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第6話のサブタイトルは「Turn Up」。物ノ怪の芙蓉から与えられた試練は妖術対抗訓練で、幻影空間のような結界を自力で破って出てくることが条件だった。零司と一華はそれぞれ心に抱えたものと向き合って抜け出すが、弐郎の前に現れたのは巨大な黒い物ノ怪で、しかも羅睺と魂が一つになっているせいで術が制御を失う。その先で見せられたのが、羅睺が自分自身を封じた日の記憶だった。




俺たちは一生兄弟だろ
お前は踏み台なんかじゃない
第6話は零司の幻影から始まる。映るのは道場での稽古試合で、勝ったのは兄のほうだった。父から「よくここまで腕を磨いたな」と褒められた兄は、「これも全て父上のご指導と、一番近くに良きライバルがいてくれたおかげです」と返す。打たれた痕を気にして「ごめんな零司。俺もつい力入っちゃって、加減できなくてさ」と謝るあたり、威張るところが一つもない兄だった。
零司の答えが痛々しい。「兄さんは嫡男として強くなくちゃいけないんだ。そのための踏み台になれるなら、僕は本望だよ」。それを兄はきっぱり否定する。「お前は踏み台なんかじゃない。俺が家督を継いでも、俺たちは一生兄弟だろ」、そして「だから、もし俺が何かとちったら、その時はフォローを頼むな」「頼りにしてるぜ、零司」。跡目を継ぐ側から、継がない側へ役割を頼んでいる。
放送当日の告知にスタッフが顔を出すくらい、力の入った回だった。実際ここから先は、三人分の過去をまとめて開けにいく構成になっている。その一番手が、これまでいちばん感情の見えなかった零司だというのが良かった。
僕は兄さんに及ばなかった
零司の独白で、この兄弟の形がはっきりする。「双子として生まれた僕たちは同じように育てられたが、物心ついた頃から全てにおいて僕は兄さんに及ばなかった」、「常に兄さんは僕の一歩先を歩き、僕はそれを規範として後をついていく」、そして「いつしか僕は、勝つことは愚か追いつくことすら諦め、兄さんの影となることが自分の役割だと思うようになった」。しかも締めが「それでいいと思っていた」である。★双子だったという事実がここで初めて出てきた。
そして継承の儀式の夜が来る。これは桐原流斬術の修了と、桐原家当主の継承を兼ねた儀式だった。屋敷裏の森のほら穴の最奥には、桐原家が代々守護してきた刀が一振り安置されている。妖刀・山風。太古の昔にその刀身へ物ノ怪を封じた刀で、「山風に封じられた物ノ怪の憎悪と妖気は年々凝縮され、強まっている」、だから「くれぐれも飲まれるなよ」と父が念を押す。兄は「任せとけって」と笑い、宣言通りほどなく戻ってきた。
戻ってきた兄は別人だった。「父上の言う通りだ。今のお前じゃ俺に敵わない。だから強くなれ」、そして「零司、死に物狂いで強くなって、俺を殺しに来い」。零司の「何を言ってるんだ」「飲まれたんじゃ」も届かず、兄は去っていく。「なぜ僕を残していく。どうしてなんだ、兄さん」という叫びが、この人の出発点だった。
兄が完全に厄介な立ち位置になってしまった、という反応が出ていて笑った。ただ零司はそこで止まらない。幻の兄の「まだ足りない。この程度では、まだ俺は殺せない」に対し、「僕の記憶が生み出した幻に過ぎない。いくら倒しても、僕の知っている以上のことは分からない」と切り捨て、「だから、確かめるんだ、僕が。僕自身の力で」と結論を出した。脱出後の「なかなかよくできた夢だった。おかげさまで、目が覚めたような気分だよ」まで含めて、この人の突破の仕方は徹底して理屈だった。
今さらこんな幻覚で揺らぐほど子供じゃないのよ
2人とも10分以内か
一華の突破はさらに早い。出てくるなり「悪いけど、今さらこんな幻覚で揺らぐほど、私も子供じゃないのよ」と言い切り、心配されても「当然でしょ、このくらい、どうってことないわよ」で押し通す。見ていた側の「2人とも10分以内か」が、この二人の評価そのものだった。
