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第11話の副題は「スーパーの裏で迎える声」。仕事納めの夜、佐々木は山田さんにも田山にも挨拶できないまま店をあとにする。喫煙所では後藤が電話に向かって怒っていて、熱を出した田山を説得してほしいと頼まれる。借りたスマホ越しに出てくるのが「そういう最悪は肩から一度下ろしてみたら」だった。年が明け、二人は喫煙所で今年最初の一服を交わす。




副題「スーパーの裏で迎える声」と、この回の担当者
副題から「ふたり」が消えている
第11話の副題は「スーパーの裏で迎える声」。この作品の副題は「スーパーの裏でヤニ吸うふたり」「スーパーの裏で贈るふたり」のように「ふたり」で終わる形が基本で、第10話も「スーパーの裏で光るふたり」だった。今回はそこが「迎える声」に変わっている。ふたりが並んでいない回であることが、副題の形でそのまま示されている。
公式あらすじは「お願い」で終わる
公式サイトのあらすじは「仕事納めの解放感に浸る佐々木。」で始まり、「田山とのいつもの場所にはスマホに向かって怒鳴っている後藤の姿があった。」と続く。そのあとは「体調を崩しても仕事に出たいと意思を曲げない田山に手を焼いている様子で、佐々木はとあるお願いをされ…。」で切れている。この回の佐々木は、自分から動くのではなく頼まれる側として紹介されている。
脚本から総作画監督まで
公式サイトの担当者は、脚本が井上美緒、絵コンテが村木一隆、演出が小坂春女、総作画監督が大滝那佳と佐藤惠美。夜の場面が大半を占める回で、電話をする部屋の暗さと、スマホの画面だけが顔を照らす明かりの差が終始続く。台詞のほとんどが電話越しになる回を、光の量で見せる作りになっている。
仕事納めの夜と、できなかった挨拶
「これで山田さん納めができたら最高だな」
佐々木の仕事納めは同僚とのやりとりから始まる。「部長が熱出して」迷惑をかけたおかげで帰りやすいという軽口が出て、相手は「俺は家族で温泉だ」「来年会おうアデュー」と去っていく。一人になった佐々木の考えごとが「年明けまで飯買い込んでゴロゴロして」「これで山田さん納めができたら最高だな」。一年の締めくくりに数えているのが、スーパーの店員に会うことになっている。
レジに並ぶのをやめる理由
ところが店は混んでいる。「こりゃ二番レジに並べそうにもないな」と引き返し、「クソ忙しい時にわざわざ並んでスマイルを求めるな」と自分を止める。「一年あなたのおかげで癒されました」「なんていうわけでもなし」と続け、「店の流れを乱すアホな客になるところだった」と結論を出す。好きな相手に会いに行かない理由を、客としての分別で説明している。
「そろそろ不審者なんだよな」
田山にも会えない。「山田さんには心の中で勝手に感謝させてもらうとして」「あの子には直接挨拶できたらいいな」と思いながら、「夜にちょくちょく散歩して」覗いてもいないと嘆く。締めは「というかそろそろ不審者なんだよな」「俺」。同一人物に二回ふられた形になっていることに、本人だけが気づいていない。
怒鳴っている後藤と、貸されたスマホ
「佐々木くんじゃないか」
喫煙所では後藤が電話に向かって怒っている。気づかれた佐々木に「佐々木くんじゃないか」「仕事納まったのか」と声がかかり、「運のいいことに」と返す。田山の話を振ると「あいつなら熱出して倒れたぞ」。心配する佐々木に「しとらんしとらん」と入院を否定し、「休ませている」「正確には休ませたいなんだが」と言い直す。言い直しの一言で、電話の相手が言うことを聞いていないと分かる。
「その代わり 喫煙料を払ってもらう」
後藤の頼み方が軽い。「佐々木君 一本吸っていっていいぞ」と勧めたうえで、「その代わり 喫煙料を払ってもらう」と続ける。電話の向こうでは「元気です 私元気です 明日絶対仕事行きますから」と言い張る声がしている。説得を頼む対価が煙草一本という値付けで、重い頼みごとが軽い取引に変えられている。
「どっちにかけてんの」
電話を代わった佐々木の第一声は「突然すみません」「佐々木と申します 今大丈夫でしたか」。受けた側の戸惑いが面白い。「どっちにかけてんの」と考え、「でも敬語だし 山田か」と当たりをつける。名乗り直して「もしもし 田山さん」と呼ばれ、ようやく「お疲れっす」と素が出る。電話越しでも、この人はまず自分のどちらの顔に用があるのかを確かめている。
電話ごしの看病と、「肩から一度下ろしてみたら」
「話せる体調じゃなかったら切るよ」
