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第5話のサブタイトルは「から騒ぎ」。皐月まこから持ち込まれた部室の盗撮騒ぎ、永守茉莉花の畑荒らし、そして花織ミーティアの落とし物と、鳴神流星の一日は問題だらけになる。ところが犯人は全部まとめて一羽のカラスだった。その裏では異世界の資源を狙う新しい組織が街に入り込んでおり、流星が誰にも言わずに片付けていく。そして翌日の魔物探しパトロールは、本人たちが何度も心の中で呟いてしまう通りのデートになっていくのだった。




あれ、俺、前世から引きこもりだったのか
女子高生の妖怪パワー半端ない
第5話はアバンから容赦がない。帰宅した鳴神流星の第一声が「はあ、今日も疲れた」で、続くのが「陰キャニートだったやつに女子高の先生は無理だったんだ」、そして「女子高生の妖怪パワー半端ない」。とどめが「毎日毎日、体力も精神もごっそり削られる」である。元魔王の社会復帰は、順調どころか普通に消耗していた。
面白いのは、この疲れ方が能力とまったく関係ないことだ。魔物なら瞬殺できる男が、職員室と教室を往復するだけで削られている。戦えるかどうかと働けるかどうかは別問題、という当たり前を最初に置いてくる。
魔王が仕事をやめてしまいそうなアバン、という受け止めに笑ってしまった。前回あれだけ重い話をやった直後に、こういう温度から始めるのがこの作品の呼吸である。しかもこの疲れが、そのまま後半の理由付けになっていくのがうまい。
簡単に言えば失恋かな
疲れた頭で流星が思い返すのが前世だった。「魔王になる前はただの魔法オタクの魔導士で、毎日魔法の研究が楽しかったな」、「宮廷魔術師になってから人前に出るようになったが、あの頃も毎日精神的にボロボロだった」、そして「その後の魔王時代は良かった。魔王軍に生きた人間はいなかったから、一人でのんびり魔道書ばかり読んでたな」。行き着く結論が「あれ、俺、前世から引きこもりだったのか」、そして「死のう」。
そこへ妹が踏み込んでくる。「お兄ちゃんさ、なんで前は突然引きこもりになったの? 先生になって普通にやってたように見えてたけど。学校で嫌なことがあったの?」。答えが「ああ、なんというか複雑なんだが、簡単に言えば失恋かな」だった。★軽く流されるが、この人が一度社会から降りた理由がはっきり口にされたのは初めてである。誰のことを指しているのかは語られないまま、話は学校へ移る。
引きこもりから先生になって疲れが出てきた、という整理がそのままだった。しかも笑い話として処理されているぶん、「失恋」の一語だけが妙に残る。前回の帰り道で言いさして終わった話と、どこかで繋がっている気がしてならない。
その噂今作っただろ
部室が盗撮されてたの
学校での一日は、生徒からの呼び止めで始まる。「鳴神先生! なんでも親身になって相談に乗ってくれるって噂ほんと!」に対し、本人の返しが「その噂今作っただろ!」。こう言われる立場になっていること自体が、この人の変化である。
そこへ皐月まこがやってくる。「二人だけで話せる場所でいいかな」と切り出し、打ち明けたのが「部室が盗撮されてたの」だった。抱え込んだ理由も丁寧に説明される。「顧問を交えてみんなで話し合うべきとも思ったけど、話が大きくなりそうだし、大会前でみんなを不安にしたくなくて」、「もう、てんぱっちゃって話を聞いてくれる人を探してたの」。流星の答えが「わかった、俺が力になる。でもどうしようもなかったら、ちゃんと顧問の先生に相談するんだぞ」で、引き受けつつ逃げ道もふさがない。
仕事に疲れている流星と、事件を解決する流星の両方が良かった、という感想に同意する。頼られたときだけスイッチが入るのがこの回の描き方で、疲れたと言っていた口で、まこには一度も面倒そうな顔を見せない。
お前、名探偵の女子か何か?