前回見せられたものの重さを思えば、これは強がりではない。会いに行ける相手だと分かった以上、幻の中で立ち止まる理由がないという理屈で、零司の「確かめるんだ、僕が」とまったく同じ結論に立っている。見せられた中身は正反対なのに、出口の作り方が揃っているのが面白かった。
それぞれの心の奥深くに触れる回だった、という受け止めに同意する。そのうえで術をかけている芙蓉のほうが必死な顔になっているのがこの作品らしい。重い場面が続くなかで、笑える絵をきちんと一枚差し込んでくる。
このまま潰されるぞ
残ったのが弐郎たちだった。「なんとなくですけど、こういうの苦手そうですもんね」と言われている時点で扱いがひどいのだが、問題はそこではなかった。芙蓉の説明が「あいつらは少々特殊な状態でな」、「対象の精神的な不安やトラウマを幻覚化する術なんだが、あいつらは2つの魂が一つになっちまってるからな」。
そして事故が起きる。「制御が効かん」、原因は「術中に羅睺じゃろ」。深刻なのはその先で、「記憶を利用し対象を破壊する術じゃ。わしが加減も解除もできん以上、やつらが自力で破らなければ、このまま潰されるぞ」。訓練だったはずのものが、途中から本当に命の危ない状況に変わっていた。
羅睺を一緒に取り込んで大丈夫なのか、その対策が描かれていない、という指摘が出ていた。本編では芙蓉が特殊な状態だと事前に口にしていて、制御を失ったこと自体が今回の事件として扱われているのだが、たしかに始める前に一言あってもよかったとは思う。作画とエフェクトが良いという評価が同じ人から出ているのも含めて、正直な感想だった。
これは殺生石に入る前の、俺の記憶
ここの土地神様が羅睺様で良かったよ
弐郎が放り込まれた先は、見覚えのある景色だった。「俺が入ってた殺生石だ」という羅睺の言葉に、弐郎が「なんであれがこんなとこに」と戸惑う。そこに現れたのは、鍬を担いだ村人だった。
村人の話しぶりが良かった。「今年も豊作で、なんとか無事に年貢も納められました。それにおっかあの体調もずいぶん良くなってきたし。それもこれも全部、羅睺様のおかげです」。対する羅睺は「拝むな、鬱陶しい」、「俺は何もしてねえからな。豊作はたまたま気候が良かっただけだし」と全部否定する。それでも村人は引かない。「別に見守ってるわけじゃねえよ。他の物ノ怪は俺にビビって寄ってこねえ。ただそれだけの話だ」という返事に、「それで十分だよ。ただいてくれるだけで、それだけで村の人間は助かってんだ」、そして「ほんと、ここの土地神様が羅睺様で良かったよ」。
重い話だった、という一言に尽きる。この時点の羅睺は、何もしないことで村を守っていた。いるだけでいい、という関係が成立していたのが、後の展開をきついものにしている。食べ物を置いていく村人に「また明日も来るから」と言われて追い払う雑さも、毎日繰り返されてきたことなのだと分かる。
時は享保15年
羅睺の語りが時代を示す。「時は享保15年、八代将軍・徳川吉宗の時代」、「この頃の俺らは、鬼や妖怪などの化け物として、あるいは山神や土地神として、人間に畏怖され崇拝されていた」。恐れられることと敬われることが同じ一つの状態だった時代、という説明である。
そこへ訪ねてきたのが「久しぶりだな、羅睺」「息災そうで何よりだ、古き友よ」と名乗る相手だった。羅睺の返事は「なんだ、天鬼じゃねえか」。住処を見て「殺生石か。相変わらず妙なところに住んでいるな。我々にとってこれは天敵だろう」と言われ、「だからだよ。これがありゃ馬鹿が寄ってこねえ」と返している。この時点では、本当にただの旧友だった。
見ていた側の羅睺の反応が重要だった。黙り込んだまま「いや、あいつの声どっかで」とつぶやき、そして「間違いねえ。俺が石から出された時、光る板の中にいたのがあいつだ」。封印を解いて自分を呼び出した画面の男の正体が、ここで名指しされた。
過去編としてはよくある因縁だった、という感想もあった。ただ敵の首魁と主人公側の相棒が旧知だったという線が、第4話から引っ張ってきた謎の答えとして機能しているのが大きい。誰が封印を解いたのかという問いに、ようやく名前が付いた。
