この記事の作品:
宰相の前で寝てしまったピアは研究時間を減らされ、ルーファスからは琥珀色の眼鏡が贈られる。ジョニーおじさんから舞い込んだ測量調査の仕事、ルーファスとの穏やかなお昼寝。けれど幸せな日々の向こうで、乙女ゲームのヒロインであるキャロラインが予定より早く動き出していた。今世初の眼鏡、測量調査の依頼、そして一億ゴールドの賭けまで、第4話を振り返る。




第4話 眼鏡と新しい仕事
第4話「過保護な辣腕婚約者様」は、眼鏡をかけたピアの新しい日常から始まり、ジョニーおじさんから持ち込まれた測量調査の仕事、ルーファスとの穏やかな時間、そしてついに姿を現したキャロラインの気配まで、幸せと不安が交互に押し寄せる回だった。ルーファスの過保護ぶりと、ピアへの深い愛情がたっぷり描かれた第4話を振り返っていく。
今世初の眼鏡
宰相であるルーファスの父の前ですっかり寝入ってしまったピアは、母にこっぴどく叱られ、生活リズムの改善と研究時間の短縮を言い渡される。ルーファスも「私もお母上と同意見だ」と容赦がない。しかもピアの目は、この距離でも文字が見えないほど悪くなっていた。
そこでルーファスが用意したのが、隣国製の質のいいレンズを使った眼鏡だった。琥珀色のフレームに「なんで私の好みがわかったのですか」と驚くピアに、ルーファスは「そりゃ付き合いが長いからね」とさらりと答える。「今世初メガネ」、「何もかもがくっきり見えます」、そして「ルーファス様のお顔も」。ピアの素直な喜びと、照れるルーファスの姿がなんとも微笑ましい。
研究時間は1日7時間に減らされ、空いた時間は公爵家での花嫁修行にあてられることになった。幼い頃から婚約している貴族は、アカデミー卒業後に結婚するのが一般的だという。ピアの日常が、少しずつ結婚に向けて形を変えていくのが感じられる場面だった。
研究に没頭するあまり自分の体をかえりみないピアと、それを放っておけないルーファス。二人の関係は、第1話からずっとこの形で続いている。眼鏡という贈り物ひとつにも、ピアのことを誰よりもよく見ているルーファスの思いが詰まっていた。
ジョニーおじさんの依頼
ある日、ピアの研究室に現れたのは、以前出会ったジョニーおじさんだった。学長と仲良しだから研究棟に入れたという謎めいた人物は、街で一番斬新だというお菓子を手土産に持ってくる。この世界にマカロンがあることに驚き、「甘くてふわっとして舌の上で溶けました」と頬をゆるめるピア。ところがジョニーおじさんは、「実はこれワイロなんだよ」と笑う。
依頼は、南の海岸線の測量調査だった。土地の領主たちやインフラ担当大臣のサインまでそろった完璧な資料に、必要経費とは別の報酬、しかも日当10万ゴールド。ピアは今もっとも注目されている研究者なのだから妥当な金額だと、ジョニーおじさんは保証する。
ピアの頭に浮かんだのは、何にも流されず自分の足で立っていたいと語ったエリンの言葉だった。もしかしたら2年後に国外追放されるかもしれない。だとすれば、仕事の実績や蓄えはあったほうがいい。それでもピアは、「私の一存では決められません」と家族に相談すると答える。
ジョニーおじさんはそれも見越して、ピアの父の一筆をもらってきていた。父の添え状がある以上、断ることはできない。こうして契約は成立する。気は弱いが、ここぞという時には意外としっかりしている。ジョニーおじさんのピア評は、まさにこの作品のピアそのものだった。そして去り際の「秘密というのはお菓子よりも甘く愉快なものだからね」という一言が、この人物の正体への興味をかき立てる。
測量とルーファスの過保護
先手を打たれたルーファス
独断で仕事を引き受けてしまったことを謝るピアに、ルーファスは「ピアの判断は間違ってないよ」と答える。発掘調査されていない土地に合法的に入れるのだから、と。ルーファスは自分の兄も同席させ、調査に必要な人材の募集と道具の生産を引き受ける。初期投資も自分が持つという。
ルーファスの目は、さらにその先を見ていた。測量の技術そのものをピアから学び、それを生業とする優秀な技術集団を作りたい。いずれピア一人では手に負えなくなる時が来る。ピアの研究を守るだけでなく、その価値を大きく育てようとするルーファスの手腕は、まさに辣腕婚約者だ。
婚約者の仕事を自分の手柄にするのではなく、ピアの研究を軸に領地全体の産業を育てようとする。ピアが弱気になる暇もないほど、周りの大人たちが先回りして道を整えていく様子は頼もしい。
アカデミーの夏季休暇を使い、測量士希望者を集めた実地講義が開かれる。杭を打ち、目印を立て、長縄で測点同士を結び、コンパスで角度を測って地図に起こす。その繰り返しを丁寧に教えるピアの姿は、立派な博士そのものだった。
一方のルーファスは、これからは正確な地図を持つ者がその土地を制すると考え、この知識と技能をしっかり保護しなければと気を引き締める。発明者であるピアも、この場にいる全員も、しばらくは集団で行動させて護衛をつける。ピアの研究の価値を誰よりも理解しているからこその警戒だった。
発掘禁止とお昼寝