佐々木の切り出し方は丁寧だ。「田山さんに今年の挨拶をしようと思ったら」店長がいて電話を貸してくれた、と事情を説明し、「話せる体調じゃなかったら切るよ」と先に逃げ道を作る。田山のほうは「店長がね 私を明日来させないように説得しろ」「とか言われたんじゃないの」と見抜いている。頼まれごとの中身が最初から相手に読まれているところから会話が始まる。
「4日も休んでらんないでしょ」
田山は休まない理由を並べる。「熱も大したことない」「明日も出れる」と言い、咳が出て「ごめん 話すと咳出ちゃうね」と謝る。体の状態は「体は動く」で片づけ、「4日も休んでらんないでしょ」「明日が一番忙しいし」「人も足りないし」と続ける。体調の話をしているのに、出てくる理由がぜんぶ店の都合になっている。
「私 そういうのが一番 最悪」
本音はその先にあった。「バイトがやらかしたせいで」「ずっと外走りっぱなしで 調子悪くなってたの」と後藤の状況を説明し、自分が「ブッ倒れ」たことを「支えるどころか 迷惑かけて」と言う。そして「私 そういうのが一番 最悪」。休めない理由が責任感ではなく、迷惑をかけた自分への評価になっている。
「そういう最悪は 肩から一度下ろしてみたら」
佐々木の返し方が的確だった。「そういう最悪は 肩から一度下ろしてみたら」と提案し、具合を聞き直す。「だるい」「頭痛い」「タバコ吸えない」「イライラする」と並べる相手に、「そういう時は みんなを頼って寝たらいい」と言い、「誰かによっかからせてもらうことが最悪」「なんてことないよ」と続ける。最悪という言葉を否定せずに、置き場所だけを変える言い方になっている。
「来年も来たいって言わないの?」
挨拶のはずが、続きを催促される
話が長くなり、佐々木は「これ以上話すのは体に」と切り上げようとする。止めたのは田山だ。「今しなきゃ 今年もう会えないじゃん」と言い、「それとも 明日も電話してくるつもり?」と畳みかける。佐々木は「これ 店長のスマホだし」と断り、「だったら 今して」と押し切られる。休ませるための電話が、切らせないための会話に入れ替わっている。
「こんなおっさんと一服してくれて 本当にありがとう」
挨拶の中身は短い。「今年はなんちゅうか 喫煙面で本当にお世話になりました」「こんなおっさんと一服してくれて 本当にありがとう 田山さん」。それを聞いた田山の返しが「それだけ?」で、続けて「来年も来たいって言わないの?」と言う。佐々木は「来年も もし 田山さんがよかったら」と言い直すことになる。礼だけで終わらせようとした相手に、来年の約束まで言わせている。
寝落ちと、「佐々木さんの声で話してる」
会話のあとの独白も置かれている。「この声」を「ろくに思い出せないのに」「佐々木さんの声で話してる」「変なの」。そのまま眠りに落ちる田山の枕元で、通話画面だけが光っている。電話を切る場面ではなく、眠ってしまう場面で通話が終わる。
スピーカーだった、という落ち
「丸聞こえだと忘れていないか?」
ここで後藤が口を挟む。「ところで あなた」「会話は全てスピーカーで 丸聞こえだと忘れていないか?」。田山の答えは「覚えてます」「だから今 顔から火が出そうですよ」で、そのうえで「おかげで私は めっちゃ元気出てきたけどな」と続ける。聞かれていると分かったうえで言っていたことが、最後に明かされる。
「巻き込まれたなんて 思っちゃいないですよ」
後藤は佐々木に謝る。「すまなかったな 佐々木くん」「巻き込んでしまって」「タバコ一本じゃ安かったか」。佐々木は「巻き込まれたなんて 思っちゃいないですよ」「挨拶もできたし」と受ける。依頼の形で始まったやりとりが、どちらの側にも借りを残さずに終わっている。
「君の気持ちに必ず追いつく」
この回には、仕事の話としての言葉も置かれている。「この仕事 好きなんだね」と言い、「好きで続けているんなら」「必要なことは全部」「君の気持ちに必ず追いつく」と続く。休めと言うためだけの会話の中に、休まない理由をまるごと肯定する一言が混じっている。止める側が、止めたい相手の動機まで否定しないで話している。
年が明けて、凶のおみくじ
年始の挨拶はスタンプから
年明けの場面は連絡のやりとりから始まる。「明けましておめでとう」に「今年は実家じゃない」「自宅で本をしこたま読んでいる」と返し、「今度 後藤先輩チョイスの本教えてくださいね」「お前本ろくに読まんだろうが」「じゃ 読み聞かせでお願いします」「アホか」と続く。締めは「私たちはこれから初詣ですね」「そうか 滑って転ぶなよ」。店で見せる顔と、連絡先の中の顔が、ここでは同じ軽口でつながっている。
「可愛くないにも程がある」
