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『薬屋のひとりごと 第3期【第1クール】』第53話「白蛇仙女」は、巷で噂の白い仙女・白娘々と猫猫がついに顔を合わせる、待望の回だった。羅半と陸孫に誘われて見た白娘々の不思議な仙術、その仕掛けを一つずつ見破っていく猫猫の鮮やかな種明かし、そして最後に残った水銀の謎まで、謎解きの楽しさが詰まった第53話を、場面ごとに順番に振り返っていく。




第53話「白蛇仙女」羅半と陸孫の誘い
よりによってお前か
『薬屋のひとりごと 第3期【第1クール】』第53話「白蛇仙女」は、緑青館を訪れた予想外の客から始まる。現れたのは羅半。猫猫の第一声が「よりによってお前か」なのが、二人の距離感をよく表していて笑ってしまう。羅半の目当ては、巷で話題の白い仙女。アルビノでかなりの美人だと聞いて、見世物に興味を持ったらしい。「この男美しいものに目がないんだった」と呆れる猫猫だが、仙女の噂が気になっているのは猫猫も同じで、否定はしない。
ただし羅半が損得なしに誘ってくるはずがない、と猫猫はすぐに警戒する。西方との取引で、宴席の出し物をその旅芸人に頼むつもりだから、女性の視点で意見を聞きたいという。もっともらしい理由に、猫猫は嘘つけと即座に切り捨てる。兄妹のようで兄妹らしくない、このかみ合わないやり取りが今回もいい味を出していた。
軍師殿の部下
羅半の後ろから現れたのが、「軍師殿の部下の陸孫と申します」と名乗る青年。父親の名を出されると露骨に嫌な顔をする猫猫に、軍師殿という言い方なら問題ないですよねと気を回すあたり、なかなか食えない人物だ。実はその軍師殿が、旅芸人たちについて気になると一言だけ口にしたのだという。
「変人軍師の言うことに根拠はない」と思いつつ、あの人の勘は妖怪じみていると猫猫は知っている。念のため旅芸人を調べたところ、ある噂を聞きつけたという陸孫。理由はたった一言の勘なのに、ここまで動く部下がいるところに、軍師の勘がどれほど当たるのかが表れている気がした。面倒なことでなければいいけれど、という猫猫のつぶやきが、この先を予感させる。猫猫にとっては気の進まない誘いでも、白い仙女を自分の目で確かめられる機会でもあり、結局はついていくことにするのが猫猫らしい。
白娘々の舞台
都で一番栄えた場所の劇場
仙女がいるという劇場は、都で一番栄えた場所にあり、高級住宅地もすぐ近く。仙女はその容姿から白娘々、白い女神と呼ばれているという。一介の旅芸人にしては大それた名前で、どうにも俗な仙女だと猫猫は冷ややかだ。
奇妙な面や紗を渡され、客たちは素顔を隠して席につく。「旅芸人の一座がこんな立派な劇場を」と驚く声に、「スポンサーがついているな」と返る一言が鋭い。会場には、お忍びで来ている壬氏の姿もあった。わざわざ足を運ぶ必要はないと止められても、「せっかくだ こういう場は滅多にない」、「白娘々とやらを自分の目で見ておきたい」と引かない。出された酒と焼き菓子という妙な組み合わせに、さっそく怪しさが漂っていた。猫猫は酒が好きなのに、後でいただくと口をつけずにおく。何が入っているか分からないものはまず疑ってかかる、薬師らしい用心深さがここでも光っていた。
白い髪と赤い瞳
銅鑼の音と共に舞台に現れた白娘々は、白い髪に赤い瞳、靄の中でゆらめくような舞で客席を魅了していく。猫猫は彼女に壇上へと招かれ、間近でその姿を見ることになる。「血管が透けて浮かんでいる」、「おしろいで白く塗ったのとは違うな」。舞台の上でも、まず相手の体を観察してしまうのが猫猫らしい。
白娘々は「お好きな数字を書いていただけますか」と頼み、自分に見えないように書いて小さく折りたたむよう指示する。猫猫は墨をたっぷり含んだ筆と、なぜかざらつく紙に引っかかりながらも数字を書き、紙をいくつも並んだ筒の一つに入れて布をかぶせた。それでも白娘々は「あなたが書いた数字は7ですね」と言い当て、さらに筒の場所まで当ててみせる。「入れた場所まで当てたぞ」と客席がどよめく中、猫猫はこの人は目が悪いのだと気づき、妙な熱さと頭の痛み、耳元で蚊が飛んでいるような感覚に首をかしげていた。この時点で感じていた小さな違和感が、後の種明かしにすべてつながっていくのだから、見返すとよくできた構成だと分かる。
今は余興を楽しませろ
舞台はさらに続く。銅の欠片が炙られて色を変え、「銅から銀に変わったぞ」と客席がざわめく。やがて銀は金へ。紙がひとりでに燃え上がり、蝶が舞い出す。説明できるかと問われた猫猫は、「今は余興を楽しませろ」と返す。種を見抜いていながら、まずは舞台そのものを楽しもうとする姿に、久々に好奇心をくすぐられている猫猫の喜びが見えた。
そして最後に、白娘々は銀色の液体を口にしてみせる。あれはまさか、という猫猫の表情が一気に険しくなるのが印象的だった。客たちが本物の仙術だと熱狂する一方で、壬氏の側では、ここに出入りしている高官たちを調べるよう指示が飛ぶ。「ただならぬ感じがしますね」という言葉どおり、華やかな舞台の裏に不穏な気配が残った。
猫猫の種明かし
塩入りの酒と立ちこめる靄
