この記事の作品:
強くなることを急ぐ幸助は、ソロ専用ダンジョン「薄明の岫」に挑み、その最奥で天型のメイドナイトを目覚めさせる。ななみと名付けられた彼女は花邑家にやってきて、リュディやはつみを巻き込む大騒ぎになる。ゲームの知識が通用しない出来事が少しずつ増えていく中、幸助はいよいよ入学式の朝を迎える。ソロダンジョンでの鍛錬、真顔でボケ続けるななみ、そして入学式の朝の運命の出会いまで、第4話を振り返る。




第4話 ソロ専用ダンジョン「薄明の岫」へ
第4話「決意」は、強くなることを急ぐ幸助がソロ専用ダンジョン「薄明の岫」に挑み、そこでメイドナイトのななみと出会う回だった。花邑家に新しい住人が増える大騒ぎを経て、物語はついにツクヨミ魔法学園の入学式へ。ゲームの本編が始まる直前の、にぎやかで少し胸が高鳴る一話を振り返っていく。
一刻も早く強くなるために
みんなをハッピーエンドに導くと決めた幸助には、やるべきことがある。「それはなるべく早く強くなること」。本作のゲームには「時間制限のあるイベント」があり、自分の成長が遅れたせいでヒロインを助けられなかった、という事態だけは避けなければならない。冒頭のモノローグだけで、第3話の誓いが本気だったことがよく伝わってくる。
強くなる方法はいくつか考えられるが、どれにも共通しているのは「ソロはやめた方がいい」ということだった。それなのに幸助が向かったのは、初回特典の追加パッチで登場する「ソロ専用のダンジョン」。ゲームを知り尽くしているからこそ選べる近道であり、同時に危うい賭けでもある。回復用のポーションや水の人工魔石をそろえ、ストールに水のエンチャントを施して挑む姿は、まさに攻略本を片手にしたプレイヤーそのものだった。
雪音先輩と刀
ダンジョン攻略の合間には、雪音先輩との稽古の様子も描かれた。いろんな武器を経験しておいたほうがいいという話の流れで、先輩は「刀や薙刀は素晴らしい武器」だと熱弁を振るう。魔力のエンチャントもしやすく、心眼と第三の手、第四の手を使える幸助なら弱点を補えるはずだという。まじめな理屈を並べているのに、どこか推しを布教するような勢いがあって思わず笑ってしまった。
押しの強さに負けて「刀から試してみようかな」と答えた幸助に、先輩はすでに用意していた刀を手渡す。その後でしっかりしごかれたというオチまで含めて、雪音先輩らしさが短い場面にぎゅっと詰まっていた。毎日身体強化をかけて刀を振り続けた幸助は、「この技だけは物にしてみせる」と「抜刀術」を放つ。才能がなくても努力で一つの技を磨き上げる、という幸助の姿勢は、この作品の大事な芯になっている。
雪音先輩の稽古の場面は短いながらも、第3話で結ばれた師弟のような関係が今も続いていることを感じさせてくれた。刀を手渡す先輩の得意げな様子は、ダンジョンの緊張感とは違う穏やかさがあって印象に残る。幸助が一人で強くなろうとしているようでいて、実際には先輩や姉さんたちに支えられながら成長していることが、こうした何気ない場面から伝わってくる。
天型のメイドナイト
ダンジョンの最奥で幸助を待っていたのは、「天使のはしご」と呼ばれるのも納得の光が差し込む美しい場所と、ゲームとは見た目の違う封印結晶だった。主人公がしていたように魔力を込めるが、桁違いに増やしたはずの魔力でもなかなか足りない。寝るとき以外はエンチャントを維持し、模擬戦では限界まで魔力を使い切る。そんな地道な積み重ねがあったからこそ、ようやく登録が完了する流れには説得力があった。
続いて現れたのは、春夏秋冬の四つから型を選ぶ選択肢。ゲームでは選ぶ型によって性格と髪色が変わり、どれも人気だったという。ところがこの世界では、見たことのない天型まで並んでいる。幸助は「俺の心は天にしろって言ってる」と直感で天型を選ぶ。「本当によろしいですか」という確認の一言が、これから起きる予想外の展開を暗示しているようで面白い。
誕生したメイドナイトは、幸助の知るゲームの彼女とはまるで違う反応を見せる。「おかしいこんな会話はなかった」。ダンジョンネットワークとの接続が遮断されていること、本来はダンジョンマスターに近い者と契約するはずだったこと。幸助のゲーム知識がはじめて通用しない場面であり、ここから先は攻略本のない世界を歩いていくことになるのだと感じさせた。
ななみが花邑家にやってきた
天使のメイドとの契約
ホムンクルスのような存在なのかと尋ねる幸助に、彼女は「いえ私は天使であります」と答える。ゲームで仲間にできる初期ヒロインに天使はいなかったというから、天型を選んだことで物語が少しずつずれ始めているのかもしれない。名前は識別番号のセブンスリーから取って、ななみに決まった。安直だと文句を言いながら、結局はまんざらでもなさそうに受け入れるやり取りがかわいらしい。
付属のコスチュームを広げて見せられた幸助の「なんでスクール水着なんだ」、呼び方のデフォルトが下等生物だと知っての「デフォルトひでえな」。ななみのボケは止まらず、ついには「誰かツッコミ変わってくれ」と幸助が音を上げる。真顔でとんでもないことを言い続けるななみと、全力でツッコむ幸助。この二人の掛け合いだけで、一気に作品の空気が明るくなった。