陸上部の部室での聞き取りが、思いのほか本格的だった。「このカメラがロッカーの上に録画状態で置いてあったの」、「部活中は扉に鍵をかけてるし、鍵は部長が持ってるわ。窓は換気用に開けてあるけど、人は通れないはずよ」。録画内容については「内容が内容だから先生には見せられないけど」と線を引くのも良い。
極めつけが、まこが用意してきた一覧だった。「カメラの向きで映るロッカーの人、そうでない人、今日、部活を休んでる人」。思わず「お前、名探偵の女子か何か?」と突っ込まれている。引き受けた流星の内心が「魔法で片付けられたらいいのにな」なのが情けなくて笑った。
流星視点になったので随分見やすかった、という指摘はその通りだと思う。これまで説明に追われていた分の反動で、今回は視点が一本に固定されている。誰の目で追えばいいかがはっきりしているだけで、同じ日常回でもずいぶん見心地が変わる。
心を閉ざしたエルフみたいだ
問題はまだまだ進行形だな
校内で多岐川と鉢合わせたところで、世界のほうの状況が更新される。「リターナーの件は解決したけど、お前たちはこの後どうするんだ?」に対し、「綾姫が開いた次元の扉はまだ何個もあるらしくてな。その後始末がまだまだ残ってるんだ」。さらに「異世界の資源やテクノロジーを狙う連中も動き出したらしくて」、締めが「問題はまだまだ進行形だな」だった。
前回で一件落着したように見えていたが、後始末のほうが本番だったわけである。しかも流星がここで聞いたのが「ところで、物品の持ち主が分かる魔法ってないか?」で、世界の危機の話をしながら本人は落とし物のことしか考えていない。返ってきた「そんな都合のいい魔法はねえよ」も含めて、温度差が最高だった。
デートすぎる、という短い感想が並んでいたが、この回はそこへ向かうまでの助走が丁寧である。大きい話と小さい話を同じ画面に並べて、どちらも同じ重さで扱うのが今回の作りで、次元の扉と落とし物が同列に語られていた。
人間は信じられぬ
次に流星が出くわすのが永守茉莉花だった。声をかけた瞬間の返事が「寄るな!」で、理由が「畑が荒らされた」。流星の内心が「森を焼かれたエルフみたいだ」という辛辣な比喩で、「よかったら犯人探し手伝うぞ」と申し出ても「人間は信じられぬ!」と拒まれ、内心が「心を閉ざしたエルフみたいだ」に更新される。気の毒なのに笑ってしまう場面だった。
そしてもう一人、ミーティアが手がかりを落としていく。「陸上部の子が何かなくしたとかで、青い顔してうろうろしてたよ」、「うん、深刻そうだったからちょっと気になってたのよね」。名前まで押さえていて、流星が「ありがとう、助かったよ」と礼を言う。★事件が動くきっかけを作ったのは、探し物をしていたはずのミーティアだった。
観ていて気持ちが緩む回だ、という評価がしっくりくる。ただこの場面に限れば、ミーティアは人が困っているのに気づいて覚えているだけで、そのお節介がそのまま解決の糸口になっている。後半のエールに繋がる伏線としても効いていた。
犯人はカラスでした
泥棒探しのためにカメラを設置したんです
カメラを置いたのは、二年三組の生徒本人だった。「彼からもらったアクセがなくなったんです。もしかしたら盗まれたかもって」、「自分の勘違いかもしれないし、大会も近いし、盗難騒ぎでみんなを不安にさせちゃうから、泥棒探しのためにカメラを設置したんです」。動機がまことまったく同じだったのが効いている。
流星の返し方が良かった。責める前に「大丈夫。さつきが見つけて、まだ誰にも言ってないから」と伝え、そのうえで「それに先生は物探しが得意なんだ」と引き受ける。騒ぎにしないという最初の約束を、ここでも守っている。
勇気を出して相談した側と、勇気を出せずに一人でやってしまった側が並ぶ構図だった。どちらも動機は「みんなを不安にさせたくない」で完全に同じで、分かれたのは相談できたかどうかだけである。だからこそ、まこの「私も相談できなかったからわかるよ」が刺さる。
他にもいろいろ盗まれていたみたいだ
そして答え合わせが来る。「犯人はカラスでした」。「金属を拾って巣に持ち帰っていたんだ」、「小窓から侵入したんだな」、「他にもいろいろ盗まれていたみたいだ。畑も荒らされていたしな」。盗撮も、盗難も、畑荒らしも、全部まとめて一羽のカラスの仕業だった。