選べ、羅睺
背後は幕府だ
天鬼が持ち込んだのは物ノ怪狩りの話だった。「最近は人間側が能動的かつ組織的に物ノ怪狩りを行っている」、「背後は幕府だ。幕府は数年前から対物ノ怪集団を秘密裏に組織していたらしい」、そして名前が出る。御庭番衆。現在の隠密局の源流にあたる組織が、ここで初めて画面に出てきた。
天鬼の言い分にも筋は通っていた。「我ら物ノ怪は時に人を喰らい、川を荒らし山を燃やす。故に人間は我らを恐れ敬ってきた」、「その構図が崩れようとしている。私にはそれが耐えられない」。だから同志を集めて回っている、共に戦ってほしい、と。それに対する羅睺の答えが「断る」、「お前らが何しようが勝手だが、俺は誰の味方でもねえ。人の力を当てにすんじゃねえよ」だった。食い下がる同志に対しても「知るかよ。自分のことくらい自分で何とかする」で押し通す。
ここで御庭番衆が出てきたか、という驚きの声が上がっていた。同時に、三人ともあっさり訓練を終えたので内容が甘く見えてしまう、という指摘もあった。たしかに脱出そのものは早いのだが、この回の主眼は突破の難易度ではなく、幻の中で何を見せられたかのほうにある。その意味では、いちばん長く閉じ込められた組がいちばん大きい情報を持ち帰った。
お前の分はもうこれしか残ってない
翌日、天鬼は約束通り現れる。その第一声が地獄だった。「しかしここはいい里だな。土地は肥え、水も空気も澄んでいる。そして何より、飯がうまい」、「同志集めと並行して、必ず集落では食事をしているんだが」、「すまない羅睺、お前の分はもうこれしか残ってない」。食事の話をしていたのではなかった。
激昂した羅睺が同志たちを消し飛ばす。その戦いぶりに天鬼がこぼすのが「さすがだな、黒き凶星よ。しかし、よもやここまで圧倒的とは。やはり放っておかなくて正解だったな」で、この惨状すら見込みのうちだったことが分かる。そのうえで突きつけてきた。「村人は全て私と同志が喰らい尽くし、その同志たちも今ので村ごと消し飛んだ」、「これで全てはお前の仕業ということになる。もはや人間との共生は不可能だ」、とどめが「まあ実際、お前が殺したようなものだがな」。羅睺の口からこぼれるのが「俺が殺した」「俺がいたせいで」である。そのうえで「ここで私を殺し全てを敵に回すか、私と共に御庭番を潰すか。選べ、羅睺」と迫られた。
答えは第三の選択だった。「面倒くせえ。どいつもこいつも好き勝手言いやがって。付き合ってられねえよ」と言い放ち、「言っただろ。俺は誰の味方でもねえ」「自分のことは自分で何とかするってな」。そして語りが被さる。「俺は殺生石に憑依し、自分自身を封印した。これが俺なりのけじめ。誰にもつかねえという選択だ」。★誰かに封じられたのではなく、自分で自分を閉じ込めたのが真相だった。
天鬼にも道理はあると思ったのに、やっぱり敵だった、という感想が的確すぎた。言っていることは筋が通っているのに、そのために村を一つ食い尽くしている。しかも羅睺を仲間に引き入れるための材料として、羅睺がいちばん大事にしていたものを選んで使っているのがたちが悪い。
お前はもう一人じゃねえ
要はカッコつけて逃げただけじゃねえか
記憶を見終えた弐郎の第一声が良かった。「何がけじめだ。要はカッコつけて逃げただけじゃねえか」。重い過去を見せられた直後に、まず茶々を入れる。羅睺のほうが動揺して「言いたのかジロー」と噛むあたり、立場が逆転していた。
そのうえで弐郎が言う。「昔のお前がどうか知らねえが、お前はもう一人じゃねえ。それを選んだのが今のお前だ」、そして「初めて会った、あの日死にかけた俺を助けたお前は、人間だの物ノ怪だの、味方だの敵だの、そんな小難しいこと考えて助けたのかよ」。誰にもつかないという百年単位の意地を、出会った日の一瞬で突き崩している。
黒幕の手がかりをつかめたのでよし、という受け止めがあったが、今回いちばん動いたのは情報ではなく羅睺のほうだったと思う。返ってきたのが「われながらくだらねえな」、「なんか一気に、いろんなことがバカバカしくなってきたぜ」、そして「誰にもつかねえなんて意地張ってたはずが、結局、寄りにもよっててめえなんかについちまったんだからな」。自分の選択を自分で笑えるようになった時点で、この幻は破れていた。