講義が終わり、さっそく発掘に向かおうとするピアを、ルーファスは止める。真夏の炎天下にどれだけ立っていたと思っているのか。「今日は発掘禁止」、水分をとって休憩し、一眠りしたら食事。哺乳類の化石が待っている予感がすると食い下がるピアに、ルーファスは「ダメとは言ってない 日を改めるんだ」と返し、さらに、これ以上自分のピアを他人にさらすほど寛大ではないと付け加える。
木陰で並んで横になった二人。ピアは、ここでルーファスとお昼寝することが「結局一番の幸せだなって」思ったと打ち明ける。ルーファスも「こんな幸せがあるなんて」、ピアと出会うまでは夢にも思わなかったと応える。「ピアを奪わせないよ」という言葉に込められた決意が、続く展開を思うと胸に響く。
こんな平和な時間がずっと続けばいい。そう願うピアのモノローグとともに、物語は一気に時間を進めていく。過保護すぎるほどのルーファスの愛情は、ピアを守る盾であると同時に、ピアの不安を見えにくくしてしまうものでもあったのかもしれない。
発掘を止められてしょんぼりするピアと、それを見て満足そうなルーファス。二人のやり取りはいつも少しずれているのに、最後にはちゃんと同じ場所に落ち着く。この心地よい関係が、次の展開でどう揺さぶられるのかと思うと、少し胸がざわついた。
キャロラインの編入と賭け
早すぎた編入生
コツコツと日々を積み重ねるうちに、ピアたちは2年生になった。1年後にはキャロラインが編入し、乙女ゲームのシナリオが始まってしまう。そう考えていたピアのもとに、ルーファスが知らせを持ってくる。明日、編入生が来る。ラムゼー男爵家の令嬢、キャロラインだ。
6年前にピアから聞いた話が、本物だと証明された。ルーファスは「少々予言よりも時期が早いか」と冷静に受け止めるが、ピアの動揺は大きい。あと1年あると思っていたのに、なぜゲームより早まったのか。「キャロラインが怖いか」、「私が信じられないか」と問いかけるルーファスに、ピアは不安を抑えきれない。
ゲームの強制力で体が勝手に動いて、彼女を階段から突き落としたり、教科書を破いたりしてしまったら。ルーファスがキャロラインに心惹かれても仕方がない。彼女は王道乙女ゲームのヒロインで、自分は白衣に黒髪の三つ編み、眼鏡という地味な容姿だから。ピアの自己評価の低さは、ゲームの中で投げつけられた冷たい言葉の記憶とも重なっていた。
ピアが恐れているのは、キャロラインそのものよりも、自分が悪役として振る舞わされてしまうことなのだろう。前世の記憶があるからこそ、未来を知っている怖さもある。この不安は、どれだけルーファスに守られていても、ピア自身にしか向き合えないものだ。
一億ゴールドの賭け
ピアの言葉を聞いたルーファスは、自分の気持ちが伝わっていないばかりか、ピアの自己評価がここまで低いことに頭を抱える。自分が囲いすぎたからか。そこでルーファスは、あの日の契約を思い出させるように「一つ賭けをしよう」と持ちかける。もしアカデミー卒業時点でピアを裏切り、キャロラインを選んだら、1億ゴールドの賠償金と、生涯の公爵領への立ち入り許可を与えよう。
「私は己の全プライドにかけて」、「君以外の女になど屈しない」。卒業までの2年間は自由に過ごせばいい。2年後に国外追放ということかと勘違いするピアに、ルーファスは「違う」ときっぱり否定する。2年後、この賢い頭のてっぺんからかわいいつま先まで、自分のものにするということだと。
そしてルーファスは、自分の気持ちを散々疑ったことを「絶対に後悔するからね」と告げ、ピアに口づける。必死に我慢していたのに、あおるピアが悪い。「これで少しは私の気持ちが伝わっただろう」と言い、どうせあと2年で結婚だと笑うルーファス。重すぎるほどの愛情表現だが、ピアの不安を吹き飛ばすにはこれくらいが必要だったのだろう。
第4話のまとめ考察
穏やかな日々とエリンの異変
波乱の幕開けだと身構えていたのに、キャロラインが編入してきた新年度は驚くほど穏やかだった。ルーファスの部下たちのおかげもあって、ピアはキャロラインと一度も顔を合わせていない。ルーファスは国家試験に合格し、宰相補佐として国政に携わっている。2か月が過ぎ、ピアは少しほっとしていた。
けれど、エリンだけは日に日に元気がなくなっていった。研究室のお茶に誘ったピアに、エリンは気にかけてくれたことへのお礼を言う。ピアの「エリンは私の大好きなたった一人の親友だもの」という言葉に、エリンはようやく打ち明ける。2か月前に来た編入生と、ヘンリーがいい雰囲気になってしまったのだと。
振り返ってみると、第4話はピアの幸せが深まるほど、その外側で不安が静かに広がっていく回だった。眼鏡、測量の仕事、お昼寝、そして一億ゴールドの賭けと口づけ。ルーファスの愛情はこれ以上ないほどはっきりと示されたのに、キャロラインの影響はピア本人ではなく、親友のエリンのもとに現れた。
ゲームのシナリオとは違う時期に、違う形で動き始めたキャロライン。ルーファスの過保護な守りの外で、ピアの大切な人たちが巻き込まれていく。ピアがエリンのために何ができるのか、弱気なピアの本当の強さが試されるのはこれからだ。

















































コメント