それでも幸助は、すべての秘密を命令で聞き出そうとはしない。「俺の横を歩いてくれないか」。主従の関係ではなく、隣を歩く仲間として迎えたいという一言に、幸助の人柄がにじんでいた。ふざけたやり取りの中にこうした誠実さが混ざっているからこそ、幸助という主人公を応援したくなる。
奥様騒動
家に戻ると、さっそくリュディに問い詰められる。「雇ったというか迎えに行ったというか」とはぐらかす幸助の横で、ななみはリュディを奥様と呼び、「ご主人様に不利益な行動」は取らないと丁寧に誓ってみせる。「誰が奥様ですって」と慌てるリュディだが、幸助に「一番信頼してる」と言われて動揺してしまう。強気なのに押しに弱いリュディの姿が、なんとも微笑ましかった。
姉さんことはつみは、最初こそ「反対必要ない」と言い切っていたのに、自分も奥様と呼ばれた途端に態度が一変する。「なんて素晴らしいメイド」、「ぜひ雇うべき」。あまりの手のひら返しの早さに、ななみの人心掌握術の巧みさを見た気がする。無口なはつみがこんなにも分かりやすく喜ぶ姿は、なかなか見られないのではないだろうか。
寝床の話になれば、ななみはクローゼットに入りたいと言い出し、はつみはそれを「まさかの快諾」。最後には「さすがに冗談でございます」と締めるななみに振り回されっぱなしの幸助が気の毒で、そして楽しい。ななみが加わったことで、花邑家の会話のテンポががらりと変わったのがよく分かる場面だった。
ななみのボケは一見すると突拍子もないものばかりだが、よく見ると相手の反応をきちんと確かめながら言葉を選んでいるようにも見える。リュディを奥様と呼んで動揺させ、はつみを同じく奥様と呼んで味方につける。初対面の家でここまで場の空気を読み切ってしまうあたり、ただの面白いメイドではなく、かなり頭の回る仲間なのだろう。これからの戦いで、その賢さがどう生きてくるのかも楽しみだ。
家族会議と入学祝い
もっとも、全員がすんなり受け入れたわけではない。リュディを守る立場からは「得体が知れません」と、はっきり反対の声が上がる。何かあってからでは遅いという心配はもっともで、浮かれた空気の中にきちんと慎重な視点が置かれているのがいい。そこへ「天使の契約の安全性は私が保証するわよ」という一言が入り、問題は契約者である幸助を信頼できるかどうかだけだ、と話がまとまっていく。
「コウちゃんなら大丈夫でしょ」という軽やかな結論は、これまで幸助が積み重ねてきた信頼があってこそのものだろう。リュディも幸助を一番信頼していると口にし、ななみは正式に家族の一員になった。「デザートを作ってあるの」、「入学祝い」と食卓が明るく締めくくられる流れは、ダンジョン攻略の緊張から日常へと戻ってきた安心感を与えてくれた。
第4話のまとめ考察
入学式の朝と運命の出会い
入学式を明日に控えた夜、幸助は「眠れない」ほど高ぶっていた。ゲームの主人公は、学園近くの寮から桜並木を通って学園に向かう。桜は美少女ゲームでも愛されている花だと語る幸助の熱量は、ゲームを愛するファンそのものだ。主人公とは違う道を歩いているはずなのに、それでも運命のようなものを感じてしまう。その胸の高鳴りが、こちらにも伝わってきた。
そして桜の下で、幸助はついにゲームの主人公と出会う。ゲームの友人キャラと同じ台詞を使うのは少し癪だが、あの台詞はかっこいいから許してやろう。そう心の中でつぶやきながら名乗った幸助は、自分がこの学園で「最強になる男だ」と宣言する。友人キャラとして主人公を支えながら、最後には主人公をも超える。第3話の誓いが、ここで本人に向けた宣言としてはっきり形になった。
決意の第4話
副題の「決意」は、強くなるために危険なソロダンジョンへ挑んだ幸助の覚悟であり、同時に入学式の朝に主人公へ向けた宣言のことでもあったのだと思う。ゲームの知識で先回りしながらも、天型のメイドナイトという予想外の存在を仲間にしたことで、幸助の物語は確実にゲームの筋書きから外れ始めている。知っているはずの世界が少しずつ知らない姿を見せていく、そのわくわく感がこの回の大きな魅力だった。
ななみの加入で花邑家はぐっとにぎやかになり、リュディやはつみの新しい表情もたくさん見られた。ギャグの比重が大きい回でありながら、幸助の努力と誠実さがきちんと描かれていたのもうれしい。いよいよ学園生活が始まり、ゲームの本編に足を踏み入れた幸助が、知識と努力でどこまで運命を動かしていけるのか。これからの学園での日々を見届けたいと思わせる第4話だった。
振り返ってみると、第4話は幸助が一人で積み上げてきた努力が、ななみという仲間の形になって返ってきた回でもあった。ソロ専用ダンジョンで重ねた鍛錬、限界まで増やした魔力、そして刀の稽古。そのどれもが、天型のメイドナイトを目覚めさせるための準備だったようにも見える。一人で強くなろうとしていた幸助の隣に、並んで歩く仲間が加わったことの意味は、きっとこれからの物語で大きく効いてくるはずだ。




関連作品:






























コメント