スタンプの話も出てくる。「このスタンプ使ってるやつ」「こいつしか見たことないよ」と言われるキャラクターについて、「その変なキャラクターはな」「可愛くないにも程がある」と評され、「可愛いでしょ」「ちょっとぽいし」と返る。年始の挨拶が、絵柄の好みの言い合いに変わっている。
実家の初詣と、おみくじ
二人はそれぞれの実家で年を越している。田山の側は「せっかくこっち帰ってきたんだし」「食ったら3人で初詣にでも」と誘われ、「だるいから考え中」と返しながら、「あんた以外お姉ちゃんたち帰ってこなくて寂しいのよ」と言われて折れる。そのうえで「ついでにあの人が」「あんま可哀想な目に遭わないように祈ってやるか」と考える。祈る相手として先に浮かんでいるのが、電話の向こうの人になっている。
「ここまで来たらもう才能やな」
佐々木の側では、引いたおみくじがまた凶だった。家族に「ここまで来たらもう才能やな」と言われ、「あたしの大吉と交換したろか」と申し出られても「もう慣れっこやに」と断る。本人も「やっぱ毎年毎年」と考え、「お祓い行くべきかな俺」と続ける。毎年の凶が、この家では気の毒がられるより先に笑い話として扱われている。
「出会いは間違いなく大吉だ」
それでも結論は違う方向に出る。「あの人から元気をもらったし」と振り返り、「いい年だった」と言い、「出会いは間違いなく大吉だ」と続ける。くじの結果ではなく、一年の中身のほうで運を数え直している。
喫煙所で「今年もよろしくお願いします」
「今年も私と吸うんだから」
年始に再会する場面は店の前だ。「佐々木さんじゃん」と声をかけられ、「もしかして年始休みなわけ?」「ちょうど今日で終わりなんだ」と近況を交わす。誘い方は「私今から裏を吸いに行くけど」「来るでしょ?」で、迷う佐々木に「だって佐々木さんは」「今年も私と吸うんだから」と言う。電話で言わせた来年の約束が、その年の最初の一服として回収されている。
「会うまでずっと心配してたわけ?」
喫煙所では心配の答え合わせが行われる。「もうすっかり体調良くなったみたいで」と言う佐々木に、「会うまでずっと心配してたわけ?」と聞き、返ってきたのは「心配だったよ」。「考えることしかできなかったけど」と続き、「ちゃんと厚着しててよかった」で落ち着く。看病らしいことは何もしていないのに、心配だけはずっと続いていたことが確かめられる。
「おしゃれは覚悟の娯楽」
そこから服の話になる。「私のこと」「薄着人間かなんかだと思ってない?」と言われ、「あったかいに越したことはないかなって」と返す佐々木に、田山は「その時テンション上がる服を着るのがおしゃれなの」と説明し、「おしゃれは覚悟の娯楽」「タバコと一緒!」と言い切る。さらに「少なくとも私の方が」「佐々木さんより寒さに強いと思いますけど」と続ける。寒さに耐える理由として、我慢ではなく娯楽という言葉が出てくる。
「今年もよろしくお願いします」
落ちはカイロだった。貼っていることを見抜かれた佐々木は「服のことあれこれ言って申し訳ございません」と謝り、そのうえで「田山さん今年もよろしくお願いします」と言う。理由は「去年は田山さんに言わせちゃったから」「言えてよかった」。返事は「そういう意味じゃないっての」。電話で催促された側が、年が明けてから自分の口で同じ言葉を言い直している。
まとめと考察
副題の「声」は、二回とも電話越しに届いている
副題の「迎える声」は、年を迎える場面と、電話越しの声の両方にかかっている。この回で佐々木と田山が向かい合って話すのは最後の喫煙所だけで、それ以外はスマホを挟んでいる。それも佐々木の電話ではなく、後藤から借りたものだ。一番近づいた会話が、自分の電話ですらない他人の端末越しに行われている。
山田としての挨拶は、結局できていない
佐々木はレジの列を離れ、山田さんへの挨拶をあきらめた。ところが電話の向こうの相手は、敬語を聞いて「山田か」と身構えた側の人物だった。挨拶できなかった相手と、来年の約束を取り付けた相手が同じ人になっている。あきらめた挨拶のほうが、結果としてはより深い形で成立している。
休ませる話が、休まない理由を肯定して終わる
後藤の頼みは「私を明日来させないように説得しろ」という筋のものだったが、佐々木はそれを説得としてはほとんど果たしていない。代わりに出てきたのが「肩から一度下ろしてみたら」であり、「君の気持ちに必ず追いつく」だった。田山は結局、眠って熱を下げてから店に戻る。説得ではなく、寄りかかっていい理由を置いていったことで、頼まれごとのほうも片づいている。




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