「ということで、アクセ泥棒を探すためのカメラで盗撮ではなかったし、盗難も解決したんだな」で、三つの事件が一行で片づく。サブタイトルの「から騒ぎ」が、大したことのない騒ぎという意味と、カラスの起こした騒ぎという意味の両方で回収されている。この作品はときどきこういう真顔の言葉遊びをやってくる。
無くし物騒動の犯人はカラス、という一行の整理が気持ちいい。しかも誰も悪人がいないまま全部片づくという着地で、疑われかけた部員も、カメラを置いた生徒も、誰一人として傷つかずに終わる。疲れた顔で出勤していた先生の一日としては、これ以上ない結末だった。
主導権を握るのは我々ワンダー
異世界の資源はうちらが全部いただくよ
学校の外では、まったく別の話が動いていた。街に入り込んだ何者かが「オズの魔女たちを張っておいて正解だったな」と口にし、続けて「多数の次元の扉とはたまらねえ。魔獣や幻獣、魔剣に魔石。いい稼ぎになりそうだ」。扉の先を、資源として値踏みしている連中だった。
宣言も派手だった。「まずは邪魔なオズの連中に退場していただこうか」、「悪いが異世界の資源はうちらが全部いただくよ」、そして「さあ、ミッションスタートだ。主導権を握るのは我々ワンダー」。多岐川が言っていた「異世界の資源やテクノロジーを狙う連中」が、そのまま名乗りを上げてきた形である。
更衣室のカメラ、謎の刺客、畑荒らし、落とし物を全部一日で解決するのはさすが魔王、という整理が的確だった。生徒の相談ごとと、組織の刺客が、同じ一日の同じ勤務時間に並んでいるのがこの回の骨格である。しかも本人はどちらも同じ顔で処理していく。
今回は貸したぞ
決着は一瞬だった。「そんなことさせるわけないだろ」の一言のあと、二つの魔法の重ね掛けによる極大射程のソウルクラッシュが飛ぶ。宣告が「お前の精神を砕いたら半月ほど眠ってろ」で、自分でも「多岐川から聞いたそばから敵が来るのおかしいだろ」と呆れつつ、「遠距離だからと油断してくれて助かったよ」と冷静に分析している。
そのうえで「今回は貸したぞ、多岐川」と言い残し、「さて、次で最後だな」と次へ向かう。★オズに任せず、報告もせず、勤務のついでのように一人で潰して回っていた。そして帰り道でミーティアに渡すのが落とし物である。「ほら、お前の落とし物だ」「私の指輪!」「泥棒ガラスの巣の中にあったぞ」。前回もらったばかりの指輪を、なくしたと言い出せずにいたわけだ。「もう、魔法でサクッとやったんでしょ?」への返事が「結構苦労したんだけどなぁ」なのが、この日いちばん誠実な一言だった。
あんな威力の魔法を撃てるならまるで魔王だ、という感想が出ていたが、実際に魔王である。魔物を倒す場面が一つもないのに、いちばん強い一撃だけは対人に使われているのが今回の妙な後味で、しかもそれを本人はミーティアにも生徒にも一切話していない。
デートじゃん
出るまで街をうろうろするしかないだろ
後半は学校の日常が小刻みに流れていく。ナレーションが「御剣女子高等学校。エレガントな淑女達を育成する名門校なのである」と紹介した直後、生徒の一人が「世界滅びないかなぁ」とぼやき、ミーティアが「任せとけ! 私が世界を滅ぼしてやるわ!」と胸を張り、流星が「進路は魔王か、頑張れよ」で流す。淑女の育成状況が一目で分かる導入だった。
授業では「何かを始めた最初の頃の気持ちを忘れてはいけない、という戒めの言葉を何と言うか」という問いに永守が答えを噛みまくり、職員室では六道先生に学生時代のモテ具合を掘り返されて「母と妹からしかチョコもらったことありませんでした」と自白させられる。誕生日プレゼント談義では、お嬢様枠のミーティアが自信満々に「万年筆だから!」と言い切って一同に却下されていた。極めつけがホームルームで、美化週間の連絡のついでに「今後はお菓子の持ち込み禁止とする」が飛んでくる。
そこでミーティアが誘う。「明日パトロールに行かない?」。「え? 明日休みなのに」と渋る流星に「なんだと!」と凄み、返事は「行きます」だった。当日の待ち合わせで流星の服装が「すごくラフね」と言われ、言い訳が「念のため、戦いやすい格好の方が良いかと思って」。対するミーティアの言い分が「女はいつでも臨戦態勢なんだよ」、「何の戦いなんだよ」と聞かれて「オシャレの!」である。
生徒から頼りにされて教師っぽくなってきた、という受け止めがそのまま当たっていた。私服のだるい格好にもちゃんと戦う前提の理屈があるのが良くて、この人は休日のお出かけにも装備の発想で来る。そのうえで敵が現れなければ本当にただのデートだ、という指摘も完全に正しい。