俺はまた一人に戻れる
忘れられていた化け物が、ここで正体を明かす。「認めねえ」と言った口から出てきたのが、「俺は一人だ、誰の味方でもねえ」、「てめえがいなくなれば、俺はまた一人に戻れる」、「てめえがここで死ねば、俺はまた眠りにつけるんだ」だった。口にしている内容が、そのまま封印された頃の羅睺の言い分である。
前回、弐郎がこの化け物に覚えた妙な既視感の答えがこれだった。三人が見せられたものは全員トラウマだったのに、弐郎の相手だけが他人の過去だった理由も、魂が一つになっているからで説明がつく。二人がかりで倒したあと、外では「こりゃ、まずいな。全員退避」と大騒ぎになっていて、戻ってきた弐郎の第一声が「なんだよちくしょう、俺らが一番最後かよ」。命がけの直後にこれが出るのが、この主人公の良さだった。
みんな幻影を倒して少し強くなったのでは、という見方に賛成する。零司は確かめに行くと決め、一華は迷いを振り切り、弐郎と羅睺は互いの過去を見たうえで組み直した。そのうえで敵の手がかりまで持ち帰っているので、収穫は確かに大きい。
「Turn Up」まとめと考察
せっかくつかんだワイルドカードなんだ
締めは大人たちの会話だった。「ひとまず、訓練のほうは無事成功だな」、「あとは、これがただの成功か、はたまた大成功かは、あいつらが何を見たのか次第だが」。報告を聞いた結論が「文句なしに大成功だ、こりゃ」、そして「天鬼という物ノ怪か。どうやら、そいつが敵の首魁のようだな」。訓練が、そのまま敵の正体を掘り当てる作業になっていた。
だがその直後がこの回いちばんの引っかかりだった。報告書をまとめて上へ、と走り出そうとした部下を止めたのが司場である。「いや、その必要はない」、理由が「せっかくつかんだワイルドカードなんだ」。★手に入れたばかりの決定的な情報を、上に上げずに手元へ隠したことになる。第5話で見せた、あえて他の課を巻き込む立ち回りと合わせて、この人の狙いが読めない。
零司と一華が抜け出し、弐郎と羅睺が一つの空間で苦戦した、という整理がその通りだった。同じ訓練なのに、三人が受け取ったものの重さがまるで違うのが今回の構造で、しかもいちばん苦戦した組が、いちばん大きい手土産を持って帰っている。
誰にもつかないと決めた男が、誰かについた回
整理すると、この回は一つのことしか言っていない。三人とも、過去に決めた自分の役割を更新したという話である。零司は兄の影でいることをやめて自分で確かめると決め、一華は思い出に留まらず迎えに行くと決めた。そして羅睺は、誰にもつかないという決意を自分で笑い飛ばした。
羅睺の変化がとりわけ効くのは、封印が罰ではなく、本人にとってのけじめだったと分かったからだ。村を守れなかった責任の取り方として、自分をこの世から降ろすことを選んだ。その落とし前を、弐郎が「カッコつけて逃げただけ」の一言で否定してみせる。百年以上かけて固めた理屈を、助けられた側が「あの時どう思って助けたんだ」と聞くだけで解いてしまうのが良かった。
残る問いは二つある。一つは天鬼の狙いで、あれだけの手間をかけて封印を解いた以上、羅睺に求めているものが当時と同じとは限らない。もう一つが司場だ。敵の首魁の名前という切り札を握ったまま報告しないなら、この部隊は上の指示ではなく司場の判断だけで動くことになる。副題の意味を素直に取れば、上がっていくのは戦力ではなく、この三人の腹の据わり方のほうだろう。
これで役者が揃ったと思うでしょ、まだ個性的なのが出てくる、という予告が不穏すぎる。過去を片付けたばかりの三人に、次は外から圧がかかるということでもある。訓練で持ち帰った名前が、どこでどう使われるのかを含めて次回が楽しみになった。




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