舞台の後、猫猫はまず酒の味を確かめる。アルコールは少なくジュースのように飲みやすいが、かすかに複雑な味がする。塩が少し含まれていて、毒ではないものの、酒の効きが強くなるようにしてあるのだという。薄暗い室内、揺れる灯り、不思議な靄と幻想的な仙女、そして目の前で起こる不可思議な現象。「誰かを盲信する理由としては十分ではなかろうか」という猫猫の見立てに、この舞台が客の判断力を少しずつ奪うように作られていたことが分かる。
靄が他より濃くかかっていて、熱くて頭が痛くて、妙に集中力が途切れた。あの靄は舞台裏から流した湯気ではないか。そう考えれば熱さの理由も分かる。では頭の痛みは。「まるで蚊が鳴くような感覚だった」と思い返したところで、口笛を吹いて下品だと叱られた猫猫が「ああそういうことか」とひらめく流れが鮮やかだった。
銅を銀や金に変える方法
銅を銀や金に変えた術は、非金属を金属に変えるという錬丹術の一種によく似ているが、どちらかといえば西方のアルケミーに近い。実際には銀や金になったわけではなく、周りをメッキして火で炙ることで違うものに見せただけだという。メッキとは何かと聞かれた猫猫は「金属の周りに違う金属の膜を貼るんだよ」と答え、詳しくは父親に聞けと羅半に丸投げする。紙が燃えたのもその過程でできる副産物を使えば可能で、蝶もよくできた紙だと思えば納得がいく。
靄で視界が悪く、悪酔いする酒を飲まされていれば、まず気づく者はいない。酒を飲んでいなかった羅半たちですら騙されたのだから、仕掛けとしてはよくできていた。種明かしの合間に「兄様を敬わないか」、「絶対嫌である」と言い合う二人のやり取りも、緊張感の中のいい息抜きだった。さらに羅半が上等な酒を遠慮なく飲み、「うちは昨年緑青館から高い買い物をしたんだ」、「火の車だぞ」とこぼす場面も可笑しい。高給取りが何を言うと返されるところまで含めて、羅の一族の家計事情がのぞく小ネタになっていた。
炙り出しと塩を含んだ墨
では、なぜ書いた数字が分かったのか。猫猫は紙を炙ってみせる。「前にもやった手だ」。「壬氏様ならここまで見せずに気づいただろう」という心の声に、壬氏の勘の良さを猫猫がちゃんと認めていることがにじんでいて、なんだかうれしくなる。
料理がしょっぱかったのと同じように、「筆についた墨にも塩が入っていた」。だから書き心地がざらついていた。紙の下には黒い下敷きがあり、そこに塩を含んだ墨がにじむ。炙り出さなくても、下敷きを見れば数字は読めるというわけだ。舞台の小道具一つひとつに意味があったと分かる種明かしが気持ちいい。
笛の穴と高い音
紙を入れた筒の場所が分かった理由は、笛の仕組みだった。「笛の構造くらい知っているだろう」と問う猫猫。筒が笛の穴の役割をしていたら、紙を入れた筒だけ音が変わる。劇場では鈴や銅鑼の音に隠れて、もう一つ大切な音が鳴っていた。「おそらく気づかないレベルの高い音が出ていたと思う」。頭が痛くなったのは、聞こえていないはずの高い音のせいだったのだ。
その場で高い音が聞こえるかを試すと、聞こえる者と聞こえない者に分かれる。高い音は年を重ねるごとに聞こえにくくなるもので、「あの仙女の耳はとても敏感にできていました」。目が悪い代わりに耳で答えを拾っていた。息は靄と同じく、机の下に流し込んだ蒸気で吹かせていたのだろう。全部の仕掛けが一本の線でつながる瞬間は、まさに謎解きの醍醐味だった。目が悪いという弱点を、耳の良さで補う舞台に作り替えている点も、白娘々という人物の手ごわさを感じさせる。
あれは水銀 猛毒だ
最後に残ったのが、白娘々が飲んでみせた銀色の液体。猫猫は「あれは水銀 猛毒だ」と言い切る。「本当に飲んだかわからないが真似させないように」、高官たちに説明する機会を作ったほうがいいと忠告する。種の分かる手品とは違い、これだけは笑って済ませられない話だった。
白娘々の一座は数日後、跡形もなく姿を消す。代わりに残ったのは、都の商人たちの謎の食中毒事件だった。「あの白蛇のような仙女は何が目的だったのだろうか」という猫猫の問いが、重く響く。
第53話のまとめ考察
毒も薬も使い方次第
第53話は、白娘々の舞台を一つずつ解き明かしていく、謎解きの楽しさが詰まった回だった。塩入りの酒、湯気の靄、炙り出し、高い音を鳴らす笛、メッキの術。どれも種が分かれば手品にすぎないが、組み合わせることで人を盲信させる舞台になっていたのが見事だ。それを見破る猫猫の知識と観察眼が、久しぶりに存分に発揮されていた。
それでも、水銀だけは種明かしで終わらない。水銀は蒸気となって吸い込んだり、ほかのものと結びついて形を変えれば重い毒になる。「だが時にそれは薬としても使われる」。毒も薬も「使い方次第だ」という結びは、薬師である猫猫と、毒を扱う白娘々を真正面から対置しているようにも聞こえた。白娘々が何を狙っているのか、大きな謎を残したまま、新しい物語が動き出している。商人たちの食中毒、前回までの蝗害の話、そして白娘々。ばらばらに見える出来事が今後どう結びつくのか、目が離せない。




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