甘いもの食べて回復ね
探索の説明がひどかった。「ねぇ、次元の穴ってどう探すの?」「扉が活性化するとき感知できる、はずだ」、「いつ活性化するの?」「魔物が出るとき?」「いつ魔物が出るの?」「分からない」。結論が「出るまで街をうろうろするしかないだろ。反応あるまで買い物とかお茶とかしててもいいぞ」で、ミーティアの内心が「デートじゃん」。この心の声が、時間潰しでも土産物選びでも、その後何度も繰り返される。
たどり着いた店では「甘いもの食べてMP回復ね」とパンケーキになる。見つめられて「何よジロジロ見て」、返事が「美味しそうに食べるからつい」。そこから流星が「こんなことならもう少しまともな身なりにしてくればよかった」と言い出し、「魔王にも人並みの羞恥心があったのね」と笑われ、「こんな美少女の横歩いてたら羞恥心が目覚めてもおかしくないわよね!」には「おっしゃる通りです」と即答している。
食べている場面がとにかく良かった、という一言に集約される回でもあった。魔物が一体も出ないまま、二人が普通に美味しいものを食べているだけの時間が長い。それを退屈にせず持たせているのが、会話の面白さと表情の芝居だった。
「から騒ぎ」まとめと考察
お前はお前が信じることをすればいいよ
会話の中で、二人が自分たちの立ち位置を言葉にする場面がある。「私たちは特に事件の中心にいないし、面倒ごとはオズがやってくれるし、毎日学校行くだけで褒められる」に対し、流星の返事が「身も蓋もねえ」。そこから「でも毎日楽しくて悩み事とかないだろ」と振られて、ミーティアが「私だって悩みくらいあるわよ」と言いかけたところで話は流れてしまう。
結局その日は「収穫ゼロ」で、ミーティアが「なんか無駄足だったかな」とこぼす。そこへの返事がこの回の芯だった。「いや構わないさ。お前の人を守りたい気持ちはとても好きだ」、「無駄足でも、お前はお前が信じることをすればいいよ」。そして間を置かず「俺の休日を潰すこと以外で」と台無しにしてくるのがこの人である。
魔物がいてもデートだ、という指摘の通り、この日は結局何も起きなかった。それでも成果がゼロだった日に「それでいい」と言ってもらえたことが、ミーティアにとっては一日分の答えになっている。後半のポッキーをめぐる攻防で本人が真っ赤になっていたのも、この言葉のあとだと意味が変わって見えた。
誰も悪くない事件と、誰にも言わない戦い
整理すると、この回は同じ日に二種類の出来事を並べている。一つは誰も悪くない事件で、盗撮も盗難も畑荒らしも犯人はカラス一羽、しかも人間側の三人はそれぞれ善意で動いた結果すれ違っていただけだった。もう一つが誰にも言わない戦いで、街に入り込んだ組織を流星が一人で潰して回っている。★生徒に見える側の一日は完全な平和で、見えない側の一日は完全な戦闘という構造になっている。
その対比が効いてくるのが、翌日のパトロールだった。ミーティアは魔物を探して街を歩き、結果は収穫ゼロで落ち込む。だが観ている側は、前日に流星が同じ街で本物の敵を三度片づけていたことを知っている。無駄足だったと嘆く相手に「お前が信じることをすればいい」と言えるのは、本当は無駄足ではなかったと知っている人間だけである。
残る謎は二つ置かれた。一つが綾姫が開いた次元の扉がまだ複数残っていることと、その資源を狙う組織が名乗りを上げたこと。もう一つがアバンの「簡単に言えば失恋かな」で、この人が一度社会から降りた理由が、まだ一行しか語られていない。ちなみに締めはミーティアの「流星、猫は好き?」から始まる意味不明な問答で、「嬉しいって言いなさいよ!」「だから何の話?」で終わる。この温度のまま次回に続くのが、この作品のいいところだと思う。
エンドカードまで含めて甘い回だった。事件を三つ抱えた日と、何も起きなかった休日を並べて、どちらも同じくらい大事に描くのが今回のやり方で、重い設定を進めなくてもきちんと面白くなることを証明していた。街中でイチャつくカップルを裁くと名乗るカップルバスタージェイが、この二人だけは見逃していたのも含めて、良い日だったと思う。




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