じている弱さが、同じ夜に同時にある。第7話の「私、きっと南くんが思うよりずっと強いと思うから」と並べると、この回の黒絵は、その言葉を自分で言い直しているようにも見える。
真っ先に確かめるのは友達の無事
戦いの合間に友達の姿を見つけた黒絵は、「よかった、無事で」とほっとする。怪獣の姿でいちばん先に考えるのが、勝ち負けではなく友達の安全というところに、黒絵らしさが出ている。
同じ夜に、二人は別々の場所で後悔している
怪獣の姿で「早く会いたい」
戦いのあいだも、黒絵の気持ちは南のほうを向いている。「南くん、大丈夫かな」「今どこにいるの」「怪我してないか」。
そして「早く元の姿に戻りたい」「早く、早く会いたい」。冒頭で「あの頃の私に」戻ろうとした人が、ここでは会いに行くために元の姿へ戻りたいと言っている。戻る先が入れ替わった。
「バカだ私」
独白は「バカだ私、あんなこと言って」「こんなに、こんなに好きなのに」と続く。第10話の別れ話を、黒絵は自分から悔やんでいる。
「その方が楽だ」と言っていた人が、楽な方を選んだことを後悔している。一話のうちに、黒絵の気持ちは冒頭と反対の場所まで来た。
待つ南と、張り合う大地
避難を促される場所で、南は「俺は大丈夫」「ここにいるよ」と動かない。そこへ米山大地が「じゃあ、じゃあ、俺も待つ」「俺の方がクロエ姉ちゃんのこと好きだし」と張り合う。
南の「なんか子供みたいだな」に返ってくるのは「子供だし」。第10話で「俺、子供じゃねえし」と言い張った大地が、今度は自分から子供だと認めている。そのうえで「俺小学生だけど、お前には絶対負けねえかんな」と宣言するのだから、年齢を隠すのをやめて、正面から張り合うことにしたらしい。
「どうして、ちゃんと話聞いてあげられなかったんだ」
第10話の別れ際の言葉、「私のことは気にせずに、どうか羽ばたいてくれ」がここでもう一度流れる。それを受けて出てくるのが「どうして、ちゃんと話聞いてあげられなかったんだ」だった。
前半で聖奈は「そんなとろい思考じゃ、彼女の気持ちにも気づけないでしょうね」と言っていた。南は他人に言われたことを、この夜のうちに自分の言葉で言い直している。黒絵は「バカだ私」と、南は「どうして」と、同じ夜に別々の場所で後悔している。
光る怪獣
そして「怪獣が光ってる」という声が上がり、ハルゴンに逃げるよう叫ぶ声が続く。終盤には、アカエの光線が飛んでくる。
二人の後悔がそろった直後に、戦いのほうが一気に動く。気持ちの整理がついたところで、状況が待ってくれないのがこの作品らしい。
まとめ:二つの「あの頃」と、向きを変えた「戻る」
同じ「あの頃」を、黒絵は楽と言い、南は怖いと言う
第11話には「あの頃」が二度出てくる。黒絵の「あの頃の私に」と、南の「あの頃みたいに、また一人になるのが怖い」である。どちらも、誰かを好きになる前の、一人だった時間を指しているように読める。
同じ場所を、黒絵は「その方が楽だ」と言い、南は怖いと言う。南がかっこいいと思ったのは、一人でも平気そうに見えた黒絵だったが、その黒絵はこの夜、ただの女子高生として怖がっている。
「戻る」の行き先が変わる
冒頭の「戻ろう」は、恋を知る前の自分へ逃げる言葉だった。南の「戻ってきます、二人で」は、危ない場所から黒絵を連れて帰る約束である。
そして後半の黒絵の「早く元の姿に戻りたい」は、会いに行くための言葉になっている。同じ「戻る」が、逃げる言葉から、会いに行く言葉へと向きを変えた。副題は対決だが、この回の芯はこの向きの変化にあると思う。
怪獣映画と恋の話が、同じ場面で進む
「怪獣映画じゃないんだから」と笑った黒絵の東京は、この夜、怪獣映画そのものになった。それでも台詞を拾っていくと、戦いの最中に交わされているのは、相手の無事を案じる言葉と、自分を責める言葉ばかりである。
大怪獣の戦いと、言いそびれた気持ちの話が、同じ時間に並んで進んでいる。放送直後の反応にも、その振れ幅を楽しむ声が多かった。




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